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『世界最強ギルド《Aegis》、サービス終了したゲーム知識で現実ダンジョンを攻略する』  作者: そら


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第二十三話 暴走炉

# 第二十三話 暴走炉


 静かだった。


 つい先程まで響いていた衝突音が、一瞬だけ消えている。


 ただ。


 ゴゥ――……。


 赤熱した魔力炉の駆動音が、広間の奥で低く唸っていた。


 重い。


 耳で聞く音じゃない。


 空気そのものが震え、

 身体の内側まで揺さぶられるような重低音だった。


 爆炎の奥。


 第二形態となったアトラスが、ゆっくり前へ踏み出す。


 第一形態より細い。


 だが小さくなったわけじゃない。


 むしろ圧力は増していた。


 装甲の隙間から噴き出す赤熱魔力が、巨人の輪郭そのものを揺らしている。


 背部炉は先程よりさらに明るい。


 赤光が脈打つたび、空気そのものが震えていた。


 赤熱した装甲の隙間から、爆ぜるみたいに魔力が噴き出す。


 まるで巨人そのものが呼吸しているみたいだった。


「……は?」


 Rainが目を見開く。


 先程までとは、立っているだけで圧が違った。


 見ているだけで、本能が理解する。


 危険だ。


 逃げろ。


 本能がそう叫んでいた。


「来るぞ!」


 悠真が叫ぶ。


 背部炉が赤熱する。


 装甲の隙間から赤光が脈打ち、巨人の全身を血管みたいに巡っていく。


 次の瞬間。


 爆発的な魔力噴射が広間を揺らした。


 アトラスが消える。


「っ!?」


 Rainの視界から巨体が消失する。


 次の瞬間。


 空気が裂けた。


 赤熱した拳が迫る。


 Garmは反射的に盾を押し上げた。


 巨大盾の縁が軋む。


 間に合わない。


 そう理解した瞬間には、もう衝撃が来ていた。


《BOOST IMPACT》


 遺跡全体が悲鳴を上げた。


 衝撃で広間全体が揺れる。


 天井から瓦礫が落ちた。


 視界が砂煙で白く染まる。


 遅れて爆風がRainたちを叩いた。


 立っているだけで精一杯だった。


 盾越しに伝わった衝撃だけで、肺が潰れる。


 踏み締めた石床が砕け、両足が地面へ沈み込む。


 それでもGarmは盾を押し返そうとした。


 後ろにはRainがいる。


 Novaがいる。


 ここで抜かれれば終わる。


 だが止まらない。


 赤熱した拳が、そのまま盾ごとGarmを押し潰した。


「がっ……!?」


 数メートル後方へ叩き飛ばされ、石柱へ激突する。


 石柱へ大きな亀裂が走った。


「Garm!?」


 誰もすぐには動けなかった。


 Garmは絶対に崩れない。


 それはこのPTの前提だった。


 前衛が耐える。


 その間にRainとCrowが削る。


 Novaが支援し、Mistが繋ぐ。


 その形が、このPTだった。


 だが今。


 その中心が、たった一撃で崩された。


 前線は絶対に崩れない。


 そんな無意識の前提が、音を立てて壊れていく。


 広間へ流れる熱風だけが、現実みたいに肌を焼いていた。


 Garmが血を吐く。


 腕が震えている。


 盾を握る右腕の感覚が、もうほとんど残っていなかった。


 指先の感覚は曖昧だった。


 何度も受け続けた衝撃で、腕が自分のものじゃないみたいに重い。


 呼吸するたび、肺の奥が焼ける。


 それでも前へ出る。


 自分が崩れれば、後衛が死ぬ。


 それだけは許せなかった。


「まだ……行ける……!」


 Garmが無理やり立ち上がる。


 痛みはもう分からない。


 盾を握っているのか。


 腕がまだ繋がっているのか。


 それすら曖昧だった。


 それでもGarmは前へ出る。


 後ろに誰かがいる限り、盾役が膝をつくわけにはいかない。


 だが遅い。


 アトラスの背部炉が再び赤熱した。


 爆発的な魔力噴射。


 巨体が再び消える。


「速っ……!」


 Dwarfが咄嗟に斧を構える。


 だが追えない。


 視界から消えた。


 次の瞬間には、もう目の前だった。


《HEAT BLADE》


 赤熱した腕部が変形する。


 刃。


 灼熱の熱刃がDwarfへ振り下ろされた。


「っらぁ!!」


 Dwarfが巨大斧で受け止める。


 両腕へ凄まじい衝撃が走った。


 骨が軋む。


 斧を握る指が滑りそうになる。


 火花が爆発した。


 衝撃波が周囲へ吹き荒れる。


 熱い。


 違う。


 これはもう熱量じゃない。


 暴力だった。


 赤熱した刃が斧を押し込むたび、Dwarfの全身へ衝撃が突き抜ける。


 骨が悲鳴を上げる。


 筋肉が裂けそうになる。


 それでもDwarfは笑った。


 強い敵を前にした時だけ、自分は生きていると実感できた。


「っらぁぁぁ!!」


 全身の筋肉を軋ませながら、熱刃を押し返す。


 だが次の瞬間。


 熱刃が爆ぜた。


《BURST EDGE》


 爆炎。


 Dwarfの巨体が吹き飛ぶ。


 石床を何度も転がり、壁へ激突した。


「Dwarf!!」


 Mistが叫ぶ。


 即座にポーションを取り出す。


 だが。


 少ない。


 ポーチの中身はもう半分以下だった。


 まだ第二形態開始直後。


 ここからさらに長引けば、回復が足りなくなる。


 Mistの手が一瞬止まる。


 Dwarfが倒れる。


 Garmもまだ立て直せていない。


 Novaの障壁は割れ、RainとCrowは動き続けている。


 前衛が、崩れかけている。


 それを理解した瞬間、Mistの喉が乾いた。


 呼吸が荒い。


 誰も余裕なんて残っていなかった。


 それでも止まれない。


 ここで止まれば、全員死ぬ。


 Mistは強引にDwarfへポーションを投げた。


《HIGH POTION》


「立って!」


「……っは、死ぬかと思った」


 Dwarfが笑う。


 だが笑えていない。


 肩から流れる血量が増えていた。


 呼吸も荒い。


 最初より確実に動きが鈍っている。


「悠真!」


 Novaが叫ぶ。


「どうすんだこれ!?」


 Novaは歯噛みした。


 魔法障壁が意味を成さない。


 あれだけの出力を正面から破壊されれば、魔力消費だけが無駄に増えていく。


 しかも熱量が高すぎる。


 詠唱しているだけで喉が焼けそうだった。


 第二形態。


 完全に別格。


 空気が違う。


 皮膚が粟立つ。


 呼吸が浅くなる。


 漏れ出す魔力圧だけで、本能が「逃げろ」と警鐘を鳴らしていた。


 悠真は歯を食いしばった。


 計算が追いつかない。


 第一形態の情報が、第二形態で全部崩されていく。


 速すぎる。


 想定より出力が高い。


 このまま長引けば、回復も防御も先に尽きる。


 だが、完全無欠ではないはずだ。


 ゲームなら必ずある。


 第二形態にも、攻略の糸口が。


 数秒。


 本当にそれだけだった。


 Garmが押さえられる時間は、もう長くない。


 盾が軋む。


 腕が震える。


 押し切られる前に終わらせろ。


 悠真の叫びが広間へ響いた。


「Crow、左!」


「Rainは後ろ取れ!」


「Nova、無理でも通せ!」


「Mist、Garm優先!!」


 だが悠真はアトラスを睨んでいた。


 視線は背部。


 赤熱した巨大炉。


「……違う」


 悠真が低く呟く。


「第二形態になってから、出力制御が変わってる」


「何がだ!?」


「あれ、加速してるんじゃない」


 悠真の目が細まる。


「炉を噴射してる」


 一瞬。


 全員の動きが止まった。


 背部炉。


 そこから噴き出している赤熱魔力。


 あれが推進力。


「……ジェットかよ」


 Novaが顔を引きつらせる。


 第一形態は重量型。


 圧倒的質量で押し潰すタイプだった。


 だが第二形態は違う。


 速すぎる。


 Garmですら追い付けない。


 炉を推進機関へ転用している。


 出力そのものを機動力へ変えていた。


 防御を削って速度へ振った形態変化。


 つまり――。


「止まれなくなってる」


 悠真が断言する。


 問題は。


「どうやって背中へ行く?」


 誰も答えられない。


 速すぎる。


 近付くだけで焼かれる。


 Garmですら正面維持が限界だった。


 その時。


 アトラスの背部炉が再び赤熱する。


「また来る!」


 悠真が叫ぶ。


 爆発的な魔力噴射。


 アトラスが一直線に突っ込んできた。


 狙いはNova。


「っ!」


 Novaが咄嗟に魔法陣を展開する。


《MAGIC WALL》


 だが。


 粉砕。


 障壁ごと吹き飛ばされた。


 Novaの身体が石床を滑る。


 肺から空気が抜けた。


 障壁が壊された。


 それだけじゃない。


 自分ごと吹き飛ばされた。


 今までなら耐えられていた。


 だが今回は違う。


 防御そのものが意味を成していなかった。


 視界が揺れる。


 耳鳴りが酷い。


 呼吸するたび肺が焼ける。


 だがNovaは無理やり顔を上げた。


 前線が崩れかけている。


 ここで自分まで止まれば、本当に全滅する。


「Nova!!」


 Rainが駆け出す。


 だがその瞬間。


 床が赤熱した。


《MAGMA LINE》


 赤い亀裂がRainの進路を走る。


「うわっ!?」


 咄嗟に飛ぶ。


 直後。


 爆炎が噴き上がった。


 衝撃が身体を叩く。


 熱風で呼吸が乱れる。


 肺へ熱気が流れ込む。


 視界の端で、石床が赤く溶け始めていた。


 一瞬遅れていたら、全身が吹き飛んでいた。


 Rainの背中を冷たい汗が流れる。


「クソっ……!」


 勝てると思っていた。


 第二炉を止めた瞬間、確かに終わりが見えたはずだった。


 Garmが押さえて。


 Dwarfが砕いて。


 悠真が攻略を組み立てる。


 いつもの勝ちパターン。


 だが第二形態になった瞬間、その全部が崩れた。


 今はもう。


 一歩間違えれば全滅する未来しか見えない。


 その間にもアトラスは止まらない。


 背部炉が赤熱。


 魔力噴射。


 高速移動。


 赤熱した拳がCrowへ迫る。


 Crowがギリギリで回避する。


 遅い。


 そう思った瞬間、熱風が肩を掠めた。


 皮膚が焼ける。


 だが止まらない。


 止まれば死ぬ。


 Crowは歯を食いしばりながら、無理やり身体を捻った。


「っ……!」


 Crowが初めて顔を歪めた。


 速い。


 追えない。


 一瞬だった。


 誰も動かない。


 いや、動けない。


 赤熱した巨人だけが、広間の中央で低く唸っていた。


 その瞬間。


 Garmが前へ出た。


「こっちだ……!」


 盾を構える。


 腕は震えている。


 呼吸も荒い。


 それでも前へ出る。


 止めなければ後ろが死ぬ。


 アトラスの赤眼がGarmを捉える。


 次の瞬間。


 巨大拳が振り下ろされた。


《GROUND BREAK》


 巨大拳が盾へ叩き付けられる。


 衝撃。


 Garmの全身が軋んだ。


 踏み締めた石床が耐え切れず砕ける。


 だが下がれない。


 押し返せ。


 止めろ。


 後ろへ通すな。


 巨大盾が悲鳴を上げる。


 腕の骨が軋む。


 肺が潰れる。


 それでもGarmは、一歩も退かなかった。


 激突した衝撃波が広間を貫く。


 石柱が震える。


 空気が裂ける。


 全員が、崩れかけながら繋いでいた。


 Garmが止める。


 その横をRainが抜ける。


 Crowが死角へ潜る。


 Novaが無理やり魔法を通す。


 Mistが回復を投げる。


 誰か一人でも止まれば終わる。


 だから全員が動き続けた。


「今!」


 悠真が叫ぶ。


 Garmが押さえたのは、一瞬だった。


 ほんの数秒。


 だが、それで十分だった。


 Rainは息を止めた。


 考えるな。


 怖がるな。


 足を止めるな。


 止まった瞬間、焼かれる。


 Rainは床を蹴る。


 熱風が頬を裂く。


 肺が焼ける。


 それでも止まらない。


 止まれば、Garmが耐え切れない。


 Crowはもう前にいた。


 黒影みたいに、赤熱した巨体の死角へ潜り込んでいく。


 速い。


 だが見失うな。


 今合わせられなければ終わる。


 Rainが飛ぶ。


 Crowが加速する。


 赤熱した巨体の背後へ回り込む。


 近い。


 空気が歪む。


 汗が一瞬で蒸発する。


 それでも届く。


「Crow!」


「あぁ!」


《CROSS EDGE》


《SHADOW BREAK》


 二人の攻撃が同時に背部炉へ叩き込まれる。


 赤熱した装甲へ亀裂が走った。


 その瞬間。


 背部炉が不安定に明滅する。


 赤熱した背部炉が脈打つ。


 ゴゥ……ゴゥ……。


 巨大炉の駆動音が響くたび、空気そのものが震えていた。


 熱い。


 いや、違う。


 空間が焼けている。


 視界が揺らぐ。


 石床が溶ける。


 遺跡そのものが悲鳴を上げていた。


 Mistの肩が震える。


 Novaの魔法陣が乱れる。


 Rainは剣を握るだけで精一杯だった。


 誰も理解していた。


 次が来れば終わる。


 空気がおかしい。


 呼吸するたび喉が裂ける。


 視界の端で、石床が赤く溶け始めていた。


 遺跡そのものが耐え切れない。


 そう理解した瞬間、全身の毛が逆立った。


 誰も動けなかった。


 逃げろ。


 本能がそう叫んでいる。


 だが足が動かない。


 一瞬だった。


 誰も声を出せない。


 巨大炉の駆動音だけが、広間へ低く響いていた。


 嫌な予感がした。


 悠真の背中を冷たい汗が流れる。


 まずい。


 あれは停止じゃない。


 次の瞬間。


 アトラスの全身から赤光が噴き出した。


《OVERHEAT MODE》


「――全員伏せろ!!」


 悠真が叫ぶ。


 直後。


 広間全体へ灼熱の爆風が解き放たれた。


 爆炎。


 衝撃。


 遺跡が悲鳴を上げる。


 灼熱の暴風が、探索者たちを飲み込んだ――。


今回の第二形態戦は、

「レイドボス感」

「全員ギリギリで繋ぐ感じ」

をかなり意識して書いてみました。


少しでも

「ここ熱かった!」

「このキャラ好き」

みたいに思っていただけたら嬉しいです。


もし面白かったら、


・ブクマ

・評価

・感想


などいただけると、

次回更新のモチベが爆上がりします!


次回、

ついに暴走した白炉アトラスとの決着。


限界寸前のPTは、

この絶望的な第二形態を攻略できるのか。



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