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世界最強ヒーラー、サービス終了したゲーム知識で現実ダンジョンを攻略する ~伝説のギルド《Aegis》復活~  作者: PeterP4n
第五章 新たなフロンティア

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第72話 風の都の貴族

#第72話 風の都の貴族


 騎士に案内されながら、Aegisの一行は風の都シルヴァリアの中へと足を踏み入れていった。


 目の前には、白い石畳の道がまっすぐ奥へと続いている。


 その両脇には、白い石造りの建物が整然と並び、多くの人々が忙しそうに行き交っていた。


 露店を広げて客を呼び込む者。


 荷車を押して荷物を運ぶ者。


 街をきれいに掃除している者。


 そこに広がっていたのは、特別な光景ではなく、誰かが日々を生きる、ごく当たり前の日常だった。


 その様子を見て、Rainが思わず声を漏らす。


「……すごい」


 続いて、Cainも周囲を見渡しながら感心したように呟いた。


「本当に人が住んでるんだな……」


 すると、Crowも辺りを見回しながら口を開いた。


「ダンジョンの中とは思えねぇな。完全に街そのものだ」


 さらに、驚いたように言葉を続ける。


「てっきりゲームみたいに、決まったことしか喋らない人たちがいるのかと思ってたんだけど……」


 その時だった。


 近くを通りかかった女性が、にこやかに会釈をする。


「ようこそ、冒険者様」


 そのあまりにも自然な反応に、Crowは思わず足を止めた。


「……いや、怖ぇよ」


「普通に会話してるじゃねぇか」


 その自然すぎる反応に、一同は改めて驚きを隠せなかった。


 Novaもまた、小さく息を呑みながら、街の人々へ視線を向けていた。


「本当に生きてるみたい……」


 一方で、Arcは静かに街並みを見渡していた。


 建物の配置や広場の位置は、ゲーム時代の記憶と一致している。


 けれど、そこに流れる空気はまるで別物だった。


 かつてのシルヴァリアは、ただの中継都市に過ぎない。


 補給を行い、クエストを受け、次の階層へ向かうための拠点だった。


 だが、今目の前にあるシルヴァリアは違う。


 人々の笑い声が街に響き、それぞれが自分の役割を持ちながら暮らしている。


 まるで、本当に一つの世界がそこに息づいているかのようだった。


 もはやゲームの舞台ではなく、一つの文明として確かに成り立っていた。


 Arcは心の中で静かに呟く。


(ここも現実になってるのか……)


 そんなことを考えているうちに、一行は大きな屋敷の前へとたどり着いた。


 周囲の建物よりひと回り大きく、美しい庭園まで備えられている。


 風を模した紋章が掲げられており、その存在感は遠目からでもはっきりと分かった。


 やがて案内役の騎士が足を止め、振り返って穏やかな声で告げる。


「到着いたしました。こちらがレオニス・ヴェルシア様のお屋敷です」


 そうして一行は、屋敷の中へと案内されていった。


 館の中には、赤い絨毯が敷かれた長い廊下が続いている。


 壁には美しい絵画が飾られ、落ち着いた雰囲気が漂っていた。


 しばらく歩いたところで、騎士が一つの部屋の前で立ち止まる。


「どうぞ」


 その言葉とともに、重厚な扉が静かに開かれた。


 部屋の奥には、一人の男性が立っている。


 淡い金色の髪に、整った身なり。


 そして、見る者に安心感を与えるような穏やかな表情を浮かべていた。


 レオニス・ヴェルシア。


 風の都シルヴァリアを治める貴族だった。


 彼は立ち上がると、深く頭を下げた。


「ようこそお越しくださいました、冒険者様方」


「まずは、この都を代表して感謝申し上げます」


 その丁寧な態度に、Rainが少し戸惑っている。


 レオニスは優しく微笑んだ。


「どうぞ、お掛けください」


 そう言って、長机へ案内する。


 一同が席に着くと、レオニスもゆっくりと向かい側へ腰を下ろした。


 そして、穏やかな表情のまま、静かに語り始める。


「まず、お伝えしなければならないことがあります」


「百年前、この世界には皆様と同じように冒険者が存在していました」


 その言葉に、Rainたちが驚いた表情を浮かべる。


「俺たちと同じ……?」


 Rainは思わずそう呟いた。


 すると、レオニスは静かに頷きながら答える。


「はい」


「彼らは異界より招かれし存在であると伝えられています」


「我々の世界では成し得ない力を持ち、多くの魔物を討伐してくださっていたのです」


 Arcは黙って耳を傾ける。


(やはりそうか……)


 百年前にも、自分たちと同じような存在がいた。


 Arcの中で、点だった情報が少しずつ線へと変わり始めていた。


 レオニスは続ける。


「そして当時、この世界には複数の都市が存在していました」


「その一つが、火の都イグニシアです」


「我々は魔法通信機を使い、各都市と連絡を取り合っていました」


 Novaが口を開く。


「じゃあ、今もあるんですか?」


 すると、その問いかけを受けたレオニスの表情がわずかに曇った。


 少し言葉を選ぶように間を置いてから、静かに口を開く。


「……分かりません」


「百年前を最後に、連絡は途絶えてしまったのです」


 その答えに、一同の表情が強張る。


 つい先ほどまで各都市が交流していたという話を聞いていただけに、その結末はあまりにも重かった。


 部屋の空気も自然と沈み込み、誰もすぐには言葉を返せなかった。


「当初は、イグニシアからも定期的に報告が届いていました」


「ですが、ある日を境に連絡が途絶えたのです」


「何度呼びかけても返答はありませんでした」


「救援を向かわせる余裕もありませんでした」


「我々もまた、自分たちの都を守ることで精一杯だったのです」


 レオニスは一度目を伏せた。


 当時の記録を思い返しているのか、その表情にはわずかな苦悩が浮かんでいる。


 各都市を助けたいと思っていても、誰もが自分たちの生き残りを優先せざるを得なかった。


 それほどまでに状況は切迫していたのだろう。


 しばらくして、レオニスはゆっくりと顔を上げ、再び話を続けた。


「百年前、各地で異変が起こり始めました」


「本来なら縄張りから出ることのない魔物たちが移動を始めたのです」


「単独で行動していた魔物たちが群れを形成し、これまで確認されていなかった強力な個体も次々と出現しました」


「最初は一時的な異変だと思っていました」


「ですが、事態は収まりませんでした」


「むしろ日を追うごとに悪化していったのです」


「そして、やがてそれはモンスターパレードへと発展しました」


 一同の表情が一斉に変わる。


 聞き覚えのある単語だったからだ。


 これまでにも何度か耳にしてきたが、その言葉が百年前の大災害と結びついていたことに、誰もが息を呑んでいた。


「モンスターパレード……」


 Rainが小さく呟く。


 その声には、わずかな緊張が混じっている。


 すると、レオニスは静かに頷いた。


 そして、当時の惨状を思い返すように、ゆっくりと言葉を続ける。


「大量の魔物たちが都市へ向けて押し寄せました」


「当時は城壁が三日三晩に渡って襲われ続け、多くの命が失われたと記録されています」


「そして、その混乱の中でイグニシアとの連絡は完全に途絶えたのです」


「それ以来、百年間、一度も返答はありません」


「今もなお、存在しているのかすら分かりません」


 重苦しい空気が部屋を包む中、Arcが静かに口を開いた。


「なぜ、俺たちを待っていたんだ?」


 その問いには、純粋な疑問だけでなく、どこか確かめるような響きも含まれていた。


 百年前の冒険者たちが姿を消し、各都市との連絡も途絶えた。


 それほどの絶望を経験してなお、なぜ彼らは異界の冒険者を待ち続けていたのか。


 Arcには、その理由が気になっていたのだ。


 すると、レオニスは穏やかな表情を浮かべ、静かに微笑んだ。


「百年前の記録に残っているからです」


「異界より現れし冒険者が、世界へ希望をもたらす、と」


「そして、再び魔物たちが活性化した時、再び異界の冒険者が現れるとも記されていました」


「だからこそ、我々は待ち続けていたのです」


 そう言い終えたレオニスは、一度Aegisの面々へ視線を向けた。


 そして、ふと思い出したように問いかける。


「ちなみに、皆様はいつ頃この世界へ来られたのですか?」


 突然の質問に、Aegisのメンバーたちは顔を見合わせる。


 だが、特に隠す必要もないと判断したのか、Arcが代表して答えた。


「一か月くらい前だ」


 その言葉を聞いた瞬間、レオニスの動きがぴたりと止まった。


 まるで聞き間違いをしたのではないかと確かめるように、目を見開いてArcを見つめている。


 部屋の空気も一瞬だけ静まり返った。


 Rainたちも、改めてその期間の短さを意識したのか、思わず顔を見合わせる。


 レオニスは数秒ほど言葉を失ったまま固まり、ようやく絞り出すように口を開いた。


「……一か月?」


「そうだ」


 Arcが淡々と答えると、再び部屋に沈黙が落ちる。


 レオニスは信じられないものを見るような表情を浮かべていた。


 百年前の記録を知る彼にとって、それがどれほど常識外れなことなのかを誰よりも理解していたからだ。


「たった一か月で……ここまで来られたのですか?」


「そうなるな」


 するとレオニスはゆっくりと首を横に振った。


「あり得ません……」


「百年前の冒険者たちも、皆様と同じように攻略を進めていました」


「ですが、当時はダンジョンの情報がほとんどありませんでした」


「未知の魔物に苦戦し、一つの階層を突破するだけでも多くの時間を要していたのです」


「そうして三年を費やしても、このシルヴァリアへ辿り着くことはできませんでした」


「そして、その最中にモンスターパレードが起きたのです」


 レオニスは改めてAegisの面々を見渡した。


 その視線には驚きだけでなく、どこか感嘆の色も混じっている。


「にもかかわらず、皆様は僅か一か月でここまで辿り着いた」


「これは、百年前の冒険者たちと比べても異例の速さです」


「当時の記録を知る私からすれば、とても信じられる話ではありません」


 そう言ってレオニスは小さく息を吐いた。


 Rainたちも改めてその事実の重みを実感し、驚いた表情を浮かべていた。


 三年かけても辿り着けなかった場所へ、自分たちはたった一か月で到達している。


 それがどれほど常識外れなことなのか、今になってようやく理解できたのだ。


 だが、Arcだけは静かに別のことを考えていた。


 百年前の冒険者たちが自分たちより遅れていた理由についてだ。


(ゲーム知識の差か……)


 そう考えれば、ある程度は説明がつく。


 自分たちはゲーム時代の知識を持っている。


 出現する魔物の特徴や攻略法、効率の良い進め方を知っていたからこそ、迷うことなくここまで辿り着けた。


 一方で、百年前の冒険者たちは何も知らない状態から手探りで進んでいたのだろう。


 その差が、三年と一か月という圧倒的な時間の差になって表れたのかもしれない。


 だが、Arcの中にはもう一つ、どうしても引っかかる疑問があった。


(もし百年前の冒険者たちが、俺たちの先代だったとしたら……)


 彼らもまた、自分たちと同じように別の世界からこの世界へやって来た存在だったのかもしれない。


 そして、自分たちと同じように、ダンジョン攻略という使命を背負っていたはずだ。


 だとすれば、彼らが元いた世界にも同じ現象が起きていた可能性が高い。


 だが、その世界がどうなったのかについては、誰も語っていない。


 そこが、Arcには妙に引っかかっていた。


 百年前の冒険者たちは、この世界へ召喚されたあと、元の世界へ戻れたのだろうか。


 それとも、戻ることなく、この世界のどこかで姿を消したのだろうか。


 もし戻れなかったのだとしたら、彼らがいた世界はどうなったのか。


(その世界はどうなった?)


 Arcの表情が僅かに曇る。


 考えれば考えるほど、不安な想像が頭をよぎった。


 もし、彼らがダンジョン攻略に失敗していたのだとしたら――。


(……滅びたのか)


 最悪の可能性が脳裏をよぎる。


 攻略が間に合わず、魔物たちが地上へ溢れ出した。


 人々は逃げ場を失い、都市は次々と崩壊していく。


 やがて文明そのものが失われ、人類が滅びる。


 そんな未来すら、今の状況を知れば十分にあり得る話だった。


 Arcは無意識のうちに静かに拳を握り締める。


 その表情には、危機感と決意が入り混じっていた。


(俺たちは……同じ結末を迎えるわけにはいかない)


 すると、レオニスが静かに口を開いた。


「そして最近、再び魔物たちの動きが活発になり始めています」


「百年前に起きた異変と、非常によく似ているのです」


 その言葉に、Rainたちは思わず息を呑んだ。


 百年前の出来事は、すでに終わった過去の話ではない。


 今まさに、同じ兆候がこの世界で再び現れ始めているのだ。


 もしこのまま放置すれば、再びモンスターパレードが発生し、各都市が壊滅的な被害を受ける可能性もある。


 だからこそ、シルヴァリアの人々は異界の冒険者を待ち続けていたのだろう。


 レオニスは真っ直ぐAegisの面々を見つめながら、静かに続けた。


「百年前の悲劇を、二度と繰り返してはなりません」


「そのためにも、皆様の力が必要なのです」


 部屋の中には重い沈黙が流れていた。


 百年前の悲劇。


 そして、再び始まろうとしている魔物たちの活性化。


 これまで断片的だった情報が一つに繋がり、この世界が抱える危機の全貌が少しずつ見え始めていた。

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