第二十二話 第二炉攻略
# 第二十二話 第二炉攻略
赤。
白。
黒。
三つの炉が同時に脈動する。
広間の温度が異常な速度で上昇していく。
熱い。
いや、痛い。
息を吸った瞬間、灼熱の空気が喉を焼いた。
肺の奥へ熱が流れ込み、呼吸するだけで体力を削られていく。
赤熱した床から熱気が立ち昇る。
靴底越しでも熱が伝わってきた。
アトラスの赤眼が、先程より明確に強く輝く。
《SECONDARY CORES ACTIVE:第二炉群起動》
「……来るぞ」
悠真が低く呟く。
次の瞬間。
アトラスの胸部核が赤熱した。
内部魔力が暴走するような振動音が広間へ響く。
嫌な音だった。
空気そのものが震えている。
「全員散開!」
悠真が叫ぶ。
直後だった。
《MAGMA BURST:マグマバースト》
床が爆ぜた。
裂けた石床から赤熱した魔力流が噴き上がる。
爆炎が広間を染め上げた。
灼熱の熱風が暴風のように吹き荒れ、砕けた石片が弾丸のように周囲へ飛び散る。
石柱が激しく震え、遺跡そのものが悲鳴を上げていた。
「うわっ!?」
Rainが咄嗟に腕で顔を庇う。
熱い。
腕越しでも熱波が突き刺さる。
皮膚が焼けるようだった。
巨大な熱波が身体を押し返す。
呼吸すら苦しい。
Novaが即座に障壁を展開する。
《MAGIC WALL:マジックウォール》
半透明の魔力障壁が前方へ広がる。
だが熱波は止まり切らない。
障壁越しでも熱気が押し寄せ、全員の頬へ汗が浮かんだ。
「熱量上がりすぎだろ……!」
Novaが顔をしかめる。
三炉同時起動。
出力が段違いに上がっている。
Mistが即座に青白い小瓶を取り出した。
《HEAT RESIST POTION:耐熱薬》
「飲んで!」
Rainへ投げる。
Crowへ投げる。
Novaへ投げる。
「次の熱量、普通じゃない!」
Rainが空中で受け取る。
「っはぁ……! 生き返った!」
一気に飲み込む。
身体の表面を冷たい感覚が巡った。
さっきまで焼けるようだった空気が、少しだけ軽くなる。
「これ無かったら普通に焼け死んでたって!」
「時間制限ある!」
Mistが叫ぶ。
「長引くと切れるから急いで!」
中央ではGarmが再びアトラスを押さえていた。
Garmは巨大盾を押し込む。
だが重い。
まるで山そのものを押し返しているようだった。
拳を受けるたび、腕の感覚が削れていく。
《GROUND BREAK》
アトラスの巨大腕がゆっくり持ち上がる。
重い駆動音が響いた。
金属が軋む。
巨大な影がGarmを覆う。
「また来るぞ!」
Garmが盾を押し上げる。
激突した瞬間、遺跡そのものが軋んだ。
鈍い衝撃が盾を貫通し、Garmの全身を内側から揺さぶる。
肺が潰れそうになる。
今まで受けたどの一撃より重かった。
盾越しに伝わった衝撃だけで腕の感覚が吹き飛ぶ。
指先の感覚はもう曖昧だった。
何度も受け続けた衝撃で、腕が自分のものじゃないみたいに重い。
肺が潰れ、全身の骨が悲鳴を上げた。
踏み締めた石床が砕け、Garmの両足が地面へ沈み込む。
それでも盾だけは落とさない。
落とした瞬間、後ろが壊滅する。
一歩退けば、後衛が死ぬ。
「っ……!」
Garmの呼吸はもう荒い。
盾を握る腕も震え始めている。
それでも前へ出るしかなかった。
「Garm!」
Dwarfが横から飛び込んだ。
背中へ担いでいた巨大斧を両手で握る。
普通の探索者なら持ち上げるだけでも苦労する重量。
だがDwarfは、それを当然のように振り回していた。
巨大斧を地面へ擦らせながら走る。
激しい火花が弾ける。
空気が裂けるような衝撃音が広間へ響いた。
Dwarfは笑う。
強敵。
それだけで血が熱くなる。
「通すかよ!」
《BLOOD AXE:ブラッドアクス》
赤い魔力が斧刃へ流れ込む。
Dwarfは真正面からアトラスへ突っ込んだ。
巨大斧が腕関節へ叩き込まれる。
金属と石が激突する。
遅れて重い衝撃波が周囲を抜けた。
暴風が吹き荒れ、Dwarfの足元の床が砕け散る。
それでも斧は止まらない。
純粋な膂力。
純粋な破壊力。
Dwarfは巨大な暴力でアトラスを押し返していた。
「Garm!」
「おう!」
逸れた拳をGarmが正面から受け止める。
重い衝撃が全身を揺らす。
だが直撃より軽い。
Garmはそのまま盾を押し込み、アトラスの腕を押し返した。
「左脚まだ効いてる!」
Rainが叫ぶ。
第一炉停止の影響。
左脚の動きが鈍い。
再生速度も落ちている。
胸部核の光も、さっきより明らかに弱まっていた。
「そこ狙え!」
悠真が即座に指示を飛ばす。
Dwarfが笑った。
「任せろ!」
巨大斧を再び振り上げる。
《BLOOD HOWL:ブラッドハウル》
赤い魔力がFenの全身を巡った。
筋肉が膨れ上がる。
身体能力が一気に跳ね上がった。
次の瞬間。
巨大斧が真横から振り抜かれる。
赤い軌跡が空気を裂いた。
狙いは膝関節。
鈍い破壊音が広間へ響く。
アトラスの巨体が大きく揺れる。
巨大な脚が僅かに沈み、遅れて全身がよろめいた。
「効いてる!」
Rainの声が弾む。
初めてだった。
あの巨体を、“押し切れる”と全員が理解した。
Garmが押し返す。
Dwarfの斧が通る。
Novaの炎が装甲を砕く。
RainもCrowも止まっていない。
全員の動きが初めて噛み合っていた。
勝てる。
誰も口にはしなかった。
だが、その感覚だけは確かに共有されていた。
一瞬だった。
誰もが勝利を確信しかけた。
熱風の向こうで、巨人の動きが止まっていたからだ。
だが。
次の瞬間だった。
アトラスの赤眼がDwarfへ向いた。
視線だけで圧力を感じる。
巨大な魔力がDwarfを捉えていた。
「Dwarf、下がれ!」
悠真が叫ぶ。
遅い。
アトラスの左腕が変形した。
金属音が広間へ響く。
内部機構展開。
《CHAIN ARM:チェインアーム》
巨大拳が鎖付きで射出される。
「っ!」
Dwarfは横へ飛ぶ。
だが完全には避け切れない。
暴風のような衝撃が身体を叩いた。
巨体が数メートル吹き飛ばされる。
石床へ激突。
遺跡全体が大きく震えた。
「Dwarf!」
Garmが叫ぶ。
「生きてる!」
Dwarfは笑いながら立ち上がる。
だが肩から血が流れていた。
Dwarfの動きも、最初より確実に鈍っていた。
Mistは即座に薬瓶を投げる。
だが投げるたび、ポーチの軽さが増していく。
残数は少ない。
まだ第二炉。
この先を考えれば、ここで消耗し切るわけにはいかなかった。
それでも投げる手は止められない。
今止めれば、誰かが死ぬ。
《HIGH POTION:ハイポーション》
「無茶しすぎ!」
「これくらいじゃ死なねぇよ!」
MistはさらにDwarfの肩を確認する。
骨は無事。
だが衝撃蓄積が大きい。
「次まともに食らったら止まるよ」
「了解了解」
Dwarfは斧を担ぎ直した。
Mistは戦場全体を見渡していた。
Garmの荒くなっていく呼吸。
Dwarfの肩から流れる血。
Novaの減っていく魔力。
Rainの鈍り始めた動き。
そして、自分のポーチから減っていく薬瓶。
全員が少しずつ限界へ近付いている。
全部ギリギリだった。
Garmの防御負荷は限界に近い。
Dwarfは被弾が増え始めている。
Novaの魔力消費も想定より速い。
Mistの薬在庫にも余裕がない。
デプクロでも門番戦は長期戦だった。
だが、あの時と違う。
今回は情報不足。
第二形態移行のタイミングすら未知数。
一つ崩れれば全滅する。
それでも誰も止まらない。
止まれば終わる。
第二炉を落とすまで、一歩も引けなかった。
その間にもRainとCrowは第二炉へ向かっていた。
今度の炉は白。
周囲へ鎖のような術式が展開されている。
「……嫌な感じ」
Rainが顔をしかめる。
「罠系だな」
Crowが短く答える。
視線はすでに床へ向いていた。
細い魔力線が無数に走っている。
まるで蜘蛛の巣みたいだった。
「踏むなよ」
「分かってる」
二人は慎重に進む。
だが次の瞬間。
床の一部が崩落した。
「Rain、左!」
「え?」
CrowがRainを強引に引いた。
直後。
さっきまでいた床が崩れ落ちる。
下には赤熱した魔力流が見えた。
「うわっ!?」
「前だけ見んな」
「助かった……!」
Rainは崩れた床を蹴る。
直後、背後で巨大槍が石床を貫いた。
石柱が激しく震える。
遅れて暴風が背中を叩いた。
「危なっ……!」
心臓が嫌な音を立てる。
一瞬遅れていたら、今頃あの赤熱した穴へ落ちていた。
手汗で剣の柄が滑りそうになる。
それでも止まれない。
さらに白い石兵が現れる。
《Guardian Soldier:守護石兵》
今度は槍だけじゃない。
大型盾持ち。
「硬そう!」
「核狙う」
Crowの姿が消える。
《SHADOW STEP:シャドウステップ》
黒い残像が走る。
一瞬で石兵の背後へ回り込む。
《SHADOW BREAK:シャドウブレイク》
短剣が魔力核へ突き刺さる。
だが止まった。
「硬っ……!」
核周辺へ追加装甲。
前回より強化されている。
Rainが飛び込む。
《CROSS EDGE:クロスエッジ》
二連斬撃が装甲へ叩き込まれる。
激しい火花が散った。
装甲へ亀裂が走る。
「Crow!」
「あぁ!」
二人同時。
核破壊。
鈍い破壊音と共に石兵が崩れ落ちた。
だが止まらない。
新たな石兵が床から湧き出る。
「数多すぎ!」
Rainが舌打ちする。
その時だった。
後方で巨大魔法陣が展開される。
Nova。
周囲へ複数魔法陣が浮かび上がった。
熱風で髪が大きく揺れる。
空気そのものが赤く染まり始めていた。
「焼き切る!」
《FIRE WALL:ファイアウォール》
炎の壁が広がる。
爆炎が石兵を飲み込み、熱風に押された石兵の動きが止まった。
「道作った!」
「ナイス!」
二人が一気に駆け抜ける。
中央では悠真が全体を見ていた。
「Luna!」
悠真が叫ぶ。
「第二炉は!?」
「もう少し!」
Lunaは白炉へ手をかざしていた。
術式が高速回転している。
しかも今回は複数層。
高速で流れる古代文字。
術式が一定周期で変化していく。
解除コードを書き換えても、数秒後には構造そのものが再編成される。
後方では激しい衝突音が鳴り続けている。
盾がぶつかる音。
爆炎が弾ける音。
誰かの叫び声。
その全てを背中で聞きながら、Lunaは白炉の術式だけを睨み続けていた。
指先が震える。
一文字でも解除を間違えれば、術式暴走で全員が吹き飛ぶ。
「本当に面倒すぎる……!」
Lunaは歯を食いしばった。
誰かが耐えている。
分かっている。
だからLunaの指は止められなかった。
額から落ちた汗が、白炉の魔法陣へ滴り落ちる。
「Crow、Rain!」
「持たせる!」
Rainが石兵を引き付ける。
Crowが核を狙う。
その瞬間。
アトラスの胸部核が再び赤熱した。
「また来る!」
《MAGMA BURST》
次の瞬間。
床が再び爆ぜた。
裂けた地面から赤熱した魔力流が噴き上がる。
爆炎が暴風のように広間を薙ぎ払った。
灼熱の熱風が探索者たちを襲い、砕けた石片が弾丸のように飛び散る。
「っ……!」
Novaの障壁へ亀裂が走る。
Garmが膝をつく。
Dwarfが歯を食いしばる。
Mistが即座に薬を配る。
それでも。
全員の消耗が見え始めていた。
「解析完了!」
Lunaが叫ぶ。
白炉の魔法陣が反転する。
光が暴走する。
内部術式が崩壊していく。
《SECOND CORE DISABLED:第二炉停止》
広間全体の魔力が揺らいだ。
アトラスの動きが止まった。
右腕の駆動が鈍る。
胸部核の光が弱まり、全身を巡っていた再生魔力も目に見えて減少していく。
「いける!」
Rainの声が弾む。
初めてだった。
あの巨体を、“押し切れる”と全員が理解した。
「今なら通る!」
Dwarfが巨大斧を振り上げる。
《BLOOD AXE》
赤い軌跡が空気を裂いた。
膝関節へ直撃。
鈍い破壊音が広間へ響く。
巨大脚がさらに沈む。
「今だ!」
Garmも前へ出る。
盾で押し込み、Novaの炎槍が胸部を撃ち抜く。
魔力が爆ぜる。
今までで一番大きく、アトラスの装甲が砕けた。
「通った!」
一瞬だった。
誰もが勝利を確信しかけた。
熱風の向こうで、巨人の動きが止まっていたからだ。
だが。
次の瞬間だった。
アトラスの全身へ赤い亀裂が走る。
装甲内部から漏れ出した赤光が、広間そのものを染め上げた。
熱量がさらに跳ね上がる。
遺跡全体が揺れる。
「……え?」
Rainが目を見開く。
次の瞬間。
外装そのものが内側から爆ぜ飛んだ。
凄まじい熱風が広間を薙ぎ払う。
砕けた装甲片が弾丸のように飛び散り、石柱へ深々と突き刺さった。
誰も前へ出られない。
空気が違った。
皮膚が粟立つ。
呼吸するだけで肺が焼ける。
先程までとは比較にならない魔力圧。
その場に立っているだけで、本能が「逃げろ」と警鐘を鳴らしていた。
先程までの重厚な巨人とは別物。
漏れ出す魔力だけで、本能が危険を理解する。
さっきまで響いていた衝突音が、一瞬だけ止んだ。
ただ赤熱した魔力炉の駆動音だけが、広間へ低く響いている。
爆炎の奥で、赤熱した巨人がゆっくり顔を上げる。
装甲の隙間から漏れ出した赤光が、まるで血管のように全身を巡っていた。
《PHASE SHIFT CONFIRMED》
《SECOND FORM:第二形態移行》
誰も言葉を失う。
第二形態となったアトラスが、ゆっくり前へ踏み出した。
第二炉戦でした。
今回はかなり「レイド感」を意識して書いてました。
Garmの限界、Fenの削れ方、Mistの薬残量、Lunaの解析負荷みたいに、
全員が少しずつ限界へ近付いていく感じを強めています。
特に第二形態前の
「勝てるかもしれない」
からの絶望感はかなり気に入ってるシーンです。
デプクロ経験者の悠真ですら、
まだ未知のボスという雰囲気を出したかったので、
第二形態は“空気が変わる感じ”を強めにしてみました。
次回、第二形態戦。
赤熱した巨人が、本当の力を解放します。
ブクマ・感想・評価などしていただけると、
かなり励みになりますのでよろしくお願いします。




