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世界最強ヒーラー、サービス終了したゲーム知識で現実ダンジョンを攻略する ~伝説のギルド《Aegis》復活~  作者: PeterP4n
第六章 失われた文明

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第85話 異常な速度の帰還

# 第85話 異常な速度の帰還


 誰も、すぐには動けなかった。


 先ほどまで瀕死だったAriaが、今もかすかに呼吸を続けている。


 その光景を前に、白銀の翼のメンバーたちは言葉を失っていた。


 目の前で起きたことが、まだ信じられない。


 誰が見ても助からないと思えるほどの重傷だった。


 それなのに、Ariaは生きている。


 しかも、その命を繋ぎ止めたのは、たった一人のヒーラーだった。


 白銀の翼のヒーラーが、小さく呟いた。


「……すごい」


 その声は震えていた。


「私たちの回復魔法と……全然違う……」


 Arcは答えなかった。


 代わりに、Ariaの容体を一つずつ確認していく。


 呼吸。


 脈。


 そして、傷の状態。


 全てを確かめ終えると、Arcは静かに口を開いた。


「まだ危険な状態だ」


 その言葉に、全員の表情が引き締まる。


「出血は止めた」


「だが、失った血液は戻っていない」


「身体も限界だ」


「少しでも無理をすれば、また崩れる」


 助かったわけではない。


 まだ、生かしている途中なのだ。


 その頃、地上では配信を見ていた人々が騒然としていた。


『すげぇ……』


『本当に助かったのか……?』


『信じられない』


『あれだけの傷だったぞ』


『回復魔法ってこんなことできるのか?』


『いや、普通はできない』


『完全に手術だった』


『ヒーラーの常識が壊れた』


『これ、医療の歴史が変わるんじゃないか……?』


 探索者協会でも、職員たちが画面を見つめていた。


「おい……」


「今の、本当に回復魔法なのか?」


「医療班、どう見える?」


 すると、一人の医療班職員が口を開いた。


「回復したんじゃない」


「壊れた場所を、一つずつ処置していた」


「応急処置を魔法でやっていたんだ」


「……あり得ない」


 別の医療班職員も、呆然としたまま続ける。


「いや……違う」


「これは応急処置の域を超えている」


「出血を止め、損傷部位を安定化させ、生存できる状態まで持っていった」


「こんな技術、今の医療界には存在しない」


 部屋が静まり返る。


 そして、一人のベテラン医師が小さく呟いた。


「もし、この技術が再現できるなら……」


「探索者医療そのものが変わるぞ……」


 誰も否定できなかった。


 これまでのヒーラーは、傷を治す存在だった。


 だが、Arcは違う。


 命が消える寸前の人間を、生き延びられる状態へ導いた。


 それは回復魔法ではない。


 新しい医療技術だった。


 この瞬間。


 誰も気付いていなかった。


 後に医療界の革命と呼ばれる技術が、今まさに誕生したことを。


 その間も、Arcは立ち上がっていた。


 やるべきことは終わっていない。


「撤退する」


 迷いのない一言だった。


「出発する」


「隊列変更」


「白銀の翼は中央」


「Aegisが外周を固める」


「最短ルートで地上へ向かう」


 白銀の翼のメンバーが驚く。


「ま、待て!」


「もう行くのか!?」


「少しくらい休憩を……」


 Arcは首を横に振った。


「止まる方が危険だ」


「Ariaは大量の血液を失っている」


「時間が経つほど危険になる」


「ここは病院じゃない」


「一秒でも早く地上へ戻る」


「それが最善だ」


 誰も反論しない。


 できなかった。


 その言葉が、あまりにも正しかったからだ。


 AliciaがAriaの手を握りながら頭を下げる。


「お願い……!」


「Ariaを助けて……!」


「助ける」


 Arcは短く答えた。


「だから走る」


 その瞬間。


 全員が一斉に走り出した。


十六階層の火山地帯を、一行は駆け抜けていた。


 誰も無駄な動きをしない。


 誰も立ち止まらない。


 隊列が崩れることもない。


 Aegisが外周を固め、その中央を白銀の翼が進む。


 その中心には、Ariaがいた。


 白銀の翼のヒーラーが《リジェネ》を維持し続ける。


 Aliciaは、担架の横を離れない。


 その様子を確認しながら、Arcは前を向いていた。


「Sia」


「前方二百メートル。右通路に魔力反応三!」


 次の瞬間。


「左だ」


 Arcが即答する。


「そのまま直進」


「速度は落とすな」


「了解!」


 全員が一斉に進路を変える。


 白銀の翼のメンバーたちは目を見開いた。


「え……?」


「もう決めたのか……?」


 だが、Arcは止まらない。


「次の分岐は右」


「その先の広間は通るな」


「迂回する」


「速度維持」


 指示が次々と飛ぶ。


 しかも、そのどれにも迷いがない。


 考え込む素振りもなければ、立ち止まって周囲を確認することもない。


 Siaから索敵情報が伝えられた瞬間には、すでに次の進路が決まっている。


 まるで頭の中に完成された答えが存在しているかのようだった。


 一秒の無駄もない。


 進路変更も、隊列の維持も、全てが滑らかに繋がっていく。


 その異常とも言える判断速度に、白銀の翼のメンバーたちは驚きを隠せなかった。


「は、早すぎる……」


「どうして分かるんだ……?」


 だが、Aegisのメンバーは誰一人として驚かない。


 それは、いつもの光景だったからだ。


 Arcの指示が速いのは今に始まったことではない。


 Aegisのメンバーたちは、これまで何度もその判断力に助けられてきた。


 だからこそ、誰も疑問を抱かない。


 指示が飛べば、その通りに動く。


 それだけで最適な結果に辿り着けることを知っているからだ。


 Arcの脳内には、十六階層の地図が鮮明に広がっていた。



 分岐。


 広間。


 狭路。


 高低差。


 そして、魔物の出現傾向。


 《Depth Chronicle》で何度も攻略した情報が、全て記憶として刻まれている。


 もちろん、地図を覚えているだけではない。


 そこへSiaの索敵情報が加わることで、現在の状況が完成するのだ。


 現在位置。


 敵の位置。


 敵の数。


 移動速度。


 危険度。


 それらの情報を瞬時に整理し、頭の中で複数のルートを組み立てる。


 そして、その中から最も安全で、最も速く、最も戦闘回数を減らせる道を選び出す。


 それがArcの役割だった。


 だから、迷わない。


 考え込む必要もない。


 すでに答えが頭の中に存在しているからだ。


 だから、止まらない。


 一秒たりとも無駄にしない。


 その積み重ねが、常識外れの帰還速度を生み出していた。


 その頃。


 地上の配信を見ていた人々も、その異変に気付き始めていた。


『速くない!?』


『え?』


『もう十六階層抜けそうなんだけど』


『普通こんな速度出ないぞ』


『地図見てないよな?』


『なんで迷わないんだ』


『全部頭に入ってるのか?』


『これ帰還RTAだろ』


『いや救助活動だ』


『速すぎる』


 探索者協会でも、職員たちが騒然としていた。


「おい……」


「今の判断、何秒だ?」


「一秒もかかってないぞ……」


「普通は立ち止まって確認するだろ」


 すると、一人の職員が呟く。


「いや……違うな」


「確認してるんじゃない」


「最初から答えを知ってるみたいだ」


 別の職員も画面を見つめながら口を開いた。


「あり得ない」


「こんな帰還速度、見たことがない」


「十六階層だぞ……?」


「普通なら数時間はかかる」


「魔物との戦闘もある」


「ルート選択もある」


「休憩だって必要だ」


「なのに……」


「無駄が一秒もない」


 その頃も、Aegisは止まらない。


 足を止める者は一人もいなかった。


 周囲を警戒する者。


 索敵を続ける者。


 それぞれが自分の役割を果たしながら、隊列は一定の速度を維持したまま進み続けている。


 誰かが遅れることもない。


 誰かが迷うこともない。


 Arcの指示が飛び、その指示を全員が即座に実行する。


 その繰り返しだった。


 前へ。


 ただ、前へ。


 一秒でも早く地上へ辿り着くために。


 その姿を見ながら、白銀の翼の一人が思わず呟いた。


「速いんじゃない……」


「違う……」


「迷ってないんだ……」


 その言葉に、Aliciaも気付く。


 速いわけではない。


 いや、正確には違う。


 ただ闇雲に走っているわけではないのだ。


 Arcは、最初から最適な道筋を導き出している。


 どの通路を通るべきか。


 どの分岐を選ぶべきか。


 どの場所を避ければ戦闘を減らせるのか。


 その全てを、一瞬で判断している。


 そして、その判断をAegisのメンバーが即座に実行する。


 誰も迷わない。


 誰も確認し直さない。


 誰も立ち止まらない。


 だから、一秒の無駄も生まれない。


 たったそれだけのこと。


 だが、その「たったそれだけ」を完璧な精度で繰り返せる探索者は存在しない。


 だからこそ、異常なほど速く見えるのだ。


 Aegisが速いのではない。


 Arcの判断が速いのだ。


 そして、その判断を全員が一切の迷いなく実行できる。


 だから、速い。


 その帰還速度は、後に探索者たちの間で一つの伝説として語られることになる。


 ――救助対象を抱えながら、あり得ない速度でダンジョンを駆け抜けた帰還劇として。


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