第24話 精霊王は呪いを視る
メディアが東屋に到着すると、東屋のベンチに寝かされているテオドールの姿があった。
改めて彼の顔を見れば顔色は青白く、呼吸も浅い。まるで毒を受けたかのようである。
呼吸をしやすくするためだろうか。彼のネクタイは緩められており、シャツの首元のボタンもいくつか開けられている。
「わたくしがこの庭園を歩いていたときに、後ろから殿下が突然ぶつかってきて……すでにまっすぐ立つこともできなかったことと、殿下を探している声を聞いて、急いで隠れなければと」
「そこでわたしたちと鉢合わせしたのですね」
「ええ」
額に手を添えて、頭痛を抑えているかのような仕草を見せたのはジェーンである。深緑のウェーブがかった髪がさらりと揺れた。
「ミラージュ様、それって昼間キャンキャン騒いでた人だよね?」
「あなた、あのね」
「面倒だからメディアって呼び捨てでいいよ、ミラージュ様。他の人も。あ! メディ呼びだけはリオル用なんで!」
「そんなこと聞いてないわ! ……ええと、ジェーン様。殿下を探していたのは例の方でしたか?」
「え、ええ。そうね。あの方 ―― ヤディール家のご令嬢よ」
やっぱりそうか、とメディアはため息をつく。生け垣の向こうで騒いでいたセリフからしてテオドールを探していたのは確かだろう。
「さっきの通路、塞いできたんだけど。そのあとすぐにその人が来てたよ。ここを開けようとしてたんだけど、開けなくしたからどうやってもここには来れないと思う」
「開けなくしたって……」
「開け方は後で教えるよ。リオル、テオドール殿下の様子はどう?」
絶句するミラージュとジェーンをよそに、メディアはリオルに声をかけた。
テオドールの傍で膝をついて彼の状態を見ていたリオルは、メディアの質問に顔を上げる。しかし、その表情は固い。
「ダメだ。色々とこんがらがってて僕には解呪できそうにない。メディ、視てくれる?」
「おっけー」
軽く返事をしたメディアは、リオルの隣、テオドールの傍に立った。
立ったまま、じっとテオドールを見つめる。あちこちとテオドールの体の上を視線が滑っていった。
時間にして10秒ほどだろうか。うへえ、とメディアが表情を崩した。
「何が何でも ―― たとえ殿下の心が死んででも、殿下のことを離したくないって感じがめっちゃするんだけど。でも殿下はかなり抵抗してるねぇ。だから更にがんじがらめにしてしまえ! って感じで殿下の負担も考えずにやってるからヤバい。解呪はちょっと時間かかるなぁ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
困惑したユリウスの声に、メディアとリオルはそちらへと振り返った。
ユリウスの近くにはもともとミラージュとジェーンがいたが、ふたりも困惑した様子である。
それもそうか、とメディアは思う。
「どうして、テオドール殿に魔法がかかっていると分かるんだ」
普通、精神系の魔法は目に見えないのだから。
「魔力操作が上手になればユリウス殿下も視えると思うよ。だって光属性の魔法は、対極である闇属性なら看破できるからねぇ」
「光? 第一王子殿下は光属性の魔法にかかってるの? だって光属性の魔法って怪我の治療や、光に関する魔法じゃない」
ミラージュの解釈はある意味正しく、不足している。
一般的に光属性の魔法は、強弱様々な光を出したり、怪我の治療に使われたりする。どちらかというと「希望を与える、優しい」魔法が多い。
だがこの解釈では足りないのだ。
「光属性の中でも精神に働きかける魔法もあるよ」
「え」
「かんたんに言うと気分を向上させる系の魔法だね。昔、人が大きな争いをしているときなんかは兵士の士気を上げるのに使ってたりしたよ。あとは、意識を自分に引き寄せる効果がある魔法とか」
「そ、そんなこと書物にはどこにも書いていなかったわ! 重要じゃない!」
「ないもんはないだろうねぇ」
「人が、不都合だから消した。ということだろうか」
混乱するミラージュに、ポツリと推測を出したユリウス。
ユリウスの推測を聞いたメディアはニィと口角を上げる。
しばし考え込んだユリウスは、ポツポツと言葉を繋げていく。
「大きな争いということは、200年ほど前にあった第三次魔法大戦のことだろう。とある2国の争いがいくつもの国を巻き込み、戦火が広がった直近の戦争だ」
「僕らもそれ、先日習いました。異様に士気が高い国もあったそうで」
「なるほど。それは光魔法によるものだったということか……ところで、メディア嬢」
ユリウスの視線がメディアに向けられた。
メディアはというと、テオドールの傍に立ったまま笑みを浮かべている。
その様子にミラージュが一歩、その場から引く。ジェーンも表情が硬い。
リオルは小さくため息をついて、目を閉じた。
「君は、人間ではないな? 昨夜ここに現れ、私に助言してくれた精霊殿か。その話し方……いや、声まで、昨夜の精霊殿とよく似ている」
暫しの間、この場に静寂が落ちる。
ユリウスが固唾をのんでメディアを見つめていると、メディアは一度目を閉じて。
「―― ごっめーんリオル! バレちゃった!」
「だから言ったじゃないか……」
「ウォレス様には言わないでェ!!」
「なんとなくだけどもうバレてる気がする」
「ほぎゃ〜〜〜!!」
大騒ぎをした。なお、リオルは頭を抱えている。
ユリウスはふたりの様子に目を瞬かせた。
正直、メディアとしては「いまのやり取りで気づく!?」という気持ちでいっぱいだ。
まあそもそもとして、昨夜メディアがユリウスと会話した段階で声色を変えたりしていなかった時点でバレるのは必須だったと言ってもいい。
メディアの声色は、リオルが以前「どこにでもいるような、けれど耳に残る女性の声」と評している。だからだろうか。昨日の今日でユリウスが忘れていなかったのは。




