第78話 新たな手掛かり
# 第78話 新たな手掛かり
部屋の空気が一気に張り詰めた。
百年前の記録に存在しない場所。
誰も知らない地点。
それが、今もどこかで稼働している。
その事実が持つ意味の大きさを、誰もが理解していた。
もしそこに人がいるのなら、百年間途絶えていた文明の生き残りかもしれない。
もし施設なのだとすれば、今なお自律的に動き続けている未知の技術が存在することになる。
あるいは、誰も予想していない全く別の何かである可能性も否定できない。
だが、現時点では情報が少なすぎた。
そこが都市なのか、研究施設なのか、それとも別の拠点なのか――その正体すら分からない。
分かっているのは、百年前の記録には存在せず、それでいて現在も微弱な通信反応を発しているという事実だけだった。
すると、レオニスがゆっくりと口を開いた。
「ふむ……」
少し考え込むように顎へ手を添える。
そして、通信装置へ視線を向けながら技術者へ問いかけた。
「その反応の発信源を特定することはできぬのか?」
技術者は慌てたように姿勢を正し、申し訳なさそうに頭を下げた。
「も、申し訳ございません」
「反応があまりにも微弱で、正確な座標までは特定できません」
「現在も解析を進めておりますが、もう少し時間が必要になります」
「そうか」
レオニスは小さく頷いた。
「だが、悲観する必要はあるまい」
「百年もの間、何一つ手掛かりを得られなかったのだ」
「微弱とはいえ、新たな反応が確認できたこと自体、大きな前進と言えるだろう」
その言葉に、室内の空気が少しだけ和らいだ。
確かに、今判明している情報は決して多くない。
反応の正体も分からず、場所も特定できていない。
だが、それでもゼロではなくなったのだ。
百年間、完全に途絶えていた世界との繋がり。
誰も存在を確認できなかった未知の場所。
そこに、確かに何かが存在していることだけは分かった。
一同も静かに頷く。
これまで手探りの状態が続いていたことを考えれば、それだけでも十分な成果だった。
すると、レオニスがAegisへ視線を向けた。
「さて、異界の冒険者たちよ」
「そなたたちは火の都イグニシアまで到達したと言っていたな」
「ああ」
Arcが短く答える。
すると、レオニスは少し考えるように顎へ手を添えた。
「ならば、一つ頼みたいことがある」
「次にイグニシアへ向かう際、都市の内部を改めて調査してきてはくれぬか」
一同がレオニスを見る。
これまでもイグニシアには何度か足を運んでいる。
しかし、その目的はあくまで魔物の討伐や攻略だった。
都市そのものを詳しく調べたことは、ほとんどなかった。
だからこそ、レオニスは改めて調査を依頼したのだろう。
Rainが首を傾げた。
「またイグニシア?」
既に一度攻略を進めた場所だ。
もちろん未踏破の区域は残っているが、これまでの目的はあくまで魔物の討伐と安全な進行ルートの確保だった。
だからこそ、同じ場所へ再び向かう理由が気になったのだろう。
レオニスは静かに頷いた。
「うむ」
「通信反応との関連性は、現時点では分からぬ」
「だが、百年前の都市であることに変わりはない」
「そして、百年前の文明が残されている場所ならば、何らかの痕跡が残されている可能性は十分にある」
そう言うと、レオニスは少し間を置いて続けた。
「これまでは魔物の討伐が主目的だったのであろう」
「危険を排除し、先へ進むことが最優先だったはずだ」
「だが、今回は違う」
「都市そのものを調べてほしいのだ」
一同は自然と真剣な表情になる。
レオニスはさらに具体的な内容を挙げていく。
「建造物、設備、地形の変化、違和感のある場所――どのような些細なものでも構わぬ」
「壊れた機械でもよい」
「不自然に保存されている建物でもよい」
「普段なら見過ごしてしまうようなものが、重要な手掛かりになるやもしれん」
百年前の人々が何を残し、何を隠したのか。
それを探ることが、今回の目的だった。
戦うだけではない。
調査もまた、探索者の重要な役割だ。
これまで見逃していたものに目を向ける。
それだけで、新たな発見に繋がる可能性がある。
一同の表情も自然と引き締まった。
すると、Crowが腕を組んだ。
「なるほどな」
「今度は探索じゃなくて調査隊ってわけか」
「そういうことだ」
レオニスが頷いた。
すると、Novaも少し考え込むように口を開いた。
「百年前の文明が残ってるなら、研究資料とか設備も見つかるかもしれない……」
単なる廃墟ではない。
かつて人々が生活し、研究し、技術を発展させていた都市なのだ。
もし建物の内部が比較的原形を留めているなら、当時の記録や装置が残されている可能性も十分にある。
レオニスも静かに頷いた。
「その可能性も十分にあるだろう」
「失われた技術が眠っているやもしれぬな」
「百年前の人々が何を研究し、どのような生活を送っていたのか……それを知る手掛かりになるかもしれぬ」
すると、Cainが小さく笑った。
「面白くなってきたな」
「今までは攻略だけだったのに、急に冒険っぽくなってきた」
その言葉に、一同もどこか納得したような表情を浮かべる。
これまでは、出現する魔物を倒しながら階層を進み、都市へ到達することが目的だった。
だが、今回は違う。
都市そのものを調べ、過去に隠された情報を探し出す。
未知の歴史を紐解く探索任務でもあるのだ。
Rainも楽しそうに頷いた。
「宝探しみたいだね」
「そう考えるとワクワクするかも」
しかし、レオニスはすぐに表情を引き締めた。
「ただし、危険性は変わらぬ」
「灼熱廃都は、百年前に滅びた都市だ」
「何が残っているのか、誰にも分からぬ」
「建物の崩落、未知の装置、あるいは新たな魔物が潜んでいる可能性もある」
「十分に警戒してくれ」
「分かった」
Arcが短く答える。
すると、レオニスは静かに頷いた。
「頼んだぞ、異界の冒険者たちよ」
その言葉に、Arcも静かに頷いた。
その返答に、レオニスも満足そうに頷いた。
こうして、新たな調査方針が決まった。
次の目的地は、再び灼熱廃都イグニシア。
これまでのように魔物を討伐しながら進むだけではない。
都市そのものを調査し、百年前の文明が残した痕跡を探し出すことが今回の目的となる。
Arcは再び通信装置へ視線を向けた。
そこには、先ほどまで解析されていた微弱な通信反応の記録が表示されている。
未登録の地点。
百年前の記録に存在しない場所。
そして、現在もなお発信され続けている謎の信号。
分かっている情報は、まだあまりにも少ない。
正確な位置も不明。
発信源の正体も不明。
都市なのか、施設なのか、それとも別の何かなのか――何一つ断定できない状態だった。
だが、それでも大きな意味があった。
百年間、完全に途絶えていたはずの世界との繋がりが、再び見つかったのだ。
それは偶然では片付けられない。
確実に、この世界のどこかに未知の存在が残っている証拠だった。
(……まずはイグニシアか)
(何か残っているかもしれない)
もし百年前の人々が何らかの情報を残しているのなら、その手掛かりはイグニシアにある可能性が高い。
通信反応との直接的な関連性は分からない。
だが、今ある手掛かりを辿るなら、まずはそこから調べるしかないだろう。
そして、その最初の手掛かりは――再び灼熱廃都イグニシアへと繋がっていた。
誰も知らない場所。
百年前の記録に存在しない地点。
その真実へ辿り着くため、Aegisは再び灼熱廃都へ向かうことになる。




