教授と院生と結婚式 ~その2~
良く晴れた4月の日曜日。
春の柔らかな日差しと、ちょっと涼しい風がとても心地よいです。
今日は山口准教授の結婚式。
式は午後3時から始まり、院生君の余興はおそらく3時半くらいからかと思われます。
朝から緊張している院生君。
とにかく緊張をほぐそうと、ウェルカムドリンクのハイボールをがぶ飲みしております。
係りの方が、酩酊状態の院生君を会場内に促しました。
『お客様、お客様。
そろそろ中にお入りください。』
『...ふわ~...
もうそんな時間!?』
『まったく院生さんは飲みすぎですよ...
一緒に行きましょう!!』
院生君の悪行を見かねた屯島君が、ふっくらした右手を差し出しました。
『ありがとう...屯島君...ふらふらするよ...
なんかキミの右手、しっとりしてるね...
気持ち悪いね...
暑苦しいね...』
『ほっといてください!!』
汗ばんだ太っちょの右手を握り、さらには肩を借りて、院生君はグロッギー状態のボクサーのように会場内に入っていきました。
いよいよ披露宴が始まりました。
会場の照明が消え、主役が入場してまいりました。
純白のウェディングドレスを纏った新婦と、これまた真っ白なスーツをびしっと決めた新郎が、はにかんだ笑顔を見せながらゆっくり歩いてきます。
『院生さん!院生さんたら!!
2人がやってきますよ!
起きてくださいったら!!』
『ううん...
屯島君...
もう僕は動けないよ...
なんかキミの手、しっとりしてるね...
気持ち悪いね...』
『もう!ほっといてくださいったら!!
それに式はまだ始まったばかりですよ!!』
ぐでんぐでんのおっさんが、しっとりした太っちょに絡んでいる状況は、とても見苦しいものですね。
そんな2人はさておき、新郎新婦さんたちは無事に入場を終え、披露宴が始まりました。
上司のご挨拶から始まり、そして乾杯。
さあ、余興の時間がやってまいりました!
『院生さん!院生さん!!
もうすぐ出番ですよ!
準備しないと!
一緒に行きましょう!!』
『...ありがとう...
屯島君...』
屯島君に肩を担がれながら、彼は控室に入って行きました。
『院生さん!院生さんてば!!
手伝いますよ!
何か僕にできることはありますか!?』
『ううう...屯島君...いつもありがとう...
僕のボストンバッグから被り物をを出して...』
『被り物...被り物...
あっ!これですね!!』
『...そうそう...
ありがとう...
これでばっちりだよ...』
『では僕は観客として見ていますので、がんばってください!!』
『屯島君。本当にありがとう...』
彼を1人で置いておくのはちょっと心配ですが、屯島君は自分の席に戻り、教授と談笑を始めました。
照明が暗転し、余興がスタートしました。
院生君は3番手のようです。
1組目は一体どんな出し物をするのでしょう。
ステージの幕がさっと開くと、そこには真っ赤なスーツ、サングラスの2人が立っています。
案の定ラッスンゴレライ。
トップバッターだけあって、会場内は大ウケです。
大爆笑の中、コンビはステージから消えていきました。
続けざまに入ってきた2組目。
ヒゲの生えた坊主頭と、イケメンのコンビです。
『あったかいんだか~ら~』
歌は下手くそですが、これも爆笑の渦と拍手喝采。
あたかも芸人気取りで退場です。
ガッツポーズの2人が消えていくと、幕が一度閉じました。
それを見ていた教授がぽつり。
『く...
わしの時も出し物がかぶりさえしなければ、ヒーローじゃったのに...
くやしいのう...
...そう言えば院生君の出番は次じゃな。
のう、屯島君。
院生君は大丈夫かのう。』
日本酒をちびちび飲みながら、教授は屯島君に話しかけました。
『えっ?
大丈夫じゃないですか?
この肉うまいうまい!ガツガツガツ!』
『ふう..とんだ豚野郎じゃな...こいつは...
どんだけ肥えるつもりじゃ...
しかし心配じゃのう...
8.6秒バズーカもクマムシも出たことじゃ。
かぶらなければいいんじゃが。』
『次の方の出番です!!』
教授がお猪口に残った日本酒をグッと飲み干した時、司会の声が場内に響きました。
『とうとうじゃな...』
『ガツガツガツガツ!うまいうまい!!』
『ちっ...呑気な豚め...』
照明が消え、ゆっくりと幕が開きました。
『院生君、がんばるんじゃ!!
まったくウケなくとも、わしだけは笑ってやる!わしだけはな...
さあ!大いにすべるんじゃ!!すべるがいい!!』
スポットライトがステージの上にいる人物を照らしました。
そこには上半身裸でライオンの被り物をしている院生君が仁王立ちしています。
『あ、あれは...ライオン...
大西ライオンか!!
確かにかぶることはなかったがのう...
ライオンをかぶりやがったか。
しかしな...やっちまったな...院生君...
すべるにも程がある...
大すべりじゃ...いや、超激すべりじゃ...
心配が的中してしまった...ははは...
心配していた通りじゃった...ははは...』
教授は溢れてくる涙をハンカチでぬぐいながら、精一杯の笑いを院生君に向けました。
この笑いが会場全体に広がれとばかりに...
『しーんぱーい ないさー!!!』
教授の心配をよそに、院生君のやけっぱちの声が聞こえてきました。
静まり返る会場。
ここでやっと、自分でも大すべりしていることが実感できたのでしょう。
彼の両目から、涙が流れてきました。
心なしか体も震えております。
そして次のセリフを言おうとしたその時でした。
『おえーーーー!!』
飲みすぎた院生君の口から黄金色の液体が噴出しました。
スポットライトを浴びた院生君の口から溢れる大量のハイボール。
ハイボールは眩い光によってキラキラと輝き、院生君の硬直した身体と苦しげな表情も相まって、とても美しい芸術作品となりました。
『うわー!!!
すごいよ!こんなの見たことない!
大西ライオンが、大西ライオンが、マーライオンに!!!』
『すげー!!
マーライオンだぜ!!!』
『院生君...よくやった!よくやったぞ!!!』
スタンディングオベーションに包まれて、院生君は救急車で病院に運ばれていきました。
診断名:急性アルコール中毒
原 因:短時間での高濃度アルコール大量摂取。上半身裸での急激な体温変化と極度の緊張
治療法:安静にして水分を取ること。
お医者さんから一言
もういい年なんだから気を付けなさいね。
マーライオン(Merlion)
シンガポールにある上半身がライオン、下半身は魚の像である。材質は全身コンクリート製で波を象った台の上に乗り、口からは水を吐いている。(Wikipedia より)
ちなみに口から吐いているのは上記のように「水」であって、決してハイボールではない。




