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世界最強ヒーラー、サービス終了したゲーム知識で現実ダンジョンを攻略する ~伝説のギルド《Aegis》復活~  作者: PeterP4n
第五章 新たなフロンティア

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第60話 風の森林の異変

#第60話 風の森林の異変


 ウインドウルフとの戦闘を終えた後。


 Aegisはその場で短時間の確認を行っていた。


 森には再び静寂が戻っている。


 葉擦れの音。


 小川のせせらぎ。


 遠くで鳴く鳥型魔物の声。


 つい先ほどまで戦闘があったとは思えないほど穏やかだった。


 だが。


 Arcだけは倒れたウインドウルフを見下ろしていた。


「まだ気になってるのか?」


 Cainが声を掛ける。


 Arcは頷いた。


「ああ」


 短い返答だった。


 だが表情は真剣だった。


 ウインドウルフの死体。


 周囲の地形。


 森の構造。


 全てを確認している。


「そんなに違うの?」


 Novaが聞く。


 Arcは少し考えた後で答えた。


「違うな」


 そう言いながら周囲を見渡す。


 風が吹く。


 頭上の枝葉がざわりと揺れた。


 木漏れ日が地面へ落ちる。


 視界は悪い。


 数十メートル先ですら木々が邪魔になる。


 この地形なら。


 大型魔物が潜んでいても直前まで気付けない。


「デプクロの二十一階層は森林エリアだった」


「それは知ってる」


 Rainが頷く。


「問題は配置だ」


「配置?」


「魔物の縄張りだな」


 Arcは地面へ視線を落とした。


「本来なら入口付近にウインドウルフは出ない」


 全員が視線を向ける。


「最初に出るのは風鳥系の魔物だ」


「ウインドウルフが出始めるのはもっと奥」


「森林中央部からだったはずなんだ」


「そんなに違うのか」


 Crowが眉をひそめる。


「ああ」


 Arcは頷いた。


「魔物の配置は階層設計の一部だからな」


 探索者にとって。


 魔物の配置は地図と同じだ。


 どこに何がいるのか。


 どこが危険なのか。


 どこが安全なのか。


 それら全てが攻略情報になる。


「配置が変わるってことは」


 Arcは続けた。


「地図そのものが変わるってことだ」


 Rainの表情が引き締まる。


 それは理解できた。


 Arcの最大の武器はゲーム知識だ。


 その知識が通用しなくなる。


 それはそのまま危険へ繋がる。


「嫌な話だな」


 Cainが苦笑した。


「だろうな」


 Arcも同意した。


 七階層。


 二十階層。


 そして二十一階層。


 三度目。


 偶然で片付けられる回数ではない。


 何かが起きている。


 それだけは確かだった。


「けどよ」


 Rainが首を傾げる。


「配置が変わっただけかもしれないだろ?」


「それならまだいい」


 Arcは即答した。


「問題はその理由だ」


 魔物は理由なく移動しない。


 縄張りを持つ魔物なら尚更だ。


 何かから逃げているのか。


 何かに追われているのか。


 あるいは。


 何かに集められているのか。


 その答えが分からない。


 だから不気味だった。


 その時だった。


「Arc」


 Siaが呼ぶ。


 その声で思考が中断される。


 振り返る。


 Siaは森の奥を見ていた。


 耳を澄ませている。


 風の流れを読むように。


 静かに。


 集中していた。


「どうした?」


「……おかしい」


 Siaが呟く。


 Arcの表情が変わる。


 Siaがこう言う時は大体当たる。


「何がだ?」


「気配が多い」


 全員の空気が変わった。


 戦闘前の空気。


 Rainが双剣へ手を掛ける。


 Crowが黒剣を持ち直す。


 Garmも盾を構えた。


 Siaは目を閉じる。


 風の流れ。


 枝葉の揺れ。


 獣の呼吸。


 足音。


 普通の探索者なら雑音で終わる。


 だが。


 レンジャーとなったSiaには違った。


 一つ一つが情報だった。


 風に混じる匂い。


 葉の擦れる方向。


 木々の振動。


 その全てから位置を割り出していく。


 数秒後。


 ゆっくりと目を開いた。


「前方三百メートル」


 短い声。


 全員の表情が引き締まる。


「数は?」


 Arcが聞く。


「十体以上」


 Rainが顔をしかめた。


「多くないか?」


「ああ」


 Arcも頷く。


 二十一階層の入口付近で遭遇する数じゃない。


「種類は?」


「多分ウインドウルフ」


 Siaが答える。


 その瞬間。


 Arcの違和感がさらに強くなる。


 本来。


 ウインドウルフは群れ同士で縄張り争いをする。


 一箇所へ集まる魔物じゃない。


 それなのに。


 今日は違う。


 出現位置も。


 遭遇数も。


 何もかもがおかしい。


「でも……」


 Siaが言葉を止める。


「でも?」


 Arcが聞く。


 Siaはさらに集中する。


 森の奥。


 もっと奥。


 気配を探る。


 そして。


 その顔色が変わった。


「その群れ……」


 小さな声。


「移動してる」


 全員が黙った。


「どこへ?」


 Crowが聞く。


 Siaは森の奥を見つめる。


「同じ方向」


「全部」


 Arcの眉が僅かに動く。


 群れが移動している。


 しかも複数。


 そんな現象はゲームでも見たことがない。


「数は?」


 Arcが聞く。


 Siaは答えない。


 いや。


 答えられなかった。


 数秒。


 沈黙が続く。


 そして。


「……分からない」


 全員が黙った。


 Siaが数を把握できない。


 それ自体が異常だった。


「多過ぎる」


 額を汗が流れる。


 森の奥。


 見えない場所。


 そこには。


 異常な数のウインドウルフが集まり続けていた。


 その事実だけで十分だった。


 全員の表情が引き締まる。


「撤退するか?」


 Crowが聞く。


 だが。


 Arcは首を横へ振った。


「まだ早い」


 即答だった。


 視線は森の奥へ向いている。


 考えていた。


 群れの移動。


 出現位置の異常。


 遭遇数の増加。


 全てを繋ぎ合わせる。


 だが答えは出ない。


 情報が足りなかった。


「距離は?」


「三百メートルくらい」


 Siaが答える。


「移動速度は遅い」


「戦闘態勢じゃない」


 Arcの眉が僅かに動いた。


「逃げてる感じは?」


「ない」


 Siaは首を横へ振る。


「追われてる訳じゃない」


「自分から移動してる」


 その言葉にArcはさらに考え込む。


 逃走ではない。


 なら。


 何かへ向かっている。


「追跡する」


 Arcが決断した。


 Rainが目を丸くする。


「マジで?」


「ああ」


「危なくないか?」


「危ない」


 Arcは即答した。


「でも知らない方が危険だ」


 現実のダンジョンは変化している。


 それはもう確定している。


 なら。


 変化の理由を知る必要があった。


「無理はしない」


 Arcが全員を見る。


「危険なら即撤退」


「了解」


 全員が頷く。


 Aegisは再び隊列を組んだ。


 先頭はSia。


 その後ろをCrowが進む。


 Garmが中央。


 RainとCainが左右へ散る。


 Novaが後衛火力。


 そして最後尾からArcが全体を監視する。


 慎重に。


 一歩ずつ進む。


 巨大樹の間を抜ける。


 視界は悪い。


 枝葉が空を覆っている。


 風が吹く。


 葉が揺れる。


 だが。


 森は静かだった。


 静か過ぎた。


「鳥がいないな」


 Novaが呟く。


 Arcも気付いていた。


 二十一階層へ入った時は聞こえていた。


 鳥型魔物の鳴き声。


 小動物の気配。


 それが消えている。


 まるで森全体が何かを警戒しているようだった。


「嫌な感じだな」


 Cainが大剣を握る。


 十分ほど進んだ時だった。


 Siaが拳を上げる。


 停止。


 全員がその場へしゃがみ込む。


「見えた」


 小さな声。


 Siaが前方を指差す。


 巨大樹の根元。


 その先に少し開けた空間があった。


 Arcは慎重に身を乗り出す。


 そして。


 息を止めた。


「……多いな」


 思わず漏れる。


 最初は一体だった。


 木の陰。


 灰色の毛並み。


 ウインドウルフ。


 その隣にもいる。


 さらに奥にも。


 右にも。


 左にも。


 気付けば視界の至る所に狼がいた。


 二十。


 三十。


 四十。


 まだいる。


 数えるのを途中でやめた。


 意味がなかった。


「おいおい……」


 Rainが思わず唾を飲み込む。


 一体一体は倒せる。


 さっき証明した。


 だが。


 数が違う。


 あれだけの群れが一斉に襲ってきたら。


 流石に笑えなかった。


「正面突破は無理だな」


 Garmが小さく呟く。


 盾役の彼だからこそ分かる。


 あの数は受け切れない。


 どれだけ防御力があっても限度がある。


「逃げ道は確保しとくか」


 Crowは既に周囲を観察していた。


 戦う場所ではなく。


 逃げる場所を見ている。


 撤退経路。


 障害物。


 木々の配置。


 もしもの時に備えていた。


 異常だった。


 どう見ても異常だった。


 だが。


 さらに異常だったのは。


「喧嘩してない」


 Crowが呟く。


 本来なら縄張り争いになる。


 群れ同士で牙を剥き合う。


 だが今は違う。


 威嚇もしない。


 唸りもしない。


 争う気配すら無かった。


 全てのウインドウルフが同じ方向を見ている。


 森のさらに奥。


 何かを待つように。


 何かへ従うように。


 Arcは息を呑んだ。


 本来ウインドウルフは群れ同士で争う。


 縄張りが重なれば殺し合う。


 だから。


 こんな風に集まること自体がおかしい。


 嫌な予感がした。


 七階層。


 二十階層。


 そして今。


 三度目。


 ゲーム知識が外れるたびに。


 事態は悪化している。


「Arc」


 Siaが小声で呼ぶ。


「あそこ」


 視線を追う。


 広場の中央。


 そこだけ不自然に空いていた。


 狼たちはその場所へ近付かない。


 一歩も。


 誰一匹として。


 空いているのに。


 そこだけが無人だった。


 まるで。


 立ち入りを禁じられているように。


 いや。


 違う。


 Arcは気付く。


 あれは空席だ。


 誰も座れない場所。


 誰かが座るべき場所。


 まるで王座だった。


 そして。


 唯一考えられるとしたら。


 群れ全てを従わせる存在がいる。


「まさか……」


 Arcが小さく呟く。


 その時だった。


 風が止まる。


 葉擦れの音が消える。


 森全体が静まり返った。


 広場にいたウインドウルフたちが一斉に頭を下げる。


 臣下が王を迎えるように。


 次の瞬間。


 巨大樹の奥。


 闇のような森の中から。


 巨大な影が姿を現した。


 ゆっくりと。


 一歩。


 また一歩。


 その姿を見た瞬間。


 Arcの表情が凍り付いた。


「……嘘だろ」


 ゲームでも見たことがない。


 そんな化物だった。

第六十話を読んでいただきありがとうございます!


二十一階層で見つかった異常なウインドウルフの群れ。


ゲーム知識を持つArcですら予想できない事態が起き始めています。


そして最後に現れた巨大な影。


その正体は次回――。


面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!


それではまた次回!

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