第三十二話 外国旅行に行きたいな
奇妙な広間だった。藁を編んだ「畳」という床の上に、髪を結った複数名の中高年男性が座っている。その男達は、それぞれ「裃」と呼ばれる東方の民族衣装をまとっていた。
ここは異国。アゲパン大陸の東端に在る島国。その名も「ジポング」という。
現況は「ジポングの支配者」の居城だ。その中に有る大広間、他国で言うところの「謁見の間」であった。
一見、「変わった謁見の間」である。しかしながら、構造や機能は他国のそれと同じだ。
広間の最奥は「厚畳」と呼ばれる一段高い場所になっている。そのど真ん中に、歳の頃四十後半、或いは五十か? よほど苦労しているのか、年齢を特定し難い老け方をした男性が胡坐を掻いて座っていた。
その男――よく見ると、ちょっとイケメン。「若い頃はさぞやオモテになられた」とは、想像に易い。
しかし、実は一途な愛妻家。奥さん以外の女性に指一本触れていない。
その「貞操観念の権化」というべき男の名は「徳下良月」という。
良月はジポングの武士を束ねる総大将であり、それ故にジポングを支配する「王」だ。ジポングでは、王のことを「将軍」という。良月は二十二代目の将軍だ。
その良月の前に、奇妙な二人組が平伏していた。
良月と同年代の男性と、十代前半と思しき少女。
それぞれ、ジポング的に「異国の衣装」をまとっている。しかし、奇妙なのは意匠だけではなかった。
男女の頭には「角」が生えていた。それも、「大人の手」と形容するほどデカいやつが。そのデカさは――そう、「王侯貴族級」なのだ。一目瞭然なのだ。
ところが、当人達は全力で身分を偽っていた。
「我々は、ティン国王ムケイ陛下から遣わされた使者に御座います」
五十代男性が自己紹介した際、良月を含めた武士達が一斉に首を傾げた。
それ、絶対嘘だよね?
皆、男女の頭に生えた角――「ティン(或いはティンティン)を見ていた。実際、「それ」が一番分かり易い。しかし、例えティンが無かったとしても「普通の使者」とは思わなかっただろう。
ティン族の使者(自称)達の体から、抑えきれないほどの威厳が漂っている。それも、自分達の王(将軍)をも凌ぐほど。
このような偉人が、只の使者のはずが無い。
誰もが「これ、ほんとマジヤバいやつ」と直感していた。そして、「それ」は正鵠ど真ん中を深々と突き刺していた。
中年男性の正体は、ティン王国第二十二代国王ムケイ・ティン。
少女――に、見える女性は、ムケイの妻、王妃マルコ・ティン。
只者どころか、一国の王と王妃。そのような偉人が、「使者」と偽って、他国の王の間で平伏している。何で? ジポングの為政者でなくとも首を傾げたくなる。
斯様な状況に至った理由を、諸々を省いて簡潔に表現すると「ムケイの我が儘」になる。どんな我儘なのかは以下の通り。
そもそもの、そもそも。アキネイ帝国との一件(第十九話)が有って以降、ティン王国の外交は「盛況の極み」に有った。その中心に、デッカとリザベルがいた。
デッカ達は周辺国の為政者達に大人気だった。その為、「兎に角うちに来て」と、引っ張りだこになっていた。それを、ムケイは羨ましく思っていた。
「余も、外国旅行に行きたいな」
前々から企んでいた。そこに、ジポングの将軍(良月)から親書が届いた。
〈拝啓、ティン王国国王ムケイ陛下――(中略)――機会が有ったら、うちにも来てね。敬具〉
親書を見た瞬間、ムケイの腹は決まった。
元々ムケイは「ジポング現代劇の厄介ファン」だ。良月の言葉が「社交辞令」であったとしても、目の前に垂れて来た「蜘蛛の糸」を掴むことに躊躇いは無い。実際、躊躇わなかった。
「余、一寸ジポングに行ってくる」
ムケイは近習達を集めて宣言した。これに対して、侍従長ケイン・モータルを始めとした近習達の顔面は蒼白、それぞれのティンが縮み掛けた。
「「「「「一寸待たれよおおおおおおおおお」」」」」
王の決断に、ケイン達は全力で反対した。阻止しようと奮闘した。ところが、できなかった。このとき、ムケイには「強力な援軍」がいた。
「では、私も同行しましょう」
声を上げたのは、王妃マルコだった。
「外国は初めて。何か新婚旅行みたいですね」
マルコはキャッキャうふふと全力で浮かれた。その様子を見て、ムケイは、
「なるほど、一理有る」
大きく頷いた。しかし、ケイン達は全力で首を振った。
「「「「「一理もございませぬ。無理しかございませぬ」」」」」
ケイン達は、命を賭して王と王妃を引き留めるつもりだった。その決意と行為を、惑星マサクーンの神が全力で台無し、或いは阻止した。
ケイン達が首を振りまくりながらエグザイル(並んでグルグル回るやつ)しているところに、彼らにとって「最悪の災厄」が現れた。
その災厄には、ティン(或いはティンティン)が生えていた。それも「規格外」と言えるホトデカいやつが。
デッカとリザベルである。デデン。
この悪名天元突破の悪魔達が、ムケイから事の次第を聞いてしまった。その直後、悪魔達が災厄を吐き出した。
「面白そうですね」
「二度目の新婚(どちらかと言えば銀婚)旅行。憧れますわあ」
デッカとリザベルが乗った以上、誰もどうすることもできない。この二人に敵ったり、抗えたりする者は、ティン族の中にはいない。
そう、ティン、デカき故に(この設定、時々忘れそうになる)。
かくして、ムケイとマルコの「正体を隠してジポング訪問」が決まってしまった。この現場に居合わせたケイン達近習は――まあ、うん。ご愁傷様? きっと、その内何か良いこと有るよ。多分。
ジポングの将軍、徳下良月は見抜いていた。ムケイとマルコの正体を。その上で、二人に意外な提案をする。
次回、「第三十三話 今、城下で褌祭が催されているのですが」
褌祭。それは、地球(日本)を起源とする「銀河系三大祭り」の一つ。




