第36話 攻略継続
#第36話 攻略継続
灼熱巨人が踏み出す。
巨大な足が、 地面へ沈み込んだ。
瞬間。
空洞全体が揺れる。
岩壁が軋み、 赤熱した粉塵がぱらぱらと降ってきた。
熱霧が乱れる。
吹き荒れた熱風が、 顔へ叩きつけられた。
「……っ」
Rainが息を止める。
熱い。
鼻奥へ熱気が刺さる。
喉が乾く。
呼吸するたび、 肺が焼けるみたいだった。
汗が頬を流れる。
だが。
落ちる前に蒸発する。
髪先が焦げる匂いがした。
装備金具が熱い。
剣の柄すら、 握り続けるだけで指先が焼けそうだった。
呼吸が浅い。
熱気が肺へ入り込むたび、 集中力が削られていく。
思考が鈍る。
ほんの一瞬。
判断が遅れれば死ぬ。
Heat環境そのものが、 探索者を削っていた。
「……冗談だろ」
Novaの声が掠れる。
魔法職だから分かる。
空気中のHeat量が、 異常な速度で増えていた。
下手に高出力魔法を撃てば。
爆発が爆発を呼ぶ。
空洞全体が暴走しかねない。
一瞬。
誰も動かなかった。
熱霧だけが揺れている。
灼熱巨人は、 ただ立っていた。
それだけで。
空洞全体が圧迫されていた。
本気で終わったと思った。
二体同時。
第十五階層。
普通なら撤退。
探索者協会でも、 間違いなく撤退判断を出す。
なのに。
Arcだけは違った。
視線が止まらない。
敵位置。
Heat濃度。
侵食速度。
味方損耗。
崩落地点。
全部を処理している。
恐怖より先に、 計算が回っていた。
Rainの荒い呼吸。
Crowの集中低下。
Garmの耐久残量。
Novaの魔力残量。
Siaの射線。
それすら。
Arcの中では、 既に数値化されていた。
Crowはまだ持つ。
だが、 回避精度は落ち始めている。
Garmは耐えている。
だが、 衝撃蓄積は想定より早い。
Heat侵食進行。
戦闘継続可能時間。
全部が、 Arcの中で線になる。
普通なら撤退。
でも。
Arcは既に、 撃破手順を組み終えていた。
「役割変更する」
短い一言。
その瞬間。
Aegis全員の意識が切り替わる。
灼熱巨人。
溶岩土龍。
戦場分離。
役割再配置。
「Garm! 巨人のヘイトを取れ!」
「Crow! 土龍を引き離せ!」
「了解!」
返答と同時。
Aegis全員が動いた。
《Protection》
淡い光が、 Garmの重装を包む。
《Regene》
継続回復光が重なる。
Heat侵食。
灼熱巨人の衝撃。
長時間受け続ける前提の支援だった。
《Taunt》
Garmが巨盾を叩きつける。
重い衝撃音が、 空洞全体へ響いた。
灼熱巨人の視線が、 ゆっくりGarmへ向く。
熱圧が来る。
重い。
立っているだけで、 呼吸が潰されそうだった。
灼熱巨人の拳が持ち上がる。
遅い。
なのに。
逃げ場が無い。
巨大すぎる。
視界そのものが、 赤熱した拳で埋まっていく。
熱風が吹き荒れる。
熱い。
鎧越しでも分かる。
ただ近付くだけで、 Heatが皮膚を焼いていた。
Garmは盾を握り直す。
腕が汗で滑る。
だが。
熱で、 汗はすぐ蒸発した。
重い。
まだ落ちてきてもいないのに。
圧だけで、 膝が沈みそうだった。
それでも。
逃げない。
ここを抜かれれば、 後ろが死ぬ。
Rain。
Nova。
Sia。
そしてArc。
だから。
Garmは前へ出る。
《Guard Stance》
巨盾を押し出す。
直後。
赤熱した巨拳が落ちた。
爆発みたいな衝撃が、 全身へ叩きつけられる。
床が砕けた。
膝が沈む。
腕が痺れる。
肺から空気が押し出された。
「ぐっ――!」
砕けた岩片が、 熱霧の中へ散る。
衝撃で岩壁へ亀裂が走った。
熱風が吹き荒れる。
Garmの腕が震える。
盾を握る指先が痺れていた。
重い。
ただ一撃受けただけで、 全身が軋んでいる。
鎧越しに、 熱が身体を焼いていた。
それでも。
Garmは退かない。
《Heal》
直後。
淡い回復光が飛ぶ。
潰れかけた呼吸が戻る。
焼けるみたいだった肺が、 少しだけ軽くなった。
「助かる!」
中央。
Arcは動かない。
空洞中央。
二つの戦場を、 同時に見ていた。
左。
灼熱巨人。
右。
溶岩土龍。
Heat濃度。
侵食速度。
味方損耗。
全部を処理している。
Arcの視線は、 誰にも向いていない。
戦場そのものを見ていた。
普通なら、 仲間の限界が先に見える。
でも。
Arcは違う。
先に見ているのは、 攻略成立時間だった。
Siaは見ている。
赤熱した巨腕。
重心移動。
踏み込み。
拳が落ちる軌道。
攻撃前兆を読んでいた。
灼熱巨人の肩が沈む。
来る。
「右来る!」
《Break Shot》
矢が走る。
熱霧を裂き、 灼熱巨人の肘関節へ突き刺さった。
硬い。
金属みたいな感触が、 Siaの指へ返ってくる。
だが。
僅かに。
拳の軌道がズレた。
《Guard Stance》
Garmの巨盾が、 真正面から拳を受け止める。
衝撃で床へ亀裂が走った。
砕けた岩片が、 熱霧の中へ散る。
◇
一方。
Crowは熱霧の中を走っていた。
後方。
溶岩土龍が追う。
巨大な赤熱外殻が、 熱霧を吹き飛ばしながら迫っていた。
速い。
相変わらず、 巨体とは思えない速度だった。
地面が沈む。
岩盤が砕ける。
熱風が背中へ叩きつけられた。
黒コートが激しく揺れる。
Crowは見ている。
肩の沈み。
地面の砕け方。
重心移動。
突進前の予備動作。
巨大な顎が開く。
赤熱した牙。
熱風が吹き荒れる。
速い。
視界が埋まる。
Crowはまだ動かない。
速い。
だが、 まだ早い。
熱霧の向こう。
溶岩土龍の肩が沈む。
牙の角度が変わる。
重心が流れた。
来る。
早く避ければ、 逆に狙いを修正される。
だから。
限界まで引き付ける。
巨大な顎が、 視界を埋めた。
その瞬間。
Crowは先に動く。
《Shadow Shift》
熱霧が揺れる。
巨大な牙が、 ほんの数センチ横を通り過ぎた。
熱い。
頬が焼ける。
遅れて。
背後の岩壁が砕け散った。
爆発みたいな轟音。
熱風が吹き荒れる。
黒コートが激しく揺れた。
砕けた岩片が、 熱霧の中へ降り注ぐ。
Crowの呼吸が浅い。
避け続けている。
だが。
紙一重が続くたび、 集中力が削られていく。
熱で視界が滲む。
呼吸も浅い。
肺へ流れ込んだ熱気が、 思考そのものを焼いていく。
ほんの一瞬。
判断が遅れれば終わる。
避けタンクは、 受けタンクより遥かに神経を使う。
額から汗が流れた。
熱気だけじゃない。
死が近い。
それを理解しているからだった。
《Quick Step》
Rainの身体が加速する。
踏み込み。
熱霧が弾ける。
一瞬で、 溶岩土龍の側面へ回り込んでいた。
「Crow!」
「援護入る!」
「助かる」
短いやり取り。
だが。
Crowの集中が、 ほんの僅かに軽くなる。
本当は逃げたい。
二体同時。
第十五階層。
普通なら終わりだ。
肺が焼ける。
足が重い。
Heat侵食で、 思考まで鈍っていく。
でも。
Arcは止まらない。
Heat濃度。
侵食速度。
敵位置。
全部を処理しながら、 前へ進み続けている。
その背中を見ていると。
行ける気がしてしまう。
それが、 一番危険だった。
溶岩土龍が咆哮する。
低い振動が、 空洞全体を揺らした。
次の瞬間。
奥から熱波が吹き返す。
空気が灼熱化した。
「っ――!」
肺が焼ける。
視界が揺れた。
足が重い。
装備が熱を持ち、 体力を削っていく。
頭がぼやける。
Heat侵食で、 思考そのものが焼かれていく。
本気で終わったと思った。
呼吸ができない。
身体が動かない。
一瞬。
足が止まりかけた。
でも。
《Refresh》
淡い支援光が飛ぶ。
焼けるみたいだった呼吸が、 少しだけ戻る。
《Haste》
続けて。
CrowとRainへ支援が重なった。
身体が軽い。
熱霧の重さが、 一瞬だけ薄れた。
呼吸が戻る。
身体が動く。
気付けば。
Rainはまた前へ踏み込んでいた。
「Cain!」
「おう!」
呼ばれる前から。
Cainは踏み込んでいた。
《疾駆》
床が爆ぜる。
爆発みたいな加速。
熱霧を吹き飛ばしながら、 一瞬で溶岩土龍の懐へ潜り込む。
大剣が振り上がる。
赤熱した外殻。
普通の斬撃じゃ通らない。
だから。
《裂崩》
叩き割る。
重い衝撃が走った。
Heat外殻へ、 蜘蛛の巣みたいな亀裂が広がる。
火花が散る。
衝撃で岩壁が軋む。
溶岩土龍の巨体が、 僅かによろめいた。
砕けた岩片が、 熱霧の中へ降り注ぐ。
「脚削れてる!」
Rainが叫ぶ。
その瞬間。
溶岩土龍の尾が薙いだ。
空気が裂ける。
「っ――!」
Rainが跳ぶ。
灼熱の尾が、 足元を砕きながら通り過ぎた。
熱風が脚を焼く。
だが。
空中。
回避先が無い。
次の瞬間。
溶岩土龍の口腔が赤熱した。
「ブレス来る!」
Crowが叫ぶ。
灼熱が収束する。
空気が歪む。
熱量が一点へ集まっていく。
一瞬。
誰も喋らなかった。
熱霧だけが揺れている。
赤熱した口腔だけが、 闇の中で脈打っていた。
直後。
赤熱したマグマブレスが吐き出された。
熱波で視界が歪む。
避けられない。
その瞬間。
《Barrier》
Rainの斜め下へ、 透明な障壁が展開された。
一瞬だけ生成された、 空中足場。
Rainは反射的に踏み込む。
《Quick Step》
身体が加速する。
マグマブレスが、 ほんの数瞬前までRainの居た空間を焼き尽くした。
熱風が吹き荒れる。
岩壁が赤熱し、 床が溶けた。
Rainは着地しながら息を呑む。
「……っぶねぇ!」
「止まるな」
Arcの声。
短い。
でも。
その声だけで、 身体が動いた。
「Nova!」
「分かってる!」
Novaの周囲で、 熱気が渦巻く。
圧縮された魔力が、 空気を震わせていた。
《Mana Burst》
膨れ上がる魔力。
周囲の熱霧すら、 押し返していく。
Novaの額へ汗が流れる。
《Explosion》
爆炎。
赤熱した火柱が、 溶岩土龍を飲み込んだ。
衝撃で熱霧が吹き飛ぶ。
岩片が周囲へ散った。
空洞全体が揺れる。
「効いてる!」
Rainが叫ぶ。
だが。
次の瞬間。
地面が脈打った。
「潜るぞ!」
Arcの声。
溶岩土龍が地中へ潜る。
床の亀裂が走る。
Crowは見る。
地面の盛り上がり。
熱の流れ。
来る場所を読む。
「左!」
Crowが叫ぶ。
直後。
地面が爆ぜた。
赤熱した巨体が、 真横を突き破る。
巨大な牙が、 ほんの数瞬前までCrowの居た空間を噛み砕いた。
熱風が吹き荒れる。
黒コートの端が焼けた。
だが。
Crowは止まらない。
半歩。
ほんの僅かに動き。
紙一重で躱していた。
◇
灼熱巨人が拳を振り下ろす。
巨大な拳が、 空気を押し潰しながら迫った。
灼熱巨人の巨腕が持ち上がる。
赤熱した外殻が軋んだ。
拳が上がるだけで、 熱風が巻き起こる。
巨大。
視界そのものが、 赤熱した拳で埋まっていく。
熱風が吹き荒れる。
熱い。
鎧越しでも分かる。
ただ近付くだけで、 Heatが皮膚を焼いていた。
鼻奥へ熱気が刺さる。
喉が乾く。
呼吸するたび、 肺が焼けるみたいだった。
Garmは盾を握り直す。
腕が汗で滑る。
だが。
熱で、 汗はすぐ蒸発した。
重い。
まだ落ちてきてもいないのに。
圧だけで、 膝が沈みそうだった。
それでも。
逃げない。
ここを抜かれれば、 後ろが死ぬ。
Rain。
Nova。
Sia。
そしてArc。
だから。
Garmは前へ出る。
《Guard Stance》
巨盾を押し出す。
直後。
赤熱した巨拳が落ちた。
拳と盾が激突する。
爆発みたいな衝撃。
床が砕けた。
膝が沈む。
腕が痺れる。
肺から空気が押し出された。
「ぐっ――!」
視界が揺れる。
骨が軋む。
盾を握る指先が痺れていた。
衝撃が、 両腕から全身へ突き抜ける。
重い。
ただ受け止めるだけで、 全身が潰されそうだった。
砕けた岩片が、 熱霧の中へ散る。
衝撃で岩壁へ亀裂が走った。
熱風が吹き荒れる。
Garmの腕が震える。
ただ一撃受けただけで、 全身が軋んでいた。
鎧越しに、 Heatが身体を焼いていく。
呼吸が乱れる。
肺へ流れ込んだ熱気が、 思考を鈍らせていく。
それでも。
Garmは退かない。
灼熱巨人を、 その場へ固定し続けていた。
◇
一方。
Crowは熱霧の中を走っていた。
後方。
溶岩土龍が追う。
巨大な赤熱外殻が、 熱霧を吹き飛ばしながら迫っていた。
速い。
相変わらず、 巨体とは思えない速度だった。
地面が沈む。
岩盤が砕ける。
熱風が背中へ叩きつけられた。
黒コートが激しく揺れる。
Crowは見ている。
肩の沈み。
地面の砕け方。
重心移動。
突進前の予備動作。
巨大な顎が開く。
赤熱した牙。
熱風が吹き荒れる。
速い。
視界が埋まる。
Crowはまだ動かない。
速い。
だが、 まだ早い。
熱霧の向こう。
溶岩土龍の肩が沈む。
牙の角度が変わる。
重心が流れた。
来る。
だが。
まだ動かない。
早く避ければ、 逆に狙いを修正される。
だから。
限界まで引き付ける。
熱風が迫る。
巨大な顎が、 視界を埋めた。
その瞬間。
Crowは先に動く。
《Shadow Shift》
熱霧が揺れる。
黒い影が、 熱霧へ溶けた。
巨大な牙が、 ほんの数センチ横を通り過ぎた。
熱い。
頬が焼ける。
遅れて。
背後の岩壁が砕け散った。
爆発みたいな轟音。
熱風が吹き荒れる。
黒コートが激しく揺れた。
砕けた岩片が、 熱霧の中へ降り注ぐ。
Crowの呼吸が浅い。
避け続けている。
だが。
紙一重が続くたび、 集中力が削られていく。
熱で視界が滲む。
鼻奥へ熱気が刺さる。
喉が乾く。
汗が頬を流れる。
だが。
落ちる前に蒸発した。
髪先が焦げる匂いがする。
呼吸も浅い。
肺へ流れ込んだ熱気が、 思考そのものを焼いていく。
ほんの一瞬。
判断が遅れれば終わる。
避けタンクは、 受けタンクより遥かに神経を使う。
額から汗が流れた。
熱気だけじゃない。
死が近い。
それを理解しているからだった。
◇
本当は逃げたい。
二体同時。
第十五階層。
普通なら終わりだ。
肺が焼ける。
足が重い。
Heat侵食で、 思考まで鈍っていく。
でも。
Arcは止まらない。
Heat濃度。
侵食速度。
敵位置。
味方損耗。
全部を処理しながら、 前へ進み続けている。
普通なら撤退。
なのに。
Arcだけは、 既に攻略を組み続けていた。
その背中を見ていると。
行ける気がしてしまう。
それが、 一番危険だった。
◇
一瞬。
誰も動かなかった。
熱霧だけが揺れている。
灼熱巨人は、 ただ立っていた。
それだけで。
空洞全体が圧迫されていた。
呼吸が浅い。
熱気が肺へ張り付く。
喉が焼ける。
視界が赤い。
Heat環境そのものが、 探索者を削っていた。
第三十六話でした。
今回は、
Crowの避けタンクと、
Garmの受けタンクをかなり意識して書きました。
同じタンクでも、
戦い方が全然違う感じを出せていたら嬉しいです。
あと、
Heat環境を強めに描写しています。
ただ熱いだけじゃなく、
呼吸や集中力まで削ってくる階層にしたかったので、
かなり細かく書いてみました。
そしてArc。
普通なら撤退する状況でも、
攻略を組み続けている感じを少しずつ出しています。
次回も攻略戦続きます。
読んでいただきありがとうございました!




