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世界最強ヒーラー、サービス終了したゲーム知識で現実ダンジョンを攻略する ~伝説のギルド《Aegis》復活~  作者: PeterP4n
第六章 失われた文明

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第95話 灼熱廃都への道

# 第95話 灼熱廃都への道


 出発の日。


 Aegisのギルドホーム前には、協会職員の姿があった。


 昨日までより人数は少ない。


 だが、周囲の警戒はまだ続いている。


 Arcへの直接接触を防ぐため。


 そして、Aegisの出発を混乱なく行わせるためだった。


「思ったより静かだね」


 Rainが周囲を見回しながら言った。


「協会がかなり抑えてる」


 Siaが小さく答える。


「遠くから見てる人はいるけど、近づいてくる気配はない」


 Cainが肩を回す。


「ありがたいけど、見世物みたいで落ち着かねぇな」


「今さらだろ」


 Crowが短く言った。


「世間にとって、お前たちはもう普通の探索者じゃない」


「お前たちじゃなくて、俺たちだろ」


「俺は巻き込まれただけだ」


「便利な言い方すんな」


 いつものようなやり取り。


 だが、今日の装備はいつもと少し違っていた。


 全員が調査用に整えられている。


 大型の拠点設備は、マジックバッグの中だ。


 鍛冶炉も、研究室一式も、大量の薬品棚も、運ぶこと自体はできる。


 だが、廃都探索中にそれらを広げるつもりはない。


 外に出しているのは、すぐ使うものだけだった。


 Mistは薬品ケースを二つ。


 Lunaは記録端末と測定器。


 Dwalfは修理工具と補強材。


 そしてAegisの戦闘メンバーは、生産組を守るための装備を整えていた。


「本当に、手元に出しておくのはこれだけでいいの?」


 Mistが薬品ケースを見下ろしながら言う。


「マジックバッグなら、もっと出せるよ?」


「入る量と、今すぐ使える形で出す量は違う」


 Arcはすぐに答えた。


「今日は拠点移転じゃない」


「先行調査だ」


「イグニシアを確認して、その後シルヴァリアに入る」


「設置型の設備は、シルヴァリアに着いてからでいい」


 Dwalfが頷く。


「炉を廃都で出す気はない」


「当たり前だけど、聞くと安心するね」


 Rainが苦笑した。


 Lunaは端末を確認しながら言った。


「手元に出す物は最低限」


「測定器」


「記録用端末」


「魔力波形比較資料」


「応急修理工具」


「戦闘用ポーション」


「耐熱薬」


「足りないものはシルヴァリア到着後に追加」


「問題ない」


「完璧だな」


 Cainが感心したように言う。


「完璧じゃない」


 Lunaは即答した。


「展開を絞った分、できることは限られる」


「だから無理はしない」


 Arcが頷く。


「その通りだ」


「今日は深追いしない」


「イグニシア外縁を確認する」


「街の状態」


「魔力反応」


「侵入可能な経路」


「危険度」


「それだけ分かれば十分だ」


 Garmが盾を持ち上げる。


「生産組は中央」


「俺が前を持つ」


 Crowが短く続けた。


「側面は見る」


「突発なら俺が拾う」


 Siaが弓を背負い直す。


「索敵は常時」


「白銀の翼の資料も見た」


「十五階層後に十六階層でランダムボスを引いた状況、かなり参考になる」


 Novaも杖を手に取った。


「火山地帯では視界だけに頼れない」


「熱気と地形で、魔力反応が揺れる」


「私も補助する」


 Arcは全員を見渡した。


 隊列は決まっている。


 先頭にGarm。


 その少し後ろにCain。


 中央にMist、Luna、Dwalf。


 その周囲をRainとCrowが動く。


 後方寄りにNova。


 遠距離索敵のSia。


 Arcは全体を見ながら指示を出す位置に立つ。


 普段より人数が多い。


 生産組を守りながら進む必要もある。


 だからこそ、いつも以上に役割を崩せない。


「行くぞ」


 Arcの一言で、Aegisは動き出した。


 地上からダンジョンへ。


 そこから先は早かった。


 Aegisは、攻略済みの階層を迷わず抜けていく。


 一階層。


 五階層。


 十階層。


 Arcの頭には地図が入っている。


 Siaが魔物の位置を拾う。


 Garmが進路を作る。


 Crowが横を押さえる。


 CainとRainが邪魔な敵だけを素早く処理する。


 Novaが広がりそうな戦闘を魔法で抑える。


 そしてArcが、立ち止まる必要のない道だけを選んでいく。


『速い』


『もう十階層越えた?』


『生産組もいるのにこの速度かよ』


『Aegisの移動、相変わらずおかしい』


『普通の攻略とテンポが違う』


 配信コメントが流れていく。


 だが、Aegisの誰も足を止めない。


 今回は討伐が目的ではない。


 シルヴァリアへ向かう前に、イグニシアを確認する。


 それが今日の目的だった。


 十一階層へ入ると、空気が変わった。


 火山地帯特有の熱気が、肌にまとわりつく。


 乾いた岩の匂い。


 遠くで鳴る地鳴り。


 赤く照らされた通路。


 Mistが小さく息を吐いた。


「分かってたけど、暑い……」


「耐熱薬は?」


 Arcが尋ねる。


「全員分、効いてる」


 Mistはすぐに答えた。


「ただ、戦闘が増えると消耗が早くなる」


「なら、戦闘は増やさない」


 Arcは前を見たまま言った。


「十五階層の中ボスと灼熱巨人は討伐後だ」


「討伐から、まだ七日経っていない」


「リポップ条件は満たしていない」


「今は、通常戦闘で無駄に消耗しないことだけ考える」


 その判断に、誰も異論はなかった。


 十一階層。


 十二階層。


 十三階層。


 十四階層。


 途中で小型の魔物と何度か遭遇した。


 だが、Aegisは必要以上に相手をしない。


 避けられる敵は避ける。


 邪魔な敵だけを短時間で排除する。


 足を止めない。


 隊列を崩さない。


 生産組を中央に置いたまま、階層を抜けていく。


 十五階層の中ボス部屋も、今は静かだった。


 討伐後の空気だけが残っている。


 巨大な戦闘の痕跡。


 焼けた床。


 砕けた岩。


 だが、新たなボスの気配はない。


「空だな」


 Cainが短く言った。


「七日は湧かない」


 Arcが答える。


「通過する」


 Aegisはそのまま十五階層を抜けた。


 そして。


 十六階層。


 そこへ足を踏み入れた瞬間、熱の質が変わった。


 ただ暑いだけではない。


 空気そのものが焦げている。


 石畳は黒く焼け、壁には赤黒い亀裂が走っていた。


 遠くには、崩れた城壁の影が見える。


 半分だけ残った門。


 折れた塔。


 焼け落ちた建物。


 人の気配はない。


 魔物の咆哮もない。


 ただ、灰と熱だけが街を包んでいた。


 Rainが息を呑む。


「ここが、イグニシアだった場所……?」


 Arcは前方を見据えた。


「ああ」


「本来は、シルヴァリアと同じ安全階層の都だった」


「火の都イグニシア」


「それが今は、灼熱廃都と呼ばれている」


 誰もすぐには言葉を返さなかった。


 遠くに見えるその街は、沈黙していた。


 魔物の咆哮もない。


 人の声もない。


 ただ、熱と灰の中に、黒く焼けた都市の影だけが立っている。


 百年前に滅びた文明。


 その入口が、今、Aegisの前に現れていた。


 Arcは小さく息を吐く。


「ここから先は、ゲーム知識だけを信用しない」


 全員の視線がArcへ向く。


「イグニシアは、俺が知っている火の都とは違う」


「今は灼熱廃都だ」


「百年前に何が起きたのか」


「現実になってから何が変わったのか」


「それを確認する」


 Garmが盾を構え直した。


「進むか」


 Arcは頷いた。


「ああ」


「ただし、今日は外縁までだ」


「無理はしない」


「記録して、危険を見て、退路を確保する」


「それが第一目標だ」


 Lunaが端末を構える。


 Mistが薬品ケースを握り直す。


 Dwalfが工具箱を持ち直す。


 Cainが戦斧を肩に乗せる。


 Rainが一歩前へ出る。


 Crowが周囲の影を見る。


 Siaが弓を引く準備をする。


 Novaの杖先に、淡い魔力が灯る。


 そしてArcは、焼け落ちた街へ視線を向けた。


 シルヴァリアへ向かう前に。


 Aegisはまず、この死んだ都市の沈黙を調べなければならない。


 灼熱廃都イグニシア。


 百年前の謎へ続く扉が、今、目の前にあった。


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