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『世界最強ギルド《Aegis》、サービス終了したゲーム知識で現実ダンジョンを攻略する』  作者: そら


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第二十八話 ギルドの形

# 第二十八話 ギルドの形


 探索者協会。


 上層会議室。


 Aegisの面々は、長机を挟むように座っていた。


「……落ち着かねぇ」


 Rainが小声で呟く。


 普段の酒場とは違う。


 高級木材の机。


 魔導照明。


 静かな空気。


 どう考えても新人PTが来る場所じゃなかった。


 その向かい側。


 協会職員たちが慌ただしく資料を整理している。


「第十階層突破記録、確認済みです」


「暴走個体討伐ログも一致」


「観測映像の保存完了しました」


「マジで新人PTなんだよな……?」


 小声が漏れていた。


 その時。


 奥の扉が開く。


 黒コートの男が入室した。


 観測室にいた男だった。


 空気が変わる。


 職員たちが一斉に姿勢を正した。


「来たか」


 男はAegisを見渡す。


 鋭い視線。


 特にArcへ向いた瞬間だけ、僅かに目が細くなった。


「まずは祝おう」


「第十階層踏破、おめでとう」


 静かな声。


 だが部屋全体へ響くような重みがあった。


「ありがとうございます」


 Arcが短く返す。


「自己紹介がまだだったな」


 男は椅子へ腰掛けた。


「探索者協会中層管理部」


「統括責任者、Rexだ」


 Rainが少し顔を引きつらせる。


「統括って……偉い人じゃん」


「かなり上だな」


 Novaも小声で返した。


 Rexは資料を机へ置く。


「本題に入る」


「Aegisは今回の攻略で、正式に中層先行攻略対象へ登録された」


 空気が少し変わる。


「先行攻略?」


 Mistが首を傾げる。


「簡単に言えば」


「お前たちは“最前線組”になった」


 Rainが固まった。


「……マジ?」


「マジだ」


 Rexは淡々と続ける。


「加えて、スポンサー希望も来ている」


「スポンサー?」


 Novaが目を瞬かせる。


「ギルド支援だ」


 机へ数枚の資料が並べられる。


 武器企業。


 素材商会。


 魔導研究機関。


 有名企業名が並んでいた。


「うわ……」


 Rainが引く。


「なんか急に世界変わってない?」


 昨日まで、ただの新人探索者だった。


 酒場で依頼を探して。


 装備代で頭を抱えて。


 階層攻略で必死になっていた。


 なのに今は。


 協会の上層会議室で、スポンサー資料を見せられている。


「変わったんだよ」


 Rexが静かに言う。


「第十階層突破は、それだけ重い」


 その時。


 Arcが口を開いた。


「条件は?」


 Rexが少し笑う。


 まるで。


 Aegisがどこまで考えているか試すみたいに。


「話が早いな」


「当然、見返りはある」


「装備提供」


「拠点支援」


「攻略優先権」


「代わりに、攻略情報共有を求める企業もある」


 Arcは静かに資料を見る。


「……なるほど」


 Rainが横から覗き込む。


「え、ギルドハウスとかも?」


「可能だ」


 Rexが頷く。


「むしろ今のお前たちに必要だろう」


「専用工房」


「錬金設備」


「訓練場」


「保管庫」


 Dwarfの目が変わった。


「工房……?」


 Rexが見逃さない。


「鍛冶師だったな」


「お前の今回の素材回収評価も高い」


 Dwarfが少し黙る。


 そして。


「……欲しいな」


 珍しく真面目な声だった。


「なら見ていくか?」


 Rexが立ち上がる。


「候補の一つを押さえてある」


 数分後。


 Aegisは協会中央区画から少し離れた石畳通りを歩いていた。


 そして。


 巨大な石造りの建物が視界へ入る。


「……広っ」


 Rainが目を丸くする。


 三階建て。


 重厚な石造り。


 正面にはギルド紋章用の空白プレートまであった。


「マジでギルドハウスじゃん……」


「ギルドハウスだ」


 Arcが即答する。


 誰もすぐには中へ入らなかった。


 ただ、目の前の建物を見上げていた。


 自分たちの拠点。


 自分たちのギルドハウス。


 それはもう、“新人PTの遊び”じゃなかった。


 今までは違った。


 安宿の一室。


 共有倉庫。


 借り物の設備。


 だがここは違う。


 これは。


 Aegisの場所だった。


 誰にも追い出されない。


 荷物を片付ける必要もない。


 明日の攻略を、ここで考えられる。


 “帰ってくる場所”が出来た。


 Rainはそれを理解して、少しだけ黙った。


 Arcは静かに部屋を見渡す。


 そして。


 ほんの少しだけ、肩の力を抜いた。


 中へ入る。


 そこには。


 広い共同ホール。


 専用工房。


 錬金室。


 大型倉庫。


 訓練場。


 生活区画。


 今まで泊まっていた安宿とは比べ物にならなかった。


「うおぉ……」


 Rainが辺りを見回す。


「マジで生活変わるぞこれ」


「……なんかさ」


 Rainが共同ホールを見回す。


「やっと“ギルド”っぽくなってきたな」


「……悪くない」


 Garmが小さく呟く。


 その視線は自然と広い訓練場へ向いていた。


「次は止め切る」


「……今度は、誰も吹き飛ばさせない」


「いやまだ強くなるのかよ……」


 Rainが苦笑する。


 その瞬間。


「炉あるじゃねぇか!!」


 Dwarfが叫んだ。


 全員が振り向く。


 Dwarfは工房へ突撃していた。


「しかも魔導炉!!」


「おい見ろ!」


「温度調整刻印付きだぞ!?」


「落ち着けって!」


 Rainが引く。


 だがDwarfは完全に聞いていなかった。


 工房設備を触りながら目を輝かせている。


「やべぇ……」


「ここなら第二炉装甲加工できる……!」


「第二炉装甲だけじゃねぇ!」


「地の大魔石まであるんだぞ!?」


「寝れるかこんなん!!」


「完全に職人の顔してるな……」


 Novaが苦笑した。


 その横。


 Mistも静かに錬金室を見ていた。


 整然と並んだ薬瓶。


 調合設備。


 魔導加熱器。


「……すごい」


 小さく呟く。


 今まで使っていた簡易設備とは別物だった。


 棚へ並ぶ素材瓶を、そっと指でなぞる。


 ここなら。


 もっと強い回復薬が作れる。


 もっと長く前線を支えられる。


 そんな実感があった。


 そして。


 Lunaは静かに付与作業机へ触れる。


 刻印補助盤。


 魔力安定器。


 付与専用結晶。


「……前に出ない方が強い」


 Lunaは小さく呟く。


 理解はしている。


 今回、自分が最後まで術式制御へ集中できたのも、前衛が守っていたからだ。


「でも、少し悔しい」


 その言葉へ。


 Arcが静かに返す。


「なら後ろから支えろ」


「お前の付与は、前線を変えられる」


 Lunaは少しだけ目を見開く。


 そして。


 小さく笑った。


「……うん」


 その時。


 Crowが静かに壁際を見ていた。


「……隠密動線、多いな」


「そこ見るのかよ」


 Rainが呆れる。


「悪くない」


 Crowは短く答えた。


 その時。


 Arcが振り返る。


「DwarfとMist、それとLunaは次から非戦闘」


「お前らの価値は前線じゃない」


「生産と支援だ」


 Dwarfが眉をひそめる。


「はぁ!?」


「俺も戦えるぞ!」


「俺だって前で戦いてぇよ」


 珍しく。


 Dwarfは真顔だった。


「後ろに下がるだけってのは、性に合わねぇ」


「死にかけてただろ」


「ぐっ……」


 Rainが吹き出した。


 Arcは静かに続ける。


「第十階層以降は難易度が変わる」


「今までみたいな消耗戦は続かない」


「装備補修」


「回復供給」


「付与更新」


「全部が攻略速度に直結する」


 Mistが少し不安そうに聞く。


「……私たち、ちゃんと必要?」


「必要だから言ってる」


 Arcは即答した。


「回復薬」


「補助薬」


「装備修復」


「付与強化」


「これから全部必要になる」


 そして。


「一人で最強になっても、ダンジョンは攻略できない」


 Arcが静かに言う。


「武器を作る奴がいる」


「支援する奴がいる」


「情報を整理する奴がいる」


「全員が前へ出る必要はない」


「役割があるから、ギルドは強くなる」


 Dwarfは工房を見る。


 Mistは錬金室を見る。


 Lunaは付与机へ触れる。


 前線ではない。


 だが。


 確かに、自分たちの役割がそこにあった。


 部屋が静まる。


 Rexはそこで初めて、少しだけ笑った。


「……新人とは思えんな」


「ギルド運営まで考えてるのか」


「必要だからやるだけだ」


 Arcは淡々と返した。


 その時だった。


 協会から緊急通知が飛ぶ。


《Fenrir 第十階層攻略開始》


 Rainが反応する。


「もう行ったのか」


 Rexが頷く。


「Aegisの攻略情報で、各ギルドが動き始めている」


「新人へ支援し過ぎでは?」


 後ろにいた協会職員が小声で言った。


「逆だ」


 Rexが淡々と返す。


「今投資しなければ、他ギルドへ奪われる」


 その頃。


 第十階層。


「冷却周期来るぞ!」


 Fenrirの盾役が叫ぶ。


「Aegisの記録通りなら次で止まる!」


 暴走しない第二炉。


 だが。


 それでも第十階層は十分危険だった。


「左流路から熱波来るぞ!」


「避けろ!!」


 Fenrirの前衛が飛ぶ。


 直後。


 赤熱した爆炎が石床を焼き尽くした。


「……チッ」


「Aegisの攻略見てなかったら死んでたな」


 巨大炉アトラスの拳が炸裂する。


 Fenrir前衛が吹き飛ぶ。


「まだだ!」


「押し切るぞ!!」


「っぐ……!」


 Fenrir前衛が壁へ叩きつけられる。


「Garmマジでどうやって止めてたんだよあれ!?」


「……あいつら、これ初見でやったんだよな?」


「しかも暴走個体込みだ」


「頭おかしいだろ」


 Fenrir前衛が息を吐く。


 Aegisの攻略は、既に他ギルドの基準になっていた。


 再び。


 ギルドハウス。


 Novaが少し笑う。


「なんか、俺たちの攻略が基準になってない?」


「なってる」


 Rexが即答した。


「少なくとも中層ギルドは、お前たちの記録を参考にしている」


 その言葉に、Rainが少し黙り込む。


 昨日まで、自分たちは追いかける側だった。


 強い探索者を見て。


 上位ギルドを見上げて。


 必死に背中を追っていた。


 なのに今は。


 他ギルドが、自分たちの攻略を見て動いている。


「……変な感じだな」


 Rainが小さく呟く。


 その時。


 資料の一枚へArcの視線が止まった。


《第十一階層 未踏破》


 その下。


《深層接続反応確認》


 Arcの目が細くなる。


 Rexが静かに笑った。


「さて」


「次はどうする、Aegis?」


 未踏破領域。


 深層接続反応。


 それはつまり。


 第十階層までとは、ダンジョンそのものが変わるということだった。


 未踏破。


 深層接続反応。


 その文字だけで、部屋の空気が重くなる。


 第十階層までとは違う。


 その先は。


 まだ誰も知らない領域だった。


 その瞬間。


 Rainが笑う。


「決まってるだろ」


 Novaも笑った。


「ここまで来たんだし」


 Garmは静かに盾を持ち上げる。


 Crowも立ち上がった。


 Arcは小さく息を吐く。


 そして。


「……第十一階層へ行く」


 静かな声。


 だが。


 その言葉だけで、部屋の空気が変わった。


 第十一階層。


 未踏破領域。


 その先で何が待っているのか。


 まだ誰も知らない。


 だが。


 第十一階層から先は。


 “帰って来られなかった探索者”が出始めた領域だった。


 それでも。


 Aegisは、もう止まらなかった。


第二十八話でした。


今回は「攻略回」ではなく、


Aegisが“PT”から“ギルド”へ変わる回を書きたかったです。


第十階層突破で終わりではなく、

そこから周囲の見る目が変わり、

他ギルドが動き、

協会が注目し、

生産職にも役割が出来る。


そんな“世界が動き始める感じ”を意識しました。


特に今回は、

Dwarf、Mist、Lunaの立ち位置が大きく変わった回でもあります。


前線だけが強さじゃない。


装備。


回復。


付与。


支援。


そういう後方要素が、

これからの攻略ではかなり重要になっていきます。


そしてAegisも、

ついにギルドハウスを獲得しました。


安宿生活から一気にMMOギルド感が出てきましたね。


作者的にも、

「やっとここまで来たか」

という感覚があります。


そして次回からは、

いよいよ第十一階層。


未踏破領域。


“帰って来られなかった探索者”が出始めた場所。


第十階層までとは、

ダンジョンそのものが変わっていきます。


Fenrirや白銀の翼など、

他ギルド側もこれから本格的に動き出します。


ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。


感想や評価、かなり励みになっています。


次回もよろしくお願いします。

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