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世界最強ヒーラー、サービス終了したゲーム知識で現実ダンジョンを攻略する ~伝説のギルド《Aegis》復活~  作者: PeterP4n
第四章 白炎竜討伐戦

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第51話 地上戦

#第51話 地上戦


 火炎龍が落ちる。


 巨大な身体が空中で傾く。


 折れた翼では支え切れない。


 何度も羽ばたく。


 必死に姿勢を立て直そうとする。


 だが。


 片翼はもう言う事を聞かなかった。


 空を支配していた王者が。


 初めて地上へ引きずり下ろされる。


「来るぞ!」


 Arcが叫ぶ。


 その声で全員が動いた。


 Rainは高度を取る。


 Cainは火炎龍の落下地点から距離を取る。


 Crowは岩陰へ飛び込む。


 NovaとSiaも後方へ退避する。


 誰もが理解していた。


 問題は落ちる事じゃない。


 落ちた後だ。


 次の瞬間。


 火炎龍が地面へ激突した。


 ドォォォォォォォォォォォン!!


 世界が揺れた。


 衝撃波が戦場を駆け抜ける。


 岩盤が砕ける。


 溶岩が吹き上がる。


 巨大な土煙が空へ立ち上った。


 Rainは空中で思わず顔をしかめた。


 熱風が叩きつけられる。


 視界が砂塵で埋まる。


 耳鳴りが残る。


 まるで巨大隕石でも落ちたようだった。



 探索者酒場。


 大型モニター前。


「落ちた!!」


「やったぞ!」


「翼折ったぞ!」


 歓声が爆発する。


 椅子から立ち上がる者。


 拳を振り上げる者。


 酒を零す者までいた。


 二十階層ボス。


 火炎龍。


 誰も倒せなかった怪物。


 その怪物をAegisが空から叩き落とした。


 興奮しない方がおかしかった。


 だが。


 モニターを見つめるベテラン探索者達は静かだった。


「まだだ」


 誰かが呟く。


 歓声が少しだけ止まる。


「火炎龍はあれで終わる相手じゃねぇ」



 戦場。


 Arcも同じ事を考えていた。


 視線は土煙の中心。


 ゲーム時代。


 何度も見た。


 火炎龍は飛行能力を失っても終わらない。


 むしろ。


 ここからが本番だ。


「Garm」


「おう」


「来るぞ」


 短い会話。


 それだけで十分だった。


 Garmは盾を握り直す。


 汗が流れる。


 腕はまだ痺れていた。


 それでも。


 口元は笑っている。


 土煙の奥で何かが動く。


 巨大な影。


 ゆっくり。


 だが確実に立ち上がる。


 次の瞬間。


 ゴォォォォォォォォォォォォッ!!


 咆哮。


 音だけで空気が震えた。


 土煙が吹き飛ぶ。


 熱風が周囲へ広がる。


 その中心。


 火炎龍が立っていた。


 翼は折れている。


 片翼はだらりと垂れ下がっていた。


 だが。


 生きている。


 黄金の瞳は健在。


 敵意も健在。


 殺意も健在。


 むしろ。


 怒っていた。


 今までより遥かに。


「マジかよ……」


 Crowが顔を引きつらせる。


 普通なら死んでいる。


 あれだけの高さから落ちたのだ。


 だが。


 目の前の化物は違う。


 二十階層ボス。


 火炎龍。


 まだ終わっていない。


 火炎龍が前脚を踏み込んだ。


 砕けた岩盤が跳ねる。


 次の瞬間。


 巨体が動いた。


 速い。


 あまりにも速い。


 山のような身体をしているのに、その突進速度は大型トラックなど比較にならなかった。


 大地が揺れる。


 熱風が吹き荒れる。


 火炎龍が進むたびに岩盤が砕け、溶岩が飛び散る。


 まるで災害そのものが突っ込んできているようだった。


「来るぞ!」


 Cainが叫ぶ。


 普通なら避ける。


 まともに受ければ吹き飛ぶ。


 そう思わせる圧力だった。


 だが。


 その前へ。


 Garmが出る。


 巨大な盾を構える。


 足を開く。


 重心を落とす。


 視線は真っ直ぐ。


 火炎龍だけを見る。


「飛べねぇなら」


 Garmが笑う。


「俺の仕事だな」


《Guard Stance》


 魔力が全身を巡る。


 筋肉が強張る。


 足元へ力が集まる。


 防御のための構え。


 受けるための技。


 逃げない。


 避けない。


 正面から受け止める。



 火炎龍が迫る。


 黄金の瞳がGarmを捉える。


 巨大な牙。


 巨大な爪。


 圧倒的な質量。


 それでも。


 Garmは動かない。


 背後には仲間がいる。


 だから退けない。


「来い」


 低く呟く。


 そして。


 激突した。


 轟音。


 衝撃。


 全身が悲鳴を上げた。


 腕が痺れる。


 肩が軋む。


 膝が沈む。


 踏み締めた岩盤が耐え切れず砕け散った。


 重い。


 今まで受けたどんな攻撃より重い。


 十五階層の灼熱巨人ですら比較にならない。


 まるで城壁そのものを押し付けられているようだった。


 息が苦しい。


 視界が揺れる。


 歯を食いしばる。


 それでも。


 盾を離さない。


 後ろには仲間がいる。


 だから退けない。


「ぉぉぉぉぉ!!」


 Garmが吠える。


 火炎龍は止まらない。


 巨体が押し込んでくる。


 Garmの身体が後方へ滑った。


 靴底が岩盤を削る。


 地面に深い溝が刻まれる。


 それでも倒れない。


 それでも盾を離さない。


 足がさらに沈む。


 だが。


 少しずつ。


 本当に少しずつ。


 火炎龍の勢いが落ちていく。


 そして。


 火炎龍の前進が止まる。


 信じられなかった。


 二十階層ボス。


 火炎龍。


 その突進を。


 人間が。


 一人で止めている。


 熱風が吹き荒れる。


 岩盤が砕け続ける。


 それでも。


 Garmはまだ立っていた。


 盾を構えたまま。


 真正面から受け止めたまま。


 火炎龍の突進を完全に止めていた。


 Rainは思わず目を見開いた。


 信じられない。


 火炎龍の突進だ。


 あの巨体。


 あの質量。


 まともに受ければ吹き飛ばされると思っていた。


 だが。


 Garmはまだ立っている。


 一歩も引いていない。


「止めた!?」


 思わず声が漏れた。


 そして。


 思わず笑う。


 火炎龍相手に正面から踏み止まる。


 普通じゃない。


 だが。


 それがGarmだった。


 Novaも目を見開く。


 Siaも僅かに驚いている。


 Arcだけが静かに頷いた。


 火炎龍は飛行能力を失った。


 だから体重と筋力をそのままぶつけてきた。


 それでも止めた。


 正直。


 Arcの予想以上だった。


 これがAegisの盾。


 誰よりも前に立つ男だった。


 Garmは口元の血を拭った。


 腕は震えている。


 身体中が痛い。


 だが。


 笑う。


「重ぇな……!」


 そして。


 盾を押し返した。


 少しずつ。


 本当に少しずつ。


 だが確実に。


 火炎龍の巨体が押し返され始める。


 その光景を見たCainの口元が上がった。


 火炎龍が止まる。


 Garmが止めた。


 なら。


 今度は自分の番だ。


 Cainは大斧を握り直した。


 待ち続けた距離。


 ようやく届く。


 ずっと待っていた。


 空を飛ぶ相手には届かなかった。


 だが。


 今は届く。


「最高だな」


 獣のような笑みを浮かべる。


 そして。


 地面を蹴った。


 《疾駆》


 景色が後ろへ流れる。


 熱風が頬を叩く。


 砕けた岩盤を飛び越えながら、一気に火炎龍との距離を詰める。


 ようやく届く。


 今まで空を飛ばれていたせいで届かなかった。


 Rainが空で戦い。


 Garmが耐え。


 Crowが削り。


 NovaとSiaが支援した。


 そして今。


 火炎龍は地上にいる。


 自分の間合いだ。


 火炎龍もCainへ気付いた。


 黄金の瞳が動く。


 巨大な前脚が持ち上がる。


 近くで見ると異常だった。


 爪一本だけで人間の身体より大きい。


 あれに潰されれば終わる。


 防御も回復も関係ない。


 即死だ。


 だが。


 Cainは笑った。


「来いよ」


 火炎龍の前脚が振り下ろされる。


 轟音。


 空気そのものが押し潰される。


 岩盤が砕ける。


 だが。


 その瞬間にはもう居ない。


《疾駆》


 Cainの身体が横へ弾けた。


 爪が通過する。


 髪が揺れるほど近かった。


 もし反応が一瞬遅れていたら終わっていた。


 だが。


 避けた。


 そして。


 そのまま火炎龍の懐へ潜り込む。


 見上げる。


 巨大な胴体。


 赤い鱗。


 岩盤のように重なり合う防御。


 近付けば近付くほど分かる。


 化物だ。


 だが。


 怖くない。


 いや。


 怖いからこそ笑う。


 それがCainだった。


《闘身》


 魔力が全身を駆け巡る。


 筋肉が膨れ上がる。


 血液が熱くなる。


 力が溢れる。


 握った大斧が軽く感じるほどだった。


 呼吸が深くなる。


 視界が冴える。


 火炎龍しか見えない。


「ぶった斬る!」


《重閃》


 腰を回す。


 足で踏み込む。


 肩を連動させる。


 全身の力を一撃へ集約する。


 大斧が唸る。


 そして。


 火炎龍の胴体へ叩き込まれた。


 轟音。


 火花。


 衝撃。


 腕が痺れる。


 硬い。


 想像以上だった。


 まるで岩盤を殴ったような感触。


 刃が弾かれそうになる。


 普通の探索者ならここで止まる。


 だが。


 Cainはさらに力を込めた。


 筋肉が軋む。


 歯を食いしばる。


 押し込む。


 さらに押し込む。


 そして。


 赤い鱗へ亀裂が走った。


 バキッ――


 鱗が割れる。


 赤い破片が飛び散る。


「入った!」


 Cainが吠えた。



 探索者酒場。


「Cainだ!」


「やっぱ火力やべぇ!」


「鱗割ったぞ!」


 歓声が上がる。


 火炎龍の鱗。


 今まで何人もの探索者が挑み。


 まともに傷すら付けられなかった防御。


 それを正面から叩き割った。


「やっぱ前衛火力おかしいだろあいつ!」


 誰かが叫んだ。



 火炎龍が咆哮する。


 怒りだった。


 黄金の瞳がCainを捉える。


 次の瞬間。


 巨大な尾が振り抜かれた。


 空気が裂ける。


 岩盤が抉れる。


 あまりにも速い。


「Cain!」


 Arcが叫ぶ。


 だが。


 避け切れない。


 距離が近過ぎた。


 直撃すれば終わる。


 その瞬間。


 影が走った。


《Shadow Shift》


 Crowだった。


 影が揺れる。


 一瞬だけ姿が掻き消える。


 次に現れたのは尾の内側。


 火炎龍自身からも見えない死角だった。


 熱い。


 近い。


 だが関係ない。


 Crowは尾の動きを見ていた。


 狙いはCain。


 このままでは避け切れない。


 だから動く。


 短剣を振るう。


 狙うのは肉ではない。


 関節。


 尾を支える筋。


 そこだけを正確に斬り裂いた。


 火花が散る。


 衝撃が走る。


 火炎龍の尾が僅かに揺れた。


 本当に僅かだった。


 だが。


 十分だった。


 尾の軌道が逸れる。


 Cainの肩を掠めるだけで通過した。


 轟音と共に背後の岩盤が吹き飛ぶ。


「っぶねぇ!」


 Cainが叫ぶ。


 今のは死んでいた。


 本当に死んでいた。


「貸し一つな」


 Crowが笑う。


 その瞬間。


 火炎龍の黄金の瞳がCrowへ向いた。


 怒り。


 殺意。


 敵意。


 全てが向けられる。


 だが。


 Crowは笑った。


「こっち見んなよ」


 ほんの一瞬。


 その意識がCainから外れる。


 それだけで十分だった。


 Cainは距離を取り直す。


「高ぇぞその貸し!」


 火炎龍がさらに暴れる。


 怒り狂っていた。


 前脚が振るわれる。


 牙が迫る。


 尾が唸る。


 周囲の岩盤が砕ける。


 溶岩が飛び散る。


 戦場そのものが壊れていく。


 だが。


 その正面。


 Garmはまだ立っていた。


 傷だらけ。


 汗だく。


 それでも前に出る。


「こっちだぁぁぁ!!」


《Taunt》


 重盾を地面へ叩きつける。


 砕けた岩が跳ねる。


 怒号が響く。


 挑発の魔力が戦場へ広がった。


 黄金の瞳が再びGarmへ向く。


 Rainではない。


 Cainでもない。


 Crowでもない。


 敵意が全てGarmへ集中する。


「よし」


 Arcが小さく呟いた。


 理想形。


 完全に理想形だった。


 Garmが受ける。


 Cainが削る。


 Crowが妨害する。


 Rainが傷を広げる。


 NovaとSiaが支援する。


 Aegis本来の戦い方。


 ようやく火炎龍相手にも成立し始めていた。



「Rain!」


「了解!」


 Rainが飛び出す。


 熱風を切り裂く。


 狙うのはCainが割った鱗。


 そこだけ防御が崩れている。


 そこだけが弱点だ。


 Cainが割った。


 Crowが作った。


 Garmが止めた。


 なら。


 自分の役目は決まっている。


 Rainは迷わず傷口へ飛び込んだ。


《飛燕》


 身体が加速する。


 双剣が閃く。


 一撃。


 さらに一撃。


 傷口へ刃が潜り込む。


 硬い。


 だが。


 最初より通る。


 血が飛ぶ。


 赤い血液が岩盤へ落ちる。


 火炎龍の身体が震えた。


 火炎龍が苦痛に咆哮する。


 巨体が僅かによろめく。


 前脚が滑る。


 体勢が崩れる。


 Arcはそれを見逃さなかった。


 翼の損傷。


 Cainの破壊。


 Crowの妨害。


 Rainの追撃。


 全てが積み重なっている。


 少しずつ。


 本当に少しずつ。


 だが確実に。


 火炎龍は崩れ始めていた。


「崩れてる」


 Arcが呟く。


 だが。


 まだ終わらない。


 終わる相手じゃない。


 火炎龍の黄金の瞳は。


 まだ死んでいなかった。


 むしろ。


 その奥で何かが燃え始めていた。


 Arcは僅かに眉をひそめる。


 知っている。


 あの眼を。


 ゲーム時代にも見た。


 だが。


 このタイミングじゃない。


「まさか……」


 嫌な予感がした。


  火炎龍が咆哮する。


 戦場全体が震えた。


 怒り。


 苦痛。


 憎悪。


 その全てが混ざった咆哮だった。


 だが。


 Arcの表情は険しい。


 崩れている。


 確かに追い詰めている。


 それなのに。


 何かがおかしい。


 黄金の瞳。


 その奥で燃える光。


 ゲーム時代にも見た。


 だが。


 もっと後だったはずだ。


「Arc?」


 Rainが声を掛ける。


 悠真は火炎龍から目を離さない。


「全員警戒」


 短く言った。


 その瞬間だった。



 火炎龍の身体から赤い魔力が溢れ出した。


 鱗の隙間。


 口元。


 翼の傷口。


 全身から炎のような魔力が噴き出す。


 熱量が変わる。


 空気が変わる。


 戦場全体の温度が一段上がった。


 頬が焼ける。


 呼吸が苦しい。


 まるで火山の火口へ放り込まれたようだった。


「なっ……」


 Novaが目を見開く。


 杖を握る手に汗が滲む。


 今までの火炎龍ですら規格外だった。


 だが。


 目の前で起きている変化はそれ以上だった。



 探索者協会。


 監視室。


「魔力反応急上昇!」


「まだ上がる!?」


「停止しません!」


「火炎龍の出力が増加しています!」


 職員達が叫ぶ。


 モニターの数値が異常な速度で上昇していく。


 誰も見た事がない反応だった。



 戦場。


 火炎龍が前脚を踏み込んだ。


 ドンッ!!


 岩盤が砕ける。


 次の瞬間。


 火炎龍の姿が消えた。


「は?」


 Cainが目を見開く。


 速い。


 今までとは比べ物にならない。


 翼を失ったはずなのに。


 地上に落ちたはずなのに。


 むしろ速くなっていた。


 そして。


 火炎龍はGarmの目の前にいた。



「っ!!」


 Garmが反射的に盾を持ち上げる。


《Guard Stance》


 重心を落とす。


 盾を前へ出す。


 だが。


 間に合わない。


 火炎龍の前脚が振り抜かれた。


 轟音。


 衝撃。


 今までと違う。


 Garmは瞬時に理解した。


 重いんじゃない。


 速い。


 受ける前に押し込まれた。


 重盾が軋む。


 腕が悲鳴を上げる。


 踏み締めた岩盤が砕ける。


 だが。


 止まらない。


 火炎龍の力が盾ごと身体を押し潰していく。


「ぐっ――!」


 次の瞬間。


 Garmの身体が宙へ浮いた。


 視界が回る。


 岩盤へ叩き付けられる。


 轟音。


 砕けた岩が周囲へ飛び散った。


「Garm!」


 Rainが叫ぶ。


 巨大な身体が地面を転がる。


 岩へ激突する。


 肺から空気が抜けた。


 腕が痺れる。


 肋骨も何本か持っていかれた気がした。


 それでも。


 Garmは歯を食いしばる。


 盾を掴む。


 立ち上がる。


 自分が倒れれば後ろが死ぬ。


 役目は変わらない。


 だから前へ出る。


「まだ……やれる」



 Garmが吹き飛ばされた。


 それを見た瞬間。


 Cainの身体は動いていた。


 考えるより先だった。


《疾駆》


 地面を蹴る。


 熱風が流れる。


 火炎龍の前脚へ一直線。


 許せなかった。


 ようやく止めた盾を。


 ようやく作った流れを。


 壊させるわけにはいかない。


「こっち見ろ!」


《重閃》


 全身の力を叩き込む。


 大斧が火炎龍の前脚へ激突した。


 轟音。


 火花。


 衝撃。


 火炎龍の巨体が僅かに揺れる。


 だが。


 止まらない。


 むしろ。


 黄金の瞳がCainを捉えた。


「やっと面白くなってきた」


 Cainは笑った。


 次の瞬間。


 巨大な牙が迫る。


 近い。


 近過ぎる。


 Cainは身体を捻った。


 避ける。


 だが。


 完全には避け切れない。


 牙が肩を掠めた。


 防具が砕ける。


 血が飛ぶ。


 焼けるような痛み。


「ぐっ!」


 肩が熱い。


 腕に力が入りにくい。


 だが。


 致命傷じゃない。


 その瞬間。


《ヒール》


 暖かな光が降り注ぐ。


 傷が塞がる。


 痛みが薄れる。


 Arcの回復だった。


「助かる!」


「下がるな」


 Arcの声。


「まだ押せる」


 短い言葉。


 だが。


 十分だった。



 その頃。


 Crowは火炎龍を見ていた。


 違和感。


 速度だけじゃない。


 視線。


 動き。


 反応。


 全てが変わっている。


 まるで別のボスだ。


「強化形態か……!」


 火炎龍の瞳が動く。


 Garmを見る。


 Cainを見る。


 そして。


 Novaへ向いた。


「まずい」


 Crowは理解した。


 後衛狙いだ。


 もしNovaが倒れれば。


 火力が落ちる。


 戦線も崩れる。


 普通なら間に合わない。


 だが。


 Crowは普通じゃない。


《Shadow Shift》


 影が揺れる。


 一瞬で距離を詰める。


 火炎龍の進路へ飛び込んだ。


「こっちだ化物!」


 短剣を振るう。


 狙うのは目。


 黄金の瞳。


 完全な急所だった。


 火炎龍が反応する。


 顔が動く。


 敵意が変わる。


 Novaから。


 Crowへ。


 成功だった。


 今この瞬間。


 後衛は安全だ。


 なら十分。


「よし!」



「Crow!」


 Rainが叫ぶ。


「ナイス!」


「後で褒めろ!」


 Crowが笑う。


 だが。


 余裕は無い。


 火炎龍は完全に怒っていた。


 今の自分は最優先目標になっている。



 火炎龍が咆哮する。


 口元に炎が集まる。


 Crowは理解した。


 ブレス。


 しかも近距離。


 避けるしかない。


「Crow!」


 Arcが叫ぶ。


 だが。


 Crowは既に動いていた。


《Shadow Shift》


 姿が掻き消える。


 次の瞬間。


 ブレスが通過した。


 轟音。


 岩盤が溶ける。


 熱風が吹き荒れる。


 紙一重。


 本当に紙一重だった。


 頬が切れる。


 血が流れる。


 それでも笑う。


「当たってたまるか」



 Rainはその光景を見ていた。


 肩で息をする。


 腕も痛い。


 何度も火炎龍へ斬り付けた。


 それでも倒れない。


 普通なら心が折れる。


 だが。


 折れない。


 見ていたからだ。


 Garmが吹き飛ばされても立ち上がる。


 Cainが前へ出る。


 Crowが命懸けで時間を作る。


 だから。


 自分も止まれない。



《ヘイスト》


 暖かな光が身体を包む。


 身体が軽くなる。


 思考が加速する。


 Rainは火炎龍の側面へ回り込んだ。


 見える。


 Cainが割った鱗。


 Crowが広げた傷。


 自分が何度も削った傷口。


 そこだ。


 双剣を握り直す。


 腕が痛む。


 それでも構わない。


 ここまで全員で繋いできた。


 Garmが耐えた。


 Cainが壊した。


 Crowが作った。


 なら。


 最後に刃を届かせるのは自分の役目だ。


「終わらせる!」


《飛燕》


 身体が加速する。


 熱風が後ろへ流れる。


 一閃。


 双剣が傷口へ潜り込む。


 火花が散る。


 さらに一閃。


 傷が広がる。


 三撃目。


 刃が奥へ沈む。


 硬い鱗じゃない。


 肉だ。


 筋だ。


 今まで全員で削り続けた傷へ刃を押し込む。


 腕に衝撃が返ってくる。


 それでも止めない。


 さらに押し込む。


 火炎龍の身体が大きく震えた。


 そして。


 絶叫する。



 Arcはその姿を見上げる。


 効いている。


 確実に。


 だが。


 まだ倒れない。


 問題は。


 この強化状態がどこまで続くか。


 ゲーム時代には無かった。


 白炎核。


 現実化。


 その影響かもしれない。


 嫌な予感が消えない。


 だが。


 考えるのは後だ。


「全員!」


 Arcが叫ぶ。


「削り切るぞ!」


 Aegisが動く。


 火炎龍も吠える。


 灼熱の戦場。


 決着は。


 すぐそこまで迫っていた。



第五十一話を読んでいただきありがとうございます。


今回は地上戦本番でした。


空を支配していた火炎龍を地上へ引きずり下ろし、Aegis本来の連携がようやく機能し始めます。


特に今回はGarm、Cain、Crowの活躍回でした。


ですが、火炎龍もまだ切り札を残しています。


次回はさらに激しい攻防となります。


引き続き応援よろしくお願いします。

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