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ティン王国のデッカとリザベル The Happy Lovers  作者: 霜月立冬


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第二十九話 オツパインも見たいです

 デッカとリザベルは、現在「国賓」として、オニクランド共和国の特産品「オツパイン」の群生地を視察していた。

 二人にとっては異国の地。二人の身を守る手段は、ティン王国内とは比較にならないほど少ない。


 だからこそ、「護衛役」は頑張らなければならなかった。


 デッカ専属護衛役、ブラリオ・ツィンコは、その全身に緊張感御漲らせながら、デッカの一挙手一投足に意識を集中していた。その視界には、デッカの隣にいる「イケメン豚面大男」の姿も入っていた。


 イケメン豚面大男、オニクランド共和国大統領サイゼル・ポーク。


 サイゼルは「デッカ達の案内役」として、オニクランドに付いて、あれやこれやと説明している。

 今も、デッカの求めに応じるまま、オニクランドの独産品「オツパイン」に関する情報を提供し続けていた。その会話の内容は、ブラリオの聴覚にシッカリ捉えられている。


「オツパインは、私も大好物でして。冬の間は食後のデザートの定番にしているのです」

「そんなに美味しいのですか?」

「はい。それだけでなく、見た目も素晴らしいのです」

「見た目――ですか?」


 ブラリオの視界の中で、白い防寒服の貴公子デッカがオツパイン樅を見上げた。その様子は、デッカの隣にいるサイゼルの視界にも映っていた。


「樅木の下からでは分かり難いでしょう。宜しければ――」


 サイゼルは、牙が突き出た口に微笑みを浮かべた。その僅かに吊り上がった口の端から、表情に見合った優しげな声が漏れ出た。


「オツパインもご覧になりますか?」

「はい。オツパインも見たいです」


 サイゼルの提案に、デッカは即応で食い付いた。

 ここまでの会話に対して、ブラリオは全く違和感を覚えなかった。

 ところが、デッカが「オツパインも見たいです」といった直後、異変が起こった。その様子は、リザベル専属護衛役、シア・ナイスの視界にも映っていた。


 シア・ナイスは、極度の緊張状態にあった。心の中では戦闘態勢に入っていた。

 そもそも、辺境伯量の騎士(騎士団副団長)である彼女にとって、外国とは即ち「敵国」なのだ。脳内で「相手は同盟国」と分かっていても、心は容易に受け入れ難い。


 いっそ、斬り捨ててしまおうかしら?


 シアの心中では、戦闘狂の悪魔が「斬っちゃえ。斬っちゃえば楽になれるよ」と、散々シアをけしかけていた。

 そんな折、シアの視界の中で護衛対象に異変が起こった。


 シアの護衛対象、リザベル・ティムル辺境伯令嬢。彼女は右隣を歩く巨漢の女性、バミアンナ・ポーク大統領夫人と楽しげに会話していた。

 ところが、デッカが「オツパインも見たいです」と告げた直後、唐突にリザベルの体が硬直した。


 リザベル様っ!?


 シアは「リザベルに何か不具合、変事が起こった」と直感した。その瞬間、とてつもなく「嫌な予感」がした。

 シアの予感は「異次元の彼方に有る的」の正鵠ど真ん中を射ていた。それは、リザベルが再起動したところで具現化した。


 リザベルの急停止。彼女が立ち止まったことで、手を繋いでいたデッカも立ち止まった。

 二人が立ち止まったことで、彼らを挟んで歩いていたポーク夫妻も立ち止まった。

 四人の様子は、護衛役達の視界に映っていた。

 ブラリオ、シア、オニクランドの護衛隊に緊張が奔った。それぞれの喉が「ごくり」と鳴った。


 一体、何が起こっているのか?


 衆目が集まる中、リザベルの顔がユックリ真横、デッカの方を向いた。しかし、彼女の視線の先に有ったものはデッカではなかった。


 リザベルは、デッカではなく、彼の左隣にいる「巨漢の男性」を見ていた。より正確に言えば、「サイゼルの胸部」を見ていた。


 デカい――ですわ。


 デカい。そう、サイゼルの胸は豊満だった。

 そもそも、オニク族の基本体形は「太っちょ」だ。当然、胸もふくよかになる。しかも、サイゼルは胸襟を鍛えている。胸は一層豊満に膨れ上がっていた。

 サイゼルの巨大マウンテンを直感した瞬間、リザベルの脳内に謎のアナウンス(幻聴)が入った。


「新番組、横綱級オッパイ、チチデカイザー(略称『チチデ』)」


 チチデカイザー。そのタイトルを聞いた瞬間、リザベルの額に汗が滲んだ。汗が噴き出るほど、彼女の心中に危機感が募った。


 拙いですわっ!?


 しかし、リザベルにとっての脅威は一人ではなかった。チチデカイザーには「前作以上」と呼び名の高い「後番組」が控えていた。


 まさか――「バミアンナ」様っ!?


 リザベルは超高速で首を「反対側」に捻った。すると、彼女の視界に「巨漢の淑女」が映った。

 リザベルの視線は「バミアンナの胸部」に集中した。その瞬間、リザベルの脳内で後番組のアナウンスが入った。


「新番組、超横綱級オッパイ、グレートボインダー(略称『グレボ』)」


 バミアンナの胸部は、オニク族の中でも「超ド級」といえるほど豊満だった。


 因みに、超ド級の「ド」とは、アゲパン大陸文学史に刻まれた冒険活劇の金字塔、「アルセル三世」に登場する作中随一の巨乳ヒロイン、「ミネルバ・ド・ファジコ」のことである。


 ミネルバは、惑星マサクーンにおいては「巨乳の代名詞」と言える。リザベルの胸部も、彼女には及ばない。

 しかし、リザベルも(負けてはいるが)負けてはいなかった。「早熟過ぎてごめんあそばせ」と言えるほど豊満だった。

 しかし、だがしかし、リザベルにしても、ミネルバにしても、飽くまでティン族内、或いは同じ体格の種族内での話なのだ。


 オニク族は「平均値が巨乳」なのだ。リザベルの胸部装甲の厚みは、バミアンナは元より、サイゼルにも及ばない。その事実が、リザベルに強い危機感を覚えさせていた。


 この方々のオッパイをデッカ様に――なんて、そうはいきませんっ、させませんわっ!


 リザベルの「斜め上方向の決意」が、彼女の体を全力で衝き動かした。


「デッカ様」

「ん?」

「ちょっと、こちらへ」


 リザベルは、デッカと繋いだ手をグイと引っ張った。その力は存外に強力だった。相手に有無を言わさないほどのティン(ポウ)が込められていた。


「え? ちょっと、リザ?」


 デッカ、痛恨の不意打ち判定。残念ながら抵抗失敗。

 デッカはリザベルに引き摺られた。そのまま少し離れた場所にある大きなノッポの樅木の影に連れ込まれてしまった。


 大きなノッポの樅木。リザベルとしては、衆目から二人の姿を隠したつもりだった。しかし、甘かった。甘過ぎた。


 二人は、その護衛役に思い切り追跡されていた。オニクランドの護衛隊にも追跡されていた。その後ろにはポーク夫妻も続いていた。

 皆がコッソリ影から見守る中、リザベルは「奇行」に奔った。

 リザベルは、巨大な樅木を背にしながら、正面に立つデッカに向かって声を上げた。


「デッカ様」


 リザベルは「胸」を張った。その行為によって、彼女の胸がより一層強調された。それは、デッカの視界に思い切り映っていた。


「えっ? 何――かな?」


 デッカの首が傾いだ。頭上には「?」が浮かんでいた。訳が分からなかった。しかし、リザベルからの説明は無かった。その代わり、更に訳の分からない奇行を披露された。


 リザベルは、デッカと繋いでいた手を自らの胸部の前に掲げた。その上で、デッカに向かって「不思議な呪文」を唱えた。


「どうぞ、『お揉み』下さいませ」

「えっ?」


 デッカの口から間抜けな声が漏れた。


 えっと、「揉め」って――何を?


 リザベルが唱えた「呪文」は、デッカを一層混乱させた。彼の首は一層傾いだ。二人を見守る護衛者達も、同じように首を傾げていた。


 誰も「リザベルの言動の意味」を理解していなかった。できなかった。分かっていたのはリザベル本人唯一人。

 このとき、リザベルの脳内には「少し前に聞いたデッカの言葉」がグルグル渦巻いていた。その言葉とは――


「オツパインも見たいです」


 一字一句違わず正確に書けば、こうなる。しかし、リザベルの脳内では「別の意味の言葉」に変換されていた。


「オッパイ揉みたいです」


 まあ、うん。現況(元凶)は「リザベルの早とちり」としか言いようがない。しかし、敢えて彼女を擁護するとする者(地球人)がいたとすれば、彼はきっと、こんな校内放送をしただろう。


「オツパインの名前を考えた生徒、後で職員室に来なさい」


 いや、うん。名前は大事だね。

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