第十六話 深層接続
# 第十六話 深層接続
深夜。
《Aegis》ギルドホーム。
研究室。
静まり返った室内で、黒い結晶だけが脈打っていた。
ドクン。
ドクン。
赤黒い光。
まるで心臓。
その前で、Mistが完全に目を輝かせていた。
「やばい……」
「これ絶対普通の魔石じゃない……!」
机へ広げられた大量のメモ。
分解図。
魔力波形。
既に数時間ぶっ通しで解析している。
「まだやってたのか」
悠真が部屋へ入る。
するとMistが即座に振り返った。
「Arc!!」
「これ凄い!!」
「分かったことあるのか?」
「全然分からない!!」
「ダメじゃねぇか」
「でも普通じゃないのは分かる!!」
興奮気味に言いながら、Mistは深層核を指差した。
「これ、内部魔力が循環してる」
「循環?」
「普通の魔石は蓄積型なの」
「でもこれは違う」
「外部魔力を吸って増幅してる」
悠真が目を細める。
自己増幅。
もし本当なら。
エネルギー革命どころじゃない。
世界そのものが変わる。
その時だった。
Lunaが小さく呟く。
「……流れてる」
全員が振り向く。
Lunaは深層核へ手を伸ばしていた。
「どこかと繋がってる感じがする」
「繋がってる?」
「うん」
Lunaの目が僅かに細くなる。
「魔力が……遠くへ流れてる」
その瞬間。
悠真の頭へノイズが走った。
「っ……!」
視界が揺れる。
黒い空。
巨大な門。
無限に続く階層。
そして。
《Depth:101》
表示。
耳鳴り。
脳が焼けるような感覚。
「Arc!?」
Rainが慌てて支える。
「おい大丈夫か!?」
「……なんでもない」
だが。
嫌な汗が止まらない。
今の景色。
間違いない。
デプクロ最深部。
101階層。
その時。
深層核が再び脈打った。
ドクン。
空中へ黒いウィンドウが浮かぶ。
《SYNC RATE(同期率):3%》
「また増えた!?」
Mistが目を見開く。
「なんでArc来ると上がるの!?」
「知らん」
悠真は短く返す。
だが。
嫌な予感だけは増していく。
翌日。
探索者協会本部。
最上階会議室。
空気は重かった。
「深層核の存在は確認済みです」
「現在、国家指定危険物として仮登録されました」
大型モニター。
映し出される黒い結晶。
そして。
七階層レイド戦映像。
会議室には:
・協会幹部
・研究班
・政府関係者
・軍関係者
まで集まっていた。
「問題はこの“同期現象”です」
研究員が映像を切り替える。
《SYNC RATE(同期率)》
表示。
「現在、Arc接近時のみ数値上昇を確認しています」
空気がざわつく。
「特定個人へ反応している?」
「そんなことがありえるのか?」
「深層側との適性反応かもしれません」
その瞬間。
軍服の男が口を開いた。
「ならば対象保護が必要だ」
「……保護?」
Fenが眉をひそめる。
「監視の間違いだろ」
空気が僅かに険悪になる。
その時。
協会長が静かに言った。
「現時点で強制管理は行わない」
「だが深層核は国家案件だ」
「情報漏洩は禁止とする」
しかし。
既に遅かった。
ネットでは完全に祭り状態だった。
【速報】
七階層レイド突破
【世界初】
《Aegis》&《Fenrir》合同攻略成功
【深層核】
新型魔石発見か
【掲示板】
1:名無し探索者
Aegisやばすぎ
5:名無し探索者
ヒーラーまた前出てたぞ
11:名無し探索者
なんでヘイト飛ばねぇんだよ
18:名無し探索者
Fenrirとの共闘熱すぎ
24:名無し探索者
深層核ってなんだ?
36:名無し探索者
国家案件らしい
51:名無し探索者
もうこれゲームじゃねぇ
77:名無し探索者
七階層でレイド出る時点で終わってる
102:名無し探索者
深層ってなんなんだよ
世界中が騒ぎ始めていた。
さらに。
企業まで動き出す。
『深層核研究へ共同出資を――』
『Aegis様とのスポンサー契約を希望――』
『魔導機関開発について――』
ギルドホームの机へ並ぶ大量の書類。
Rainが顔を引きつらせる。
「うわぁ……」
「急に大企業から来た……」
Dwarfは逆に楽しそうだった。
「設備投資できるな」
「お前はブレないな……」
その横。
Fenはソファへ座りながら笑う。
「絶対ロクなことにならねぇ」
「同感だ」
悠真も短く返した。
その時だった。
警報音。
協会から緊急通知が届く。
《UNKNOWN MAGIC REACTION(未確認魔力反応) DETECTED》
「……は?」
Novaが固まる。
続けて地図が表示される。
東京。
大阪。
北海道。
各地へ赤い反応。
「未確認ダンジョン反応……?」
「同時発生だと?」
Fenの表情が変わる。
「おい、冗談だろ」
研究員の声が震えていた。
「魔力濃度が急激に上昇しています!」
「既存ダンジョンと違う!」
「深層核反応と酷似!」
その瞬間。
悠真だけが理解した。
深層。
近付いている。
ゲームの向こう側。
あの領域が。
現実へ侵食し始めている。
「……まずいな」
誰にも聞こえないほど小さく呟く。
その夜。
悠真は再び研究室へ来ていた。
誰もいない。
静かな部屋。
机上の深層核だけが脈打っている。
ドクン。
ドクン。
悠真が近付く。
その瞬間。
《SYNC RATE(同期率):5%》
数値が跳ね上がる。
「っ……!」
黒いウィンドウが次々開く。
《ACCESS AUTHORIZED(接続許可)》
《DEEP LAYER CONNECTION ESTABLISHED
(深層接続確認)》
《DEPTH MAP UNLOCKED
(深層マップ解放)》
悠真の目が見開かれる。
表示されたのは。
巨大な階層マップ。
《CURRENT AVAILABLE DEPTH(現在到達可能階層):7》
《LOCKED DEPTH(封鎖階層):8〜101》
そして。
最下層。
101階層部分だけが、赤黒く脈打っていた。
その瞬間。
ノイズ混じりの声が聞こえる。
『――接続確認』
悠真の背筋が凍る。
誰もいない。
なのに。
確かに聞こえた。
『深層接続者を確認』
深層核が脈打つ。
ドクン。
ドクン。
そして。
最後に、赤い文字が浮かび上がった。
《NEXT DEPTH AVAILABLE(次回解放階層):8》
読んでいただきありがとうございます。
今回は戦闘後の世界側の反応や、
深層核による“深層接続”の話を書いてみました。
少しずつですが、
ダンジョンそのものが変化し始めています。
【用語解説】
《深層接続》
深層核を通して発生した未知の接続現象。
現在、Arcのみ高い同期反応を確認している。
《SYNC RATE(同期率)》
深層核との適合率を示す謎の数値。
数値上昇による影響は現在不明。
《DEPTH MAP(深層マップ)》
深層核接続時に表示された階層情報。
101階層まで存在しているが、大半は封鎖状態となっている。
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次回、第八階層解放。




