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世界最強ヒーラー、サービス終了したゲーム知識で現実ダンジョンを攻略する ~伝説のギルド《Aegis》復活~  作者: PeterP4n
第五章 新たなフロンティア

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第70話 風の都シルヴァリア

# 第70話 風の都シルヴァリア


 束の間の休息を終えたAegisは、二十三階層のさらに奥へと足を進めていた。


 湖畔を離れるにつれ、周囲の景色はゆっくりと姿を変えていく。


 深い森は次第に途切れ、鬱蒼としていた木々の密度も薄れていった。


 そして視界が開けた先に広がっていたのは、どこまでも続く広大な草原だった。


 背の低い草が風に揺れ、青空の下で波のようにうねっている。

 吹き抜ける柔らかな風が、彼らの頬を優しく撫でていった。


「なんか……ダンジョンって感じしないね」


 Rainが周囲を見回しながら呟く。


「安全階層の続きみたいだな」


 Cainも肩に大斧を担ぎながら同意した。


 確かに、その光景だけを見れば危険なダンジョンの内部とは思えないほど穏やかだった。


 しかし、Arcだけは気を緩めていなかった。


 ここは、もはやゲームではない。現実となったダンジョンだ。


 たとえゲーム時代の記憶と一致する場所であっても、すべてが同じとは限らない。


 そのことは、これまで遭遇してきた風狼王の存在が何よりの証明だった。


 ゲーム時代の記憶と一致する場所であっても、現実となったダンジョンでは何が起こるか分からない。

 だからこそ、油断は禁物だった。


「警戒は続ける」


 Arcが静かに告げる。


「何が出てもおかしくない」


 その言葉に、全員が無言で頷いた。


 Aegisは警戒を緩めることなく、草原を進んでいく。


 しばらくの間、周囲に変化はなかった。


 魔物の気配もなく、聞こえてくるのは草を揺らす風の音だけだ。


 穏やかな景色が広がっているにもかかわらず、誰一人として気を抜く者はいない。


 そんな中、不意にSiaが足を止めた。


「前方」


 短く告げられたその一言に、全員の視線が一斉に向けられる。


 草原の彼方、地平線の向こうには巨大な影が見えていた。


 最初は岩山かと思ったが、近付くにつれてその正体がはっきりとしてくる。


 白い城壁。


 高くそびえる外壁。


 そして、その向こうには無数の建物の屋根が並んでいた。


「……街?」


 Novaが思わず呟く。


 さらに歩みを進めると、その全貌が見えてきた。


 城壁は想像以上に巨大で、見上げるほどの高さを誇っていた。


 壁面には風を模した紋章が刻まれ、巨大な旗が風を受けてはためいている。


 そして、その正面には巨大な門がそびえ立っていた。


 鋼鉄と白石で造られた重厚な大門は、城壁にふさわしい威容を放っている。

 人が何十人も横に並んで通れるほどの大きさで、

 その圧倒的な存在感に思わず足を止めてしまうほどだった。


「でっか……」


 Rainが口を開けたまま見上げる。


「こんなの、どうやって入るんだ?」


 Crowも門の前で立ち止まり、呆れたように声を漏らした。


「押して開くサイズじゃねぇぞ」


 Garmも眉をひそめる。


 巨大な城壁の周囲は静まり返っていた。


 人の気配は感じられず、門も固く閉ざされたままだ。


 NovaがArcへ視線を向けた。


 Arcは巨大な門を見上げたまま、静かに口を開く。


 ここは風の都シルヴァリア。


 二十三階層に存在する中継都市であり、

 ゲーム時代には補給やクエストの受注を行う拠点として利用されていた場所だ。


「じゃあ街で合ってるんだ」


 Rainは少し安心したように表情を緩める。


 しかし、Arcの表情は晴れなかった。


 ゲームでは確かにそうだった。


 だが、今はもうゲームではない。


 この巨大な城壁の向こうに何が待っているのか、誰にも分からなかった。


 そんな中、Crowが巨大な門を見上げながら口を開いた。


「問題は、どうやって開けるかだな」


 その瞬間だった。


 ゴォン――。


 重々しい音が周囲に響き渡り、足元の地面がわずかに震える。


「え?」


 Rainが驚いたように目を見開いた。


 すると次の瞬間、巨大な門がゆっくりと動き始めた。


 ギィィィィィィ――。


 石と鉄が擦れ合うような低い音を響かせながら、門の隙間から光が漏れ出していく。


 ゆっくりと、しかし確実に、大門は内側へと開かれていった。


「嘘だろ……」


 Crowが思わず呟く。


「勝手に開いたぞ」


「いや、誰かが開けたんだ」


 Arcが静かにそう告げると、その場にいた全員が息を呑んだ。


 開き始めた門の奥から、何者かの気配が近づいてくる。


 やがて姿を現したのは、一団の騎士たちだった。


 先頭に立っていたのは、銀色の鎧を身にまとった一人の騎士だ。


 ただの兵士ではないことは、一目で分かった。


 装飾が施された胸当てに、風を模した紋章。そして背には青いマントをなびかせている。


 その立ち振る舞いには気品があり、高位の騎士、あるいは貴族であることを感じさせた。


 さらに、その背後には槍を携えた兵士たちが整然と控えている。


 騎士はAegisの前まで歩み寄ると、静かに膝を折った。


「ようこそお越しくださいました」


 丁寧な口調で告げられた言葉に、Rainが思わず固まる。


「しゃ、喋った……」


 Novaもまた、目を見開いたまま、その光景を見つめていた。


「NPC……よね?」


 思わず漏れた言葉に、Crowが低く呟く。


「嘘だろ……NPCがこっち見て話しかけてきたぞ」


 騎士は静かに顔を上げた。


 その瞳には、はっきりとした意思が宿っている。


 決められた台詞を機械的に読み上げているだけではない。

 こちらを見て、状況を判断し、反応しているのが伝わってきた。


 騎士はArcたちを見渡すと、再び口を開く。


「レオニス・ヴェルシア様がお呼びです。冒険者様方、こちらへお越しください」


 その言葉に、一同は思わず息を呑んだ。


 レオニス・ヴェルシア。


 その名前は、Arcにも聞き覚えがあった。


 風の都シルヴァリアを治める貴族であり、

 ゲームでは都市クエストの案内役として登場するNPCの名前だ。


 しかし、目の前にいる騎士はゲームのNPCとは明らかに違っていた。


 決められた動きを繰り返しているわけではない。


 目の前の騎士は、こちらの反応を待ち、警戒しながら、言葉を選んで話しているように見えた。


「……NPCじゃないの?」


 Rainが小さく尋ねる。


 Arcは騎士から視線を外さないまま、静かに答えた。


「いや、知性がある」


 その一言で、場の空気が変わった。


 すると、騎士の眉がわずかに動いた。


 まるでArcの言葉を理解したかのような反応だった。


 Novaが息を呑む。


「じゃあ……」


「生きてるってこと?」


 Arcは答えない。


 まだ断定できる段階ではない。


 だが、少なくとも目の前の存在は、ただのプログラムではなかった。


 彼らは自分たちを認識し、会話し、状況に応じて判断している。


 風狼王に続く、新たな異変――そう考えることもできる。


 しかし、Arcの脳裏には別の可能性が浮かんでいた。


 もしかすると、これは異変などではないのかもしれない。


 これこそが、現実となったダンジョンの本来の姿なのではないか。


 そんな考えが頭をよぎる。


 騎士は静かに立ち上がると、門の内側へ視線を向けた。


「ご案内いたします」


 その言葉とともに、開かれた大門の奥の景色が目に入る。


 白い石畳の道がまっすぐ伸び、その両脇には整然と建物が立ち並んでいた。


 さらに遠くには、高い塔と美しい城の姿も見える。


 風の都シルヴァリア。


 ゲームでは、ここは補給やクエストを受けるための中継都市に過ぎなかった。


 しかし今、彼らの目の前に広がるシルヴァリアは違う。


 石畳の道が伸び、その先には人々の暮らしを感じさせる建物が立ち並ぶ。

 そこには確かに、人の営みが息づいていた。


 Arcはその光景を見つめながら、小さく息を吐く。


「行くぞ」


 その一言に、Aegisの面々は緊張した面持ちで頷いた。


 未知の魔物。


 未知の都市。


 そして、知性を持つNPCたち。


 二十三階層で彼らを待ち受けていたのは、これまでの探索とはまったく異なる、

 新たな攻略の形だった。


 こうしてAegisは、騎士に導かれながら風の都シルヴァリアへと足を踏み入れた。


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