第11話 精霊王は学園生活を満喫している
入学式を終えると、新入生たちはまず「上位階級の子息子女」か「平民」かで分けられる。
区画の先頭にいたのは在校生で、メディアが見かけたユリウスもそのひとりであった。
彼が貴族の子息子女たち(闇属性)を連れて行って、残った気の弱そうな男子生徒がリオルとメディアたち平民を引き連れていった。
「知っているかもしれないけれど、この学園には貴舎と平舎があって、私たちが主に行くのはコモンの方。ないとは思うけど、お互いの校舎を行き来する場合、そこに在籍している生徒の許可がないと入れないから、注意してくださいね」
引率の男子生徒が説明しながら、コモンと呼ばれる校舎へと入ったので続いていく。
建物としては立派な方だが、遠目に見えたノブレスと呼ばれる校舎はもう少し綺麗に見えたから、まあ違うんだろうなとメディアは考えながら進む。
幸いにも、と言うべきか。
学園内では闇属性のみ別区画で授業を受けるということはなく、他の属性の生徒たちと一緒に授業を受けているそうだ。
コモンの方はそこまで闇属性に対する差別は多くない、らしい。向けられる眼差しの感情自体はあまりよろしくないものが多いが、ノブレスよりはマシだと。
クラス分けがあったものの、リオルとメディアは同じAクラスとなった。
実力ありと判断され、成績次第ではノブレスのBクラスと同じ授業を受けられるらしい。
ノブレスのBクラスは中位貴族が多く、王城で働くことを目標とするならば貴族の社交に関することも勉強する必要があるのだとか。
「ま、うちらには貴族とか王城とかあんま関係ないけどね~~」
「そうだね」
入学式から、数週間経った。
ここはノブレス・コモン共用で開放されているカフェテリア。
その中でもコモンが多く座るエリアにあるテーブルセットの椅子に座り、ジュッとオレンジジュースを飲みながら呟いたメディアに、向かいに座っていたリオルも同意する。
神官を目指しているリオルとメディア(彼女に関しては建前上、という言葉がつく)に必要なのは、この学園の卒業資格である。
平民が神官や王城での職務につく場合は、この魔法学園で行われる「神学」と呼ばれる神界、地界、冥界に関する授業の受講が必須となる。
別にこの授業を受講しなくても神官にはなれるが、より門が狭くなるだけだ。よほど自分の知識と実力に自信がなければ、まずはこの学園に入るか、その他神官になれる学問所に入る必要があるだろう。
(まあ、ぶっちゃけると私にはいらないんだけど)
なんせ、メディアは精霊王なので。
しかし「リオルが受講するのだから私も受講する」という謎の理論で受講を決定した。
神と魔王からの「人間たちが現在どのような見解で進めているのかを調査してほしい」という依頼があったという理由もある。
メディアとしてはリオルが最優先。神や魔王からの依頼はついでだ。
主人公たるアルス ―― 今世ではアリスが、同じ学園にいる。それがメディアの不安を煽る。
「……行動原理は変わらないんだなぁ」
「え?」
「んーん。ひとりごと」
「……メディ。何かしてる? 最近、精霊たちがノブレスの方で動き回ってるように見えるんだけど」
こそ、と最後は小声で問うてきたリオルにメディアは目を瞬かせた。
そっか。この子は、精霊が見えるんだった。とメディアは改めて思い返した。
(あの子たちにはもう少し存在落として調査してもらうか)
さて、言い訳はどうしようかと考えながらメディアが口を開いた、そのときだった。
「いい加減になさいませッ!」
カフェテリアに、女子生徒の鋭い声が響き渡った。
この場にいる生徒たちの視線が一斉に、その声の方に向けられる。それはリオルもメディアも同じだった。
ここカフェテリアにはコモン生徒たちがいるエリアとは別に、ノブレス生徒たちがよく使うエリアがある。
基本は校舎が分かれているノブレスとコモンの生徒たちに交流の場を、という目的でこのカフェテリアは作られたようだが、実態としてはそれぞれノブレスとコモンで場所が分かれてしまい、交流どころではない。
だが、広場のような場所ではあるので、お互いの様子は容易に見ることができた。
声を発したのは、美しい青色の髪を持つ女子生徒だった。
その斜め後ろにふわりと、魚の姿の精霊が浮かんでいるのをメディアは見つけてしまう。
(あ。ミラージュだ)
グランパス伯爵家の息女、ミラージュ。
長いスカートの裾から見える、黒のタイツに覆われた足はすらりとしており、ブレザーをきちんと着込んでいる上からでも彼女の体躯はほっそりとしていた。
両手を腹の前で組み、背すじをまっすぐ伸ばして誰かを見つめているようだ。
何に怒っているのかとメディアは興味本位で軽く身を乗り出してみて、見えた光景に顔を思い切り顰める。
ミラージュと対峙する形でいる集団の中心に、あのアリスがいたのだ。
サラサラとした金髪が、彼女が動くたびに揺れる。メディアたちからはミラージュの顔は見えないが、声からして笑顔であるはずがない。
怯えた様子を見せ、それを見たすぐそばにいた男子生徒の背に庇われた。
その、男子生徒が。
(小説の挿絵にそっくり〜〜。ジャックじゃん)
ビュエラ侯爵家の次男、ジャック。
短い茶髪に、太めの眉毛。面立ちはどちらかと言えば整っている方ではあるが、アリスの周囲にいる他の男子生徒たちと比べればパッとしない。
まあつまり。彼も小説内では当て馬キャラなのである。




