第十一話 第七階層
# 第十一話 第七階層
探索者協会前。
朝だというのに、大量の探索者たちで溢れていた。
「見ろよ……《Aegis》だ」
「マジで七階層行くのか?」
「いや普通死ぬだろ……」
視線が集まる。
それにももう少し慣れてきていた。
「完全に見世物だね」
Rainが苦笑する。
「有名税だろ」
Garmが肩を回した。
その横で。
協会職員が真剣な表情を浮かべている。
「現在、七階層以降は非常に危険です」
「モンスター活性化も確認されています」
「無理はしないでください」
悠真は静かに頷いた。
「無理なら行きません」
だが。
その目は完全に攻略者のものだった。
本当にこの男は新人なのか。
協会職員も思わず息を呑む。
その時。
後方モニターへ表示が映る。
《CURRENT DEEPEST FLOOR》
1位:《Aegis》
Depth:6
2位:《Fenrir》
Depth:6
周囲がざわつく。
「世界最前線……」
「まだ誰も七階層行けてないんだよな」
「化け物しかいねぇ」
悠真たちはそのままダンジョンへ向かった。
そして。
第七階層。
空気が変わる。
「……空気重い」
Rainが小さく呟いた。
壁は黒く侵食されている。
床にも赤黒い線。
魔力濃度も明らかに高い。
「深層側に近づいてるな」
悠真が静かに言う。
「分かるの?」
Novaが振り返る。
「……嫌でもな」
デプクロ後半層。
あの空気に近い。
嫌な予感しかしなかった。
その瞬間。
奥から複数の足音。
「接敵まで五秒」
悠真が静かに告げる。
空気が一気に張り詰めた。
そして。
《ヘイスト》
最初に光が包んだのはRain。
斥候職。
最も機動力を必要とする前衛。
瞬間。
Rainの感覚が加速する。
身体が軽い。
視界が広い。
思考速度すら上がったように感じる。
だが。
ヘイストは切れた瞬間が危険だ。
急激に身体感覚が鈍る。
一瞬の遅れが死に繋がる。
だからこそ。
Arcの“切らさない支援”は絶対だった。
続けて。
《プロテクション》
Garmへ防御強化。
さらに。
《メディック》
継続回復を事前付与。
戦闘開始前。
既に支援が完成していた。
観測していた協会探索班がざわつく。
「はや……」
「もうバフ終わってるぞ……」
「いや判断速度どうなってんだ?」
Rainが笑う。
「来た来た、Arcの開幕バフ」
「行けるぞ」
「おう!!」
次の瞬間。
Garmが最前線へ飛び出した。
闇の中から現れたのは。
《侵食兵》
《侵食ゴブリンメイジ》
通常個体じゃない。
しかも。
後衛付き。
「連携型!?」
Novaが目を見開く。
普通のゴブリンとは違う。
完全に役割分担している。
「メイジ優先!」
悠真が即座に指示を飛ばす。
「Crow、左回れ!」
「了解」
「Rain、右から詰めろ!」
「任せて!」
「Garm、前抑えろ!」
「おう!!」
侵食兵が突撃してくる。
Garmが盾を叩きつけた。
《ウォークライ》
咆哮。
周囲ヘイト強制固定。
侵食兵たちの視線が一斉にGarmへ向く。
「来いよ化け物!!」
直後。
激突。
《アイアンウォール》
重い衝撃。
だがGarmは踏み止まる。
「っ……火力上がってるぞ!」
「侵食で強化されてる!」
Novaが即座に分析する。
その間にも。
後衛メイジが詠唱を始めていた。
「Nova、詠唱潰せ!」
「了解!」
《ファイアボルト》
火球直撃。
だが。
「硬っ!?」
普通のゴブリンより耐久が高い。
その瞬間。
「ヘイスト残り二秒」
《ヘイスト》
Rainへ再付与。
完璧な更新。
Rainが目を見開く。
「……また切れてない」
普通の支援職なら不可能。
戦闘中。
複数人。
しかも他スキルと同時管理。
周囲で観測していた探索班もざわつき始める。
「ヘイスト切れてなくないか?」
「いや、あれ維持率どうなってる……?」
「タイミング完璧すぎるだろ……」
その間にも。
Rainは加速する。
一般探索者では視認すら困難な速度。
一瞬で後衛メイジへ到達した。
「もらった!」
《クロスエッジ》
二連斬撃。
侵食ゴブリンメイジ撃破。
だが。
悠真は止まらない。
「Garm、プロテクション更新」
《プロテクション》
防御強化。
直後。
侵食兵の攻撃が炸裂する。
轟音。
だが。
「耐えた!?」
観測班が驚愕する。
「今ので押し切られないのか!?」
しかも。
悠真は同時に前へ出る。
「Arc!?」
Rainが目を見開く。
普通の神官ならありえない位置。
そして。
《ホーリー》
聖光弾。
侵食兵を撃ち抜く。
爆ぜる聖属性。
侵食兵が大きく怯んだ。
「ヒーラーが前出てる!?」
「しかも火力高っ!」
だが。
敵の視線はGarmから動かない。
「なんでヘイト向かないんだよ!?」
観測班が混乱する。
悠真は冷静だった。
Garmのヘイト量。
敵残HP。
スキルヘイト倍率。
全部計算している。
「今ならもう一発通る」
《ホーリーランス》
光槍。
侵食兵を貫通。
「Nova!」
「了解――《フレアボルト》!」
爆炎。
侵食兵撃破。
静寂。
だが。
悠真だけは奥を見ていた。
「……まだいる」
次の瞬間。
第七階層全体が揺れた。
轟音。
侵食が壁を走る。
「っ!?」
Rainが振り返る。
そして。
奥。
巨大な扉。
そこに浮かび上がった文字。
《RAID BOSS AREA》
全員が固まる。
「……は?」
Novaが呟く。
「七階層でレイドボス?」
本来ありえない。
少なくとも。
《Depth Chronicle》には存在しなかった。
読んでいただきありがとうございます。
【用語解説】
《探索者》
ダンジョンへ侵入し、戦闘や素材回収を行う者たちの総称。
現在は探索者協会への登録が推奨されている。
《侵食》
一部階層で確認されている異常現象。
モンスター強化やダンジョン変異との関連が疑われている。
《RAID BOSS AREA》
本来は大人数攻略用ボスエリアを示す表示。
七階層での出現は、デプクロ時代にも存在しなかった異常事態である。
次回、七階層レイドボス戦。




