表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界最強ヒーラー、サービス終了したゲーム知識で現実ダンジョンを攻略する ~伝説のギルド《Aegis》復活~  作者: PeterP4n
第五章 新たなフロンティア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/111

第58話 暗黒騎士の戦い方

#第58話 暗黒騎士の戦い方


 ドンッ!!


 巨大な枝が爆ぜた。


 木片が飛び散る。


 揺れた枝葉の中から灰色の影が飛び出した。


 大きい。


 人間より遥かに大きい。


 狼。


 だが普通の狼じゃない。


 肩の高さだけでRainの胸元近くある。


 筋肉の盛り上がった四肢。


 剥き出しの牙。


 そして身体の周囲を流れる淡い風。


 着地した瞬間。


 足元の落ち葉が吹き飛んだ。


 だが。


 次の瞬間にはもう別の枝へ飛び移っている。


 速い。


 視線を向けた時にはもうそこにいない。


 風そのものが獣の姿を取ったようだった。


「速っ!?」


 Rainが思わず声を上げる。


 二十階層までの魔物とは明らかに違う。


 中層。


 その言葉を嫌でも実感させられる速度だった。


「ウインドウルフだ」


 Arcが前を見る。


「二十一階層の代表的な魔物だ」


「代表的ってレベルじゃねぇだろ……」


 Rainが双剣を抜く。


 金属音。


 二本の刃が森の光を反射した。


 その時だった。


 ガサァッ!!


 茂みが弾ける。


 一体。


 続いて二体。


 三体。


 灰色の狼たちが姿を現した。


 樹上にも二体。


 合計五体。


 既に包囲に近い位置取りだった。


 灰色の瞳がAegisを見据える。


 獲物を見る目だった。


 低い唸り声。


 牙の隙間から白い息が漏れる。


 飛び掛かる機会を窺っていた。


「来るぞ」


 Arcが告げる。


 その声と同時だった。


 狼たちが地面を蹴る。


 風が弾けた。


 一直線。


 普通の探索者なら反応できない速度だった。


「Crow」


「ああ」


 Crowが前へ出る。


 ゆっくり。


 だが迷いは無い。


 黒剣を肩へ担ぐ。


 狼たちの視線が集まる。


 以前なら避けていた。


 攻撃を受ける前に動き。


 死角へ回り込み。


 隙を突いて斬る。


 それがCrowの戦い方だった。


 だが今は違う。


 暗黒騎士。


 受けることで強くなる職業。


 新しい力を試す時だった。


《ヘイスト》


 Arcの杖が淡く輝く。


 白い魔法陣がCrowの足元へ展開された。


 魔力が流れ込む。


 重かった身体が軽くなる。


 筋肉の反応速度が上がる。


 視界が鮮明になる。


 世界が少しだけ遅く見えた。


 狼の脚運び。


 筋肉の動き。


 飛び掛かる予兆まで見える。


《プロテクション》


 続けて金色の光が広がる。


 Crowの鎧を魔力が覆った。


 見た目は変わらない。


 だが違う。


 牙を受けた時。


 爪を受けた時。


 その衝撃は確実に軽減される。


 Arcの防御支援だった。


「行けるな」


 Arcが聞く。


「十分だ」


 Crowが笑う。


 黒剣を前へ向けた。


 そして。


 一歩前へ出る。


《War Cry》


 Crowが大きく息を吸う。


 肺が膨らむ。


 胸が膨らむ。


 次の瞬間。


「オオオオオオオオオオッ!!」


 咆哮。


 腹の底から絞り出された声が森へ響いた。


 空気が震える。


 枝葉が大きく揺れる。


 木々に止まっていた鳥型魔物が一斉に飛び立った。


 その声には敵意を引き寄せる魔力が乗っている。


 ウインドウルフの耳が動く。


 灰色の瞳がCrowへ向いた。


 一体。


 二体。


 三体。


 五体全て。


 獲物を見ていた目が変わる。


 標的が変わった。


 Crowへ。


 敵意。


 殺意。


 全てが集中する。


 ヘイト取得。


 敵を引き付けるためのスキルだった。


「来い」


 Crowが笑う。


 次の瞬間。


 狼たちが飛び掛かった。


 ガァァァッ!!


 牙が迫る。


 喉笛を食い破る軌道。


 普通なら避ける。


 今までのCrowなら避けていた。


 だが。


 今回は違う。


 受ける。


 真正面から。


 ガァァァン!!


 牙が肩当てへ突き刺さる。


 凄まじい衝撃。


 足元の土が抉れた。


 身体が揺れる。


 肺の空気が押し出される。


 だが。


 退かない。


 一歩も。


 二体目。


 三体目。


 左右から飛び掛かる。


 火花が散る。


 鎧が軋む。


 爪が肩を裂く。


 HPが削られていく。


 八割。


 七割。


 六割。


「Crow!」


 Rainが叫ぶ。


 だが。


 Crowは笑っていた。


《ブラッドドライブ》


 ドクン。


 心臓が大きく脈打った。


 次の瞬間。


 全身の血液が熱を帯びる。


 身体の奥で炎が燃え始めたみたいだった。


 熱い。


 焼けるように熱い。


 だが不快じゃない。


 力だった。


 筋肉の一本一本へ力が流れ込む。


 握力が増す。


 脚へ力が入る。


 剣が軽い。


 呼吸が軽い。


 視界が鮮明になる。


 狼の動きが見える。


 速かったはずの動きが。


 今は追える。


「まだだ」


 さらに前へ出る。


 牙を受ける。


 爪を受ける。


 HPが削れる。


 五割五分。


 五割二分。


 そして。


 五割。


 その瞬間だった。


 黒い魔力が噴き出した。


《ラストスタンド》


 影が身体へ纏わり付く。


 黒い鎧がさらに厚みを増す。


 狼の爪が肩を裂く。


 だが。


 浅い。


 先ほどなら鎧ごと抉られていた一撃だった。


 黒い魔力が衝撃を吸収している。


 まるで影そのものが鎧になったようだった。


 身体は重くない。


 それなのに硬い。


 明らかに違う。


 Crow自身がそう感じた。


 今までより耐えられる。


 今までより前へ立てる。


 それが分かった。


 CrowのHPが削られる。


 四割九分。


 HPバーが赤く染まる。


 普通なら即回復だ。


 だが。


 Arcは動かない。


 出来ないわけじゃない。


 しないのだ。


 CrowのHPを見続ける。


 四八%。


 四七%。


 まだだ。


 暗黒騎士はここから強くなる。


 ブラッドドライブ。


 ラストスタンド。


 両方が最大効率で回り始める。


 だが。


 下げ過ぎれば死ぬ。


 上げ過ぎれば火力が落ちる。


 だから待つ。


 最適なラインを見極める。


 ほんの数%。


 その差が暗黒騎士の強さを決める。


 それがヒーラーの仕事だった。


「ヒールしないの!?」


 Rainが叫ぶ。


 普通なら回復する。


 だが。


 Arcは動かなかった。


「まだだ」


 視線はCrowから外さない。


 HP五割前後。


 そこが最も強い。


 Arcの杖はまだ光らない。


 CrowのHPは四割台。


 普通なら危険域だった。


 だが。


 Crow自身は今までで一番身体が軽かった。


 笑いが漏れる。


 こんな感覚は初めてだった。


 攻撃を受ける。


 傷付く。


 それなのに弱くならない。


 むしろ強くなっている。


 身体の奥から力が湧いてくる。


 熱い。


 全身を流れる血液が燃えているようだった。


 肩は裂けている。


 腕も傷だらけだ。


 だが怖くない。


 Arcがいる。


 だから踏み込める。


 だから受けられる。


 だから前へ出られる。


 今までの自分には無かった戦い方だった。


 ウインドウルフが再び飛び掛かる。


 風を纏った高速突進。


 牙が迫る。


 Crowは避けない。


 左足を踏み込む。


 腰を落とす。


 黒剣を構える。


 そして。


 真正面から迎え撃った。


 ガァァァン!!


 牙と剣が激突する。


 火花が散る。


 衝撃が腕を伝う。


 だが押し負けない。


 ブラッドドライブで強化された腕力が狼を押し返す。


 今までなら受け流していた。


 だが今は違う。


 力で止める。


 力で押し返す。


 黒剣を振り抜く。


 鮮血。


 肉を裂く感触。


 ウインドウルフの肩口が大きく裂けた。


 悲鳴が森へ響く。


 それでも狼は止まらない。


 牙を剥き。


 再び飛び掛かろうとする。


「Rain!」


 Arcの声が飛ぶ。


「了解!」


 その瞬間だった。


 Crowへ視線が集まる。


 Rainはその瞬間を待っていた。


《Quick Step》


 地面を蹴る。


 落ち葉が舞う。


 木の根を飛び越える。


 低く。


 速く。


 風のように駆ける。


 Crowへ意識が向いた狼は気付かない。


 死角。


 背後。


 完全に無防備だった。


 Rainの口元が吊り上がる。


「もらった!」


《バックスタブ》


 二本の短剣が閃く。


 右。


 左。


 同時に振り抜かれた刃が背中へ深々と突き刺さる。


 肉を裂く感触。


 温かい血飛沫。


 狼の身体が大きく震えた。


 絶叫。


 背中から腹部近くまで深い傷が走る。


 アサシン。


 その進化職に相応しい一撃だった。


「効いてる!」


 Rainが笑う。


 だが。


 中層の魔物は甘くない。


 致命傷に見える傷を負いながらも。


 ウインドウルフはまだ立っていた。


 赤く染まった瞳でRainを睨む。


 そして。


 飛んだ。


 風を纏った突進。


 一直線にRainへ襲い掛かる。


「っ!」


 速い。


 回避が間に合わない。


 その瞬間だった。


「右」


 短い声。


 Siaだった。


 既に弓は引き絞られている。


《ペネトレイトアロー》


 弦が鳴る。


 矢が放たれる。


 風を裂く。


 木々の隙間を抜ける。


 一直線。


 迷いなく。


 狼へ突き進む。


 ドシュッ!!


 矢が肩を貫いた。


 肉を裂く音。


 骨を削る音。


 ウインドウルフの身体が大きく揺れる。


 突進軌道が逸れた。


 Rainの目の前を掠めるように通り過ぎる。


「助かった!」


 Rainが距離を取る。


 その間にも。


 Siaは次の矢を番えていた。


 樹上。


 まだ二体残っている。


 レンジャーへ進化したことで索敵だけじゃない。


 射程。


 精度。


 射撃性能そのものが向上している。


 森はSiaの領域だった。


 その頃。


 Crowは前線を維持していた。


 牙を受ける。


 爪を受ける。


 それでも崩れない。


 ラストスタンド。


 ブラッドドライブ。


 そしてArc。


 三つが完璧に噛み合っていた。


「Crow!」


 Arcが呼ぶ。


「そのまま維持しろ!」


「ああ!」


 即答だった。


 迷いは無い。


 Crowも理解している。


 自分が今どれだけ強いのか。


 どこが最適なラインなのか。


 だから踏み込む。


 狼の爪を受ける。


 押し返す。


 黒剣を叩き込む。


 狼が吹き飛ぶ。


 再び前へ出る。


 今までなら回避していた攻撃。


 今は受けながら攻撃できる。


 前線そのものが前へ進んでいく。


「なるほどな……」


 Garmが呟いた。


 巨大盾を構えたまま戦いを見ている。


 受けタンク。


 それは自分の役割だった。


 だが。


 暗黒騎士は違う。


 受ける。


 耐える。


 その上で殴る。


 前線を押し上げる攻撃型タンクだった。


「二枚並んだら面倒そうだな」


「敵からしたら最悪だろうな」


 Cainが笑う。


 その時だった。


 最後の一体が飛び掛かる。


 風を纏った高速突進。


 真正面。


 Crowは避けない。


 受ける。


 そして。


 一歩踏み込む。


 右足。


 左足。


 全身の力を黒剣へ乗せる。


「終わりだ」


 振り下ろす。


 轟音。


 空気が裂けた。


 黒剣と狼が正面から激突する。


 骨が軋む。


 肉が潰れる。


 衝撃が地面へ伝わる。


 土が弾け飛ぶ。


 狼の身体が地面へ叩き付けられた。


 それでも黒剣は止まらない。


 地面ごと押し潰す。


 ズドォォォォン!!


 森が震えた。


 衝撃波で落ち葉が舞い上がる。


 最後のウインドウルフが動かなくなる。


 静寂。


 森へ再び風が流れた。


 揺れていた枝葉が落ち着く。


 小川のせせらぎが聞こえる。


 戦闘終了だった。


「思ったより強いな」


 Crowが黒剣を肩へ担ぐ。


 暗黒騎士。


 予想以上だった。


 受けながら戦える。


 受けるほど強くなる。


 今までの自分には無かった感覚だった。


「思ったよりじゃない」


 Arcが近付く。


「かなり強い」


 そして。


 ようやく杖が光った。


《ヒール》


 白い光がCrowを包む。


 温かな光が傷を塞いでいく。


 だが。


 Rainはそこで違和感に気付いた。


「……あれ?」


 HPバーが止まる。


 満タンにならない。


 八割付近で回復が止まっていた。


「Arc」


 Rainが首を傾げる。


「なんで最後まで回復しないんだ?」


 Arcは当然のように答えた。


「必要ないからだ」


 Rainは眉をひそめる。


 その意味が分からなかった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


第五十八話『暗黒騎士の戦い方』でした。


今回はCrowの新職業《暗黒騎士》のお披露目回です。


これまでのCrowは回避主体の戦闘スタイルでしたが、暗黒騎士になったことで「受けながら戦う」という新しい選択肢を得ました。


《ブラッドドライブ》

《ラストスタンド》


この二つを軸に、HPを維持しながら前線を支える戦い方になります。


また、Arcが最後までヒールを使わなかった理由にも少し触れました。


ヒーラーはただ回復するだけではなく、


・MP管理

・ヘイト管理

・PT全体のリソース管理


も重要な役割になります。


次回は第五十九話『火精霊サラマンダー』。


Novaが新たに契約した火精霊サラマンダーの力が明らかになります。


精霊契約による強化とは?


そしてArcが感じている二十一階層の違和感の正体とは――。


次回もよろしくお願いします!


面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ