表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界最強ヒーラー、サービス終了したゲーム知識で現実ダンジョンを攻略する ~伝説のギルド《Aegis》復活~  作者: PeterP4n
第五章 新たなフロンティア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/117

第75話 百年止まった希望

# 第75話 百年止まった希望


 魔法通信塔の前には静かな空気が流れていた。


 白い石で造られた巨大な塔。


 空へ向かって真っ直ぐ伸びるその姿は、今なお荘厳な存在感を放っている。


 しかし、その設備は百年間、一度も動くことなく眠り続けていた。


 本来であれば各都市を繋ぎ、人々の生活を支えていたはずの重要な設備。


 それが長い年月の間、ただ沈黙を守り続けていたのだ。


 その塔の前で、レオニスは真っ直ぐAegisの面々を見つめていた。


 そして、少しだけ息を整えると、丁寧な口調で切り出す。


「皆様に……一つ、お願いがあります」


 一同も自然と彼へ視線を向ける。


 レオニスは一瞬だけ言葉を選ぶように間を置き、静かに続けた。


「どうか、その白炎核を譲っていただけないでしょうか」


 その言葉に、一同の空気が少しだけ変わる。


 Rainたちも互いに顔を見合わせた。


 白炎核。


 それは彼らが探索の末に手に入れた貴重な素材だ。


 そして同時に、この百年間止まり続けていた設備を再び動かすために必要な動力源でもある。


 つまり、レオニスの願いは、この街の未来そのものを託してほしいという申し出だった。


 だが、誰もすぐには返事をしない。


 簡単に決められる話ではないからだ。


 白炎核は貴重な資源だ。


 しかも、今後の攻略において重要な用途が見つかる可能性もある。


 ただ譲ればいいという話ではない。


 それが本当に必要なことなのか、慎重に判断する必要があった。


 すると、少し考えたあと、Arcが静かに口を開いた。


「理由を聞いてもいいか?」


 その問いに、レオニスは小さく頷く。


「もちろんです」


 そう答えると、彼は再び巨大な通信塔を見上げた。


 まるで、百年間眠り続けてきた希望そのものを見つめるように。


「先ほどもお話ししましたが、この通信塔は各都市を繋ぐ設備でした」


「単なる連絡手段ではありません」


「人々の生活そのものを支える重要な存在だったのです」


 そう言って、ゆっくりと言葉を続ける。


「都市の状況共有」


「魔物の出現情報」


「救援要請」


「物資支援」


「それら全てが、この設備によって成り立っていました」


「例えば、遠方の都市で強力な魔物が出現した場合、その情報は即座に各地へ共有されます」


「危険区域を避けることもできますし、必要であれば救援部隊を派遣することもできました」


「また、食料や薬品などの物資が不足した都市へ支援を送ることも可能でした」


「つまり、この通信塔は都市同士を繋ぐだけではなく、人々の暮らしそのものを支えていたのです」


「ですが、百年前のモンスターパレードによって、その繋がりは失われました」


 レオニスの表情が少し曇る。


「それ以来、各都市は孤立しています」


「現在も存在しているのか」


「あるいは滅びてしまったのか」


「それすら分からない状態なのです」


 そう言って、レオニスは静かに視線を落とした。


 通信手段が失われたことで、都市同士の繋がりは完全に断たれてしまった。


 かつては当たり前のように行われていた情報交換も、救援要請も、今では不可能になっている。


 もしどこかの都市が危機に陥っていたとしても、誰もそれを知ることができない。


 逆に、助けを求める声があったとしても、届くことはないのだ。


 その言葉に、一同も自然と表情を引き締めた。


 百年間。


 誰も他の都市の状況を知らない。


 それは単に連絡が取れないという話ではない。


 この世界にどれだけの人々が生き残っているのか、その規模すら把握できていないということだった。


 想像以上に深刻な問題であることを、一同も理解していた。


 レオニスは続ける。


「火の都イグニシアも、その一つです」


「百年前に連絡が途絶えて以来、一度も返答はありません」


「今も存在しているのかすら分からないのです」


 その言葉には、長い年月を経ても消えることのない無念さが滲んでいた。


 百年前に突然途絶えた繋がり。


 それ以来、誰も他の都市の状況を知ることができないまま、今日まで過ごしてきたのだ。


 生き残っているのか。


 滅びてしまったのか。


 助けを必要としているのか。


 それとも、既に別の形で発展しているのか。


 何一つ分からない。


 それは単なる不便さではなく、人々にとって大きな不安を抱え続けることを意味していた。


 すると、Rainが小さく呟いた。


「百年も……」


「よく分からないままなんだ……」


「はい」


 レオニスは静かに頷く。


「ですが、もし通信塔が復旧すれば、状況は変わります」


「他の都市と再び繋がれるかもしれません」


「失われていた情報を取り戻せるかもしれません」


「そして、百年前に何が起きたのか、その真実へ辿り着ける可能性もあります」


 そう言って、レオニスは通信塔を見上げた。


「百年前の人々が残した技術や記録が見つかる可能性もあります」


「各都市が現在どのような状況にあるのかも把握できるでしょう」


「それは、この世界の未来を大きく変える一歩になるはずです」


 その言葉を聞きながら、Arcは静かに考えていた。


(確かにメリットは大きいな)


 各都市との通信網。


 未知の地域や都市の情報。


 安全地帯の存在。


 魔物の出現情報。


 これまで各都市が個別に蓄積してきた知識や経験も共有できるようになるだろう。


 例えば、危険な魔物の生息地や未踏破エリアの情報。


 安全に移動できるルートや、貴重な資源が採れる場所。


 そういった情報が都市同士で共有されれば、探索の精度は格段に上がるはずだ。


 そうなれば、攻略の効率は飛躍的に向上する。


 危険な場所を事前に把握できるようになり、無駄な遠回りや不要な戦闘も減らせるだろう。


 結果として、犠牲になる人間も少なくなるはずだ。


 だが、それだけではない。


(イグニシアの現状も分かるかもしれない)


(百年前の冒険者たちの痕跡も見つかるかもしれないな)


 火の都イグニシア。


 百年前に連絡が途絶えたままの都市。


 もし今も存在しているのなら、そこには百年前の出来事を知る人物や資料が残っている可能性もある。


 あるいは、自分たちが知らない新たな情報が眠っているかもしれない。


 そう考えると、断る理由はほとんどなかった。


 むしろ、自分たちにとっても必要な設備と言っていい。


 すると、RainがArcへ視線を向ける。


「Arcはどう思う?」


 一同の視線が集まる。


 Arcは巨大な通信塔を見上げた。


 百年間止まり続けた設備。


 もし復旧すれば、この世界の攻略は大きく前進する。


 そして、それは自分たちだけではなく、この世界に暮らす人々の未来にも繋がるだろう。


 数秒考えたあと、Arcは静かに口を開いた。


「俺は構わない」


 その言葉に、レオニスの表情が少し明るくなる。


 だが、Arcはすぐに続けた。


「ただし、条件がある」


「条件……ですか?」


 レオニスが少し驚いたように聞き返す。


 Arcは静かに頷いた。


「白炎核は譲る」


「その代わり、シルヴァリアには協力してもらいたい」


 その言葉に、レオニスは真剣な表情で耳を傾ける。


 Arcとしても、ただ貴重な素材を渡すだけのつもりはなかった。


 通信塔の復旧は、自分たちにとっても大きな利益になる。


 だからこそ、一方的な譲渡ではなく、今後を見据えた協力関係を築いておきたかった。


 この街を拠点として利用できれば、探索の幅も大きく広がる。


 情報収集の効率も上がり、未知の階層へ挑む際の助けにもなるだろう。


 互いに利益のある関係を築くことが、今後の攻略には必要不可欠だった。


「もちろんです」


 レオニスは迷うことなく即座に答えた。


 すると、Arcは少し考えながら、指を折って条件を挙げていく。


「まず、この街を拠点として利用したい」


「拠点……ですか?」


 レオニスが確認するように聞き返す。


 Arcは頷いた。


「ああ。俺たちはこれからも探索を続けることになる」


「そのたびに安全に休める場所が必要だ」


「だから、宿泊施設の利用を認めてほしい」


「それと、物資の購入だな」


「食料や消耗品の補充ができる環境も必要になる」


 さらに言葉を続ける。


「情報共有も頼みたい」


「この世界のことは、まだ分からないことだらけだからな」


「街が持っている情報と、俺たちが探索で得た情報を互いに共有できれば、お互いに利益があるはずだ」


 そして、もう一つ条件を加える。


「武具工房の利用と、今後の探索への協力もお願いしたい」


「それが条件だ」


 すると、レオニスは少し驚いた表情を浮かべた。


 だが、その表情はすぐに穏やかな笑みに変わる。


「……その程度でよろしいのですか?」


「むしろ、その条件だけで済むのであれば安いものです」


「こちらこそ、ぜひ協力させてください」


 あまりにも迷いのない返答に、一同が少し驚いた表情を浮かべる。


 Rainも思わず目を瞬かせた。


 街の施設を利用し、情報共有まで求めたのだ。


 決して小さな条件ではない。


 それにもかかわらず、レオニスは一切ためらう様子を見せなかった。


 すると、レオニスは穏やかな表情のまま続ける。


「皆様は、この世界の希望です」


「協力できることがあるのなら、惜しむ理由などありません」


「それに、通信塔が復旧すれば恩恵を受けるのは我々だけではありません」


「皆様にとっても、この世界を探索する上で大きな助けになるでしょう」


「互いに協力し合うことこそ、最善の選択だと私は考えています」


 そう言って、レオニスは一同へ向かって軽く頭を下げた。


「シルヴァリアは、皆様を歓迎いたします」


 その言葉に、Rainたちも少し嬉しそうな表情を浮かべた。


 これで正式に、この街と協力関係を築くことになる。


 単なる一時的な協力ではない。


 今後の探索を支える、新たな繋がりが生まれた瞬間だった。


 地上とは別に、もう一つの拠点ができたことになる。


 探索の幅も大きく広がるだろう。


 すると、レオニスが通信塔へ視線を向ける。


 白い石造りの巨大な塔は、静かにその場に佇んでいた。


 長い年月を経ても、その威容は失われていない。


 だが、その内部にある機構は百年間、一度も動くことなく眠り続けていた。


 レオニスは、その姿を見上げながら静かに口を開く。


「では、早速準備を始めましょう」


「まずは白炎核との適合を確認しましょう。百年間停止していた設備ですので、慎重に進める必要があります」


「百年間止まり続けた希望を、再び動かすために」


 その言葉に、一行も自然と巨大な通信塔を見上げた。


 百年間止まり続けた塔。


 百年間失われていた世界との繋がり。


 そして、百年間待ち続けた希望。


 もし通信塔が正常に動き出せば、この世界の状況は大きく変わるだろう。


 他の都市の存在を確認できるかもしれない。


 失われていた情報を取り戻せるかもしれない。


 さらには、百年前に起きた出来事の真相へ近づく手掛かりも得られるはずだ。


 それは、この世界に暮らす人々だけではない。


 Aegisにとっても、大きな前進になる。


 その全てが、今まさに動き出そうとしていた。


 Arcは静かに通信塔を見上げる。


(百年前の真実も……少しずつ見えてきそうだな)


 そう思いながら、巨大な塔を見つめていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ