#102 課長ではない
旧美音原中学校舎取り壊しの一報が僕のもとに舞い込んだのは、梅吉と再会を果たしたあの夜から数ヵ月後のある春の日ことだった。
「え!? 旧校舎取り壊し!?」
聞き返すと神妙な顔で美咲が頷く。悪い冗談じゃないことは彼女の電話を持つ手が小さく震えていることからもわかった。
さすがに休みを取って久々にあの土地に帰省をした。ひとりで役所に向かい事実なのかを確認しようと思った。
「反対意見もそらあるんですけどぉ、まあ老朽化も激しいよってぇ実際存続は不可能ちことでしょうなぁ」
教えてくれた禿げ頭の職員に「そうですか」とだけ答え、礼を述べて席を立つ。『仕方ない』と言えばそれまで。だが時間の経過というのはまったく無情で残酷なものだ。
感傷に浸りつつ役所内を見渡す。来たついでに僕はこっそり『ある人物』の姿を探していた。
ある人物──。たぶん彼にはもう『課長』くらいの貫禄があるはずだ。
それらしい姿を見かけて近くの職員に声をかけた。
「すみません、ここに『南部 雅人』さん、お勤めでしょうか」
「えっ……うわあ!」
課長っぽい入社二年目の若造は僕を見るなり幽霊でも見たかのように尻もちをついてその体に似合った野太い声で叫んだ。
「ヒビノ? ……え、ヒビノ? ほんまに」
幻でないのを確かめるようにぺたぺたと腕を触られた。
「本物だよ。はは、どういう意味だ」
苦笑いしつつ答えて、これまでのことや懐かしい話に花が咲いた。梅吉のことを言うと「そーなん!? 社会人楽団で指揮!?」とナンプはなにも知らない様子だった。
「連絡取り合ってないんだ?」
「ああ……そうじゃな。大学ん頃まではたまにしよったけど、働き出してからはかなりご無沙汰やなぁ」
あんなに仲良しコンビだったのに。
「じゃあギャルの奥さんのことも知らない?」
「あ、それはわかる。ひよりさんじゃろ。あの人有名人やもん」
有名人、なのか。
勝手にメディアにでも出演しているような人なのかと想像していたら、ナンプが「そもそも彼女を梅吉に紹介したんは梅吉の妹やしな?」などと言うからわけがわからなくなった。
「え。どういうこと?」
「もともと桃音の親友なんよ。ひよりさんは」
桃音さん、というのは梅吉の妹さんの名前だ。
「東京の人だよね?」
「文通かなんかで知り合ったんちゃったかなぁ」
うそだろ。さすがに令和のギャルと文通なんてない。真相はともかく「ヒビノの顔見たらなんやみんなに会いとうなったわ」とナンプがしみじみ言うから「取り壊し前に集まれないかな」とポツリと言ってみた。すると。
「おお、そんなら企画しようや。校舎取り壊しの話はまだ知らんやつもおるじゃろし、消えよったヒビノも復活した。いろいろまとめて報せるのにはまたとない機会や」
かくして五月の連休、十二年ぶりに集まる僕らの同期会が催されることとなった。
補足:桃音とひよりと梅吉の話は別作品にあります。機会があれば幕間として編集して出すかも。




