第27話 精霊王はしぶしぶ動く
これにてひとまず方針は決まった、が。
問題はテオドールである。放っておけばまた繭人間状態になるだろう。
うーんと全員で首を捻って考えていたところ、ポンとリオルが手を叩いた。
「言葉はあれですけど、男子寮に引っ込んでてもらえればいいんじゃないでしょうか。さすがに例の彼女も男子寮には入れないでしょう?」
「内部で手引きされる可能性は否定できないわ。あの方がいるもの」
渋い顔で吐き捨てるように告げたミラージュに「あ〜」とメディアは声をあげた。
たしか、小説内でも何かしらのタイミングでフィリップが主人公の階級では入れない階層へ手引きしていた気がする。ただし、小説では主人公は男だったからできた芸当だ。
いまは女子生徒として生きているアリスでは実現できるかどうか。
「だが、リオル殿の提案が最もテオドール殿を守ることができる方法だろう」
「しかし、そうなるとメディアさんが第一王子殿下の解呪が行えませんわね。リオルさんなら同じ男子寮内ですし、なんとか誤魔化せそうですが」
「いや、彼女なら大丈夫だろう」
「え?」
ユリウスの自信たっぷりな物言いに、ミラージュとジェーンが怪訝な表情を浮かべた。
ユリウスは笑みを浮かべると、メディアへと視線を向けた。
「彼女とここで出会ったとき、私は彼女の姿を見ていない。つまり精霊の姿だったということだ。君ならば、男子寮に来ることもかんたんだろう?」
ミラージュとジェーンの視線がメディアに向けられる。
メディアはというと、何度か目を瞬かせたあと両手を腰に当てて「ふふん」と自慢げに胸を張った。
「まあね! あ、でも必要ないところには行かないよ」
「……わたしみたいな精霊使いがいるから、寮全体には精霊避けがないのよね。なくて良かったというべきかしら」
「やだなぁ。私が覗き魔みたいじゃない。あ、でも同室の子がいるから、動けるのは夜半だけかな。ユリウス殿下とここで会った時間ぐらい」
「ということは、夜中の1時頃か」
「同室の子が早めに寝ればもうちょい早く来れるけど」
そこまで話して、どこからか「にゃあ」というか細い鳴き声が聞こえてきた。
ハッと思い出した様子のユリウスが、慌てて東屋の裏側へと駆け込んでいく。その様子を見ていると、やがてユリウスが鳥かごを抱えて戻ってきた。
中には、元気のない黒い仔猫が丸まっている。
「本来の目的はその子だった、そういえば。テオドール殿下で忘れてた」
「だ、大丈夫だろうか……?」
「リオル、この子に魔力を分けてあげてくれる? 指が体のどこかに触れてれば大丈夫」
「うん、いいよ」
リオルが頷くと、メディアの隣から鳥かごを抱えているユリウスへと近づいていった。
鳥かごの隙間から人差し指を入れて、仔猫の額を撫でる。すると徐々にではあるが、仔猫が体を起こすようになった。
数分も経てば仔猫は立ち上がり「にゃあ」と元気な声を上げてリオルの指に頭を擦り寄せていた。
その様子に安堵の表情を浮かべたユリウスとリオルに、様子を見ていたミラージュとジェーンも顔を見合わせて笑みを浮かべる。
そろそろ寮に戻らねばなるまいとユリウスが声を上げ、皆帰る支度を始めた。
幸いにも、東屋に繋がる入口付近には誰もいない。ミストがさらに範囲を広げて探索しても問題なかったようだ。
(今だけかなぁ)
アリスはきっと諦めていない。テオドールを雁字搦めに自分に縛り付けるような女だ。
ただ、今回のように「本来なら開く道が開かない」という問題に、人を呼んでくるなどの対処を考えなかったことからあまり頭の回転が良いとは言えないのかもしれない。
未だ意識が戻らないテオドールは、ユリウスとリオルが交代で背負いながら男子寮にある彼の自室まで運ぶことになった。
ジェーン、ミラージュ、メディアは女子寮へと戻る。
コモン生徒に設けられている門限は過ぎている時間帯だが、貴族子女である彼女らの付き合いでいたのだと分かればお咎めはないのだという。
事実、戻ってきたメディアを見て女子寮の寮監が何かを言いかけたが、彼女の後ろにいたふたりを見て口を閉ざしていた。
メディアが部屋に戻るとフランソワからかなり心配された。
昼間の騒動もあり、コモンであるメディアがノブレスのふたりに連れられて戻ってきたものだから何かあったのではと思っていたそうだ。
(何かあったといえばあったけど、さすがにテオドールが呪われてたとか言えないもんなぁ)
彼が呪われていたという事実自体、把握できる人間は少ない。
おそらくフランソワも彼本人を視れば分かるだろうが、だからといって何ができるかというとメディアには何も思いつかなかった。
「グランパスのお嬢様から頼みごとされてたんだ~」
「ああ、バッジをいただいていたものね」
「そうなの」
「……バッジをいただいたことはとても良いことなのだけれど、やっぱり心配だわ。ノブレスは闇属性の人間にはあまりいい印象持ってないから」
「そうだねぇ。ま、私と一緒に帰ってきたあのふたりは、腹の中が真っ黒かもしんないけど表面上は良くしてくれてるからいいんじゃない?」
「メディアったら。絶対、それは外で言っちゃダメよ」
「はぁい」
―― そうして、細くなり始めた月が頭上を通り過ぎ、やや傾き始めた頃。
《リオルはダメだったかぁ》
「すまない、説得してみたんだが……」
《きみの立場は理解してるよ》
人間への認知度を低くし、姿を隠した状態の精霊のメディアがそう言えば、ユリウスはまた「すまない」と言いながら目を閉じた。
ここは男子寮にあるユリウスの部屋のうち、寝室の手前にあるリビングのようなところである。メディア風に言えば「1DKのうちのDK部分、キッチン分が部屋にもなってるからちょっと広い」。
だが逆を言えばそれは国内の高位貴族と大差ない広さの部屋がユリウスに充てがわれているということだった。
テオドールやフィリップなどに充てがわれている部屋は2LDKぐらいあるのは、護衛兼従者が常時待機するからなのだが、メディアはその辺りの事情は知らないので「自国の王族だけ広くしてんのか」とさらにこの国に対しての評価が下がったが、その辺りの話は脇に置く。
そう。本来であればユリウスの部屋にはリオルもいる予定だったのだが、彼がいない。
なんとこの男子寮の寮監に強く咎められ、部屋に戻されたらしい。
ユリウスからの呼び出しだと言っても頑として受け付けず ―― まるで糠に釘、馬の耳に念仏と言った様子だったのだとか。
ユリウスいわく、寮監がユリウスにも当たりが強いのでおそらく闇属性を強く忌避しているのだろう。
《……じゃあリオルがこっちに出てくるのは難しいかな》
「おそらくは」
《しかたない。ふたりでやりますか》
正直、メディアとしてはリオルがいない時点でやる気はだいぶ下がっている。下がってはいるが、乗りかかった舟でもある。
メディアの声色で彼女がどんな感情なのか察したのだろう、ユリウスは「感謝する」とその場で軽く頭を下げた。
例の脆弱性騒動で本業が忙しく、疲れでモチベも下がってたため筆が遠のいてました。
ちょっと浮上したので、引き続き投稿していきます。
どうぞよろしくお願いいたします。




