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ぽっちゃり精霊王は推しの幸せのためひた走る  作者: かわもりかぐら


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第22話 精霊王は返事をする

「ミラージュ!!」


 怒声。

 ミラージュの視線がアリスから逸れ、ゆっくりとテーブルから手を離して姿勢を正す。

 ぱ、とアリスが後ろを振り返った。


「フィリップ様、ジャック様!」


 味方が来たと歓喜の声をあげたアリス。颯爽と歩いてきた彼らはまさしく、アリスの味方だ。


(本来ならお前はこっち側にいなければならないのにねぇ、ジャック)


 呆れた様子を隠さずにメディアはジャックを眺めたが、彼はメディアのことなど目に入っていない様子だ。

 ジャックがアリスの横に立ち、さらに彼女らを庇うように、フィリップと呼ばれた男子生徒が前に出る。

 髪色は燃えるような赤。瞳は王家の血を引くことを表す帝王紫(ロイヤルパープル)。メディアが前世、読んでいた小説通りの容姿である。


「グランパス嬢。自分よりも低い地位にいる者を脅すとは、いかがなものか」

「ごきげんよう、第三王子殿下。精霊王に誓って、わたしは間違ったことは言っておりませんわ」


(わーお)


 目の前に精霊王がいるのに。

 そのことを知らぬとはいえ、ずいぶんと怖ろしいことをするとメディアは思わず目を丸くした。

 精霊ではなく、精霊王に宣誓している。それは内容に齟齬があれば、精霊王から処罰が下るということだ。

 精霊からの罰の比ではない。下手したら命や尊厳を奪われる。


(まーでも、神に宣誓しないだけ良識があるわな。うんうん、やっぱミラージュはいい子だね。ミストはいい人間を相棒にしたな)


 内心両腕を組んで大きく頷きながら、メディアはテーブルの下でこっそり魔法を発動させた。

 すると、突然ミラージュの頭の上にポポポンッと軽い音を立てて、光り輝く小ぶりな純白の花が、細い葉茎とともに空中に現れる。

 ミラージュ本人も含めて周囲が驚く中、空中に現れた花はゆらゆらと、ゆっくりとミラージュの頭や体に降り注ぎ、やがて消えていく。


「えっ、何あの花!? きれい……」

「な、なんだ今のは!?」

「そ、れは……」


 ああ、3人のうちふたりも無知か。さすがにフィリップは知っていたらしい。

 笑いを誤魔化さなければ、とメディアは軽く息を吸って。


「わ〜! すごいですミラージュ様! それ、精霊王からのお返事ですよね!?」


 メディアの声に、ミラージュも含めたこの場にいる全員がメディアに集中する。

 けれどメディアは臆することなく、感動したと言わんばかりにパチパチと拍手しながらにっこりと笑って説明した。


「宣誓した内容が間違いなければ、たまーに、精霊王が神秘の森にあるという純白の花でお返事してくれるんですよね!」

「ええ、そうよ。メディアさん、あなたよくご存知ね」

「本で勉強しました!」

「そう。勉強することはいいことだわ。どこかの誰かさんと違って」


 ふ、と笑ったミラージュが揶揄した誰(・)か(・)など、今までのやり取りを考えれば誰だか分かるだろう。

 それは本人た(・)ち(・)も理解したらしい。カッと顔を赤く染めたのは、ジャックとアリスだった。


 ミラージュはメディアから、フィリップたちへと視線を向ける。

 フィリップだけではなく、ジャックもミラージュをまるで仇かのように睨みつけていた。

 ミラージュは意に介さず、淡々と事実を述べる。


「幸運なことに、精霊王からお返事をいただけました。宣誓内容は、真実であると」

「……そのようだ。だが、脅しに聞こえる物言いはいかがなものかと思う」

「まあ、ご忠告ありがとうございます。以後気をつけますわ」

「ああ」

「第三王子殿下とジャック様にひとつ、確認したいのですがよろしいでしょうか」

「なんだい」

「お二方は、例の鳥かごの中に入っている存在をご存知で?」


 ミラージュの問いに、ふたりは怪訝な表情を浮かべながらも答える。


「当然だろう」

「もちろんだ」

「……ご回答いただきありがとうございました」


 表面上は淡々としているミラージュの声色に失望の色が乗った。

 つまり彼らはアリスと同じ考えを持っている、ということ。

 ジャックは贈り主だから除いたとしても、王族であるフィリップには僅かな希望を抱いていたのかもしれない。


「……いずれにせよ」


 今まで黙っていたユリウスが、静かにフィリップに向けて語りかける。


「あの鳥かごは、手続きを経て正式に私が得たものだ。それについてとやかく言われる筋合いはないよ、フィリップ殿」

「……」


 フィリップは悔しげに表情を歪めた。

 王族の権力を利用すれば、貴族からは奪えただろう。だが相手は他国の王族だ。

 そんなことをしでかせば外交問題になるということは、フィリップでも分かったらしい。


 そのとき、鐘楼の鐘が鳴った。

 忘れるところだったが、今は昼休み。

 それが終わり、次の授業が始まる時刻だ。


 カフェテラスに居合わせた生徒たちは急いで片付け、教室に向かう。

 リオルも立ち上がって、ミラージュが倒した椅子を直しながらメディアに「戻ろうか」と話しかけたときには、あの三人の姿はどこにもなかった。

 ユリウスから「放課後、またここで」と告げられ、ユリウスとミラージュはノブレスの校舎へと戻っていく。


 その背をメディアは、じっと見送った。


「メディ? 遅刻するよ」

「はーい」


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