表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ティン王国のデッカとリザベル The Happy Lovers  作者: 霜月立冬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/35

第二十六話 葉の裏に虫が付いていたのか

 決闘。額面通りに受け取れば「命を懸けた殺し合い」になる。しかし、ティン王国では飽くまで揉め事の決着方法の一つ。運悪く落命する場合も否定できないが、そうならない工夫が施されていた。


 ティン弧剣士の場合、双方「刃の潰れたもの」を使用する。地球(日本)の時代劇でいうところの「峰打ちセーフ」である。


 尤も、命は賭けずとも「名誉」は掛かっている。敗者には、それなりの代償が有った。


「勝者の言うことを『何でも』一つ聞く」


 何でも。仮に命を要求されたならば、それを差し出さねばならない。拒否したならば、名誉が大きく損なわれる。その事実に対して「命を奪われた方がマシ」と断言する者は、貴族達の中には存外に多い。


 ブラリオ・ツィンコは貴族だった。しかも、近衛騎士で、流派の直系だ。その出自の宿業からは、生涯逃れることはできないだろう。

 絶対に拒否はできない。その事実は、オッタマン・ゲイツも熟知している。その上で、彼は非情な条件を告げた。


「俺が勝ったら、『デッカ殿下の護衛の役目』を代わって貰うぞ」


 デッカの護衛。ブラリオにとって、デッカは「竹馬の友」といえる存在だ。その役目を仰せつかった際、「身命を賭して完遂する」と誓約した。ブラリオの脳内には、「他の者に譲る」という選択肢など微塵も無かった。


 絶対に、譲れない。だけど、決闘を回避することはできない。


「承知」


 ブラリオは、オッタマンの条件を受け入れる他無かった。彼には「オッタマンと戦って勝つ」以外の選択肢は無かった。

 その日から、ブラリオは有休をとって「森」に籠った。


 王都後背に広がる針葉樹林帯、通称「モリッコロの森」。群生する白と赤い樹木の間を、痩身の人影が駆け回っている。それも、早朝から夕方まで、休むこと無く延々。


 ブラリオは、ご飯を食う暇を惜しんで修行を続けていた。しかし、その甲斐は残念ながら無い。彼には「勝ち筋」が見えていなかった。


 闇雲に動いても、無駄に疲れるだけだな。


 修行開始から三日目。ブラリオは、現況に対する「徒労」の可能性を覚え始めていた。だからと言って、軽々に休めなかった。


 ブラリオが動きを止めた瞬間、彼の脳内に「オッタマンの戦う姿」が閃いた。すると、ブラリオの心臓が「肋骨を折る」と錯覚するほど跳ね回った。


 ゲイツ先輩の「ゲイツ流」――恐るべし。


 ゲイツ流。オッタマンの曾祖父、「ジンジロウ・ゲイツ」を開祖とするティン弧剣流派の一つ。ティン王国の剣士達からは「唯一ツィンコ流と比肩する」と言われるほどの支持を得ている。


 ツィンコ流とゲイツ流。どちらも「最強」の呼び声が高い。どちらも門下生が多い。近衛騎士団に所属する騎士達などは、必ず何れかの流派に所属している。流派同士の仲も、それなりに良好。


 しかしながら、それぞれの剣理は「真逆」だった。


 ツィンコ流は、「浮遊剣」を活用する技巧派変則二刀流。対してゲイツ流は、ティン力を己が全身に全振りした「超脳筋一刀流」だ。


 流派開祖ジンジロウは、特に「反射神経」と「空間認識能力」に優れていた。


 例え後ろから不意打ちを食らっても、ジンジロウは完璧に対応した。その妙技は、当代の王「ナガイ・ティン」に「ジンジロウには後ろにも目が有る」と言わしめている。その白い悪魔的才能は、オッタマンに受け継がれていた。


 オッタマンは強い。絶対に強い。その類稀な才能を駆使して、王国最強剣士ウィンナス・ツィンコの「三刀流」を破っている。その事実を鑑みると、ブラリオの「二刀流」が通用する可能性は「低い」と言わざるを得ない。

 現状のまま戦えば、ブラリオの敗北は必至。だからと言って、ブラリオにはウィンナスのような「異次元のマルチタスク能力:」は無い。たとえ三刀流に着けたとしても、ウィンナスより使い熟せる道理は無い。


 二刀流で挑むしかない。けど、それでは対応されてしまう。


 現状のままではブラリオの勝ち筋は無かった。しかし、考えたところで何も閃かない。心臓が跳ね上がって、全身に嫌な汗が滴るだけだ。


 本当に、どうすれば良いんだろう?


 ブラリオは窮していた。絶望する余り、彼の目から涙が溢れていた。その様子を見て、哀れむ者はこの場にはいなかった。

 しかし、例え人は見ていなくとも、応えてくれる存在が、この世界には有った。


 ブラリオがメソメソ泣いていると、強い風が「ビュウ」と音を上げて吹いた。それに伴って、森の木々が騒めいた。その枝から、沢山の葉が剝がれた。

 殆どの葉は、軽やかに風に乗って、可憐な舞を披露していた。しかし、一枚だけ奇妙胡な動きをするものが有った。

 その葉は風に乗らず、地面に向かって急降下した。その様子は、ブラリオの滲んだ視界に映っていた。


 あれ? 何で「あの葉っぱ」だけ?


 ブラリオは首を捻りながら、地面に落ちた葉を拾い上げた。

 一見、普通の葉だった。本当に、何の変哲も無かった。しかし、先の怪現象には何の不思議も無かった。歴とした物理的な理由が有った。「それ」は、ブラリオが「葉の裏」を見た瞬間、アッサリ判明した。


「葉の裏に虫が付いていたのか」


 虫の分だけ加重されていた。ただそれだけのこと。ブラリオは「何だ、そんなことか」と拍子抜けした。その行為を以て、葉の急降下現象の謎は完結した。しかし、事は「それ」だけでは済まなかった。


 もしかして、「これ」――使えるのでは?


 ブラリオの脳内に、「勝ち筋」と言う名の天啓が下りていた。




 終に決戦の時来たれり。果たして、ブラリオはオッタマンに勝つことができるのか? それとも、下馬評通りの結末を迎えるか? ブラリオが得た天啓がオッタマンに炸裂する。


 次回、「第二十七話 葉裏剣(はりけん)――です」


 この名称を閃いたのは、実はネタを考えた後のこと。これが「天啓」というものか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ