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世界最強ヒーラー、サービス終了したゲーム知識で現実ダンジョンを攻略する ~伝説のギルド《Aegis》復活~  作者: PeterP4n
第五章 新たなフロンティア

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第55話 進化の時

# 第55話 進化の時


 静寂だった。


 さっきまでの激戦が嘘みたいだった。


 火炎龍の骸だけが横たわっている。


 二十階層の支配者。


 灼熱の王。


 その巨体はもう動かない。


 Rainはその場へ座り込んだ。


「はぁ……」


 息が上がる。


 腕が震える。


 脚も痛い。


 全身が悲鳴を上げていた。


 それでも。


 笑いが止まらない。


「勝ったんだよな……?」


「勝った」


 Arcが答える。


 短い言葉だった。


 だが。


 その一言だけで十分だった。


 Rainは大の字に倒れた。


「ははっ……」


「マジかよ」


「生きてる……」


 少し離れた場所では。


 Cainが大斧を地面へ突き立てていた。


 肩で息をしている。


 《闘身》の反動。


 《重閃》の負荷。


 全身が痛かった。


 それでも。


 口元には笑みが浮かんでいた。


「無茶し過ぎだ」


 Crowが近付く。


「誰のことだ?」


「お前」


「お前もだろ」


 短いやり取り。


 そして二人とも笑った。


 Garmは火炎龍を見上げていた。


 長い沈黙。


 それから。


「強かったな」


 誰へ向けた言葉でもなかった。


 火炎龍へ。


 仲間へ。


 自分へ。


 全部だった。


 Novaは火炎龍の骸を見ながら拳を握った。


「やった……!」


「二十階層よ……」


「本当に突破したのよ……」


「落ち着け」


 Siaが苦笑する。


「無理!」


 即答だった。


 その横で。


 Arcは周囲を見回していた。


 魔力反応なし。


 敵影なし。


 熱源反応なし。


 火炎龍消滅後の再出現も確認されない。


 ようやく息を吐く。


「周囲に敵反応なし」


 全員が振り向く。


「しばらくは安全だ」


「マジか」


 Rainが起き上がる。


「じゃあ休める?」


「ああ」


 Arcは頷いた。


「今日はここで休憩する」


 全員の表情が緩んだ。


 限界だった。


 二十階層の支配者。


 特殊個体。


 誰もが消耗している。


 無理に動く理由はなかった。


 ここはボス部屋だ。


 火炎龍は討伐済み。


 モンスターが再出現することもない。


「テント出すぞ」


 Garmが言う。


「その前に飯だ」


 Cainが即答した。


「お前元気だな」


「腹減った」


 全員が笑った。


 そして。


 火炎龍の骸を背に。


 Aegisは簡易キャンプの準備を始めた。


 その時だった。


「……ん?」


 Rainが手を止める。


 視界に通知が流れていた。


《レベルアップ》


《レベルアップ》


《レベルアップ》


 次々と表示される。


「ちょっと待て」


「なんか凄い上がってないか?」


 Novaも確認する。


 そして。


 目を見開いた。


「私、四十になってるんだけど」


「は?」


 Rainが確認する。


「私も四十」


 Novaが続く。


「俺もだ」


 Cain。


「こっちもだな」


 Garm。


「同じ」


 Crow。


 Siaも頷いた。


「私も」


 全員だった。


 特殊個体。


 二十階層ボス。


 その莫大な経験値によって。


 全員が一気にLv40へ到達していた。


 Arcもステータスを開く。


 Lv40。


 やはり同じだった。


 予想より早い。


 デプクロ時代でも。


 二十階層到達時点でここまで上がることはなかった。


 特殊個体。


 そして火炎龍。


 その全てが重なった結果だろう。


「……早いな」


 Arcが小さく呟く。


 その瞬間。


 全員の視界に新たな通知が表示された。


《進化条件達成》


《上位職選択を開始します》


 Rainが真っ先に反応した。


「来たぁぁぁ!!」


「うるさい」


 Crowが即座に返す。


 だが。


 表情は少しだけ緩んでいた。


 全員待っていた。


 デプクロにおいて。


 Lv40。


 それは初心者卒業の証。


 本当の攻略が始まるラインだった。


 Rainがウィンドウを開く。


《双剣士》


 ↓


《アサシン》


 思わず笑みが零れた。


「やっと来た」


 デプクロ時代。


 何百時間も使った職業だった。


 速度。


 奇襲。


 一撃離脱。


 誰よりも速く敵へ届くための職業。


「迷う理由ないでしょ」


《アサシンへ進化しますか?》


「する!」


 即答だった。


 光がRainを包む。


 身体へ魔力が流れ込む。


 感覚が研ぎ澄まされる。


 視界が広がる。


 身体が軽い。


「うわっ……」


 Rainが目を見開いた。


「全然違う」


 その横で。


 Cainもウィンドウを開く。


《戦士》


 ↓


《バーサーカー》


 笑った。


「やっぱこれだな」


 即決だった。


 高火力。


 自己強化。


 前へ出続ける狂戦士。


 誰よりもCainらしい。


「お前絶対それ選ぶと思った」


 Rainが笑う。


「他あるか?」


「ない」


 全員一致だった。


 赤い光がCainを包む。


 筋肉が軋む。


 身体の奥から力が湧き上がる。


「……悪くねぇ」


 満足そうだった。


 次はGarm。


《重戦士》


 ↓


《聖騎士》


 Garmは目を細めた。


「来たか」


 聖騎士。


 防御。


 守護。


 支援。


 味方を守るための職業。


 攻撃力は高くない。


 だが。


 前線を維持する能力は圧倒的だった。


 Aegisの盾。


 その役割をさらに強化する職業。


「俺向きだな」


 迷いはなかった。


 白い光がGarmを包む。


 神聖な輝きが周囲へ広がる。


 続いてCrow。


 ウィンドウを見た瞬間。


 小さく笑った。


《軽戦士》


 ↓


《暗黒騎士》


「やっと来たか」


 予想通りだった。


 暗黒騎士。


 自身の生命力を力へ変える職業。


 傷付くほど硬くなる。


 傷付くほど強くなる。


 そして。


 敵の攻撃を受け続けることで真価を発揮する。


 もはや回避タンクではない。


 正面から受け止める職業だった。


 Arcはその表示を見て頷いた。


「これで受けタンク二枚だな」


 Crowが視線を向ける。


「そうだな」


 Arcは続けた。


「暗黒騎士は瀕死タンクだ」


「防御力も高い」


「火力も出る」


「ヒーラーの腕次第では最強のタンク職だ」


 Crowは少しだけ笑った。


「随分評価高いな」


「実際強いからな」


 Arcも笑う。


 そして。


 真っ直ぐCrowを見る。


「お前のHP管理は俺に任せろ」


 一瞬。


 Crowが目を細めた。


 デプクロ時代。


 何百回も前線を支え合った。


 だから分かる。


 この男は出来ないことを言わない。


「……ああ」


 Crowは短く答える。


「信じてる」


 黒い光が身体を包む。


《暗黒騎士》


 進化完了。


 続いて。


 Novaがウィンドウを開いた。


《魔導士》


 ↓


《エレメンタラー》


「やっぱりこれね」


 即決だった。


 エレメンタラー。


 属性魔法特化。


 そして。


 精霊との契約によって真価を発揮する上位職。


 単純火力なら魔導士を遥かに上回る。


「火力担当がさらに火力上げるのかよ」


 Rainが苦笑する。


「当たり前でしょ」


 Novaは胸を張った。


「敵を消し飛ばすのが私の仕事なんだから」


 赤い魔力が身体を包む。


 周囲の熱が僅かに揺れた。


「おぉ……」


 Novaが目を見開く。


「魔力の流れが全然違う」


 続いてSia。


 静かにウィンドウを開く。


《弓士》


 ↓


《レンジャー》


 小さく頷いた。


「これでいい」


 レンジャー。


 中距離戦闘特化。


 索敵。


 機動力。


 射程。


 全てが伸びる万能型。


 今のSiaに最も合う職業だった。


 緑色の光が身体を包む。


 視界が広がる。


 遠くの溶岩の揺らぎまで見えた。


「見える……」


 Siaが小さく呟く。


 最後に。


 全員の視線がArcへ向いた。


「Arcは?」


「何になったの?」


 Rainが覗き込む。


 Arcは苦笑した。


「見るか?」


 表示を共有する。


《神官》


 ↓


《白魔導士》


 一瞬。


 全員が固まった。


「おぉ……」


 Garmが思わず声を漏らす。


 デプクロでも有名な職業だった。


 最高峰の回復職。


 支援職。


 生存率を大きく引き上げる上位職。


「やっぱり白魔導士か」


 Cainが笑う。


「他あるの?」


 Rainも頷く。


「ないな」


 Arcも否定しなかった。


 白魔導士。


 それが自分の最終目標への第一歩だった。


《白魔導士へ進化しますか?》


「する」


 選択。


 次の瞬間。


 眩い白光がArcを包み込んだ。


 暖かい。


 優しい光だった。


 身体の奥へ魔力が流れ込む。


 今までより深く。


 今までより強く。


 回復魔法への理解が広がる。


 白魔導士。


 デプクロではここからが本番だった。


 上位ダンジョン。


 レイド。


 高難度ボス。


 その全てで必須となる職業。


 Arcは静かに息を吐いた。


「やっとスタートラインか」


 身体の奥で魔力が巡る。


 違う。


 今までとは明らかに違った。


 ヒール。


 ハイヒール。


 エリアヒール。


 リジェネ。


 ホーリーランス。


 スキル自体は変わらない。


 だが。


 出力が違う。


 回復量。


 支援効果。


 魔力効率。


 全てが一段階引き上げられていた。


 白魔導士。


 それは新しい技を覚える職業じゃない。


 今ある全てを強化する職業だった。


「これなら」


 Arcは小さく笑う。


「次からはもっと楽になるな」


 その瞬間だった。


 全員の視界へ新しい表示が浮かぶ。


《二十階層踏破報酬を配布します》


「まだあるのか?」


 Rainが目を見開く。


 次々とアイテム名が流れる。


《火炎龍の逆鱗》


《火炎龍の魔核》


《火炎龍の白炎結晶》


《特殊素材を獲得しました》


 Rainが目を丸くした。


「え、逆鱗落ちたの?」


 Arcも少し驚く。


 デプクロでも低確率素材。


 最上級装備の材料だった。


「Dwarfが見たら発狂するな」


 Cainが笑う。


「絶対する」


 Rainも即答した。


 その様子に小さな笑いが起きる。


 そして。


 戦いが終わったことを実感した。


 Rainがそのまま後ろへ倒れ込む。


「もう無理……」


 岩盤へ大の字になる。


 身体中が痛い。


 指一本動かすのも面倒だった。


「同感だ」


 Cainも近くへ座り込む。


 大斧を横へ置く。


 腕が震えていた。


 さっきの《重閃》の反動が残っている。


 Crowも壁へ背中を預けた。


 Garmは大きく息を吐く。


 Novaも杖を抱えたまま座り込んだ。


 誰も動こうとしない。


 二十階層。


 特殊ボス。


 火炎龍。


 今までで最大の死闘だった。


 それを乗り越えたのだ。


 Arcも静かに息を吐く。


 疲れている。


 全員同じだった。


 だが。


 その表情は明るい。


 二十階層踏破。


 ジョブ進化。


 確かな前進だった。


 Arcは倒れた火炎龍を見つめる。


 サービス終了したゲーム。


 Depth Chronicle。


 何度も攻略した世界。


 だが。


 現実は違う。


 痛みがある。


 恐怖がある。


 死がある。


 それでも。


 乗り越えた。


 全員で。


「……お疲れ」


 Arcが呟く。


 Rainが笑った。


「まだ二十階層なんだけどね」


「先は長そうだな」


 Garmが苦笑する。


 誰も否定しなかった。


 その時だった。


 倒れた火炎龍の奥。


 二十一階層へ続く通路。


 その先から。


 微かに黒い魔力が揺らいだ。


 ドクン――。


 Arcの視線が止まる。


 黒い魔力。


 ほんの一瞬。


 だが。


 二十階層で感じたものとは違った。


 もっと深い。


 もっと禍々しい何か。


「……」


 嫌な予感だけが残った。


 火山地帯は終わった。


 だが。


 その先には。


 まだ誰も知らない領域が待っている。


 二十一階層。


 未知の攻略が始まろうとしていた。

第五十五話を読んでいただきありがとうございます!


ついに二十階層攻略完了&ジョブ進化回でした。


火炎龍戦は長く続きましたが、ようやく一区切りです。


そしてAegis全員がLv40へ到達。


ここからそれぞれの役割がさらに明確になっていきます。


Arc → 白魔導士

Garm → 聖騎士

Crow → 暗黒騎士

Rain → アサシン

Cain → バーサーカー

Sia → レンジャー

Nova → エレメンタラー


特にCrowの暗黒騎士は今後かなり重要なポジションになります。


「瀕死になるほど強くなるタンク」をArcが支える構図は、これからの戦闘の大きな見どころになる予定です。


また、火炎龍から入手した素材も今後の装備強化に関わってきます。


DwarfとMistが見たらどうなるのか……。


そして最後に見えた二十一階層の黒い魔力。


二十階層を越えた先には、これまでとは違う脅威が待っています。


次回から新章スタートです。


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それではまた次回!

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