第三話_解放への進軍
レイドの胸の中でひとしきり泣き腫らし、夜が明けた翌朝の応接間。
「すっかり怯えが消えたじゃないか、エリス」
レイドがまた不敵に笑った。
「余計なことを言わないで」
(私ってそんなに分かりやすいのかしら、公爵令嬢としては気をつけなければならないところだけれど、エリスとしては喜んでもいいのかもしれない)
そんなことを思いながら、私は机の上を見やる。
机の上に置かれているのは、お兄様から回ってきた「情報」の書類。王太子が国王の承認を得ず、独断で「カトリーヌとの婚約内定パーティー」を強行するという、愚行の知らせだった。もちろん前婚約者である私への招待状などは存在するはずもない。
「お前、行く気か?」
ソファでーで我が物顔で朝茶をすすっているレイドが、おもしろそうに目を細める。
「ええ。お兄様から聞きましたが、予算と社会基盤をどうするかという意思表明をする予定ですし、レイド様が……」
「ああ、お楽しみに、だ」
この人は不敵に笑うのが誰より似合う、そんなことを思う。
「ええ、その『誰もいない空っぽの劇場』を、王太子たちに正面から突き付けて差し上げるのが、前婚約者として最後の義務であり、公爵令嬢としての手続きですわ」
招待されていない場に乱入する。公爵令嬢としての醜聞になるかもしれない、
(でも……わたしは、完璧な人形としての評価じゃない、わたしをみて、全て、世界ごと囲ってやると言い切った人がいる。その男がすぐ隣にいる)
「ふん、いい面構えだ。あいつらの目的は一貫している。めんどくさい政治の駆け引きじゃない。お前をただの観客席に座らせて、惨めな敗北者として見下ろすことだ。――それなら」
レイドが立ち上がり、私の前に立って、また不敵に笑ってみせる。
「最高に美しいドレスを着て、その滑稽な劇場を特等席から特大の正論で踏みつぶしに行く、これ以上のことはない。エスコートは俺が保証してやる」
わたしも、不敵に笑ってみせる。本当に不敵に笑えているかはわからなかったけれど。
「……ええ。存分に観て差し上げます。彼らの舞台にこれ以上振り回されないように。永遠に舞台に立ち続けてもらうために」
◇◇
婚約内定パーティー当日。
鏡の前に立つ私は、冷徹な仮面ではなく、自らの意志で「最高級の礼装のドレス」を身にまとう。
馬車の前で待つレイドは目を丸くしていた。
「エリス……?」
「変でしたか」
「なんでそうなる。主役たちに見せるのも惜しい」
「そうですか」
レイドに手を取られ、馬車に乗る。誰のためでもない
「わたしが、わたしになるために」
「何か言ったか?」
レイドにも聞き取れないくらいの声で言ったのだ。
「いえ、独り言ですわ」
呼ばれぬ宴へ、極上の引導を渡すための進軍が、ここから始まる――。
ここまで読んでいただきありがとうございます。次回最終回です。




