第46話 灼熱廃都の支配者
#第46話 灼熱廃都の支配者
十六階層。
灼熱廃都。
崩れた塔の向こう。
巨大な骸骨が静かに立っていた。
赤黒い鎧。
巨大な剣。
燃え続ける炎。
明らかに普通のFlame Skeletonではない。
だが。
向こうは動かない。
ただ。
こちらを見ている。
「どうする?」
Cainが聞いた。
視線は巨大な骸骨から離さない。
Arcは少し考えた。
「追う」
即答だった。
Rainが笑う。
「だと思った」
「ただし慎重にだ」
Arcは続ける。
「十六階層の情報はゼロ」
「不用意に飛び込まない」
全員が頷いた。
◇
Aegisは廃都を進む。
Heatは残っている。
だが。
十五階層ほどではない。
呼吸するだけで体力を削られるような熱気も無い。
それでも。
十階層以前とは比べ物にならない暑さだった。
代わりに。
街が広い。
異様なほど広い。
崩れた家屋。
倒壊した塔。
焼けた石畳。
どこまでも続いている。
道の脇には。
崩れた看板。
焼け焦げた屋台。
砕けた石像。
生活の痕跡が残っていた。
「ゲームより大きいな」
Crowが言う。
「ああ」
Arcも同意した。
ゲームの灼熱廃都は攻略用のマップだった。
だが。
目の前にあるのは違う。
まるで。
本当に誰かが暮らしていた街だった。
ここまで違うと。
もはや参考程度にしかならない。
◇
広場へ出た。
中央には巨大な噴水があった。
今は干上がっている。
水は無い。
代わりに。
黒く焼けた石だけが残っていた。
その周囲には大量の骨が転がっている。
「……」
Rainがしゃがみ込む。
拾い上げる。
人間の頭蓋骨だった。
「人だな」
Cainも言う。
Arcは周囲を見る。
骨だけではない。
錆びた剣。
壊れた盾。
焼け焦げた鎧。
砕けた食器。
溶けた装飾品。
戦場の跡だった。
「この街」
Novaが呟く。
「戦争でもあったのか?」
誰も答えない。
分からないからだ。
だが。
街全体から感じる。
滅びの痕跡。
何かに壊された。
そんな空気だった。
「本当に街だったんだな」
Rainが周囲を見渡す。
崩れた建物。
焼けた広場。
散乱する骨。
モンスターの巣ではない。
滅びた都市。
そう呼ぶ方が正しかった。
Heat Wolfも。
灼熱巨人も。
こんな場所に住んでいたようには見えない。
まるで。
誰かの日常が燃え尽きた跡だった。
◇
その時。
Siaが顔を上げた。
《Arrow Vision》
周囲を確認する。
「反応」
全員が武器を構えた。
「数は?」
「十二」
「全方位じゃない」
「東側に集中してる」
Arcの目が細くなる。
ただ集まった訳ではない。
誰かに集められたような配置だった。
「Garm前」
「Crow左」
「Sia後衛援護」
「Nova中央待機」
「了解」
路地裏。
建物の影。
崩れた壁。
そこから。
Flame Skeletonが現れた。
剣。
槍。
弓。
そして盾。
前回より多い。
「来るぞ」
◇
「Garm!」
「おうよ!」
《War Cry》
咆哮。
Flame Skeleton達の視線が集まる。
同時に。
Arcが杖を掲げた。
《プロテクション》
Garmへ付与。
《ヘイスト》
Rain。
Cain。
二人へ発動。
《Fly》
身体が浮き上がる。
上空から戦場を確認。
その瞬間。
Arcは違和感に気付いた。
「……?」
敵の動き。
前回と違う。
前衛が前へ。
弓兵が後ろへ。
盾兵が側面を守る。
明らかに統率されている。
偶然ではない。
「Crow!」
「右から二体回り込む!」
「了解!」
Crowが即座に動く。
Siaの矢が飛ぶ。
回り込もうとした弓兵型の肩を砕いた。
だが。
Arcの視線は別の場所へ向いていた。
広場の先。
崩れた時計塔。
その上。
赤い炎が揺れている。
いた。
あの巨大な骸骨だ。
こちらを見ている。
だが。
動かない。
ただ。
戦場を見下ろしている。
敵が動く。
巨大な骸骨が見る。
隊列が変わる。
巨大な骸骨が剣を僅かに動かす。
偶然ではない。
まるで。
軍隊を率いる将軍だった。
「そういう事か」
Arcが小さく呟く。
「Arc?」
Novaが聞く。
Arcは時計塔を指差した。
「アイツだ」
「この群れを指揮している」
全員の視線が時計塔へ向いた。
そして。
巨大な骸骨がゆっくりと剣を持ち上げた。
その瞬間。
街の奥から。
新たな足音が響いた。
重い。
鈍い。
だが。
確実に近付いてくる。
全員が音の方向を見る。
路地裏。
崩れた建物の影。
そこから現れたのは。
Flame Skeletonだった。
だが。
普通ではない。
鎧。
剣。
盾。
装備が明らかに違う。
しかも。
一体ではない。
「増えたな」
Cainが笑う。
「笑ってる場合か」
Crowが呆れる。
Siaが周囲を確認する。
《Arrow Vision》
視界を広げる。
「二十以上」
短く告げた。
◇
「予想以上だな」
Novaが呟く。
普通の探索者なら。
ここで撤退を考える数だった。
だが。
Arcは上空から戦場を見渡していた。
敵は多い。
しかし。
無秩序ではない。
前衛。
後衛。
側面。
それぞれが配置されている。
まるで軍隊だった。
増援が現れる。
だが。
突撃してこない。
まず前衛が並ぶ。
その後ろへ弓兵が配置される。
さらに側面へ盾兵。
偶然で出来る隊列ではない。
「やっぱりだ」
Arcが呟く。
「指揮されてる」
時計塔。
巨大な骸骨。
あれが原因だ。
ゲーム時代にも指揮個体はいた。
だが。
ここまで統率されたモンスターは見た事がない。
現実化の影響か。
それとも。
元々存在していたのか。
分からない。
だが。
一つだけ確かな事がある。
放置すれば危険だ。
◇
「Garm!」
「おう!」
「中央維持!」
「任せろ!」
Garmが盾を構える。
《Guard Stance》
重心を落とす。
受ける準備は完了だった。
Flame Skeletonが突撃する。
剣。
槍。
盾。
一斉攻撃。
だが。
Garmは動かない。
受ける。
弾く。
耐える。
剣が盾へ当たる。
火花。
槍が突き出される。
弾く。
さらに盾兵が押し込む。
それでも。
Garmは下がらない。
「硬ぇな」
Cainが笑う。
「誰が壁だと思ってる」
Garmが返した。
「Rain!」
「了解!」
《飛燕》
Rainが駆ける。
一閃。
剣兵の首が飛ぶ。
さらに。
二体目。
三体目。
止まらない。
Heat環境。
狭い路地。
障害物だらけの廃都。
だが。
Rainには関係なかった。
崩れた壁を蹴る。
石柱を踏む。
視界から消える。
次の瞬間。
別方向から斬撃。
Flame Skeletonが崩れ落ちた。
「相変わらず速いな」
Novaが苦笑する。
その時。
弓兵型が屋上へ現れた。
五体。
同時。
「Sia!」
「見えてる」
《Multi Shot》
五本の矢。
空を裂く。
ほぼ同時着弾。
弓兵型の頭部が砕けた。
屋上から次々と落下する。
「ナイス」
Arcが言う。
「当然」
Siaは短く答えた。
「Nova!」
「任せて!」
杖を掲げる。
《Lightning》
雷撃。
轟音。
敵陣中央へ落ちた。
骨が吹き飛ぶ。
さらに。
雷撃を受けた個体の動きが鈍る。
「Cain!」
「待ってた!」
《疾駆》
一気に加速。
敵陣へ突っ込む。
《重閃》
巨大な斧が振り下ろされた。
衝撃。
Flame Skeletonがまとめて吹き飛ぶ。
骨片が宙を舞った。
圧倒。
完全にAegis優勢だった。
◇
だが。
Arcは笑わない。
時計塔。
あの巨大な骸骨。
まだ動いていない。
ただ見ている。
それが不気味だった。
「Arc」
Crowが声を上げる。
「変だ」
「ああ」
Arcも同意した。
敵は減っている。
こちらが押している。
普通なら。
指揮官は何らかの行動を取るはずだ。
なのに。
Captainは動かない。
まるで。
試しているようだった。
Aegisの戦力を。
観察している。
上空から見ているArcだからこそ分かる。
Captainの視線。
剣の動き。
全てが戦場へ向いている。
敵が倒れる。
Captainが見る。
隊列が崩れる。
Captainが剣を動かす。
まるで。
学習しているようだった。
「嫌なタイプだな」
Arcが小さく呟く。
◇
その瞬間。
時計塔の上。
Captainが剣を掲げた。
熱風が吹く。
街全体が揺れた。
そして。
廃都のあちこちから。
新たな赤い炎が灯る。
「……おい」
Rainが顔を引きつらせた。
立ち上がる。
一体。
二体。
三体。
十体。
二十体。
三十体。
Flame Skeleton。
次々と現れる。
Arcは上空から数える。
そして。
眉をひそめた。
これはゲームに無かった。
少なくとも。
Arcの知る灼熱廃都には存在しない。
Captainは。
ただの強敵ではない。
軍隊を率いていた。
「全員聞け!」
Arcが叫ぶ。
即座に全員の意識が集まる。
「目標変更!」
「Captainを叩く!」
Rainが笑った。
「やっと本命?」
「ああ」
Arcが頷く。
「Garm!」
「おう!」
「正面維持!」
「任せろ!」
「Crow!」
「右側の群れを引き付けろ!」
「了解」
「Sia!」
「Captain周辺を牽制!」
「了解」
「Nova!」
「進路を開けろ!」
「任せて!」
「Cain!」
Arcが最後に叫ぶ。
「俺が援護する」
上空から指示を飛ばす。
それが今回の役目だった。
Cainが笑った。
「待ってた」
◇
次の瞬間。
Novaが杖を掲げる。
《Lightning》
雷光。
轟音。
Captainへ続く道を塞いでいたFlame Skeletonが吹き飛んだ。
骨片が宙を舞う。
開いた。
一直線の突破口だった。
「今!」
Arcが叫ぶ。
《ヘイスト》
再付与。
Cainの身体がさらに加速する。
《疾駆》
地面を蹴る。
正面突破。
Flame Skeletonを蹴散らしながら進む。
その頭上。
Arcが飛ぶ。
《Fly》
初めての本格的な空中戦。
だが。
視界は完璧だった。
「左!」
Arcが叫ぶ。
Cainが反応する。
槍兵の突きを回避。
「右!」
大斧が振られる。
骨が砕ける。
「前!」
《重閃》
轟音。
盾兵ごと吹き飛ばした。
まるで。
Arcが目。
Cainが剣だった。
時計塔。
距離が縮まる。
五十メートル。
三十メートル。
二十メートル。
その時。
Captainが動いた。
◇
巨大な剣を持ち上げる。
ゆっくり。
だが。
圧倒的な威圧感。
そして。
振り下ろした。
瞬間。
熱風が吹き荒れた。
周囲のFlame Skeletonが一斉に動く。
速度が上がる。
攻撃が鋭くなる。
まるで別物だった。
「強化した!」
Novaが叫ぶ。
Arcは即座に理解する。
指揮能力。
それも。
広範囲強化。
普通のモンスターではない。
明確なボス系統。
「Captainが強化能力持ちだ!」
「放置するな!」
その瞬間。
Siaが弓を引いた。
《Break Shot》
矢が一直線に飛ぶ。
Captainの肩へ命中。
巨体が僅かに揺れた。
「効いてる!」
Rainが叫ぶ。
「なら行ける!」
Cainが笑う。
《闘身》
全身に力が漲る。
筋肉が膨張する。
呼吸が熱を帯びる。
「ぶっ壊す!」
地面を蹴る。
一気に距離を詰める。
Captainも剣を構えた。
巨大な剣。
巨大な斧。
二つの武器が激突する。
轟音。
衝撃波が広場を駆け抜けた。
周囲の骨が吹き飛ぶ。
石畳が砕ける。
だが。
Captainは動かない。
「硬ぇ!」
Cainが笑う。
再び斧を振るう。
肩。
胴。
脚。
だが。
どれも決定打にならない。
硬い。
異常なほど硬い。
◇
Arcは上空から観察する。
腕。
肩。
脚。
どこも同じ炎。
どこも同じ鎧。
だが。
胸だけ違った。
鎧の隙間。
そこだけ。
炎の色が違う。
赤ではない。
僅かに白い。
鼓動するように明滅している。
敵の攻撃を受けるたび。
わずかに強く光る。
まるで。
心臓だった。
「核か」
Arcの目が細まる。
攻略法を見つけた時の顔だった。
ゲーム知識ではない。
観察。
分析。
経験。
それが答えを導き出した。
「Cain!」
上空から叫ぶ。
「胸だ!」
「そこを壊せ!」
Cainの視線が胸部へ向く。
「了解!」
◇
Captainの赤い眼が。
初めてArcを見た。
そして。
ゆっくりと口を開く。
骨が擦れる音。
声にはならない。
だが。
それは確かに意思だった。
「……今」
Rainが呟く。
「喋ろうとした?」
Captainは答えない。
ただ。
赤い眼でArcを見つめていた。
まるで。
観察しているように。
まるで。
値踏みしているように。
そして。
白い核が強く脈動した。
次の瞬間。
Captainが巨大な剣を振り上げる。
狙いは。
Cainではない。
上空のArcだった。
第四十六話を読んでいただきありがとうございます。
今回は十六階層《灼熱廃都》の探索と、Captainとの初遭遇でした。
十五階層までとは違い、十六階層では知性を感じる敵が登場しています。
そして最後。
Captainが狙ったのはCainではなくArcでした。
次回はCaptainとの本格戦闘になります。
よろしければブックマークや感想で応援していただけると嬉しいです。
それではまた次回!




