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世界最強ヒーラー、サービス終了したゲーム知識で現実ダンジョンを攻略する ~伝説のギルド《Aegis》復活~  作者: PeterP4n
第五章 新たなフロンティア

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第67話 風狼王討伐

# 第67話 風狼王討伐


 風狼王がゆっくりと立ち上がった。


 右目からは血が流れ、全身には無数の傷が刻まれている。

 呼吸も荒く、その姿は誰の目にも満身創痍だった。


 それでもなお、黄金の瞳だけは鋭い光を失っていなかった。


「まだかよ……」


 その姿を見て、Crowが思わず呟く。


 しかし、Arcは静かに首を振った。


「いや」


 落ち着いた声でそう言い、風狼王を見据える。


「もう終わりだ」


 仲間たちも視線を向ける。


 風狼王の身体は大きくふらつき、右前脚は小刻みに震えていた。

 呼吸も乱れ、今にも倒れそうな状態だ。


 それでも風狼王は立ち上がった。


 だが、その姿はすでに限界だった。


 満身創痍で、とても戦い続けられる状態ではない。


 それでも風狼王は顔を上げ、ゆっくりと大きく息を吸い込んだ。


 その瞬間、森の空気が震え、周囲の風が王のもとへ集まっていく。


 それは風狼王が放つ最後の咆哮だった。


「ガアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 轟く遠吠えが森全体を揺らす。


 敗北を認めようとしない王の誇り。


 最後の瞬間まで群れの王として立ち続けようとする強い意志。


 そのすべてが込められた咆哮だった。


 だが、その咆哮が終わると同時に、風狼王の身体から力が抜けていった。


 集まっていた風は消え、巨体が大きく揺らぐ。


 震える前脚が支えを失い、膝がゆっくりと地面へ落ちた。


 そして、風狼王の巨体は静かに傾き――。


 ズン――。


 重い音を響かせながら地面へ倒れ込む。


 舞い上がった土煙が森を包み、その中心で風狼王はもう動かなかった。


 誰も言葉を発せない。


 ただ数秒の静寂だけが、その場を支配していた。


 やがて、誰かが小さく息を漏らした。


「……勝った?」


 Rainの呟きが静寂の中に溶ける。


 Arcは倒れた風狼王から視線を外さないまま、静かに頷いた。


「ああ。討伐完了だ」


 その一言を合図に、張り詰めていた空気が一気に緩んだ。


 Crowは力が抜けたようにその場へ座り込み、Garmは深く息を吐き出す。

 Novaもまた疲労に耐えきれず地面へ腰を下ろし、Siaもようやく弓を下ろした。


 誰もが限界だった。


 それでも、誰一人欠けることなく勝利を掴み取ったのだ。


 Arcは改めて風狼王の亡骸を見つめる。


 それはゲームには存在しなかった魔物であり、これまでの知識が通用しない未知の敵だった。


 Crowがその場に大の字で倒れ込む。


「もう動けねぇ……」


 その声には、心の底から疲れ切った様子がにじんでいた。


 それを聞いた仲間たちは思わず苦笑する。


 無理もない。風狼王との激戦を終えたばかりのAegisの面々は、誰もが限界に近い状態だった。

 魔力も体力も大きく消耗し、緊張の糸が切れればその場に倒れ込んでしまいそうなほどだ。


 Arcも周囲を見回し、安全を確認してから静かに頷いた。


「さすがに疲れたな」


 そう言って仲間たちへ視線を向ける。


「今日は安全エリアを見つけて、この階層で休もう」


 その提案に異論を唱える者はいなかった。


 今の彼らに必要なのは、次の戦いへ進むことではなく、まず身体と心を休めることだった。


 こうしてAegisは風狼王の討伐を成し遂げ、大きな勝利を手にした。


 風狼王との激戦を終えたArcたちは、戦闘の余韻を残したまま周囲を警戒しながら移動を開始した。


「とりあえず安全な場所を探そう」


 Arcの言葉に、仲間たちは静かに頷く。


 しばらく森の中を進むと、やがて開けた岩場を見つけた。


 周囲に魔物の気配はない。


 見通しも良く、不意打ちを受ける心配も少なそうだった。


「ここなら大丈夫そうだな」


 周囲の様子を確認したArcは、そこで足を止めた。


「今日はここで休もう」


 その判断で、その日の野営地が決まる。


 仲間たちはすぐに役割を分担し、慣れた手つきで準備を始めた。


 CrowとGarmは周囲の警戒へ向かう。


 Aegisは焚き火の準備を担当し、NovaとRainは荷物の整理を進める。


 Siaも手際よくテントを張っていった。


「こういう作業だけは慣れてきたな」


 Crowが笑いながら言う。


「戦闘より得意かも」


 Rainが冗談を返すと、その言葉に皆が小さく笑った。


 やがて、焚き火に火が灯る。


 風狼王との死闘を終えた森には、先ほどまでの激しい戦いが嘘のような静かな時間が流れていた。


 焚き火のそばでは、Novaが仲間たちに温かいスープを配っている。


「はい、みんな」


「助かる」


 Garmは礼を言いながら器を受け取った。


 湯気の立つスープを一口飲むと、張り詰めていた緊張がほどけるように肩の力が抜ける。


「生き返るな……」


「今日は本当に危なかったからね」


 Siaも苦笑しながら頷いた。


 仲間たちはそれぞれ静かにスープを口に運び、束の間の休息を味わう。


 やがて、戦いの余韻に包まれた静寂を破るように、Rainがふと思い出したように口を開いた。


「そういえばさ」


「今回一番活躍したのってCrowじゃない?」


 その一言に、自然と全員の視線がCrowへ集まる。


「は?」


 当の本人だけが、予想外だと言わんばかりの間の抜けた声を漏らした。


 しかし、仲間たちの反応は真剣だった。


「いや、実際そうだろ」


 Garmが当然のように頷く。


「最後もかなり削ってたしな」


 Aegisメンバー全員がその意見に同意した。


 Siaも穏やかな笑みを浮かべながら口を開いた。


 彼女もまた、今回の戦いでCrowの働きが大きかったと感じていた。


「私もそう思う」


「Crowが動いてくれたおかげで攻撃の機会が増えたから」


 思いがけない評価に、Crowは照れくさそうに頭を掻いた。


「おいおい、急に褒めるなよ」


 その反応を見て、Rainが楽しそうに笑う。


「照れてる」


「うるさい」


 否定しながらもまんざらではなさそうな様子に、仲間たちから自然と笑いが漏れた。


 その様子を見ながら、Arcも小さく頷いた。


 今回の戦いで最も活躍したのは誰か――そう問われれば、答えは一つだった。


「今回はCrowがMVPだな」


 Arcの言葉に、Crowは苦笑する。


「リーダーまで言うのかよ……」


 困ったような口調だったが、その表情にはどこか嬉しさも滲んでいた。


 仲間たちの笑い声がひとしきり続き、やがて落ち着きを取り戻す。


 するとArcは焚き火の揺れる炎を見つめながら、ぽつりと口を開いた。


「それにしても」


「風狼王が出てくるとは思わなかった」


 その一言で、和やかだった空気がわずかに引き締まる。


 今回の戦いで最も不可解だった存在。


 ゲームには存在しなかったはずの魔物――風狼王。


 Rainがその疑問を口にした。


「あれってゲームにはいなかったんだよな?」


「ああ」


 Arcは頷いた。


「少なくとも俺の知ってる情報には存在しない」


「普通の風狼の群れがいるだけのエリアだった」


「じゃあ完全に想定外だったのか」


 Garmが眉をひそめる。


「そうなるな」


 Arcは焚き火の炎を見つめる。


「ゲームの知識があれば有利だと思っていた」


「でも現実になったこの世界は違う」


「新しい魔物もいるし、今後もっと予想外のことが起きるかもしれない」


 誰も反論しなかった。


 これまで幾度となく死線を越えてきた。その積み重ねが、彼らに確かな自信を与えていた。


 それでも未来に何が待っているかは分からない。


 そんな空気の中、Crowが肩をすくめて口を開く。


「まあ、その時はまた倒せばいいだろ」


 あまりにも単純な言葉だった。


 だが、その一言には不思議な安心感があった。


「違いない」


 Aegisが笑いながら応じる。


 Rainも頷き、Novaも小さく微笑んだ。


 その様子を見たArcの口元にも自然と笑みが浮かぶ。


「ああ。みんながいるなら何とかなる」


 率直な言葉に、その場の空気が少しだけ照れくさくなる。


「リーダーが珍しく素直だ」


 Crowがからかうように言う。


「事実を言っただけだ」


「はいはい」


 再び笑い声が広がった。


 激戦を乗り越えた直後だからこそ、こうした何気ないやり取りが心地よく感じられる。


 こうしてAegisは安全エリアにテントを張り、次なる探索に備えてゆっくりと休息を取るのだった。


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