エヴドキア・ガロワと言う人
――翌日――
朝食の席で俺を前に、昨晩の残りのカレーを大急ぎで掻っ込み、ご満悦の彼。
「夕食と同じ物と思い、侮っていたザンス! 一晩寝かせた、この香辛料をふんだんに用いた料理のなんと美味な事ザンショ……いかな大国の王族でも口にした事無いであろう この美食! ……奥方様! このエヴドキア・ガロワ……毎度毎度、お手前の冴えに感服仕りまして御座いますザンスよ。いや、それにもまして……今日は、また一段とお美しいザンス。辺境伯が本当に羨ましいザンス♪ あ、お代わりをお願いしたいザンス」
なんの変哲も無い社交辞令でしかない、歯の浮く台詞の数々も――この人物が口にすると、何故だか白々しくは聞こえない。
本当に自分が生きたい様にしか、生きてはこなかった御仁の様に感じられた。
その辺り、困ったことに俺に限って言えば、おやぢと言うサンプルも身近に存在する訳で……多分、間違い無く そうなのだろう。
公のセリフに手を頬に当てて、くねくねとネルは大喜び。
その様子に俺は――ネルに対して久しく、感謝の言葉も、子爵家令嬢のキーラ評によるところの『傾城傾国? ナニそれ?』と言うほどの 彼女の容姿に対する賛辞も、表してやっては いなかった事に気付かされていた。
(人間としてすら……勝てないわ)。
* * *
「……しかし、話には聞いてはいたザンスが、緑龍銀行のデシレア総裁殿とまで御関係がお有りとは……本当に、びっくりザンス」
元気一杯のいつもの二人称を叫んでからの、タックル。義妹を抱っこしたところで、ガロワ公は驚きの声。
しっとりすべすべな ほっぺを、くっつけ――いつもの如く、堂に入った甘え坊っぷりを見せる義妹。
「ご関係どころじゃ無いんだよぉ~? わたしね! おにーちゃんのお嫁さんになるんだから♪ せーさいって奴だよ。せーさい♬」
「それは なんとまぁ、辺境伯殿は果報者ザンスね」




