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『世界最強ギルド《Aegis》、サービス終了したゲーム知識で現実ダンジョンを攻略する』  作者: そら


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第十八話 第九階層

# 第十八話 第九階層


 第九階層へ続く通路は、まるで巨大な生物の喉奥のようだった。


 赤黒い結晶。


 脈動する壁面。


 そして、異様な静けさ。


 足音すら吸い込まれていく。


「……嫌な空気」


 Rainが小さく呟く。


 第八階層までとは明らかに違う。


 静かすぎた。


 それが逆に不気味だった。


 呼吸する度、肺へ重たい空気が入り込む。


 ただ歩いているだけなのに疲労感が増していくような感覚。


 黒い結晶は時折赤く脈動し、生き物の血管のように見えた。


「侵食領域だ」


 悠真が前を見たまま言う。


「普通の階層とは考えるな」


「具体的には?」


 Novaが聞く。


「魔力循環の乱れ。装備劣化。侵食個体。長期戦不利」


「うわ、面倒くさそう」


「実際面倒だ」


 Fenも周囲を見回しながら頷く。


「空気重いな」


「深層側の魔力が漏れてる」


 Lunaが黒い結晶を見つめていた。


「音も吸われてる」


 確かにそうだった。


 第八階層は反響していた。


 だがここは逆。


 静かすぎる。


 まるで洞窟そのものが音を殺している。


「装備確認」


 悠真が短く言う。


 全員が即座に動いた。


 Garmは盾固定具を締め直す。


 RainとCrowは短剣の状態確認。


 Novaは魔力触媒。


 Dwarfは装備腐食確認。


 Mistはポーションケースを開いた。


「浄化ポーション追加分できてる」


「味は?」


 Rainが聞く。


「ちょっと改善した!」


「前回めちゃくちゃ不味かったんだけど」


「今回はハーブ混ぜた!」


「それ改善って言う?」


 Mistが胸を張る。


「たぶん大丈夫!」


「その“たぶん”が怖いんだよ」


 だが悠真は一本受け取った。


 透明だった前回と違い、今回は少し青い。


「……見た目はマシ」


「飲む?」


「今はいい」


「逃げた」


「毒味役じゃないからな」


 少し笑いが起きる。


 だが空気はすぐ戻った。


 第九階層。


 ここから先は本当に危険だ。


 悠真は全員を見回す。


「侵食霧を吸うな」


「軽傷でもすぐ処理」


「ポーション惜しむな」


「無駄ヒールも減らす」


 Rainが頷く。


「ヘイト対策?」


「ああ」


 悠真は静かに言った。


「侵食階層でヒール連打すると崩れる」


「……普通の探索者ってそこまで考えてないよね」


「だから死ぬ」


 その言葉に少し空気が重くなる。


 だが。


 否定できる者はいなかった。


 今までの階層なら多少無理も通った。


 回復役へ頼り切った強引な戦い方でも、押し切れる場面は多かった。


 だが、第九階層は違う。


 侵食。


 装備劣化。


 継続ダメージ。


 精神疲労。


 小さな綻びが、そのまま全滅へ繋がる。


「Crow、先行」


「了解」


 Crowが影のように前へ消える。


 その直後。


 悠真は支援魔法を流す。


《ヘイスト》


《プロテクション》


《マジックバリア》


 流れるような速度。


 戦闘開始前には既に全員への支援が完成している。


 Fenrir側の探索者たちですら、未だにその手際へ少し驚いていた。


「戦闘前に全部組み終わってるのやっぱおかしいだろ……」


「開幕後に支援始める方が遅い」


 悠真は当然のように言う。


「事前にできることは全部やる」


「MMO廃人怖ぇ……」


 Rainが苦笑した。


 しばらく進む。


 黒い結晶はどんどん増えていった。


 壁だけじゃない。


 床。


 天井。


 通路。


 全てが侵食され始めている。


 ドクン。


 ドクン。


 脈打つ音が時折聞こえた。


「生きてるみたい」


 Novaが嫌そうに呟く。


「実際、半分生きてる可能性はある」


「やめて」


 その時。


 Crowが戻ってくる。


「敵」


「数は?」


「五。侵食狼三。人型二」


 空気が変わる。


「人型?」


 Fenが目を細めた。


「第八階層で見た奴か」


「たぶん近い」


 悠真が前へ出る。


「接敵する」


 通路奥。


 そこにいた。


 黒い狼。


《侵食狼》


 そして。


 その後ろ。


 人型。


 全身へ黒結晶が食い込んでいる。


 顔の半分が侵食されていた。


 だが。


 武器を持っている。


「……探索者?」


 Rainが呟く。


 人型存在はゆっくりこちらを見た。


 赤い目。


 その瞬間。


 ゾクリ、と全員の背筋が震える。


《WARNING》


《DEEP ENTITY DETECTED》


 悠真の視界へ赤文字が走る。


「Arc?」


「……来るぞ」


 次の瞬間。


 侵食狼が消えた。


「速っ!?」


 Garmが即座に前へ出る。


《ヘイトバッシュ》


 侵食狼を叩き落とす。


 重い衝撃。


 だが侵食狼は怯まない。


 赤い目を光らせたまま牙を剥く。


 同時。


 CrowとRainが左右展開。


《クロスエッジ》


《シャドウスラスト》


 侵食狼二体を切り裂く。


 だが。


 死体から黒霧。


「下がれ!」


 悠真が叫ぶ。


 Rainが即座に後退。


 黒霧が床を侵食する。


 石が溶けた。


「やっぱ危険だな」


 Fenが斧を構える。


「長引かせるな!」


 悠真が指示を飛ばす。


「短期で落とせ!」


「了解!!」


 Novaが魔法陣を展開。


《フレイムランス》


 圧縮火槍。


 侵食狼を貫通。


 その瞬間。


 後ろの人型存在が動いた。


「っ!?」


 速い。


 Rainがギリギリで避ける。


 黒い剣が通路を裂いた。


 黒い斬撃痕が壁へ残る。


「人型の方やばい!」


「Crow!」


「もう行ってる」


 Crowが影のように接近。


《シャドウブレイク》


 だが。


 人型存在は反応した。


 剣で受ける。


「は?」


 Crowが初めて驚いた顔をする。


 今までの侵食個体と違う。


 “戦っている”。


 ただ暴れるだけじゃない。


 剣技がある。


 反応速度も高い。


 その時。


 人型存在が口を開いた。


「……オ……マ……エ」


 全員が固まる。


「喋っ……!?」


 Rainが息を呑む。


 侵食個体が。


 言葉を発した。


 次の瞬間。


 人型存在の剣が黒く発光した。


「避けろ!!」


 悠真が叫ぶ。


 直後。


 黒斬撃。


 通路壁がまとめて裂け飛んだ。


 轟音。


 侵食結晶が崩れ落ちる。


「威力おかしいだろ!?」


 Novaが顔を引きつらせる。


 Garmが前へ出る。


《フォートレス》


 広域ヘイト固定。


 だが。


 人型存在は止まらない。


 一直線に悠真を見る。


 その瞬間。


 悠真の視界へ再び赤文字。


《SYNC ERROR》


《UNKNOWN SIGNAL》


「っ……!」


 頭痛。


 ノイズ。


 視界が揺れる。


「Arc!?」


 Rainが叫ぶ。


 だが。


 人型存在は止まらない。


 黒い剣を振り上げる。


 その瞬間。


《ヘイトチェイン》


 悠真が無理矢理魔法を発動。


 ヘイトをGarmへ強制接続。


 人型存在の視線が僅かにズレる。


「今だ!!」


 Fenが飛び込む。


《ブラッドアクス》


 巨大斧が叩き込まれる。


 轟音。


 人型存在が初めて後退した。


「硬っ!?」


「普通の侵食個体じゃねぇ!」


 その時。


 Lunaが叫ぶ。


「黒水晶反応増えてる!」


 周囲の結晶が赤く脈動していた。


 ドクン。


 ドクン。


 まるで呼吸している。


 空気がさらに重くなる。


 呼吸しづらい。


 魔力が乱されている。


「撤退準備」


 悠真が即座に判断する。


「え、倒さないの!?」


「情報不足だ」


 悠真は視線を人型存在へ固定したまま言う。


「ここで消耗する方が危険」


 その時。


 人型存在が再び口を開いた。


「……アーク」


 全員の動きが止まった。


 Rainが目を見開く。


「今……名前」


 人型存在の赤い目が悠真を見つめる。


 その瞬間。


 黒水晶全体が大きく脈動した。


《WARNING》


《DEEP SYNCHRONIZATION DETECTED》


 悠真の頭へ大量のノイズが流れ込む。


 知らない景色。


 崩壊した迷宮。


 赤黒い空。


 そして。


 巨大な黒い塔。


「っ……!」


 膝が揺れる。


 Rainが支える。


「Arc!!」


 人型存在がゆっくり剣を下ろした。


 そして。


 小さく笑った。


「……ミツケタ」


 次の瞬間。


 黒霧が爆発した。


 視界が埋まる。


「全員下がれ!!」


 Garmが叫ぶ。


 Fenが前へ出る。


 Novaが炎で霧を吹き飛ばす。


 だが。


 霧が晴れた時。


 そこにはもう誰もいなかった。


 残っていたのは。


 赤黒く脈動する黒水晶だけ。


 静寂。


 重い沈黙。


「……なんだ、あれ」


 Rainが呟く。


 誰も答えられない。


 悠真だけが黒水晶を見つめていた。


 胸の奥が嫌な感覚でざわつく。


 あれは。


 ただの侵食個体じゃない。


 もっと深い。


 もっと異常な存在だ。


「今日は戻る」


 悠真が低く言った。


「情報整理が先だ」


 Fenも静かに頷く。


「あぁ。あれは今の情報量で戦う相手じゃねぇ」


 その時。


 空中へ新たな赤文字が浮かんだ。


《NEW DEPTH SIGNAL DETECTED》


《FLOOR 10 GATE CONFIRMED》


 全員が視線を上げる。


 第十階層。


 中層への門。


 それが、ついに確認された。

読んでいただきありがとうございます。


今回は第九階層前半戦でした。


第八階層までとは違う、

“侵食領域”としての空気感を意識して書いてみました。


静かな階層、

侵食霧、

普通とは違う魔石、

そして侵食個体。


特に今回は、

長期戦が危険な階層という部分を強めに描写しています。


また、人型存在も本格的に登場しました。


ただのモンスターではない雰囲気を感じてもらえていたら嬉しいです。


そしてついに確認された第十階層への門。


次回は攻略準備や情報整理も含め、

中層突入前の重要な回になる予定です。


もし面白いと思っていただけたら、

ブックマークや評価などしていただけると励みになります!


次回、第十階層前夜。

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