第17話 精霊王は疑問に思う
翌日、昼食時のカフェテリア。
結論から述べるならば、ミラージュはリオルとメディアとの交流を続けることを正式に決めた。
リオルの行動もきっかけであっただろうが、一番の要因は彼女が契約している水の精霊だ。“ミスト” という名を与えられ、メディアの許可を得てミラージュのもとに飛んでいった15年前よりも成長している。
当時は中級の中でも中の下といった精霊であったが、いまは「もうちょっとで上級精霊に昇格できそうだな〜」とメディアが認めるほどである。
体躯もしっかりしてきているし、昨日のジャックに向けて放とうとした魔法の構築もそう。メディアが見ていた頃より昨日のそれらはずっと洗練されていた。
「これがノブレスへの許可証よ」
「へー」
「これが」
食事が片付けられ、食後の紅茶だけがあるテーブルの上にスッと差し出されたのは、2つのバッジだった。
どちらも同じもので、サイズとしては手のひらにコロンと乗るほどの大きさ。制服のブレザーにある襟につけるとちょうどよい。
バッジは四角く、大きく刻まれているのは盾。その盾の中にもデザインがあり、メディアたちから見て右側にはアザミ、左側には羽ペンが刻まれていた。
「これってみんな同じなの?」
「いいえ。これは『誰がノブレスへの立ち入りを許可したか』を表すためのものなの。だから、許可を出したのが誰か分かるように、家ごとの紋章が使われているわ。これが我がグランパス家の紋章ね」
「めっちゃお金かかりそう」
「それなりにはね。だから、コモンをノブレスに招待できるバッジを持ってることはある意味ステータスでもあるのよ」
「めんどくさぁ」
「そういうときは、口に出さずに心の中で言いなさい」
「ええ〜」
ぷくぅと元々丸い頬をさらに膨らませたメディアにミラージュは苦笑いを浮かべた。
平民が貴族に対して無礼な態度を取ると、訴えられることがある。そして大体、平民が負ける。
貴族側が圧倒的に悪いとかでなければ、裁判で平民が勝つことはないのだ。
以前、それを聞いたメディアが「切捨御免ってないんだ」と呟いて「それってなぁに?」と首を傾げるリオルと、説明しようとしたメディアを止めるウォレスがメディアの口を塞いだことがある。
まあ、ともかく、本来であれば学園内であってもメディアがこのようにミラージュへ気安く接するのは失礼にあたる。ミラージュが学園に訴える可能性だってあるのだ。
しかし、ミラージュはメディアのこの態度について学園に訴えるつもりはさらさらない。
なぜならば。
「彼が都度訂正してるのを見てたら、多少諦めはするわよ」
若干、憐憫を含んだ眼差しを向けられたリオルもこれまた苦笑いを浮かべた。
これでも最初「名前で呼んで良い」と言ったミラージュのことをいきなり呼び捨てにしたのを窘めたり、敬語で話すように説得したりしたのだが、逆にメディアとの会話がぎこちなくなってしまったのでミラージュが諦めたのである。
ただし、人には敬称はつけるようにとミラージュが言い、リオルが何回か指摘したのでメディアはこの昼休憩の時間でようやく指摘なしでミラージュを敬称付きで呼ぶようになった。
「ただ、ノブレスの校舎に入るにはこのバッジを持っていたとしても、わたしの許可が必要だわ」
「分かりました。呼ばれたら伺うようにします」
「滅多にないことだと思うけれどね」
「じゃあ、なんでミラージュ様は私たちにバッジくれたの?」
メディアの疑問は当然であろう。
初めて話したのは昨日。しかも、がっつり話したのは今日のこの時間、1時間も満たない。




