11話 大臣は怒鳴った
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「けしからんっ! けしからんですぞっ!」
真っ赤な法衣姿の男が、たくわえた髭を擦りながら怒り心頭の表情を浮かべていた。
「大臣よ、なにがけしからんのだ?」
「女王様! これは由々しき事態ですぞっ!」
「だから何があったのだ!?」
女王マリアが聞き返すと、大臣はムッ、とした表情を浮かべ、
「魔族が我が国の城下町に店を構えたそうではないですか! こんなこと、勝手にされてしまっては……」
「あぁ、この前繁華街の外れにできた店か……」マリアは呆れたように首を振り、「それなら構わない。私が許可した」
それを聞くなり、大臣は目を丸くして、
「な、なななななな、なんとっっっっ! 女王様ああああああああッ! 何をお考えなのですかああああああああっ! 由緒正しき我がサンディーに、あろうことか魔族の店を許可するなど!」
「魔族とて全てが魔王配下とは限らん。それについては確認済みだ。過去に人間を襲った経歴はないし、普通の料理や酒を出す店のようだ。今のところ問題があるようには見えないが……」
「何をおっしゃいますかっ! 魔族は魔族ですぞっ! いつ人間を襲いに来るか分かったもんではありませんぞっ! 女王様は甘過ぎですぞっ!」
立て板に水に一方的に叱られて、女王マリアは頭を抱えた。
この大臣、ターキーは融通が利かない。決して無能ではないが、少々頭が硬すぎるきらいがある。こうなっては手が付けられない。
「私とて、できることならば魔族と人間が仲良く暮らせる世界が実現できればと考えている。魔族というだけで切り捨てるような薄情な国にはするつもりはない。しっかりと相手を見極め、互いの違いを受け入れた上で、新しい国家を築きあげていく。そういう国にしていくつもりだ」
「うっ……しかし……そうはいってもですな……」ターキーは苦い顔を浮かべながら、「魔族は魔族でも……あれですぞ、その……サキュバスですぞ!」
口を荒げるターキー。
サキュバス――人間の男性を色気で誑かす、女性型の淫魔だ。その色気で男の精気を奪い、殺してしまうとも言われている。
そんな存在を簡単に信用していいのだろうか。ターキーが心配するのも無理はないだろう。それだけ魔族の本能というものは簡単には変わらない。
「それがどうした?」
「淫魔族などっ! 破廉恥極まりないですぞっ! この国の風紀が乱れかねませんぞっ!」
「まぁ、お前が不安に思うのも理解はできる。きちんと注意はしておく。今回はまだ試験的に認めた部分もあるからな。しっかりと監視役は付けてある。安心しろ」
「……その監視役というの、まさか?」
「あぁ」女王は自信満々に口元を歪め、「勇者の一行だ」
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と、まぁここまでにしておこう。
これが『勇者日常譚』の新章の導入だ。これまた続きの展開に頭を抱えることになりそうだ。
何故、こんな展開になったのかというと――
「こらああああああああああああッ! 咲場あああああああああああああッ! いつになったらお前は髪を黒く染め直すのだああああああああああッ!」
あーあ。
また始まったよ。
学年主任の、大滝臣先生の怒号が、廊下中に響き渡っていた。
「うっさいし! どーせ染めたら染めたでまた文句言うに決まってるじゃん!」
「学校の風紀を乱すと言っておるのだぞっ! その派手なピアスも、爪も! というか、その、短い、あの……」
「はっきりしろし! こんな説教で時間潰されるとか本末テントー虫のサンバだっての!」
「き、きさまあああああああああああああッ!」
これで何度目だろうか、この光景は。
決して悪い先生ではないのだけれど、頭が固すぎて融通が利かないのが、この大滝先生。昭和の先生ってこんな感じだったのかな、と遠巻きに眺めながら考えてしまう。
もうおわかりだろうけど、この先生こそが僕の小説に出てくる大臣ターキーのモデルだ。一応、僕のクラスの副担任も兼ねている。この性格もあって、おあつらえ向きに大臣というキャラとして登場させてみることにした。見た目もイメージ通りだし、何より「ですぞ」という口調はそのまんまである。決して小説のために誇張した表現ではない。
――さて。
眺めていないで、僕もそろそろ用事を済ませないと。
「あの……」
「大体、お前は日頃から態度がなっておらんぞっ! 夕島たちを見習い、模範的な行動を取るように……」
「すみません……」
ダメだ。大滝先生、説教に夢中になっている。
どうやって話を切り出すべきか……
「センセー、後ろ」
「うむ?」
そこでようやく大滝先生が僕の方を見た。
「あ、どうも……お取り込み中失礼します」
「何だ、村野か。どうした?」
「昨日の宿題で分からないところがあったんで、少し聞いてもいいですか?」
「ほう、自ら分からないことを聞きに来るとは、感心感心。いいかね、咲場。チミも彼を見習って……」
大滝先生が振り向き返すと、そこには既に人の姿はなかった。
「……彼女、もう行っちゃいましたよ」
「なっ、なっ、なななな、なぬううううううううう!」
大滝先生の粘度の高い叫び声が廊下中に響き渡る。
廊下の向こう側に、かろうじて彼女の姿が見える。遠目に「ごめんね」とでも言わんばかりの手刀を切っている。今からあそこまで追いかけようという気にはならないだろう。
諦めたのか、大滝先生は肩を落とした。
「おや、どうしました? 大滝先生」
そこにやってきたのは、妃先生だった。どうやらこれまでのやり取りは全く見ていなかったようだ。
「妃先生っ! 一体、いったい、どういう教育をしているのですぞっ!?」
どうやら怒りの矛先が妃先生に向かったようだ。当然のことながら、先生は何がなんだか分からない表情を浮かべている。
「えっと、私が、何か……」
少しだけ冷や汗が流れている。もしかしたら、先日の夕島くんとの件がバレたのではないだろうか、と不安になっているかも知れない。安心してください、先生。それは今のところ僕たちだけの秘密です。誰もバラしていません、多分……
「咲場のことですぞっ! あれほど言っても、髪は染め直さないわ、ジャラジャラしたアクセサリーを付けてくるわ! 風紀が乱れますぞっ!」
「ま、まぁ、今時あれぐらい普通では……」
「普通ではありませんぞっ! 大体、妃先生が甘すぎるので……」
と、これまた長い説教が始まりそうな予感がしていると、キーンコーンとチャイムの音が聞こえてきた。
「申し訳ありませんが、失礼します。朝礼が始まりますので。村野、行くぞ」
「あ、はい……」
「全くもう! ちゃんとしてくれないと……」
まだ小言が続きそうな大滝先生を尻目に、僕と妃先生は教室のほうへと向かっていった。
僕はあくまでも本当に宿題のことを聞きに来たんだけどな……なんだか色々ととばっちりを受けてしまいそうな予感があったから助かった。
「やれやれ、だな」
教室に戻る道のりで、妃先生はため息が止まらなかった。
「なんていうか、ご苦労様です、先生」
「そう言って労ってくれるのはお前だけだよ、村野。まったく、こないだのことといい、咲場のことといい、新学期早々考えることが山積みだ」
頭を抱える妃先生。
こないだのことというのは、当然姫川さんの歓迎会のことだろう。
あの後は結局色々てんやわんやだったらしい。玲条についてはなんとか解決した。彼女の父親からもしっかり謝罪があったらしいし、なるべく穏便に済ませる方向らしい。姫川さんも心の平穏をしっかりと取り戻してきている。
そして、気になる夕島くんとの関係だけど……
話によれば、結局夕島くんへの返事は保留のままらしい。このままやり過ごして彼が諦めるのを待つつもりなのか、卒業したら迎えに行くつもりなのか……
まぁ、その辺は追々観察させてもらうとしますか。
「咲場さんって、何か問題があったんですか?」
「あぁ……あくまでも噂だが、最近頻繁に繁華街のほうに出入りしているらしい。それも、夜遅くに」
「繁華街のほう、ってだけじゃ曖昧ですね。気にする必要もないんじゃないんですか?」
「だな。生徒のことを必要以上に深く詮索はしないようにしたいが……」
気になるところだけど……
正直、僕は苦手なんだよなぁ、あの咲場さん。
咲場すみれ――
うちのクラスでは明るくて人気者だけど、先生たちからの評判は良くない。派手なピンクの髪色やアクセサリー、そしてメイクにネイル。所謂“ギャル”と呼ばれる人種に属している。
彼氏をとっかえひっかえしているとか、危ない場所に出入りしているとか、良くない噂もいくつかある。けど、どれも尾ひれが付いているだけだろうけど。
――待てよ。
このとき、僕は彼女をようやく小説に登場させることを思いついたのだった。
サキュバスの、ミレイ――
これまでに出てこなかった、サキュバスというキャラクター。
『勇者日常譚』の中で、彼女が起こすちょっとした騒動が、この先待ち受け




