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世界最強ヒーラー、サービス終了したゲーム知識で現実ダンジョンを攻略する ~伝説のギルド《Aegis》復活~  作者: PeterP4n
三章 灼熱の境界域

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第42話 十五階層突破

# 第42話 十五階層突破


 探索者協会。


 横浜支部。


 監視室。


 普段なら。


 静かな場所だった。


 壁一面に並ぶモニター。


 各地のダンジョン映像。


 探索者たちの行動記録。


 職員たちは異常が無いか監視し。


 必要なら救助隊へ連絡する。


 それが仕事だ。


 地味だが重要な業務。


 大半の日は何事もなく終わる。


 だが。


 今日だけは違った。


「ランダムボス出現確認!」


 若い職員が叫ぶ。


 大型モニターへ映し出されているのは。


 火山ダンジョン十五階層。


 赤熱した空洞。


 そして。


 巨大な灼熱巨人。


「嘘だろ……」


 誰かが呟く。


 誰も否定できなかった。


 問題は。


 灼熱巨人そのものではない。


 そこへ至るまでの流れだった。


「十五階層中ボスと交戦中」


「ランダムエンカウントボス出現を確認」


「Aegis、二体同時戦闘へ移行」


「消耗率、急速に上昇しています」


 報告が続く。


 室内の空気が重くなる。


 無理だ。


 普通なら。


 誰もがそう思った。


 十五階層中ボス。


 溶岩土龍。


 その時点で十分危険だった。


 火山ダンジョンは環境そのものが脅威だ。


 熱。


 疲労。


 継続ダメージ。


 長時間の探索だけでも体力は削られていく。


 そんな環境での中ボス戦。


 普通ならそれだけでも十分な難所だった。


 だが。


 問題はその最中に起きた。


 灼熱巨人。


 ランダムボス。


 出現条件不明。


 強さ不明。


 攻略情報ゼロ。


 協会側も詳細を把握していない存在。


 その未知のボスが。


 溶岩土龍との戦闘中に出現したのだ。


 結果として。


 Aegisは二体を同時に相手取ることになった。


 十五階層中ボス。


 ランダムボス。


 二体同時戦闘。


 監視室の誰もが。


 Aegisの全滅を覚悟していた。


「普通なら終わりだな」


 ベテラン職員が呟く。


 誰も反論しない。


 監視室にいる全員が同じことを思っていた。


 撤退できるなら撤退。


 それが正解だった。


 それが探索者の常識だった。


 だが。


 モニターの中のAegisは違った。


 逃げない。


 崩れない。


 戦線を維持している。


「まだ動けるのかよ……」


 若い職員が呟く。


 Rainが走る。


 Cainが斬り込む。


 Garmが耐える。


 Crowが撹乱する。


 Novaが魔法を撃つ。


 Siaが援護する。


 そして。


 Arcが指揮を執る。


 連携が異常だった。


 新人パーティには見えない。


 何年も組んだベテランギルドみたいだった。


 誰かが指示を出す前に。


 誰かが必要な場所へ動いている。


 迷いが無い。


 躊躇も無い。


 まるで。


 全員が同じ攻略本を読んでいるみたいだった。


 監視室の職員たちは。


 いつの間にか仕事を忘れていた。


 ただ映像に見入っている。


 それほど異常な戦いだった。


「背部核露出!」


 職員が叫ぶ。


 映像へ全員の視線が集中する。


 灼熱巨人。


 第二形態。


 巨大な身体が揺れる。


 背中が開く。


 赤熱した核が露出した。


「来るぞ……」


 誰かが呟く。


 次の瞬間。


 巨大な爆炎が画面を埋め尽くした。


《Explosion》


 轟音。


 衝撃波。


 監視室の全員が息を飲む。


 画面が揺れる。


 視界が白く染まる。


 誰も喋らない。


 喋れない。


 あの一撃で決まる。


 誰もが理解していた。


 だから。


 ただ見守ることしかできない。


 数秒後。


 煙が晴れる。


 灼熱巨人が膝をついた。


「倒した……?」


 職員の声が震える。


 そして。


 巨大な身体が崩れ落ちた。


 轟音。


 十五階層ランダムボス。


 討伐確認。


 一瞬。


 監視室が静まり返る。


 誰も理解できなかった。


 本当に倒したのか。


 本当に生き残ったのか。


 数秒後。


 一人の職員が立ち上がる。


「討伐確認!!」


 その声をきっかけに。


 監視室が爆発した。


 歓声。


 安堵。


 驚愕。


 様々な感情が入り混じる。


 誰もが最悪の結末を覚悟していた。


 だからこそ。


 生還したという事実が信じられなかった。


「マジで倒したのか……」


「十五階層だぞ……」


「しかもランダムボス込みだ」


 職員たちの声が飛び交う。


 画面の向こうにいるのは。


 たった七人。


 それなのに。


 世界中の探索者が届いていない場所へ辿り着いた。


 その事実が。


 監視室全体を興奮させていた。


「映像保存!」


「記録バックアップ!」


「本部へ連絡!」


「支部長呼べ!」


「至急だ!」


 電話が鳴る。


 職員が走る。


 椅子が倒れる。


 普段冷静な監視室が。


 まるで戦場みたいな騒ぎになっていた。


 その中央で。


 一人の男だけが静かだった。


 探索者協会横浜支部長。


 黒崎。


 ダンジョン出現から一か月。


 協会へ集まる攻略記録は全て確認してきた。


 十階層。


 それだけでも大きな壁だった。


 十一階層到達でニュースになる。


 十二階層到達なら全国が注目する。


 そんな状況で。


 十五階層攻略。


 黒崎でさえ。


 すぐには現実として受け入れられなかった。


「支部長」


 部下が駆け寄る。


「確認しました」


「ああ」


「十五階層制圧を確認しました」


 黒崎は無言で頷いた。


 分かっている。


 映像を見ていたのだから。


 問題は。


 その意味だった。


「国内最高到達記録は?」


「十二階層です」


「海外は?」


「十三階層到達報告が一件」


 黒崎は目を閉じる。


 つまり。


 そういうことだ。


「世界記録更新か」


 誰も言葉を返せない。


 重みが違う。


 十五階層。


 ただの数字じゃない。


 この一か月。


 世界中の探索者が挑み続けてきた。


 だが。


 十階層を超えるだけでも一握り。


 十一階層到達でニュース。


 十二階層到達なら全国規模の話題になる。


 そんな状況だった。


 だからこそ。


 十五階層という数字は異常だった。


 世界中の誰も届いていない場所。


 そこへ。


 たった七人のパーティが到達した。


 しかも。


 協会が把握している限り最速で。


 十五階層。


 その先は。


 まだ誰も知らない世界だ。


 地図も無い。


 情報も無い。


 攻略記録も無い。


 Aegisは今。


 人類最前線へ立っていた。


 黒崎はモニターへ視線を向ける。


 画面には。


 灼熱巨人へ立ち向かうAegisの姿。


 誰も諦めていない。


 誰も逃げていない。


 その光景が。


 余計に現実感を失わせる。


「信じられんな……」


 思わず漏れた。


 部下も無言だった。


 返す言葉が見つからない。


 それほどの快挙だった。


「Aegis……」


 黒崎が呟く。


 最近急激に名前を聞くようになったギルドだ。


 十階層。


 十一階層。


 十二階層。


 攻略報告が上がるたびに話題になった。


 だが。


 記録を読むたびに違和感があった。


 攻略速度が異常だった。


 損耗率も低い。


 普通のパーティなら。


 もっと苦戦する。


 もっと怪我人が出る。


 だが。


 Aegisは違った。


 まるで。


 最短距離を知っているみたいだった。


 迷わない。


 躊躇しない。


 判断が早い。


 そして。


 無駄が無い。


 今回も同じだった。


 黒崎は戦闘映像を巻き戻す。


 第二形態移行直後。


 本来なら最も混乱する場面。


 未知の攻撃。


 未知の行動。


 未知の弱点。


 普通なら。


 誰もが迷う。


 だが。


 Arcは迷わなかった。


 Rainへ指示。


 Cainへ指示。


 Garmへ指示。


 Crowへ指示。


 Novaへ指示。


 全てが早すぎた。


 考えて出した指示ではない。


 知っていたような指示だった。


 黒崎は映像を停止する。


 ちょうど。


 第二形態へ移行した瞬間。


 普通なら。


 敵を観察する。


 攻撃を受ける。


 分析する。


 そこから攻略法を探る。


 だがArcは違う。


 まるで。


 最初から答えを持っているみたいだった。


 だからこそ。


 黒崎は違和感を覚える。


 新人。


 そう資料には書かれている。


 だが。


 本当にそうなのか。


 少なくとも。


 あの指揮だけは新人のものではなかった。


「知っているみたいだな」


 黒崎が呟く。


「え?」


 部下が聞き返す。


「十五階層を」


「攻略法を」


「最初から知っているみたいだ」


 部下も映像を見る。


 確かにそうだった。


 初見の動きじゃない。


 まるで。


 何度も戦ったことがあるような。


 そんな指揮だった。


 その時だった。


「支部長!」


 職員が駆け込んでくる。


「本部から連絡です!」


 黒崎は苦笑した。


「早いな」


「映像を確認したそうです」


 当然だった。


 十五階層攻略。


 探索者史に残る快挙だ。


 本部が黙っているはずがない。


「何と言っている」


「Aegis帰還後」


 職員が息を整える。


「至急報告を上げろとのことです」


 室内がざわついた。


 本部が直接動く。


 それだけでも異例だった。


 だが。


 まだ終わらない。


「それと」


 職員が続ける。


「討伐ドロップについても回収を優先しろと」


 黒崎が眉を上げた。


「十五階層級の魔石か」


「はい」


 十五階層級の魔石。


 それだけでも国家レベルの資産価値がある。


 だが。


 職員は首を振った。


「違います」


「ん?」


「もう一つです」


 黒崎が視線を向ける。


 職員はモニターを操作した。


 映像が停止する。


 そこには。


 巨大な魔石。


 そして。


 その隣に落ちている赤い結晶が映っていた。


 監視室の空気が変わる。


「これです」


 黒崎は目を細めた。


 初めて見る。


 記録にも無い。


 資料にも無い。


 見覚えが無かった。


「鑑定班は?」


「全員不明との回答です」


 室内が静まり返る。


 未知。


 その言葉の重さを。


 探索者協会の人間は知っていた。


 ダンジョンが現れてから一か月。


 人類は必死に情報を集めてきた。


 魔石。


 魔物。


 装備。


 素材。


 少しずつ理解を深めてきた。


 だが。


 未知は今でも存在する。


 そして。


 未知は常に危険と隣り合わせだった。


 新種の魔物。


 未確認異常個体。


 突発的な環境変化。


 過去一か月の記録が脳裏をよぎる。


 だからこそ。


 監視室の空気は重かった。


 誰も軽く考えていない。


 分からない。


 それが一番危険だからだ。


 黒崎はモニターを見つめる。


 赤い結晶。


 何故か。


 嫌な予感がした。


 その時だった。


「支部長!」


 別の職員が駆け込んでくる。


「Aegis帰還ゲートへ接近中です!」


 監視室の空気が変わる。


 帰ってくる。


 十五階層を制圧したパーティが。


 世界最高到達記録を更新した探索者たちが。


「迎えの準備をしろ」


 黒崎が立ち上がる。


「医療班待機」


「鑑定班も呼べ」


「記録担当もだ」


「支部長室を空けておけ」


 指示が飛ぶ。


 職員たちが一斉に動き出した。


 誰もが理解していた。


 これは歴史に残る日だと。



 一方。


 Aegisは帰還ゲートへ向かっていた。


 長い通路。


 赤熱した岩壁。


 さっきまでなら熱かったはずなのに。


 今はそれすら気にならない。


 疲れ切っていた。


 本当に。


 疲れ切っていた。


「もう無理だ……」


 Garmが呟く。


 巨盾を引きずるように歩いている。


 歪んだ盾は限界寸前だった。


 あと数発受ければ壊れていただろう。


「それ五回くらい聞いた」


 Cainが笑う。


「五回じゃ足りない」


「まだ言うのかよ」


「だって無理だし」


 全員が笑う。


 笑う元気は残っていた。


 だが。


 足は重い。


 肩も重い。


 身体中が悲鳴を上げていた。


 Rainは右肩へ触れる。


 まだ痛む。


 灼熱巨人の一撃。


 直撃ではない。


 掠っただけだ。


 それでも。


 もしArcの《バリア》が無ければ。


 右腕ごと持っていかれていたかもしれない。


「助かったな……」


 小さく呟く。


「何が?」


 Siaが聞く。


「いや」


 Rainは苦笑した。


「生きて帰れてること」


 一瞬。


 全員が黙る。


 そして。


「確かに」


 Novaが頷いた。


 最後は本当に紙一重だった。


 魔力は空。


 ポーションも残り僅か。


 体力も限界。


 勝てたのは。


 実力だけじゃない。


 運もあった。


 それでも。


 勝った。


 生きて帰れる。


 その事実だけで十分だった。


「帰ったら何食う?」


 Cainが言う。


 重くなった空気を切り替えるように。


「焼肉」


 Rainが即答する。


「賛成」


 Siaも即答。


「俺も」


 Novaも手を上げる。


「ラーメン」


 Crowだけ違った。


「いや焼肉だろ」


「ラーメン」


「焼肉」


「ラーメン」


「焼肉」


「ラーメン」


 小学生みたいな言い争いが始まる。


 Novaが吹き出した。


「なんでそこで張り合うの」


「重要だからだ」


 Crowは真面目な顔で言う。


「ラーメンは正義」


「焼肉も正義だろ」


「両方行けばいいじゃん」


 Siaが言った。


 一瞬。


 全員が固まる。


「それだ」


「天才か?」


「まず焼肉」


「締めにラーメン」


「完璧だな」


 全員が頷いた。


 馬鹿みたいな会話だった。


 だが。


 それが良かった。


 生きている。


 生還した。


 そんな実感が少しずつ湧いてくる。


「Arcは?」


 Rainが聞く。


 視線が集まる。


 Arcは少しだけ考えた。


「寝る」


 一瞬。


 沈黙。


 次の瞬間。


 爆笑が起きた。


「お前もかよ!」


「飯じゃねぇのか!」


「人間だったんだな」


「失礼だな」


 Arcが返す。


 また笑いが起きる。


 だが。


 その笑いの中でも。


 Arcの視線は時折。


 手の中の赤い結晶へ向いていた。


 温かい。


 いや。


 熱い。


 さっきより熱が増している気がする。


 気のせいかもしれない。


 だが。


 妙な違和感があった。


 ゲーム知識に無い。


 攻略情報に無い。


 見たことも無い。


 だからこそ不気味だった。



 帰還ゲート。


 白い光柱が立ち上る。


 出口。


 現実への帰り道。


「やっとだ……」


 Garmが心底安心したように呟く。


 そして。


 全員が光へ足を踏み入れた。



 視界が白く染まる。


 次の瞬間。


 景色が変わった。


 探索者協会。


 帰還エリア。


「……ん?」


 Rainが足を止める。


 違和感。


 人が多い。


 いつもより遥かに多い。


 職員。


 医療班。


 鑑定班。


 協会関係者。


 帰還エリアの周囲を囲むように集まっている。


「なんだこれ」


 Cainも眉をひそめた。


「嫌な予感しかしない」


 Crowが呟く。


 すると。


 人垣が左右へ割れる。


 一人の男が歩いてくる。


 黒崎だった。


 横浜支部長。


 協会トップの一人。


「お帰り」


 黒崎が言う。


 そして。


 全員を見渡した。


 怪我。


 疲労。


 消耗。


 全て確認する。


 その後。


 静かに口を開いた。


「まずは」


 一呼吸。


「十五階層攻略おめでとう」


 一瞬。


 静寂。


 次の瞬間。


 拍手が起きた。


 周囲の職員たちだった。


 監視室。


 医療班。


 記録担当。


 誰もが拍手している。


 Rainは思わず固まった。


「え?」


 理解が追い付かない。


「映像は見ていた」


 黒崎が苦笑する。


「全部な」


 一瞬。


 Aegis全員が固まる。


 そして。


「うわぁ……」


 Rainが頭を抱えた。


「全部?」


「全部」


「マジ?」


「マジだ」


 戦闘中の動き。


 焦った場面。


 危険な場面。


 全部見られていた。


 そう思うと急に恥ずかしくなる。


 周囲から笑いが漏れた。



「それと」


 黒崎が続ける。


「お前たちは世界記録を更新した」


 一瞬。


 全員が固まった。


「……は?」


 最初に反応したのはCainだった。


「世界?」


「ああ」


 黒崎は頷く。


「現在確認されている世界最高到達記録は十三階層」


「お前たちは十五階層へ到達した」


 沈黙。


 誰も喋らない。


 実感が無い。


 十五階層。


 そこへ辿り着くことだけ考えていた。


 生き残ることだけ考えていた。


 だから。


 世界最高。


 そう言われても。


 すぐには理解できなかった。


「マジか……」


 Garmが呟く。


 Novaも目を見開く。


 Siaも言葉を失う。


 Rainは天井を見上げた。


 世界記録。


 その言葉が。


 少しずつ胸へ落ちてくる。


 世界中の誰も届いていない場所。


 そこへ。


 自分たちは辿り着いた。


 Arcは黙っていた。


 十五階層。


 ゲーム時代なら通過点だった。


 だが。


 現実では世界記録。


 その事実だけは理解していた。


 だからこそ。


 浮かれる気にはなれなかった。


 まだ先がある。


 もっと深い階層がある。


 Arcの視線は。


 既に次の攻略へ向いていた。


「すげぇな……」


 誰が言ったのか分からない。


 だが。


 その言葉に。


 全員が少しだけ笑った。



 その後。


 医療検査。


 魔力測定。


 怪我の確認。


 様々な手続きが行われる。


 そして。


 最後に。


 討伐ドロップの確認が始まった。


 巨大な赤色魔石。


 鑑定士たちが息を飲む。


「凄まじい魔力量です」


「過去最大クラスですね」


「十五階層級……」


 誰もが興奮していた。


 だが。


 本命は別だった。


 赤い結晶。


 それが机へ置かれる。


 室内が静まり返る。


 鑑定士が手に取る。


 魔力を流す。


 調べる。


 首を傾げる。


 二人目。


 三人目。


 結果は同じだった。


「……不明です」


 鑑定士長が言う。


 空気が変わる。


「分からない?」


 黒崎が聞き返す。


「記録にありません」


「素材データにもありません」


「用途も不明です」


 未知。


 その言葉が部屋へ落ちる。


 Arcは黙って結晶を見る。


 嫌な予感は消えない。


 むしろ強くなっていた。


「本部へ送ります」


 鑑定士長が言った。


「最高レベルの調査が必要です」


 黒崎も頷く。



 全てが終わる頃には。


 夜になっていた。


「帰るぞ」


 Cainが言う。


「飯」


「風呂」


「寝る」


 満場一致だった。


 その時。


「Arc」


 黒崎が呼び止める。


 Arcが振り返る。


「本部がお前に興味を持っている」


 静かな声だった。


「近いうちに呼ばれるだろう」


「分かりました」


 Arcは頷く。


 それだけだった。


 だが。


 黒崎は思う。


 世界記録を達成した男には見えない。


 まるで。


 もっと先を見ているようだった。



 深夜。


 協会研究室。


 厳重な保管ケースの中。


 赤い結晶が静かに置かれていた。


 誰もいない。


 音も無い。


 静寂。


 その中で。


 結晶が淡く光る。


 一度。


 二度。


 三度。


 まるで。


 心臓の鼓動のように。


 そして。


 ケース横の計測機器が。


 誰にも気付かれないまま。


 ほんの僅かに数値を上昇させた。


 警告ランプは点灯しない。


 異常判定にも届かない。


 だから。


 誰も気付かなかった。


 赤い結晶は。


 静かに脈打ち続けていた。


あとがき


第四十二話を読んでいただきありがとうございます!


ついにAegisが十五階層を突破しました。


これまでArcたちは攻略を進めてきましたが、今回で初めて「世界から見ても異常な存在」であることが明確になりました。


ただ、Arc本人はあまり気にしていません。


世界記録よりも次の階層。


名声よりも攻略。


そんな主人公です。


そして今回登場した赤い結晶。


ゲーム知識にも存在しない未知のドロップです。


協会も分からない。


鑑定士も分からない。


当然Arcも分からない。


この結晶が今後の物語にどう関わってくるのか、ぜひ楽しみにしていただければと思います。


次回は十五階層突破後の余波。


世界記録達成による協会や本部の動き、そしてAegisへ向けられる注目が描かれます。


引き続き応援していただけると嬉しいです!


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それではまた次回!

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