教授と院生とクリスマス ~その3~
白髪と真っ白な髭をたくわえた3人のご老人。
ヨボヨボと教室の中に入ってまいりました。
お線香の匂いもしますが、これは田舎のおじいちゃんの家に行った時の香りでしょうね。
『待たせたな!』
森源三郎が、入れ歯を入れなおしてポーズを決めました。
サンタクロースの恰好をしているのでしょうが、3人の纏った真っ赤な衣装は、ただの赤いチャンチャンコのように見えてしまいます。
リーダーの源三郎が、大見得を切りながらしゃべり始めました。
『わしの名は何を隠そう...』
源三郎の入れ歯が、トルネードしながら美しく飛んでいきました。
『オリエンタル・ブロー!!』
『待ってたぞ!!
なあ!院生君!!美樹くん!!
そしてそこの白豚野郎くん!!』
『...ええ...
待ってはいましたが...
源三郎さんの入れ歯は治してもらった方が良いのでは...
こんなところに来ている暇があったら...』
『院生さん!失礼よ!
そしてもっと明るく!
おじいちゃんたちがかわいそうでしょ!
ほらうずくまっている白豚野郎はブヒブヒ鳴きなさいってば!!早くってば!!』
『ひどい...ブヒーんブヒーん!!』
『フガフガ...とりあえずわしは森源三郎じゃ。
それでは始めようではないか。』
入れ歯をまたまた入れ直した源三郎さんはそう言いながら、ごそごそと風呂敷をほどき始めました。
『皆のもの!これを見るがいい!!』
源三郎さんが言った瞬間、パッと教室の電気が消えました。
『うわ!真っ暗だ!
どうしたんだろう?怖いよ!!』
ざわざわする理工学部教室。
教授が落ち着いた声で話します。
『院生君。あわてんでも良い。
これが彼らの持ち芸じゃ。
もうすぐ何を彼が取りだしたかわかるぞ。』
どんどこどんどこ...ピーひゃらひゃら...
太鼓と笛の音が聞こえてきました。
お世辞にも上手ではありません。
そしてぼんやりと青白い明りが灯り、源三郎さんの顔がボーっと浮かび上がってまいりました。
その姿、あたかも柳に漂う心霊の如く。
『こ、怖い!!怖いよ!!』
『泣かないで院生さん。おじいちゃんたち頑張ってるんだから!
ほら、豚は鳴きなさいってば!!』
『ブヒーん!!ブヒーん!!』
ぼんやりとした明りは、ゆっくりと源三郎さんの高々く挙げた右手を照らしました。
『うわー!!教授!!あれは一体!?』
『な、なんなんじゃ!?』
彼の上げた右手の中には、なにやらスーパーでよく使われているプラスチック製のパックが3つありました。
そしてその中には赤みの肉が入っております。
『ふっふっふっ...
どうじゃ!驚いたか!
世間ではサンタクロース、サンタクロースとほざいておるが、これにはかなわんじゃろう!!』
『で、一体なんなんですか!?ブヒーん!!』
『聞いて驚くな!!
これはロースじゃ!!3パックのロースじゃ!!
サンタクロースじゃないぞ!サンパック・ロースじゃ!!』
しーーん...
静まり返る教室。
源三郎さんはウケたとでも思っているのか、得意げな顔で胸を張っております。
『よし!出だしは好調じゃ!!みな、わしに続くんじゃ!!』
『へい!!
次はわしじゃ!!
神田 九郎、行きますぞ!!』
威勢の良い声が聞こえると、先ほどと同じように電気が消えました。
どんどこどんどこ...ピーひゃらひゃら...
再び下手くそな太鼓と笛の音。
『どうじゃ!!』
突然今度は、情熱的な赤いライトが教室内を煌々と照らしました。
『うわー!眩しい!!』
教室のみんなが両手で目を覆いました。
どんどこどんどこ...ピーひゃらひゃら...
どんどこどんどこ...ピーひゃらひゃら...
そんな彼らを嘲笑うかのように、太鼓と笛が鳴り響きます。
院生君が恐る恐る、瞳を開けました。
するとどうでしょう。
目の前にはズロース1丁で踊る変態がいるではないですか!
『うわー!!
変態!変態がいる!!
この寒いのにズロース1丁で踊る変態が!!』
『ふっふっふっ...
どうじゃ!驚いたか!
世間ではサンタクロース、サンタクロースとほざいておるが、これにはかなわんじゃろう!!』
『一体なんなんですか!?ブヒーん!!』
『聞いて驚くな!!
これはサンバを踊るズロース!!サンバ・ズロースじゃ!!
サンタクロースじゃないぞ!サンバズロースじゃ!!』
しーーん...
再び静まり返る教室。
神田九郎さんはウケたとでも思っているのか、得意げな顔で踊っております。
『ちなみに神田九郎っす!!
サンタクロースと似ておるが、違うぞ!!はっはっはっは!!!
よし!さらにわしが皆の心をつかんだようじゃ!
次のもの続け!!』
『へい!!
次はわしじゃ!!
戸中 勇 行きますぞ!!』
またまた先ほどと同じように電気が消えました。
どんどこどんどこ...ピーひゃらひゃら...
いつもの下手くそな太鼓と笛の音。
『...またかよ...』
教室のあちこちからため息が聞こえてきます。
今度は妖しいピンクの明かりが灯りました。
『今度は何なんですかね?
もう帰ってもらいたいですね。』
『院生さん。そんなこと言わないで。
これが終わったら帰るでしょう。』
『美樹君の通りじゃ。
居たたまれなくて帰るしかないじゃろう...
これではのう...かわいそうに...』
どんどこどんどこ...ピーひゃらひゃら...
どんどこどんどこ...ピーひゃらひゃら...
どんどこどんどこ...ピーひゃらひゃら...
どんどこどんどこ...ピーひゃらひゃら...
下手くそさに輪をかけて、さらには今まで以上に激しい太鼓と笛の音。
照明が明るくなり、教室を妖艶な桃色に染めました。
『うわー!!
今度こそ変質者だ!!』
光の中には、金箔に塗りたくられたズロース1丁のジーさんが縛られておりました。
『ふっふっふっ...
どうじゃ!驚いたか!
世間ではサンタクロース、サンタクロースとほざいておるが、これにはかなわんじゃろう!!』
『今度は一体なんなんですか!?ブヒーん!!』
『聞いて驚くな!!
これは緊縛された金箔の老師!!キンパク・ロウシ、あるいはキンバク・ロウシじゃ!!
さらにこの緊縛用のロープは納豆菌を付着させてあるから粘着性が強いぞ!
粘着ロープ、ネンチャク・ロープじゃ!!!
サンタクロースじゃないぞ!
はっはっはっは!!
ちなみにわしの名は、トナカ・イサム!
トナカイ・寒!とよく言われていじめられたもんじゃ...』
3人は出演料をいただいて、さっさと帰っていきました。
来年はもう呼ばないそうです。
彼らは日本のどこかで、出演依頼を待っているとのことです。
クリスマスになってこの3人を見かけたら、どうか暖かい目で見守ってくださいね。
よろしくお願いいたします。




