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世界最強ヒーラー、サービス終了したゲーム知識で現実ダンジョンを攻略する ~伝説のギルド《Aegis》復活~  作者: PeterP4n
第五章 新たなフロンティア

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第76話 百年止まっていた世界

# 第76話 百年止まっていた世界


 レオニスに案内されながら、Aegisの一行は魔法通信塔の中へ足を踏み入れた。


 重厚な扉が低い音を立てながら、ゆっくりと左右へ開いていく。


 その先に広がっていた光景を目にした瞬間、一同は思わず足を止めた。


「……でかっ」


 Rainが思わず声を漏らす。


 その視線の先には、巨大な円形空間が広がっていた。


 天井は見上げるほど高く、白い壁面には無数の紋様が刻まれている。その紋様はただの装飾ではなく、魔力を循環させるための術式のようにも見えた。


 さらに床一面にも複雑な魔法陣が広がっており、中心部へ向かって幾重にも線が伸びている。


 それぞれの線は壁や柱とも繋がっており、建物全体が一つの巨大な魔道具として機能していることが一目で分かった。


 まるで、街全体の魔力がここへ集約されているかのような造りだ。


 Novaも目を輝かせていた。


「すごい……」


「これ全部、魔道具なの……?」


「はい」


 レオニスが穏やかに頷く。


「シルヴァリアに残る、最も重要な設備の一つです」


「かつては、この場所を中心に各都市との情報共有が行われていました」


「情報共有?」


 Novaが首を傾げる。


「遠く離れた都市同士で連絡を取り合っていたってこと?」


「その通りです」


 レオニスは中央の装置へ視線を向けた。


「各都市に設置された通信設備と接続し、状況報告や研究成果、災害情報などを瞬時にやり取りしていました」


「今でいう都市間ネットワークのようなものですね」


 すると、Crowが周囲を見回した。


「昔の設備にしちゃ、綺麗すぎないか?」


「壊れてる感じもしないな」


「それは定期的に整備を行っているからです」


 レオニスが答える。


「いつの日か再び動くことを信じて、代々管理を続けてきました」


「百年以上も……?」


 Novaが驚いたように呟く。


「はい」


「動く保証がなくても、誰かが管理を引き継ぎ、設備の点検や修復を続けてきました」


「もし完全に放置してしまえば、再起動できる可能性そのものが失われてしまいますから」


 その言葉に、一同は思わず黙り込んだ。


 動く保証もない設備を、長い年月にわたって維持し続けていたのだ。


 それは単なる保守作業ではない。


 いつか再び世界が繋がる日を信じ続けてきた、シルヴァリアの人々の意志そのものだった。


 百年という途方もない年月の間、誰が来るかも分からない未来のために設備を守り続ける。

設備の点検や修復を何世代にもわたって受け継ぎながら、希望だけを頼りに待ち続けてきたのだ。

それがどれほど大変なことなのかは、想像に難くない。


 Rainが小さく呟いた。


「ずっと待ってたんだね……」


 すると、隣でSiaも静かに通信塔を見上げる。


「百年……長い」


 その一言には、わずかな驚きが滲んでいた。


「はい」


 レオニスは静かに頷いた。


「私たちは、いつか再び異界の冒険者が現れることを信じ続けていました」


 その表情は穏やかだったが、その言葉の重みは誰もが感じ取っていた。


 百年という時間は、人の一生を遥かに超える。


 それでも、その願いは途切れることなく受け継がれてきたのだ。


「そして、この世界が救われる日を」


 その声は穏やかだった。


 だが、その言葉の奥には、百年という長い年月を支え続けてきた者だけが持つ確かな覚悟が込められていた。


 何度も希望を失いかけながら、それでも諦めずに未来へ繋いできた重みが感じられる。


 その言葉を聞きながら、Arcは静かに周囲を見渡していた。


(ここまで維持してきたのか……)


 ゲームには存在しなかった歴史。


 誰にも知られることなく、人々が受け継いできた時間がここにはある。


 設備を守り続けた者たち。


 技術を失わないように伝え続けた者たち。


 そして、いつ訪れるかも分からない希望の日を信じ続けてきた者たち。


 そうした無数の積み重ねが、この場所を今もなお存在させているのだ。


 積み重ねられてきた長い年月の重みを、Arcは静かに感じていた。


 すると、レオニスが中央を指差した。


「こちらです」


 一同が視線を向ける。


 そこには巨大な台座が存在していた。


 直径は三メートルほどあり、白銀色の金属で作られた円形の構造物だ。


 表面には複雑な紋様が幾重にも刻まれており、その紋様は床一面に広がる巨大な魔法陣と繋がっている。


 さらに、台座の中心部には拳大の球体を収めるためと思われる窪みが設けられていた。


 その窪みからは無数の線が放射状に伸び、まるで血管のように床の魔法陣へと繋がっている。


 全体を見渡すと、この場所が通信塔全体の心臓部であり、塔のあらゆる機能を制御していることが一目で分かった。


「これが動力炉です」


「かつては、ここへ動力源が収められていました」


 技術者の一人が前に出て説明する。


「この動力炉が稼働することで、塔全体へ魔力が供給され、通信設備も正常に機能していました」


「通信だけではありません。内部の制御装置や補助設備も、この動力炉から供給される魔力によって維持されていたのです」


「ですが、モンスターパレードの混乱で動力源が失われ、以降は停止したままになっています」


 百年もの間、この巨大な設備は眠り続けていたということになる。


 説明を聞きながら、Arcは中央の窪みをじっと見つめた。


(……似てるな)


 どこか見覚えがある。


 いや、見覚えがあるどころではない。


 最近、何度も目にしているものだ。


 窪みは球体を収めるような形状になっており、大きさもそれほど大きくない。


 その特徴を見た瞬間、Arcの脳裏にある素材が浮かんだ。


 すると、Novaも同じことに気付いたのか、小さく声を漏らした。


「これって……」


 Arcは改めて台座へ視線を向ける。


 サイズも形状も、よく知っているものに酷似していた。


 間違いない。


 最近手に入れた、あの素材だ。


 Arcが台座へ視線を向けながら口を開く。


「これ……白炎核に似てないか?」


 その言葉に、一同の視線が一斉に台座へ集まった。


 中央にある窪みの形状は、丸く滑らかな球体を収めるために作られたように見える。


 そして、その大きさも見覚えがあった。


 Novaもじっと見つめながら目を見開く。


「ほんとだ……!」


「大きさも同じくらい……」


 Rainも驚いたように声を上げた。


「言われてみればそっくりだな……」


 すると、レオニスが不思議そうな表情を浮かべる。


「白炎核……ですか?」


「ああ」


 Arcは小さく頷いた。


 白炎核。


 それは火炎龍を討伐した際に手に入れた希少な素材だ。


 ゲーム時代には高ランクの素材として扱われていたが、この世界では未知の存在に近い。


 Arcは収納袋へ手を伸ばした。


 そして、ゆっくりと白炎核を取り出す。


 淡い白色の光を放つ球体。


 手のひらほどの大きさしかないにもかかわらず、その内部には膨大な魔力が凝縮されている。


 取り出した瞬間、周囲の空気がわずかに震えた。


 すると、その場の空気が一瞬静まり返る。


 誰もが、その神秘的な輝きに目を奪われていた。


「……綺麗」


 Novaが思わず呟く。


 白炎核は淡く白い光を放ちながら、静かに脈動していた。


 まるで生きているかのように内部で魔力が循環し、その度に周囲の空気がわずかに震える。


 その神秘的な光景に、技術者たちは言葉を失っていた。


「これが……」


「初めて見る素材です……」


「凄まじい魔力を感じます……」


 誰もが目を見開き、視線を白炎核へ釘付けにしている。


 レオニスも驚いた表情を浮かべていた。


「まさか、このようなものが存在していたとは……」


 すると、一人の技術者が恐る恐る口を開いた。


「これほどの魔力を秘めた物質は、シルヴァリアの記録にも存在しません」


「通常の魔石とは比較にならないほど高密度な魔力が圧縮されています」


「もしかすると、失われた古代技術に匹敵する価値があるかもしれません」


 その言葉に、その場の空気がさらに張り詰める。


 Rainが苦笑した。


「火炎龍を倒したら、とんでもないもの手に入れてたんだな……」


 Cainも腕を組みながら頷く。


「だからあれだけ魔力が異常だったのか」


 Arcは静かに白炎核へ視線を落とした。


 ゲーム時代には存在しなかった素材だ。


 だからこそ、その価値も用途も分からない。


 だが、この世界では違う。


 百年間停止していた設備を動かせるかもしれないほどの可能性を秘めている。


 ただの希少素材ではない。


 百年間止まっていた設備を動かし、この都市の未来そのものを変える可能性を秘めている。

その重みを、Arcは改めて実感していた。


 もし本当にこの白炎核が動力源として機能するのなら、ただの希少素材では終わらない。


 失われた都市の機能を取り戻し、シルヴァリアの未来そのものを変える可能性すら秘めている。


 そんなことを考えながら、Arcはゆっくりと台座へ近付いた。


 周囲の視線が自然と集まる。


 誰もが固唾を呑み、その瞬間を見守っていた。


「試してみるか」


 そう言うと、Arcは慎重に白炎核を窪みへ収めた。


 カチリ。


 小さな音と共に、白炎核が固定される。


 まるで最初からこの場所のために作られていたかのように、寸分の狂いもなくぴったりと収まった。


 その瞬間だった。


 ブゥン……


 ブゥォォォォン……

 低い駆動音が施設全体へ響き渡る。

 同時に、足元の魔法陣が眩く輝き始めた。


 一同の表情が一斉に変わった。 


「おぉ……!」


 Rainが思わず声を漏らす。


「……動いた」


 その直後だった。


 白炎核を中心に淡い白色の光が広がり、床に刻まれていた紋様が一本ずつ順番に輝き始める。


 まるで長い眠りから目覚めるように、停止していた魔力回路へ再び力が流れ込んでいく。


 光は床だけでは終わらない。


 中央の制御装置へと繋がり、さらに壁面を走り抜け、天井へと広がっていった。


 百年間沈黙していた設備へ、少しずつ命が吹き込まれていく。


 技術者たちも目を見開いていた。


「動いている……!」


「本当に……」


「百年ぶりに……!」


 誰もが信じられないものを見るような表情を浮かべている。


 これまで何度も修復を試みながら、一度も反応を示さなかった設備だ。


 それが今、確かに動き始めていた。


 そして、塔全体が微かに震え始める。


 静寂に包まれていた空間に、低く唸るような音が響き渡り、再び魔力が循環し始める気配が広がっていく。


 Arcは静かにその光景を見つめていた。


(始まったか……)

(これで、この世界の真実へ少し近付ける)

(百年前に何が起きたのか)

(そして、まだ見ぬ都市の正体も……)

 百年間止まり続けていた世界が、今まさに動き出そうとしていた。


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