第48話 火炎龍攻略会議
# 第48話 火炎龍攻略会議
Captain討伐から十分後。
Aegisは灼熱廃都の外れで足を止めていた。
周囲に敵影はない。
崩れた建物を盾にするように円陣を組む。
Heatは残っている。
だが。
戦闘中ほどではない。
「終わったぁ……」
Rainがその場に座り込む。
「死ぬかと思った」
「お前毎回言ってるな」
Cainが笑う。
「毎回死にそうだからな!」
即答だった。
Novaも苦笑する。
「今回は私もちょっと危なかったかも」
額には汗が残っている。
連続詠唱。
Heat環境。
Captain戦は想像以上に消耗が激しかった。
「魔力は?」
Arcが聞く。
「6割くらい」
思ったより残っている。
だが。
余裕はない。
「消耗品は?」
Arcが聞く。
荷物を確認していたMistが顔を上げる。
「ポーション残り八本です」
「思ったより残ったな」
Crowが呟いた。
「Captain戦で三本使っただけですから」
Mistが頷く。
十五階層到達から続く戦闘。
Captain戦までの消耗は決して小さくなかった。
◇
Arcは手の中を見る。
白炎核。
白い炎が内部で揺れている。
熱くない。
なのに。
見ているだけで妙な違和感があった。
「それ気になるな」
Cainが覗き込む。
「普通の魔石じゃないよな」
「違う」
Arcは即答した。
「少なくとも俺は知らない」
沈黙。
全員の顔が変わる。
Arcが知らない。
それはAegisにとって大きい。
「ゲームにも無かったの?」
Novaが聞く。
「無い」
断言だった。
百階層。
レイド。
イベント。
Arcは全て攻略している。
だが。
白炎核だけは見たことがない。
「じゃあ現実限定か」
Crowが呟く。
その可能性は高い。
Captainの異常な知性。
白炎。
未知のドロップ。
全てが繋がっている気がした。
だが。
今は答えが無い。
「何か分かったか?」
Cainが聞く。
Arcは首を振った。
「いや」
「現状じゃ判断材料が足りない」
手の中の白炎核を見る。
内部では白い炎が静かに揺れていた。
「とりあえず持ち帰る」
「Lunaに解析してもらった方が早い」
その名前に全員が頷く。
魔石加工。
素材解析。
そういう分野ならLunaが一番詳しい。
「確かにな」
Crowが頷いた。
「俺達が見てても分からんしな」
「でも何かヤバそうな感じはする」
Rainが少し距離を取る。
「それは同感」
Novaも苦笑した。
Arcは白炎核を収納する。
少なくとも。
今ここで答えは出ない。
なら。
専門家に任せるべきだった。
◇
その時だった。
遠くから。
轟音。
地面が僅かに震える。
全員が顔を上げた。
「またか」
Cainが笑う。
誰もが同じものを思い浮かべていた。
火炎龍。
二十階層の支配者。
まだ姿は見えない。
だが。
確実に存在している。
遠くから聞こえる咆哮だけで分かる。
格が違う。
「行くか?」
Cainが立ち上がる。
期待した顔だった。
だが。
Arcは首を振る。
「火炎龍には行かない」
「今日はな」
Cainが眉を上げる。
「じゃあ帰るのか?」
「帰らない」
即答だった。
Rainが吹き出す。
「どっちだよ」
Novaも肩を竦めた。
Arcは火炎龍がいる方向を見る。
「今日は十九階層まで進む」
「そこで休む」
「火炎龍は明日だ」
その言葉に。
全員の表情が引き締まる。
◇
Arcは全員を見る。
「Captain戦の消耗は小さくない」
「Heatも残ってる」
「Novaの魔力も減ってる」
「だから今日は進めるだけ進む」
「無理に戦う必要はない」
Cainが肩を竦めた。
「まぁ十九階層まで行けるなら十分か」
Rainも頷く。
「火炎龍は逃げないしな」
「そういう事だ」
Arcが言う。
「今日は移動」
「明日は攻略」
方針は決まった。
無理はしない。
だが。
立ち止まりもしない。
それがAegisの攻略だった。
「よし」
Cainが立ち上がる。
「行くぞ」
Aegisは再び歩き始めた。
灼熱廃都の奥へ。
崩れた建物。
砕けた石畳。
焼け焦げた街並み。
人の姿は無い。
残っているのは炎と骨だけだった。
◇
「東」
Siaが短く告げる。
《Arrow Vision》
視界共有。
先行索敵。
Aegisの目だった。
「数は?」
Arcが聞く。
「六」
「近いな」
Cainが斧を担ぐ。
直後。
路地から現れた。
Flame Skeleton。
剣を持った個体が四。
弓兵が二。
炎を纏った骨の軍勢。
十五階層から何度も見た敵だった。
「行くぞ」
Cainが走る。
《疾駆》
一気に距離を詰める。
Flame Skeletonも迎撃する。
炎剣が振り下ろされた。
だが。
遅い。
《破断》
大斧が骨を砕く。
一体。
二体。
連続撃破。
Rainも飛び込む。
《飛燕》
双剣が閃く。
火花。
骨片。
炎が散る。
残る二体も一瞬だった。
◇
弓兵が矢を放つ。
だが。
Novaが前へ出る。
「まとめて焼くわよ」
《フレア》
炎弾が飛ぶ。
着弾。
爆発。
弓兵二体が吹き飛んだ。
骨が砕ける。
炎が消える。
戦闘終了。
「弱いな」
Cainが肩を回した。
「十五階層の方が強かった」
「実際強かった」
Arcが答える。
中ボス。
Captain。
あの二体を越えた今。
通常個体では脅威にならない。
◇
そのまま進む。
十六階層。
十七階層。
灼熱廃都は続いていた。
だが。
少しずつ景色が変わっている。
建物が増えている。
道が広くなっている。
中心部へ近付いている証拠だった。
「王都みたいだな」
Crowが呟く。
確かにそうだった。
崩壊している。
だが。
元は巨大都市だったと分かる。
大通り。
広場。
噴水跡。
全てが残っている。
「ゲームにもあったのか?」
Rainが聞く。
「いや」
Arcは首を振った。
「ここまでは無かった」
それだけで十分だった。
全員の空気が変わる。
未知領域。
ゲーム知識の外。
それを意味していた。
◇
十八階層へ入った頃。
敵も変化した。
「前方」
Siaが言う。
「一体」
「少ないな」
「大きい」
その言葉で全員が武器を構えた。
角を曲がる。
そこにいた。
Flame Skeleton Knight。
通常個体より一回り大きい。
全身を黒い鎧で覆っている。
炎も強い。
「ちょっと強そうじゃねぇか」
Cainが笑う。
Knightが剣を抜く。
熱気が膨れ上がる。
次の瞬間。
踏み込んできた。
◇
速い。
通常個体とは別物だった。
剣が振り下ろされる。
Garmが前へ出る。
《Guard Stance》
轟音。
盾が受け止めた。
衝撃で石畳が割れる。
「ほぉ」
Garmが笑う。
「少しはやるな」
Knightが再び剣を振る。
だが。
今度はCrowが横へ回る。
《Shadow Shift》
死角。
脚部へ短剣を叩き込む。
体勢が崩れる。
「今!」
Arcが叫ぶ。
Rainが飛ぶ。
《飛燕》
双剣が首を斬り裂く。
続いて。
Cain。
《重閃》
大斧が頭部を粉砕した。
骨片が飛び散る。
炎が消える。
Knightは崩れ落ちた。
◇
「ちょっと面白くなってきたな」
Cainが笑う。
Arcは周囲を見る。
敵は確実に強くなっている。
だが。
まだ問題ない。
Aegisは前へ進める。
十九階層は近い。
そして。
明日には火炎龍戦。
遠く。
再び咆哮が響いた。
ゴォォォォォ―――ッ!
Cainが笑う。
「近いな」
Arcは答えない。
十九階層は近い。
そして。
その日の夕方。
Aegisは十九階層へ到達した。
灼熱廃都。
その最深部。
崩れた城壁の内側だった。
「広いな」
Rainが周囲を見回す。
巨大な広場。
崩壊した建物。
そして。
正面には巨大な門が見えていた。
黒く焼けた鉄門。
人間の数倍はある高さ。
半ば溶けたような痕跡が残っている。
誰が見ても分かる。
あの先だ。
「二十階層へのゲートか」
Cainが呟く。
Arcも頷いた。
ゲーム時代と同じなら。
あの先に火炎龍がいる。
◇
「まずはセーフポイントを探す」
Arcが言う。
全員が頷いた。
流石に門の前で休む気は無い。
「Sia」
「了解」
《Arrow Vision》
索敵開始。
Crowも周囲の警戒へ回る。
十分ほど探索した後。
「見つけた」
Siaが報告する。
広場から少し離れた建物跡。
三方向を壁に囲まれている。
侵入経路は一つだけ。
見張りもしやすい。
「悪くないな」
Garmが頷く。
「ここにする」
Arcが決めた。
◇
「じゃあ設営するか」
Crowが言う。
Aegisは慣れた手つきで準備を始めた。
簡易テント。
警戒結界。
火気管理。
食料確認。
攻略ギルドらしい無駄のない動きだった。
三十分後。
簡易拠点が完成する。
Rainはその場へ倒れ込んだ。
「終わったぁ……」
「まだ終わってない」
Arcが即答する。
「えぇ……」
「これからが本番だ」
その言葉に。
全員が苦笑した。
◇
広場の中央。
Arcは地面へ図を書き始める。
円。
通路。
矢印。
そして。
中央に大きく書いた。
火炎龍。
自然と全員が集まる。
雑談は消える。
攻略会議。
Aegisにとって最も重要な時間だった。
◇
「まず基本情報」
Arcが言う。
「火炎龍は飛行型ボスだ」
全員が頷く。
予想通りだった。
「開幕から空を取る」
「地上戦はほぼ無いと思え」
Rainが顔をしかめる。
「嫌な相手だな」
「かなりな」
Arcも認める。
そして。
地面に描いた火炎龍の図へ線を引いた。
「だから今回はRainが鍵になる」
全員の視線がRainへ向く。
「私?」
「ああ」
Arcが頷く。
「《Fly》を使った空中戦に一番慣れているのはお前だ」
「まず翼を狙う」
「火炎龍を地上へ引きずり下ろす」
Rainの表情が変わる。
今回は遊撃ではない。
主役だった。
「任せて」
Rainが笑う。
双剣を握る。
Arcは頷いた。
◇
「Cain」
「おう」
「お前も《Fly》で上がる」
「ただし無理はするな」
「空中戦はRainの補助だけでいい」
Cainが眉を上げる。
「珍しく控えめだな」
「お前の仕事は地上戦だ」
即答だった。
「翼を落とした後」
「火炎龍を削る」
「決定打を入れる」
「それがお前の役割だ」
Cainが笑う。
「そっちは得意だ」
◇
「Nova」
「ん」
「Sia」
二人が顔を上げる。
「お前達はRain支援」
「空中戦の間は翼へ集中攻撃」
Novaが頷く。
「撃ち落とせばいいのね」
「そうだ」
「Siaは牽制と隙作り」
「了解」
短く返事が返る。
◇
そして。
ArcはGarmを見る。
「今回のタンクはGarmだ」
「おう」
「火炎龍とCrowの相性は最悪だからな」
Crowが苦笑した。
「否定できねぇ」
飛行型。
広範囲攻撃。
ブレス。
回避タンクとの相性は悪い。
「Crowは遊撃」
「危険な時のフォロー」
「了解」
◇
Arcは全員を見る。
「目標は一つ」
地面の火炎龍へ線を引く。
「翼を落とす」
「空を奪う」
「地上戦へ持ち込む」
そこまで言って。
Arcは白炎核を見る。
「……ただし」
空気が変わった。
「白炎だけは分からない」
ゲームには存在しなかった。
未知。
それだけが不安要素だった。
「つまり」
Rainが笑う。
「そこから先は現場判断か」
「ああ」
Arcが頷く。
「明日は初見攻略になる」
◇
会議はさらに続いた。
Garmの立ち位置。
Novaの詠唱位置。
Siaの索敵範囲。
Crowの遊撃ルート。
RainとCainの突入タイミング。
一つずつ確認していく。
時間をかける。
生存率を上げるために。
◇
やがて。
会議が終わった。
夜。
灼熱廃都は静かだった。
遠くで炎が揺れる。
誰も喋らない。
それぞれが明日の戦いを考えていた。
◇
その時だった。
ゴォォォォォ―――ッ!!
咆哮。
大地が震える。
空気が揺れる。
十九階層にいるはずなのに。
圧力が伝わってくる。
Rainが思わず立ち上がった。
「マジでデカそうだな」
誰も否定しない。
Arcは黒い門を見る。
あの先。
二十階層。
火炎龍。
ゲーム時代に何百回も倒した敵。
だが。
今回は違う。
白炎。
白炎核。
未知の変化。
ゲーム知識だけでは足りない。
そんな予感がしていた。
「明日だな」
Cainが笑う。
「ああ」
Arcは短く答えた。
そして。
火炎龍の待つ門を見つめ続けた。
第四十八話を読んでいただきありがとうございます。
今回は火炎龍戦前の準備回でした。
Captainが残した《白炎核》、そしてゲームには存在しなかった《白炎》。
Arcの知識が通用しない可能性が少しずつ見え始めています。
そしてAegisは十九階層へ到達。
攻略会議も終わり、いよいよ次回は二十階層《火炎龍》との戦いです。
ゲーム知識だけでは攻略できない強敵に、Aegisはどう挑むのか。
次回も楽しんでいただけると嬉しいです。
ブックマーク、評価、感想などいただけると執筆の励みになります。
それではまた次回。




