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世界最強ヒーラー、サービス終了したゲーム知識で現実ダンジョンを攻略する ~伝説のギルド《Aegis》復活~  作者: PeterP4n
第五章 新たなフロンティア

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第61話 風狼王

#第61話 風狼王


 巨大樹の奥。


 闇のような森の中から現れた影を見た瞬間だった。


 Arcの表情が凍り付く。


「……嘘だろ」


 思わず声が漏れた。


 巨大だった。


 普通のウインドウルフの二倍。


 いや。


 三倍近い。


 全身を覆う漆黒の毛並み。


 風を纏う度に周囲の枝葉が大きく揺れる。


 黄金の瞳だけが森の中で異様な存在感を放っていた。


 一歩。


 風狼王が前へ出る。


 それだけだった。


 だが。


 周囲の風が渦を巻く。


 落ち葉が舞い上がる。


 木々が軋む。


 まるで森そのものが王の存在へ反応しているようだった。


「なんだよ……あれ」


 Rainが呟く。


 無意識に唾を飲み込んでいた。


 風狼王はまだ何もしていない。


 ただ立っているだけだ。


 それなのに。


 目を離したら死ぬ。


 そんな錯覚を覚える。


 Crowも黒剣を握り直す。


 Garmは盾を構える。


 Novaも杖を強く握った。


 誰もが理解していた。


 あれは普通の魔物じゃない。


 その時だった。


 風狼王がゆっくりと首を巡らせる。


 黄金の瞳がAegisを順番に見ていく。


 Crow。


 Garm。


 Rain。


 Cain。


 Nova。


 Sia。


 そして。


 最後にArc。


 ただ見ている訳じゃない。


 観察している。


 品定めしている。


 そんな視線だった。


 思わず背筋が冷える。


 そして。


 風狼王の視線が止まった。


 それだけだった。


 咆哮も無い。


 命令も無い。


 だが。


 一匹のウインドウルフが頭を下げる。


 続いて二匹。


 三匹。


 そして。


 数十体全てのウインドウルフが同時に頭を垂れた。


 威嚇もしない。


 逆らいもしない。


 牙を剥く個体すらいない。


 完全服従だった。


「統率してるのか……」


 Cainが低く呟く。


 群れではない。


 軍隊だった。


 王の命令一つで動く。


 そんな光景だった。


 だが。


 Arcは別のことを考えていた。


 必死に記憶を探る。


 二十一階層。


 風の森林。


 ウインドウルフ。


 隠しイベント。


 特殊個体。


 レイドボス。


 思い出せ。


 何かあるはずだ。


 ゲーム時代。


 攻略サイトも見た。


 海外フォーラムも漁った。


 レイド情報も集めた。


 それでも。


 何も無い。


 本当に無い。


 そんな存在は知らない。


「Arc」


 Novaが呼ぶ。


「知ってるの?」


 数秒。


 沈黙。


 そして。


 Arcは首を横へ振った。


「知らない」


 全員が固まる。


 初めてだった。


 ゲーム知識の塊であるArcが。


 知らないと言ったのは。


「ゲームにもいなかった」


 その声は重かった。


 七階層特殊レイド。


 二十階層火炎龍。


 どちらも驚いた。


 だが。


 今回だけは違う。


 Arcの知識そのものが通用していない。


 完全な未知。


 それが目の前にいた。


 嫌な汗が背中を伝う。


 火炎龍と戦った時でさえ。


 攻略法は分かっていた。


 弱点も。


 行動パターンも。


 対処法も。


 だが違う。


 今回は何も無い。


 知識も。


 経験も。


 頼れるものが無かった。


 初めてだった。


 攻略法が浮かばない。


 弱点も知らない。


 行動パターンも分からない。


 目の前にいるのに。


 何も分からない。


 その事実が何より不気味だった。


 風狼王がこちらを見る。


 黄金の瞳。


 視線が合う。


 背筋が震えた。


 本能が警告している。


 危険だと。


 その時だった。


 風狼王が一歩前へ出る。


 同時に。


 広場に集まっていたウインドウルフたちも動いた。


 ざわり。


 数十体の狼が立ち上がる。


 まるで王の命令を待っているようだった。


 Rainが舌打ちする。


「やるしかないか」


 Arcも頷いた。


 逃げるには遅い。


 だが。


 このまま王へ挑む訳にはいかない。


 群れを放置したまま風狼王と戦うのは不可能だ。


 なら。


 まずは役割分担だ。


 誰かが風狼王を引き受ける。


 誰かが群れを引きつける。


 残りで数を減らす。


 それしか道はなかった。


「Crow」


 Arcが呼ぶ。


 黒剣を握るCrowが前へ出た。


 風狼王。


 群れ。


 両方を同時に相手取るのは不可能だ。


 なら分断するしかない。


 それがArcの結論だった。


「Crow」


 名前を呼ぶ。


 Crowはすぐに振り返った。


 説明は必要なかった。


 長い付き合いだった。


 Arcが何を考えているのか。


 どんな役割を求めているのか。


 大体分かる。


「風狼王を引き離せ」


 短い指示。


 だが十分だった。


 Crowは黒剣を肩へ担ぐ。


 口元が僅かに吊り上がる。


「一番面倒な役か」


 愚痴のように言う。


 だが断る気は無い。


「出来るか?」


「誰に言ってる」


 その声には自信しか無かった。


「任せろ」


 次の瞬間。


 Crowが地面を蹴る。


 落ち葉が舞う。


 身体が前へ飛び出す。


 一直線だった。


 広場を横切り。


 風狼王へ向かう。


 黄金の瞳がCrowを捉える。


 だが。


 Crowは止まらない。


「こっち見ろ化物!」


《Taunt》


 黒い魔力が広がる。


 挑発。


 敵意を強制的に自分へ向けるスキル。


 風狼王の瞳が僅かに細まった。


 空気が変わる。


 視線が固定される。


 成功だった。


「よし」


 Crowは即座に方向を変える。


 群れから離れる。


 木々の奥へ。


 広場から少し距離を取る。


 風狼王も動いた。


 巨大な身体。


 だが遅くない。


 むしろ速い。


 普通の狼より遥かに速い。


 その巨体がCrowを追い始める。


 群れから。


 少しずつ離れていった。


「Garm!」


 Arcが叫ぶ。


「おう!」


 重戦士が前へ出る。


 巨大盾を構える。


 視線の先には数十体のウインドウルフ。


 普通なら逃げ出してもおかしくない数だ。


 だが。


 Garmは違った。


 役割は決まっている。


 群れを集める。


 それだけだ。


「群れのヘイトを取れ!」


「任せろ!」


 Garmが大きく息を吸う。


 肺が膨らむ。


 筋肉が軋む。


 そして。


《War Cry》


 轟音だった。


 森全体を揺らす咆哮。


 枝葉が震える。


 木々が揺れる。


 小鳥たちが一斉に飛び立つ。


 ウインドウルフたちの耳が動いた。


 次の瞬間。


 数十対の視線がGarmへ集中する。


 敵意。


 殺意。


 獲物を見つけた肉食獣の目だった。


「来い!」


 Garmが盾を叩く。


 挑発するように。


 狼たちが動いた。


 一体。


 二体。


 十体。


 二十体。


 気付けば群れ全体がGarmへ向かっていた。


 だが。


 Garmは迎え撃たない。


 後ろへ下がる。


 一歩。


 また一歩。


 わざと追わせる。


 狼たちの位置を確認しながら。


 木々の配置を見ながら。


 開けた場所へ誘導していく。


 群れを固めるためだった。


 その様子を確認したArcは次の指示を飛ばす。


「Cain!」


「おう!」


「Rain!」


「任せて!」


 二人が前へ出る。


 視線の先は風狼王。


 既にCrowが交戦を始めていた。


「Crowの援護だ!」


「任せろ!」


 Cainが笑う。


 大剣を肩へ担ぎ直す。


 強敵を前にした時の顔だった。


 恐怖より先に闘志が出る。


 そういう男だった。


「行ってくる!」


 Rainも笑う。


 だが。


 その目は真剣だった。


 風狼王から一瞬も視線を外さない。


 二人は同時に駆け出す。


 Crowの援護へ向かって。


 一方。


 Arcは後方へ振り返る。


「Sia、Nova」


 二人が同時に視線を向ける。


 Arcは群れを追うGarmを見ながら言った。


「全体攻撃の準備だ」


「了解」


 Siaが短く答える。


「任せて」


 Novaも頷いた。


 Siaはすぐに空を見上げる。


 地上では射線が通らない。


 木々が邪魔になる。


 なら。


 上だ。


 地面を蹴る。


 身体が浮く。


 最初の枝へ着地。


 止まらない。


 次の枝。


 さらに上。


 森を見下ろせる高さまで一気に駆け上がる。


 弓を構える。


 ここなら全体が見える。


 群れも。


 風狼王も。


 全てが射程内だった。


 一方で。


 Novaも杖を握り直す。


 肩のサラマンダーが小さく鳴く。


 キュゥ。


 炎が揺れる。


 赤い魔力がNovaの周囲へ集まり始める。


 空気が熱を帯びる。


 火属性魔力が濃くなる。


 森の中だというのに。


 周囲の温度が上がっていく。


 その間にも。


 Garmは群れを誘導し続けていた。


 十体。


 二十体。


 三十体。


 数十体のウインドウルフがGarmだけを狙っている。


 そして。


 ついに。


 群れが開けた場所へ集まった。


 狼たちが密集する。


 互いの身体がぶつかるほどに。


 Arcはその瞬間を待っていた。


 これ以上無いほど綺麗に集まっている。


 範囲攻撃には最高の形だった。


 Arcの目が鋭くなる。


「今だ!」


 叫ぶ。


 樹上のSiaが弓を引く。


 Novaの杖が赤く輝く。


 次の瞬間。


 空気が震えた。


 だが――。


 群れの中心で、一体のウインドウルフが不自然に空を見上げる。


 そして遠く離れた風狼王が。


 まるで何かを察知したかのように咆哮した。


 その声を聞いた瞬間。


 Arcの背筋を冷たいものが走る。


「……まさか」


 死の雨が降る。


 その直前だった。

第六十一話を読んでいただきありがとうございます!


ついに姿を現した風狼王。


ゲーム知識を持つArcですら知らない存在が現れ、二十一階層の異変も少しずつ明らかになってきました。


そしてAegisは役割を分担し迎撃開始。


ですが――風狼王もただ見ていただけではなさそうです。


次回、風狼王の本当の脅威が見えてきます。


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