第2話 精霊王は割と真面目である
えぐえぐグスグスと泣くメディフェルアに、神はひとつため息を吐いた。
「精霊王を続けながら守ればいいじゃろう」
「ぞれが難しいがら辞めるって言ってるじゃないでずがぁ〜〜っ」
「まあお前さんそのままならな。お前さんが擬態すれば良かろう」
「……ぎたい?」
メディフェルアの顔が上がる。涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。ついでに机の上もびっちゃりである。
机上の惨状に目をそらしつつ、長いひげをさすりながら神は頷く。
「そう。人に擬態するんじゃ。精霊王として傍にいるなら加護を与えているも同然じゃが、人に擬態すれば加護にならん。お前さんが助けたいとき、リオルが助けを求めたときだけ力を貸すことができる。リオルの友人、幼馴染辺りが良いんじゃないかのぅ」
精霊が人に与える加護とは、常時発動型の力とも言う。
加護は与えられた人の意思に関わらず発動してしまう ―― 例えば悪意ある者が、加護持ちに近づいただけで突然発火するとか、そんなものだ。
実際そのような加護を与えた火の精霊がいて、メディフェルアがその精霊を叱って、もうちょっとやんわりした加護に変更させたのを彼女自身も覚えていた。
まあ、この手の「強い加護与えすぎ」問題はよくあることだったので、他にも色々事例があったが割愛する。
神からの提案にメディフェルアは考え込んだ。
そんなメディフェルアの様子に、神はやれやれと内心ため息を吐く。
(普段はこんなんじゃないんだがのぅ)
―― 彼女、メディフェルアは普段は至って真面目な精霊王だ。
数多いる精霊たちの行動で問題があれば説教をし、悩みがあれば相談に乗り、諍いがあれば仲裁する。
もちろん、上位の精霊たちがメインで動いているが、それでも対応しきれなかったときに出てくる最終手段のような存在。
歴代の精霊王の中で最も精霊たちと真摯に向き合っている女王。
そんな彼女が狂う ―― ある意味精霊らしく振る舞うのが、《リオル》という存在である。
「リオルはまだ赤ん坊だったかの」
「そう! なん! です!! ぷくぷくしたお手々、くりくりとした瞳! しかも私が見えるみたいで、私が顔を出すと『きゃあ』って笑ってくれるんですよはい世界一かわいい!!」
「もう会ってるではないか」
「見に行ってるだけですぅ!! まだ声かけてないですぅ!!」
神が少し水を向けただけで、突っ伏していた仕事机から勢いよく立ち上がって熱弁するこの様。
もはや、加護を与えていないのが嘘のようなほどの執着心。
精霊は人間の都合など考えない。
好き勝手に振る舞って、好き勝手に離れていく。
唯一違うのは、精霊がその人間を気に入って、人間と精霊が契約したときだけだ。
メディフェルアの言動からして、さっさと加護を与えようとするものだと神は思っていたが、現実は先ほど会話したとおり。
彼女はリオルの幸せを狂気とも言える形で願い、だからこそ精霊王の加護を与えることはリオルの幸せにならないと判断した。
神からすれば、メディフェルアの言動を理解することができない。予想外のことばかりするのだから。
「で、どうするんじゃ」
「うーん……」
あれだけギャンギャン語っていたメディフェルアが一転して静かになるのだから、リオルという存在は最早、精霊たちの行く末を握っているのでは、と神は思っている。
ほんの少し悩んだメディフェルアは、うんとひとつ頷いて神を見つめた。
「擬態やります。でも、今から幼馴染となるにはちょっと難しくありません?」
「そうじゃの。しかも人に擬態したお前さんひとりをポンと街中に放るわけにもいかん。そこで、じゃ」
人差し指を立てた神に、メディフェルアは目を瞬かせる。
もともと、これからやろうと思っていたのだ。
メディフェルアなら「リオルのため」と率先して手伝うだろう。
神はニヤリと口角を上げる。
「リオルを権力から守りつつ、お前さんが合法的にリオルの幼馴染になる方法があるんじゃが、どうじゃ? 一枚噛むか?」
「当然」
ふ、と笑ったメディフェルアは胸を張った。
ふくよかな肉体がふるりと揺れる。
「リオルのためならば!!」
「あ、お前さん机を掃除するんじゃぞ。さすがにこれはないわ」
「うわっ」




