第18話 精霊王は彼女を観察する
ティーカップを持ち上げてひとくち、紅茶を飲んだミラージュはティーカップを静かにソーサーに置いた。
「そうね。単刀直入に言うならば、囲い込みよ」
「囲い込み、ですか」
「昨日も少しお話したかと思うけれど、あなたたちはコモンAクラスの中でも成績上位者だって有名なのよ。特にリオル、あなたはね」
「えっ」
ギョッとしたリオルに、ミラージュは怪訝そうな表情を浮かべる。
「この国で闇属性の者がどんな扱いを受けるか、あなたたちも知ってるでしょう? そんな中でコモンとはいえAクラス、しかも上位成績を収めているとなれば各々の家から何かしらの指示は出てるでしょうね」
「ふーん。ミラージュ様も?」
「そうね。そこは否定しないわ」
あっさりとそう言ってのけたミラージュに唖然とするリオルに対し、メディアは頬杖をついて目を細めた。口を尖らせたのを誤魔化すためだ。
もっとも、ミラージュに通じているかは不明だが。尖った口はもにっとした頬に押されている。
(ま〜〜だイタズラしたりないかなぁ)
数年間イタズラしまくっていたが、約10年前に《結界を貼り直されたから入れなくなった》《あのおっさんは目の下にクマができてて、髪の毛がよく落ちるようになった》とミストとよく一緒にいた風の中級精霊から報告されたので様子見していたのだが。
またグランパス家に行くかぁとメディアが思考を飛ばしていると、不意にリオルが「なんだ」と呟いた。
そうしてポンと手を叩いて、嬉しそうな笑みを浮かべる。
「つまり、ミラージュ様は僕らを守ってくださってるんですね」
「……え?」
今度はミラージュがギョッとする番だった。ちなみに、メディアも頬杖をついたまま目をひん剥いている。
リオルの瞳はキラキラと尊敬の眼差しをミラージュに向けていた。
「何がどうしてそういう結論になったのか」というメディアの疑問の眼差しに答えるかのように、リオルは続けた。
「僕ら、入学してからずっとノブレスの方々からジロジロ見られてたんですよね。それって僕らが闇属性だからだけじゃなくて、品定めされてたってことでしょう? いい駒になれるかどうかの。実際、僕に声をかけてきた方もいらっしゃいましたし」
そのリオルの言葉にガクンと頬杖を外したメディアは、ぐいとリオルに詰め寄る。
メディアの図体が大きいからか、傍目からすると圧迫感を感じるものだがリオルは動じる様子はない。さすが、長年彼女の幼馴染をやっているだけある。
「いたの!?」
「いたよ」
「なんで言ってくれないの!」
「言ったらメディ、なにかしようとするだろう? 昨夜みたいに」
ギクッとメディアの体が震えた。
リオルは瞳を細めて、じいっとメディアを見つめる。視線を彷徨わせるメディアに一度苦笑いを浮かべたリオルは、ふと視線をミラージュへと向けた。
ミラージュはリオルをまっすぐ見つめている。
「僕に声をかけてきたのは男爵家や子爵家の方々でした。伯爵家の方もいらっしゃいましたが、ミラージュ様を含めても片手で足りるほどです。逆に、高位貴族とされる方々からは現時点で何もありません。なので、ここでミラージュ様からこのバッジを受け取っておけば、僕らはこれを口実に断れる ―― ということでしょう?」
伯爵家は、貴族の中では中位階級に位置する。
低位階級である男爵、子爵家では手出しできない。逆に侯爵、公爵家といった高位貴族でもそれ相応の理由がないと手出しできない。
平民と貴族という身分差も厄介だが、貴族の階級制度も色んな意味で厄介なものだ。
ミラージュはしばし真顔でニコニコと笑っているリオルを見つめていたが、やがてため息を吐いた。
「好きに受け取りなさいな」
「では、守ってくれているということで」
「それがあっても防ぎきれないことはあるわ。悲しいことに、頭の足りない方々もいらっしゃるから」
(わぁ〜)
割と、ミラージュは率直なのかもしれないとメディアは思う。
ここはカフェテリア。周囲にはコモンだけではなくノブレスの生徒たちもいる。
メディアたちが座っているテーブル席はコモンもノブレスもあまり座らない、むしろトラブル回避のため座りたがらない中間のエリアではあるが、こうもあけすけと言い放ってしまうとは。
ここに堂々とひとりで座っていたミラージュは豪胆な部分もあるようだ。まあ、躊躇なくミラージュがいるテーブル席に座ったメディアとリオルも相当なものだと思われているだろうが。
メディアはキラキラと空中を泳ぐミストを眺めながら、思う。
―― 例の仔猫の件もあるし、アリス関連のトラブルに巻き込まれそうだな〜、と。




