13話 勇者たちは新たなパーティを組んだ
話は一昨日に遡る。
「それじゃあ、各々好きな面々とグループを作ってくれ。男女混合で五人ずつな」
ほら来ました、ぼっちにはしんどい台詞第一位。
僕にしてみればもう既に慣れた展開。これまでにこういうグループ分けをすることは何度もあったけど、適当に空いているところに入れて貰ってやり過ごしてきた。
「法子ちゃん、グループ一緒になりましょぉ」
「そうくると思った。いいわよ」
早速あっちのほうで須磨さんと宗田さんが話をしているのが聞こえてきた。あの二人は席も近いし、もう既に知った仲だ。驚くこともない。
同じクラスメンバーが三年目ともなれば、必然的に仲良しグループが固定されていく。毎回同じ面々すぎると面白みがないので、その時ごとにマイナーチェンジもしようと試みてはいるが、ある程度ぐらいにしか変化がない。
だったら僕は、その時ごとの変化要因になってやろう。と、いつも逆張りして構えていた。
「何つくるぅ?」
「そうね……軽食とデザートでしょ? サンドイッチとか妥当じゃない?」
既に須磨さんたちは作る料理の話に入っている。
説明しておくと、僕たちの学校ではこのぐらいの時期に新入生の歓迎会を行う。それも、三年生総出で。
グループごとに料理を作って、入学したばかりの一年生たちをもてなすというイベントだ。
――誰だよ、こんなの考えたの。
と、僕は呆れ気味だった。
一年生にとっては最初の交流イベントだし、三年生たちの中でも和気藹々と楽しんでいる人たちが大勢いる。
だけど僕にはわざわざ手料理を振る舞ったり体育館を飾り付けたり、やることが意味分からない。ま、楽しめりゃそれでいいか。実際僕も一年生の頃は色とりどりの料理が出てきて気分が高まった記憶がある。それだけで終わってしまった話だけど。
ひとまずどこのグループに入ることになるのだろうか……
「よ、村野!」
「わっ!」
思わず僕はびっくりしてしまった。なんの脈略もなく、前守くんが声を掛けてきたからだ。
「そんなに驚くことかな?」
前守くんの傍らには夕島くんがいた。既に二人はグループを組んだらしい。
「な、なんの用、かな……」
「用って、ひとつしかないだろ」
「僕らと一緒のグループになろう、村野くん」
……
えっ……?
「……人違い、では?」
「何を言ってるんだ、お前」
何を言っているんだろう、僕は。
多分純粋に僕をグループに誘っているんだと思う。
まぁ、この前の歓迎会以来、この二人とはそこそこ話す機会が増えてきた。「おはよう」と「また明日」ぐらいは、一日一回ぐらいの頻度で言ってる気がする。
でも……
本当に僕なんかでいいのだろうか。
「ふ、ふつつか者ですが……」
「改まる必要ないだろ」
「えっと、こういうときどういう顔すればいいのか……」
「笑えばいいと思うよ」
お約束のやり取りをしながら、僕はしばらく硬直してしまった。
僕史上、最速でグループを組めた。多分、三分も掛かっていない。
ここまでスッキリと決まってしまうと逆に落ち着かない。余り物として空いている適当なところに放り込まれるぐらいが丁度良い気さえする。
「それじゃあ……よろしくお願いします」
「おう! ま、俺は料理に関してはからっきしだけどな!」
ガハハと高笑いを浮かべる前守くん。夕島くんは釣られてクスクスと笑っている。
この二人が来るってことは、あと二人女子が入ることになる。
その女子は勿論、須磨さんと宗田さんになるのか。
「っつーわけで、須磨!」
「本山くん、武木くん、一緒のグループになりましょ!」
………………
……あれ?
「お、おおおおおおいッッッ! 裏切りものおおおおおおおおおおおおおッ!」
あれやこれやという間に、須磨さんと宗田さんは別の男子グループと一緒になっていた。
てっきりあの二人が来るかと思っていたけど、違ったらしい。
チラ、っと須磨さんがこちらを流し目で見てきた。口元が微妙にほくそ笑んでいるのが気になる。
首をクイ、と動かして、何か合図をしている。前守くんは首を傾げて不思議そうに見ているけど、夕島くんは「あぁ」と何かに気付いたかのように納得した表情を浮かべた。
――何だろう?
何か意図があるかのように感じた。けど、それ以上深く考えるのはよそう、と頭の中で頷くことにした。
「あ、あの……」
そんなやり取りをしていると、姫川さんが僕らに話しかけてきた。
「姫川、さん?」
「良かったら、その……」姫川さんは唾をごくり、と呑み、「良かったら、一緒のグループに入れてもらってもいいかな?」
「お、姫川さん! 是非是非!」
前守くんの返事は即答だった。
「僕も構わないよ」
「あ、ありがとう……」
夕島くんも続けてにこやかに頷いた。
姫川さんがチラ、っと僕のほうを見てきた。
「僕もいいよ」
「あ、ありがとう! 嬉しい!」
姫川さんの顔がぱあ、っと明るくなった。どこか顔が赤いけど、そんなに嬉しかったのか。考えてみたら姫川さんって転校してきたばかりでまだ特定の仲良しグループに属していないもんな。僕が偉そうに言える立場ではないけどさ。
「そんじゃ、あと一人だな」
「できたら女の子のほうがいいよね。姫川さんも男子四人と一緒だと大変そうだし」
確かに、と僕は頷いた。
周囲を見渡した。女子一人だけ余っていそうな人物は他にいるのだろうか。もうある程度仲良しが固定されているうちのクラスで、それを見つけるのは少々至難の業だと思うけど……
「やっほー! まえもりぃ!」
――この声は。
「げっ、咲場……」
咲場すみれが突然額にピースを添えながら現れた。窓からの太陽光に彼女のカラフルなネイルが反射している。もう眩しすぎて見ているのがしんどいレベルだ。
「あと一人足んないっしょ? ウチのこと入れてくれない?」
――えっ?
と僕が戸惑うのも束の間、
「いいよ。他の皆が良ければ」
夕島くんがまたもや即答した。
「咲場かぁ……俺、コイツちょっと苦手……」
「そんなこと言わずにさぁ、おねがい!」
「うぐ……」
珍しく前守くんが狼狽している。意外な人物が出てきたから分からないでもない。
咲場さんは誰とでもすぐに仲良くなれる。けど、それだけにクラス内でどこかのグループに属しているイメージはない。彼女と同じギャル系のメンバーで連む場面は見かけるけど、生憎うちのクラスには他にそういうキャラの生徒はいない。
「わ、私は構わない、です……」
姫川さんも戸惑い気味に頷いた。敬語に戻っているところを見るに、彼女に対して警戒心はあるのだろう。どことなく玲条を彷彿とさせるところがあるもんな。アイツと比べるのは流石に失礼だけど。
「やったぁ! 姫ちゃんよろーっ!」
「よ、よろしくです……」
「ったく、しゃーねぇな。村野、お前もいいか?」
「あ、うん。いいよ」
僕は頷くしかなかった。元々余り物みたいな存在だし、反対する理由もない。
ただ、僕も彼女にどこかしら苦手意識があったのは事実だ。果たして纏まりのあるグループになるのだろうか、かなりの不安が心中を過った。
「ありがとーっ! 村のん、やっさしー!」
「ちょっ!」
咲場さんが突然僕に抱きついてきた。
思わず僕は「おわっぷ!」と腕に息が詰まりそうになる。
「あ、もしかしてハグでびっくりしちゃったぁ? あはは、村のんおもしろー!」
「や、やめてください! 村野くん嫌がっています!」
「嫌だった? だったらごーめん!」
「はぁ、こりゃ前途多難だな……」
頭を抱える前守くん。僕も正直同じ気持ちだ。
「ま、ウチが来たからには任せてよ。アゲんのは得意だから」
ほら、出たよ。ギャルが使いそうで実際にはそんなに使わないけどたまに使う台詞「アゲる」。この場合どういう意味で使っているのかさっぱりだけど、尋ねるのはよそう。
そんなこんなで、不安たっぷりなグループができあがってしまったわけで。
僕はその日一日中、その不安が胸中に過ったままになっていた。
「本当に大丈夫かな……」
皆が下校した後の、誰もいない教室。
まだ夕日には程遠い昼日が差し込み、室内を明るく照らしていた。
そんな中で、僕は日直としてチマチマと黒板を消していた。たかだか黒板消しでここまで手が進まないのは初めてだ。
「あ、まだいたんだ」
もう帰ったかと思いきや、教室にいきなり姫川さんが入ってきた。
「姫川さん? まだ帰っていなかったの?」
「うん。図書館で面白そうな本を探していたら、つい夢中になってて――」
クス、っと微笑む姫川さん。やはり可愛らしい。
「そうなんだ。良い本見つかった?」
「うん。面白かったら村野くんにも紹介するね。あ、でも村野くんって本は読む方?」
「ま、まぁね」
僕はなんとなく頷いた。読むどころか、話を書いてすらいる。このことはまだ秘密だけど、もし話したら姫川さんはどんな反応するのかな?
「あ、そうだ。村野くん……」
「うん?」
「あのさ、良かったら、なんだけど……」
「うん」
はにかむ姫川さんの顔が、どこか赤い。もうそんなに夕日になっていたっけ?
なんて考えていると、彼女は僕に言ってきた。
「良かったら、これから……一緒に商店街のほうに行かない?」




