第14話 精霊王は雑談する
「えっ、ノブレスの闇属性じゃない人でも、そう言う人がいるのね」
何事もなく授業が終わってメディアは寮に戻り。
充てがわれてた部屋で昼間の話をしたところ、心底驚いた声を上げたグレーの髪の女子生徒フランソワ。
男子寮、女子寮に分かれているのでここにリオルはいない。
入学すると通学者以外は入寮し、2名1室で割り振られる。3年間同じルームメイトになる形だ。
(可哀相なことに)メディアと同室になったのは、フランソワ。彼女も闇属性を持つ生徒である。
この部屋にはメディアたち以外にもリリベル、アンナが勉強会という名目でこの部屋に集まってきているが、いずれも闇属性の女子生徒たちだ。
フランソワも含めた彼女たちは、より良い就職先を求めるためこの学園に入学して研鑽を積んでいる途中。闇属性は基本就職難になりがちなので、彼ら彼女らは努力を欠かさない。
そんな勉強会の最中、ダレてきたところでの息抜きの雑談である。
「ノブレスの人たちって、私たちを見かけると笑いながら話してたのにすぐに表情がなくなるから、怖いわ」
「ね。ほとんどの人がそうなのに、その人はそうじゃないんだ」
「どうかしら? だって貴族の人たちってみんな、態度と内心がバラバラらしいじゃない。腹の中ではなんて思ってたか分からないわよ」
勉強道具を広げていたローテーブルに頬杖をつきながら、メディアは彼女らを眺める。
リリベル。フランソワ。アンナ。
リリベルは不安になりがち、フランソワは同類から言われたことは信じやすい、アンナは疑り深い。三者三様だ。
(……いずれにせよ、今まで生きてきた中での経験によるものなんだろうなぁ)
闇属性の精霊としては、現状はとても歯がゆい。
それにフランソワは「ノブレスの闇属性じゃない人でも」と言った。つまり、差別される側であることを彼女たちは自覚している。
(今すぐこの国を潰せば楽なんだろうけど)
だがそれは神から ―― 魔王からも「絶対にやるな」とメディアは忠告されている。
今回は国を潰すほどのレベルではない。潰せば、困るのはリオルだと。
リオルが困るのならばとメディアは思い留まっている段階だ。
「それにしても、リオルは勇気があるわね。アタシたち、あの人たちが騒いでる間にさっさとカフェテラスから出たわ」
アンナの言葉に、リリベルとフランソワも頷く。
基本的にこの3人娘は一緒に行動しているから、当然だろう。フランソワと同室になってしまったメディアが普段は一緒に行動しているのと同じだ。
素直に褒められたのか、蛮勇だと言われたのか。
アンナとメディアの付き合いは短いから、彼女の言葉の意図を探るのは難しい。
だが、前世持ちで人間に擬態しているとはいえ、メディアは本質は精霊である。表立ってリオルを侮辱していないのであれば、別にどうでもいい。
言葉の額面通り受け取るだけだ、とメディアはえへんと胸を張った。
「リオルは優しいからね! ほっとけなかったんだと思うよ、たぶん」
「メディアもリオルも、強いね」
「そう?」
「うん。ちょっとうらやましいかな」
少し困ったように告げたリリベルは、少しだけ視線を落とした。
リリベルの髪は、メディアを除けばこの場にいる中で一番黒に近いチャコールグレーである。
おそらく、差別も相当受けてきただろう。髪色が黒に近ければ近いほど、闇属性の力が強いと言われてきていたのだから。
(…………やっぱ潰したぁい! こんな可愛い子悲しませるなんて!)
メディアの脳内ではギリギリと歯ぎしりをしながらドッタンバッタンと暴れているが、現実ではメディアも困ったように笑うしかできなかった。
まあ、仮に現実でも同じ行動をしたならばこの3人にドン引きされるだろうし、部屋だって無事では済まないだろう。
「そういえば、ノブレスにも闇属性の方がいらっしゃったわ」
話題を変えようかと思ったのか、そうでないのか。フランソワがポンと手を叩いていま思い出したかのように声を上げた。
「珍しいわよね。ノブレスだと、闇属性の方は入学しないことがあるって聞くのに……」
「ああ、でもあの方はツェルト皇国からの留学生でしょう? ツェルト皇国は……」
「ツェルト皇国がなんかあるの?」
目を瞬かせるメディアに、3人は顔を見合わせた。
「メディア、知らない? ツェルト皇国って “モイラース王国の再来” って言われるぐらい、いま闇属性への迫害が強い国なの」
「闇属性は近寄らない方がいい国ね」
「そこの王様はなんとか是正しようとしているって話だけど、手が回ってないそうよ」
(―― ああ、そうだった)
そう、そうだとメディアは思い出す。
当て馬のひとりである、ツェルト皇国からの留学生、ユリウス・ツェルンガ第四皇子は留学という体でこの国に避難して来たという設定だった。
ツェルト皇王と側妃の間に生まれた皇子なのだが、とある理由で闇属性として生まれてしまった。
皇王自身は第四皇子の息子を愛しており、愛しているからこそ、国全体の迫害から彼を守ろうとこの国へと留学させた。
小説で語られた、この国に彼が来た経緯は概ねこのような内容だった。
(だからこそ、ユリウスが当て馬なのも可哀相だったんだよなぁ)
故国よりは多少マシなこの国に来ざるを得ない状況下で、ようやく心休まる相手ができたと思ったら。
「……やんなるねぇ」
「私たちがちょっとでもいい生活ができるように、勉強しないとねぇ」
「おしゃべりは終わりにして、続きをやりましょ」
「そうね」
その日は、話が切り替わって勉強会が再開となった。
しばらくして、寮の消灯時間が近くなりアンナとリリベルが部屋に戻り、メディアとフランソワは寝支度をした。
部屋の灯りを消して、ベッドに入り目を閉じる。




