第二十八話 全てオツパインなのですか?
アゲパン大陸の中央部に「オニクランド共和国」という国が在る。
君主制の国が多い惑星マサクーンに於いて、「珍しい」と言える国民主権の国だ。地球の歴史を鑑みれば「将来有望」と言える。その主要民族は、やはり普通の人類種――ではなく、「オニク族」という亜人種だ。
オニク族。その外観は豚面で大柄、太っちょだ。地球で言うところの「オーク」に近いだろう。その戦闘能力も、オークに勝るとも劣らない。
実際、オニクランドの軍隊は他国が一目置くほど精強だ。新しい戦法を練ったり、武器を開発したりしている。いつでも、どことでも戦争をする準備は整っていた。
しかし、実際にオニクランドから喧嘩を吹っ掛けたことは、建国以来一度も無かった。彼の国には、それを躊躇う「地政学的理由」が有った。
オニクランドは「大陸中央」に位置している。「全方位他国に囲まれている」のだ。
何れかの国と揉めれば、それ以外の国が「これ幸い」と攻め入ってくることは、予想に易いだろう。
戦争する訳にはいかなかい。他国に戦争の口実を与える訳にはいかない。
オニクランドでは「富国強兵」と「他国との友好」は絶対的な国是なのだ。文字通り「国の支柱」だ。どちらかが折れれば国はアッサリ傾く。だからこそ、国民に選ばれし為政者達は、何を措いても「支柱の維持」に腐心する。その為に有効な手段が有れば、迷わず飛び付く。「何か凄い強化してくれるカップルがいるぞ」と聞けば、試してみたくもなる。
「では、呼びますか?」
「「「「「そうですね」」」」」
オニクランドの評議会で「デッカとリザベルを国賓として招待する」という議案が賛成多数で可決された。
かくして、デッカ達は二名のお供を従えて国境を渡ることとなった。勿論、それを実現する為のオニクランド側の努力も抜かりなし。
ティン王国との軍事同盟の締結。
デッカ達が外遊中、オニクランド大統領(国家元首)の子ども達(兄妹)が(人質として)ティン王国首都オーティンに滞在する。
今回の件に対する賂、無表情で有名なアリアナ・ティルト侯爵令嬢がにんまり微笑むほどの大量の「黄金色の菓子」——等々。
ティン王国の為政者達が揃って「うむむ」と唸り声をあげるほどの旨味が、湯水のように提供された。それ等を目の当たりにして、ティン王国側でも「オニクランドと仲良くしよう」とか、「もっとオニクランドを知りたいな」という声が上がった。その声に、ティン王国国王ムケイ・ティンは全力で応えた。
「デッカよ。オニクランドと仲良くして、あっちと良い感じに貿易できる体制を築くのじゃ」
デッカ達は「親善大使兼、貿易交渉人」に任命された。
オニクランドの首都「ブヒテキ」に入った日の翌日、デッカ達は早速「オニクランドで有名な特産品」の視察に赴いていた。
オニクランド随一の特産品、その名を「オツパイン」という。その果物は特定の場所で作られていた。
デッカ達は、オツパインの生産地であるオニクランド中央部の山岳地帯、通称「オツパイン樅帯」へとやってきた。
オツパイン樅帯は、オニクランドを東西に分ける大山脈である。その頂上部分はオツパインを生やす「樅木」の群生地だ。
樅木。クリスマスツリーのあれである。その枝ぶりは末広がり。その為、「実が生っている」と言われても、下からでは確認し難い。その上、オツパインの最盛期は「冬」だった。夏期中にオツパインの実を探し出すことは至難の技だろう。
だからと言って、国賓に冬期中の登山をしいることは躊躇われた。少なくとも、オニクランドの為政者達は「それは止めておこうね」という判断を下していた。
尤も、ティン力に長けたデッカ達には無用の気遣いだろう。例え水着で登山に挑んだとしても、奴らは平気な顔で完遂するだろう。だからと言って、本気で水着登山をする訳にはいかない。
デッカも、リザベルも、二人のお供も、TPOを弁えて、それぞれ防寒具を身にまとっていた。
デッカの衣装は「白」を基調としたファー付きの革帽子と革コート。
リザベルの衣装も同じ。デッカとお揃い、ペアルック。「最大の特異点」も殆ど同じ。
それぞれの帽子には穴が開いていて、そこから「人の腕」と錯覚するほどデカいティン(ティンティン)が突き出している。
デッカ達のお供、「長身痩躯の男性」と「背格好がリザベルと似ている女性」もまた、それぞれ白を基調とした衣装をまとっていた。
長針曹宇区の男性、ブラリオ・ツィンコの衣装は王国近衛騎士の礼服(冬用)だ。
リザベルと体系が似ている女性、「シア・ナイス」は、ブラリオとは趣の違う騎士の礼服(冬用)だ。リザベルとは、ティンの長さ(大人の親指大)と髪型(短髪)も違うので、二人の区別は容易である。
ブラリオは、デッカの幼馴染にして、ティン王国近衛騎士団の団員、凄腕の騎士である。今は「デッカ専属護衛」として、デッカの外遊に随伴していた。
シア・ナイスは、アズル・ティムル辺境伯の私兵、通称「ティムル騎士団」の副団長を務めている。今は「リザベル専属護衛」として、リザベルの外遊に随伴していた。
我が命を賭して、主君を守る。
ブラリオも、シアも、その体から「ピリピリ」と擬音が見えるほど緊張、警戒していた。二人の意識と視線は、それぞれの護衛対象、及び二人を挟んで歩く「オニク族の男女」に集中していた。
オニク族の男女。それぞれ、大柄な体にお揃いの黒いファー付き革コートをまとっている。
因みに、「黒」はオニクランドのナショナルカラーだ。
男女の年齢は、それぞれ五十代半ば。その容姿は、オニク族の基準では「美形」と断言できる。彼らは、それぞれの美顔を披露する為に、髪形にも気を遣っていた。
男性は、髪を短く刈り込んでいた。
女性は、編み込んだ長髪を頭上でまとめていた。
それぞれの容姿が目に入ったならば、オニク族の男女の胸は「トゥンク」とトキメいた。その事実を鑑みると、「選挙に出れば圧勝間違い無し」と想像する。実際、圧勝した。
オニク族の男性は、オニクランドの国家元首「サイゼル・ポーク」大統領、その人だ。
オニク族の女性は、サイゼルの妻、ファーストレディ「バミアンナ・ポーク」だ。
二人とも、デッカ達が滞在期間中の「案内役」を担っている。今も、デッカ達を楽しませようと、それぞれの隣に並んで、それぞれが関心の有りそうな話題を提供していた。
因みに、デッカとリザベルは手を繋いで(デッカ右手、リザベル左手)いる。その為、サイゼルはデッカの左側、バミアンナはリザベルの右側に付いていた。
四人の様子を遠目で見れば「親の間に子どもが挟まれている」と錯覚するだろう。それぞれの会話の内容も、親子のそれに近かった。
デッカとサイゼルは、「オニクランドの特産品」の話題で盛り上がっていた。
「樅木ばかりですね。もしかして、この一帯は全て『オツパイン』なのですか?」
「はい。山頂に生えている樹木は『オツパイン樅』一種類だけなんです」
「それは凄いですね。この山脈が『オツパイン専用の農場』なのですか」
「そうです。ですので、オツパインは毎年有り余っております」
「なるほど」
サイゼルの言葉を聞いた瞬間、デッカの涼しい目がキラリと光った。それと同時に、デッカの脳内メモ帳に「王国への輸入品としてオツパインお勧め」と太字で記入された。
デッカは真面目だった。楽し気に談笑しながらも、自分の役目を果たそうとしていた。
ところが、「相棒」の方は、全く駄目駄目だった。彼女は「自分の役目よりも大事なこと」に心囚われていて、その話題に花を咲かせていた。
「プロポーズは、バミアンナ様の方からなさったのですか!?」
「ええ。私達は幼馴染でしたので、子どもの頃に私の方から」
「ええっ、子どものときに御結婚を!?」
「いえいえ、婚約です。まあ、子ども同士の口約束ですけれども」
「まあっ、私もデッカ様と婚約しております」
「ええ。私達似た者同士ですね」
「はいっ、でございますわ」
リザベルは「サイゼルとバミアンナの馴れ初め」に執心していた。その為、デッカ達の話の内容をろくすっぽ聞いていなかった。その油断と怠慢が「皆を困惑させる珍事の引き金」になるとも知らずに。
オツパイン。それが生る樅木。その樅木が群生する場所、オツパイン樅帯。これらの名称を聞けば、何となく「オチ」の予想が付くのかもしれない。
しかし、待たれよ。そうはならない可能性も有るのではないか?
果たして、そうなってしまうのか? そうならないのか? リザベルの「やらかし」とは何なのか?
次回、「第二十九話 オツパインも見たいです」
デッカの言葉に、リザベルが全力で食い付く。




