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世界最強ヒーラー、サービス終了したゲーム知識で現実ダンジョンを攻略する ~伝説のギルド《Aegis》復活~  作者: PeterP4n
第五章 新たなフロンティア

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第77話 百年ぶりの再接続

#第77話 百年ぶりの再接続


 白炎核が動力炉へ収まった直後、魔法通信塔は百年ぶりの目覚めを迎えた。


 最初に変化が現れたのは、塔の床に刻まれていた巨大な魔法陣だった。


 淡い白色の光が中心部からゆっくりと広がり、複雑に刻まれた無数の紋様が一本ずつ順番に輝き始める。


 まるで長い眠りから覚めた神経が、少しずつ全身へ繋がっていくかのようだった。


 さらに、その光は床だけに留まらない。


 壁面を這うように駆け上がり、天井へと広がっていく。


 百年間沈黙していた設備へ、少しずつ命が吹き込まれていった。


 やがて、静まり返っていた空間へ低く唸るような駆動音が響き渡る。


 ブゥォォォォン……


 塔全体が微かに震えた。


 その振動は決して不安定なものではない。


 停止していた巨大な設備が、再び動き始めた証だった。


 同時に、各所に設置されていた装置へ淡い光が灯り始める。


 淡い光が広がるにつれ、今までただの古びた機械にしか見えなかった設備が、一斉に役割を取り戻していく。


 壁際に並ぶ装置の表面には魔法文字が浮かび上がり、停止していた歯車がゆっくりと回転を始めた。


 床下を流れる魔力の通路にも光が走り、それぞれの設備が互いに連動しながら動き出していく。


 まるで長い眠りについていた巨大な生命体が、少しずつ目覚めていくようだった。


「おぉ……」


 Rainが思わず声を漏らした。


「本当に動いてる……」


 技術者たちも目を見開いていた。


 彼らにとっても、この光景は初めて目にするものだった。


 文献の中でしか知らなかった百年前の設備が、今まさに目の前で蘇っている。


 しかも、単に電源が入っただけではない。


 各設備が正常に連携し、本来の機能を取り戻そうとしているのだ。


「制御装置、正常稼働!」


「魔力循環率、上昇しています!」


「補助設備も起動しました!」


「こちらも異常ありません!」


 次々と報告が飛び交う。


 誰もが興奮を隠せずにいた。


 百年間、一度も動かなかった設備だ。


 何度修復を試みても反応を示さず、原因すら特定できなかった。


 いつしか、この通信塔は「かつて存在した文明の遺産」として扱われるようになり、実際に動く姿を見た者は誰一人としていなかった。


 それほどまでに、この施設の復旧は不可能だと思われていたのだ。


 だが今、その常識が覆されている。


 淡く輝く魔法陣。


 規則正しく響く駆動音。


 そして、各装置へ流れ込む魔力の光。


 目の前で起きている現象が、これが幻でも夢でもないことを証明していた。


 百年間積み重ねてきた研究や修復作業、その全てが無駄ではなかったのだと、誰もが実感していた。


 レオニスも目を見開いていた。


「まさか、本当に……」


 その表情には驚きだけではない。


 長年抱え続けてきた重圧から解放されたような安堵と、文明の灯火を繋ぎ続けてきた者としての喜びが混ざり合っていた。


「百年前、多くの都市が滅びました」


「ですが、シルヴァリアは辛うじて生き延びることができました」


「以来、私たちはこの場所で文明を繋ぎ続けてきたのです」


 その言葉に、一同は静かに耳を傾ける。


 百年。


 それは人の一生を遥かに超える時間だ。


 一つの世代だけでは到底守り切れない長さであり、親から子へ、さらにその次の世代へと意思を受け継ぎながら、この場所を維持してきたことになる。


 途中で諦めても誰も責めなかっただろう。


 実際、この設備が再び動く保証などどこにもなかったのだから。


 それでも彼らは守り続けた。


 誰が訪れるかも分からない未来のために。


 いつか再び世界が繋がる日が来ると信じて。


 その希望だけを支えに、百年という途方もない時間を積み重ねてきたのだ。


 そう考えると、今この瞬間がどれほど特別な出来事なのかが自然と実感できた。


「なんか……凄いことした気分になってきた」


 Rainが苦笑する。


「いや、実際凄いだろ」


 Crowが肩をすくめる。


「百年止まってた設備なんだぞ」


 すると、Cainも頷いた。


「これだけでも歴史が変わるレベルだろ」


 その言葉に、その場の誰もが否定できなかった。


 ただ設備が動いただけではない。


 百年間失われていた文明の一部が、今まさに取り戻されたのだ。


 それは単なる機械の復旧ではない。


 長い年月の中で途絶えていた過去と現在が、再び繋がり始めた瞬間でもあった。


 百年前、人類は各都市を結ぶ巨大なネットワークを築いていた。


 だが、大災厄によって多くの都市が失われ、その繋がりも断絶した。


 それ以来、それぞれの都市は孤立したまま生き延びるしかなかったのだ。


 だからこそ、この通信塔の復活には大きな意味がある。


 もし再び都市同士が繋がれば、失われた技術や知識、そして世界の現状を共有できるようになるかもしれない。


 それは、この世界の未来を大きく変える可能性を秘めていた。


 Arcは静かにその光景を見つめていた。


(まだだな……)


(本番はここからだ)


 通信塔が起動した。


 だが、それだけでは終わらない。


 この設備の本来の役割は、都市と都市を繋ぐことだ。


 動力が復旧しただけでは意味がない。


 本当に重要なのは、通信機能そのものが正常に動作するかどうかだった。


 もし通信機能まで復旧すれば――。


 百年前に失われた世界の情報が手に入るかもしれない。


 すると、一人の技術者が声を上げた。


「通信回線の再接続を試みます!」


 その声を合図に、技術者たちは慌ただしく装置を操作し始める。


 淡く光る魔法陣の上に文字列のようなものが浮かび上がり、各装置が連動して動き出した。


 停止していた機構が順番に起動し、通信経路の確認作業が進められていく。


 どうやら、この通信塔は単独で機能する設備ではないらしい。


 まず内部の補助装置を起動し、その後、過去に登録されていた都市の座標情報を読み込み、接続可能な相手を探索する仕組みになっているようだった。


「通信補助設備、正常」


「座標検索開始」


「登録都市との接続を試みます」


 技術者たちの報告が次々と飛び交う。


 百年間停止していたとは思えないほど、装置は正確に動作していた。


 すると、レオニスが口を開いた。


「もし接続できれば、百年前に途絶えた都市との連絡が復活する可能性があります」


「……イグニシアともか?」


 Arcが尋ねる。


 すると、レオニスは少し表情を曇らせた。


「いえ……火の都イグニシアとの接続は難しいでしょう」


「現在のイグニシアは、灼熱廃都となっていることが確認されています」


「通信塔も、既に機能を失っている可能性が高いです」


 一同が静かに頷く。


 Arcたち自身が、その光景を見てきた。


 かつて火の都と呼ばれた場所は、今や灼熱の大地へと姿を変えている。


「ですが、百年前には各都市に同様の通信塔が存在していました」


「もし他にも生き残っている場所があるなら、再び繋がる可能性はあります」


 その言葉に、一同の表情が引き締まった。


 百年間途絶えていた情報網。


 これまで各都市は孤立した状態で生き延びてきた。


 だが、もし通信網が復活すれば、離れた場所にいる人々と情報を共有できるようになる。


 未知の地域の情報、魔物の動向、生存している都市の存在――。


 得られる恩恵は計り知れない。


 すると、その直後だった。


 ピッ……


 小さな音が静寂の中に響いた。


 一人の技術者が慌てたように装置へ視線を向ける。


「……っ!」


 その表情が変わった。


 全員の視線が自然と集まる。


「どうした?」


 Arcが静かに尋ねる。


 技術者は慌てて装置を操作し始めた。


 だが、その顔には困惑の色が浮かんでいる。


「おかしい……」


「どうしたんだ?」


 Cainが声を上げる。


 すると、技術者がゆっくりと口を開いた。


「……微弱ですが、通信反応があります」


 その瞬間、その場の空気が一変した。


 先ほどまで起動成功に沸いていた空気が、一気に静まり返る。


 全員の視線が技術者の手元にある装置へ集中した。


「どこだ?」


 Arcが静かに尋ねる。


 技術者は表示された情報を何度も確認しながら、慎重に解析を進めていく。


「火の都イグニシアではありません」


「登録されている都市とも一致しません」


「座標データも存在していないようです……」


 一同の表情が固まった。


「え?」


 Rainが思わず声を漏らす。


 百年前の通信網なら、接続先は記録に残っている都市であるはずだ。


 だが、表示されている情報は、そのどれにも当てはまらない。


 技術者はさらに装置を操作し、詳細な解析を続ける。


 すると、少し間を置いてから再び口を開いた。


「……未登録の地点から、非常に弱い通信反応を検知しています」


 部屋の空気が一気に張り詰めた。


 百年前の記録に存在しない場所。


 誰も知らない地点。


 それが、今もどこかで稼働している。


 だが、そこが都市なのか、別の施設なのか、それとも全く別の何かなのか――それすら分からない。


 そもそも、百年前の資料に残っていないという時点で異常だった。


 シルヴァリアには当時の記録が保管されている。


 通信塔に登録されていた都市の情報も、その一部として受け継がれてきたはずだ。


 それなのに、今回検知された反応は、そのどれにも一致していない。


 つまり、記録が失われた場所なのか、それとも当時から存在を知られていなかった施設なのか。


 現時点では判断材料が足りなかった。


 Arcの表情が僅かに変わる。


(……可能性はある)


(だが、まだ断定はできない)


(百年前の人類は、俺たちの知らない何かを残している……)


 もし生存者がいるのだとすれば、それは世界の常識を覆す発見になる。


 だが、期待だけで結論を出すわけにはいかない。


 今必要なのは、情報を集めて事実を積み重ねることだ。


 すると、隣で技術者が再び口を開いた。


「それと……一つ懸念があります」


「今回起動できたとはいえ、白炎核の消費量は不明です」


「長期間の運用には、継続的な供給が必要になるかもしれません」


 一同の表情が少し引き締まる。


 通信塔は確かに復活した。


 しかし、それを維持できなければ意味がない。


 百年間停止していた設備だけに、どれほどのエネルギーを必要とするのか、まだ誰にも分かっていなかった。


 白炎核は、ただの希少素材ではない。


 百年間止まっていた設備を動かし、この都市の未来を左右するほどの価値を秘めている。


 その重要性を、Arcは改めて実感していた。


 百年ぶりの復活。


 だが、それは終着点ではない。


 新たな始まりに過ぎなかった。


 百年間止まり続けていた世界が、今まさに再び動き出そうとしている。


 そして、その先には――誰も知らない、新たな都市の存在が待ち受けていた。

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