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『世界最強ギルド《Aegis》、サービス終了したゲーム知識で現実ダンジョンを攻略する』  作者: そら


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第二話 現実となった《Depth Chronicle》

第二話 現実となった《Depth Chronicle》


 朝。


 スマートフォンの通知音で目が覚めた。


 神代悠真はぼんやりと目を開き、枕元の端末を手に取る。


 通知は異常な数だった。


 ニュースアプリ。


 SNS。


 メッセージ。


 全て同じ内容で埋まっている。


『世界各地に謎の巨大建造物出現』


『政府、緊急会見へ』


『東京湾上空に巨大ゲート確認』


「……なんだこれ」


 寝ぼけた頭のままテレビを点ける。


 瞬間。


 画面に映った光景に、悠真は完全に目を覚ました。


『――現在、世界各地で同時多発的に発生している巨大構造物について、政府は未確認災害として対応を――』


 ヘリからの中継映像。


 そこに映っていたのは、黒い巨大な塔だった。


 空へ突き刺さるような異様な建造物。


 周囲の空間そのものが歪んでいる。


 そして、その形。


「……ダンジョンゲート?」


 思わず口から零れる。


 見間違えるはずがない。


 あれは、《Depth Chronicleデプス・クロニクル》に存在していたダンジョン入口そのものだった。


 ありえない。


 だが、似ているなんてレベルではない。


 完全に一致していた。


 昨夜。


 サービス終了直後に表示された文字列が脳裏を過る。


《UNKNOWN DEPTH DETECTED》


 嫌な汗が背中を流れた。


 驚いていないわけじゃない。


 ただ。


 《デプクロ》では、もっと理不尽な光景を何度も見てきた。


 昨日、サービス終了したはずだった。


 なのに今日、《Depth Chronicle》は現実で再開していた。


『現在、自衛隊および警察による周辺封鎖が進められており――』


 画面が切り替わる。


 海外映像。


 ニューヨーク。


 ロンドン。


 上海。


 世界中に、同じ塔が出現していた。


『原因は依然不明です』


『内部調査を開始――』


 その瞬間。


 テレビ画面が突然切り替わった。


 ノイズ。


 悲鳴。


 怒鳴り声。


 慌ただしい音声。


『こちら第一調査部隊! 内部に生物反応を確認!』


『繰り返す、内部に未知生物――』


 銃声が響く。


 カメラが激しく揺れる。


 そして。


 画面端に、小さな緑色の影が映った。


 悠真の表情が固まる。


「……ゴブリン?」


 小柄な体。


 緑色の皮膚。


 錆びた短剣。


 間違いない。


 《デプクロ》序盤モンスター、《ゴブリン》だった。


 ゴブリン。


 懐かしいぐらい弱いモンスターだ。


 ――ゲームでは。


『撃てぇ!』


 自衛隊員が一斉射撃する。


 乾いた銃声。


 ゴブリンが吹き飛ぶ。


 最低ランクのモンスター。


 それだけで、現実は崩壊しかけていた。


 ――が。


 次の瞬間。


 別方向から飛び出した個体が、一人の隊員へ飛びかかった。


『ぐぁっ!?』


 喉元を切り裂かれる。


 血飛沫。


 悲鳴。


 現場が一瞬で混乱に包まれた。


 悲鳴の後。


 一人の隊員が動かなくなる。


 モニター越しじゃない。


 今、人が本当に死んでいる。


 ゲームなら、蘇生魔法で終わる。


 だが現実には、リスポーンがない。


 ここは現実だ。


 悠真は眉をひそめる。


「レベル1ゴブリン相手に……?」


 第一階層。


 《デプクロ》では、チュートリアル扱いされる場所だった。


 まだ第一階層。


 なのに、既に人が死んでいる。


 本来なら初心者数人でも倒せる相手。


 だが。


 軍人たちは、モンスターとの戦い方を知らない。


 だから崩れる。


 練度の問題じゃない。


 相手は野生動物じゃない。


 ダンジョンモンスターだ。


 人を殺すための動きをしてくる。


 悠真には分かってしまう。


 次に誰が狙われるか。


 どこで隊列が壊れるか。


 どの動きが悪手か。


 全部。


 盾役不在。


 前衛過多。


 隊列崩壊。


 悠真の頭の中では、既に敗因分析が始まっていた。


 PTが壊れる流れを、悠真は知っている。


 《デプクロ》では、それを何千回も見てきた。


 前衛より先に、崩壊が見える。


 それがヒーラーだった。


 ヒーラーは、PTの限界が一番最初に見える。


 モンスターを見ると、無意識に弱点部位を探してしまう。


 ゴブリンを見た瞬間。


 悠真の頭の中では、推奨レベルと危険行動が自動で浮かんでいた。


『撤退! 撤退しろ!!』


 映像が乱れた。


 そして中継終了。


 スタジオが静まり返る。


『……現在、調査部隊との通信が途絶えております』


 重苦しい空気。


 朝のニュース番組なのに、誰も笑っていなかった。


 世界中が同じ映像を見ていた。


 悠真は静かにテレビを消した。


 問題はゴブリンじゃない。


 その先だ。


 第一階層。


 まだ序盤だ。


 問題は、その先だった。


 第五階層から事故率が跳ね上がる。


 第十階層は初心者の壁。


 そして階層主。


 あそこから先は、固定PT前提だった。


 中ボス。


 レイド。


 スタンピード。


 一つのダンジョンが崩壊するだけで。


 都市が消える。


 それがスタンピードだった。


 もし第二階層が解放されたら。


 死者は、こんな数じゃ済まない。


 世界はまだ知らない。


 第十階層ですら、本番じゃないことを。


 深層を知るプレイヤーは少ない。


 だから、本当の恐怖もまだ知られていない。


 ――深層は駄目だ。


 知識があっても死ぬ。


 悠真が恐れているのは、今出ているモンスターじゃない。


 “深層”だった。


 《Depth:101》


 その数字だけが、この世界の異常さを物語っていた。


 本来、100階層で終わるはずだった。


 なら。


 101階層は何なんだ。


「……まずいな」


 怖くないわけじゃない。


 ただ、立ち止まっている暇がなかった。


 スマホが震える。


 SNS通知。


 動画。


 現地映像。


 混乱。


 その中に、一つ気になる投稿を見つけた。


『ダンジョン内で変な画面出た』


 悠真は動画を開く。


 そこには、震える手で撮影された映像が映っていた。


 暗い石造りの通路。


 そして。


 半透明のウィンドウ。


《職業を選択してください》


 表示された文字に、悠真は息を呑んだ。


 画面には並んでいる。


戦士ウォリアー

神官プリースト

魔術師メイジ

弓士アーチャー

斥候スカウト


「……嘘だろ」


 完全に一致している。


 職業選択。


 それは《デプクロ》で最初に行うシステムそのものだった。


 動画の投稿者は恐る恐る《戦士》を選択する。


 次の瞬間。


 身体が淡く発光した。


『な、なんだこれ!?』


 そして男は驚愕する。


 片手で鉄パイプを握り潰したのだ。


 コメント欄が爆速で流れていく。


『やばい』


『ステータスあるぞ』


『マジでゲームじゃん』


『スキル使えた』


『職業ガチャ始まった』


『異世界キター!』


『魔法使いてぇ!』


『これ実質VRMMOだろ』


『配信映えやばw』


『会社休みにならねぇかな』


『初ダンジョン配信します!』


『ソロで入ってみた』


『これ撮ってる場合じゃなくね?』


『いやバズるだろ』


 コメント欄は、まだどこか浮ついていた。


 まだ誰も、本気で理解していない。


『ソロで行けるだろw』


 その軽さが、悠真には恐ろしく見えた。


 《デプクロ》では、そういう連中から死んでいった。


 その投稿が更新されることはなかった。


 《デプクロ》は、優しいゲームじゃなかった。


 初見殺し。


 即死ギミック。


 理不尽火力。


 知らなければ死ぬ。


 レベルを上げれば勝てるゲームじゃない。


 理解していなければ死ぬ。


 《Depth Chronicle》は、そういうゲームだった。


 知識不足。


 この世界で一番危険なのは、それだった。


 職業選択一つで、生存率が変わる。


 知らずに選べば、取り返しがつかない職もある。


 知識があるだけで、生存率は桁違いになる。


 ゲーム知識が通じる保証はない。


 だが、他に頼れるものもなかった。


 世界は混乱している。


 だが悠真だけは、“攻略開始直後”として状況を見ていた。


 まず必要なのは固定PT。


 役割分担。


 情報共有。


 野良じゃ駄目だ。


 何百時間も組んできた固定PTでなければ、深層には届かない。


 前に立つ奴。


 火力を出す奴。


 支える奴。


 回復する奴。


 一つ欠けるだけで、PTは崩壊する。


 政府は封鎖を考えている。


 だが攻略組なら分かる。


 ダンジョンは、放置するほど危険になる。


 災害対応じゃない。


 これは“攻略戦”だ。


 その時だった。


 突然、部屋が暗くなる。


「?」


 窓の外が騒がしい。


 悠真は立ち上がり、カーテンを開いた。


 瞬間。


 言葉を失う。


 空だった。


 空一面に、巨大な半透明ウィンドウが浮かんでいる。


 まるで世界全体に投影されたスクリーン。


 現実感が壊れていく。


 そこに表示されていた文字。


《CURRENT DEEPEST FLOOR》


《Depth:1》


 その下には映像。


 どこかの探索部隊がダンジョン内部を進んでいる。


 世界中に配信されているのだ。


「深層投影システムまであるのか……」


 完全にデプクロと一致。


 だが。


 ここはゲームじゃない。


 死んだら終わりだ。


 実際に人が死んでいる。


 まだ朝だというのに、世界はもう別物だった。


 知っているのは自分たちだ。


 なら、動かなければならない。


 恐怖はある。


 だが。


 恐怖より先に、攻略ルートが頭に浮かぶ。


 それが、Arcだった。


 知っているのに動かない。


 それだけは、悠真には出来なかった。


 昨日は、ログアウトしただけのはずだった。


 なのに。


 悠真はまた、《Depth Chronicle》へログインしていた。


 その時。


 再びスマホが震えた。


 今度はメッセージ通知。


 送り主を見た瞬間、悠真は少し目を見開く。


《Rain》


『ねぇArc』


『これ、ガチでデプクロじゃない?』


 悠真は数秒画面を見つめる。


 Rainらしい。


 こんな状況でも、文面がいつも通りだった。


 誰かしら連絡してくると思っていた。


 多分、一番最初はRainだろうとも。


 少しだけ肩の力が抜ける。


『やばくない!?』


『いや全然よくないけど!』


 その直後。


『正直ちょっと怖い』


『でも一人よりマシでしょ?』


 悠真は小さく息を吐いた。


 こんな状況なのに。


 Rainと話していると、少しだけ昨日に戻れた。


 Rainのメッセージだけが、昨日と同じ温度だった。


 そして。


 ゆっくりと文字を打ち込んだ。


『ああ』


『多分、そうだ』


 既読が一瞬で付いた。


『やっぱり』


『じゃあさ』


『私たち、また集まる?』


 悠真は静かに息を吐く。


 昨日。


 冗談で話していた。


 リアルでダンジョンが出来たら、と。


 まさか、本当にそうなるとは思わなかった。


 だが。


 もしこれが本当に《デプクロ》なら。


 知らない探索者では駄目だ。


 命を預けるなら。


 背中を任せるなら。


 Aegisしかない。


 攻略を考えた瞬間。


 悠真の頭に浮かぶPT構成は、最初からAegisだった。


 《Aegis》。


 サービス終了まで、最前線に残り続けた攻略ギルド。


 《Aegis》は最強ギルドじゃない。


 “攻略に最適化されたギルド”だった。


 世界一位。


 それは肩書きじゃない。


 “最後まで生き残ったPT”という意味だった。


 背中を預けられる相手なんて、そう簡単にはいない。


 攻略できる人間はいる。


 だが。


 “深層まで辿り着けるPT”となると話は別だった。


 もう解散したギルドだった。


 本来なら、二度と動くことはなかった。


 だが。


 再び攻略を始めるなら、結局このメンバーだった。


 悠真はメッセージアプリを開く。


 長い間動いていなかったグループチャット。


 《Aegis》。


 最後の会話は、昨日の「またどっかで」だった。


 昨日、サービス終了したゲーム。


 その攻略を。


 今日から、現実で再開する。


 ――《Aegis》と共に。


 悠真はキーボードへ指を置いた。


 そして打ち込む。


『《Aegis》、再集合だ』


 送信。


 直後。


 通知音が連続で鳴り始めた。

読んでいただきありがとうございます。


次回、《Aegis》のメンバーたちが再び集まり始めます。

現実となった《デプクロ》で、最強ギルドがどう動くのか楽しんでいただけると嬉しいです。

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