第十二話 侵食レイド
# 第十二話 侵食レイド
七階層最奥。
《RAID BOSS AREA》
赤黒い文字が、巨大扉へ浮かび上がっていた。
周囲の探索者たちが顔を青ざめさせる。
「……レイド?」
「七階層だぞ……?」
「聞いてねぇよこんなの……!」
通常の探索者パーティなら、四階層ですら命懸け。
その上。
レイドボス。
明らかに異常事態だった。
だが。
悠真は静かに扉を見上げていた。
「Arc」
Rainが少し不安そうに声をかける。
「これ、流石にヤバくない?」
「……ヤバいな」
即答。
だが。
悠真の目は冷静だった。
「侵食型なら通常レイドとは違う」
「分かるの?」
「推測だ」
デプクロ時代。
深層には“侵食”に近い現象が存在していた。
ただし。
七階層で出るようなものじゃない。
完全に異常。
「でも逃げるの?」
Novaが聞く。
悠真は首を横に振った。
「このまま放置した方が危険だ」
沈黙。
そして。
Garmが盾を担ぐ。
「ならやるしかねぇな」
「だね」
Rainも短剣を回した。
既に誰も引く気は無かった。
「接敵まで十秒想定」
悠真が静かに言う。
その瞬間。
全員の空気が変わった。
《ヘイスト》
Rainの身体が軽くなる。
《プロテクション》
Garmへ防御強化。
《メディック》
継続回復を事前付与。
《リジェネ》
微弱再生。
戦闘開始前。
既に支援は完成していた。
「来た来た、Arcの開幕支援」
Rainが笑う。
「行くぞ」
重い音と共に扉が開く。
瞬間。
凄まじい魔力が吹き荒れた。
『GRAAAAAAAAAAAAAA!!』
咆哮。
空間が震える。
現れたのは。
巨大な黒鎧。
侵食された竜人型の怪物。
赤黒い大剣。
禍々しい魔力。
《侵食竜兵》
周囲の探索者たちが息を呑む。
「デカ……」
「なんだあれ……」
次の瞬間。
侵食竜兵が剣を振り上げた。
「散開!!」
轟音。
剣圧だけで地面が砕ける。
「っ!?」
探索者の一人が吹き飛ばされた。
強い。
今までの敵とは格が違う。
「Garm!」
「おおおお!!」
Garmが前へ出る。
《フォートレス》
巨大盾を地面へ叩きつける。
防御姿勢。
同時に広域ヘイト固定。
侵食竜兵のヘイトがGarmへ向いた。
「来いよ!!」
直後。
激突。
《アイアンウォール》
轟音。
Garmの足元が砕ける。
「っ……重すぎる!!」
明らかに今までと違う。
レイド級。
「Crow、ヘイト補助!」
「了解」
Crowが側面へ回り込む。
《シャドウエッジ》
黒い斬撃。
ヘイト分散。
その瞬間。
床へ黒い魔法陣が浮かび上がった。
「っ!?」
Novaが目を見開く。
「これ――」
「左へ回避!」
悠真が即座に叫ぶ。
全員が動く。
直後。
黒い柱が魔法陣から噴き上がった。
轟音。
床が消し飛ぶ。
「なっ……!」
「即死級!?」
だが。
《Aegis》は誰も被弾していない。
「なんで初見で分かるのよ!?」
Novaが叫ぶ。
「経験だ」
悠真は短く答えた。
「ヘイスト残り二秒」
《ヘイスト》
再付与。
Rainの加速感が途切れない。
その間にも。
Rainは加速する。
一瞬で侵食竜兵の背後へ回る。
《クロスエッジ》
二連斬撃。
だが。
硬い。
「防御高っ!?」
次の瞬間。
侵食竜兵が咆哮した。
『GRAAAAAAAAAAA!!』
衝撃波。
「っ!?」
Garmの身体が押し込まれる。
「ヘイト維持きついぞ!!」
その瞬間。
ヘイトが揺れた。
侵食竜兵のヘイトがNovaへ向く。
「やば――」
「Crow!」
「任せろ」
《ヘイトスラスト》
強制ヘイト。
ギリギリで引き戻す。
だが。
Crowの腕が軋む。
「重いな……」
悠真は即座に動く。
《オーバーヒール》
Garmへ超過回復。
光がシールド化する。
さらに。
《エリアヒール》
範囲回復。
周囲探索者まで回復光が届いた。
「な……」
「支援範囲広すぎる……!」
しかも。
悠真は止まらない。
《ホーリー》
《ホーリーランス》
聖光が侵食竜兵を穿つ。
だが。
ヘイトは飛ばない。
「なんでだよ!?」
「攻撃量おかしいだろ!!」
悠真は冷静だった。
ヘイト量。
残HP。
タンク維持率。
全部計算している。
「Nova、今なら通る!」
「了解――《フレアバースト》!!」
爆炎。
直撃。
侵食竜兵が大きく揺れる。
「今だ!」
RainとCrowが同時に飛び込む。
《クロスエッジ》
《ダークブレイド》
二連同時攻撃。
そして。
Garmが咆哮した。
「ぶっ飛べぇぇぇ!!」
《シールドバッシュ》
重撃。
侵食竜兵の身体が崩れる。
巨大な黒鎧が膝をついた。
そして。
ゆっくりと倒れる。
静寂。
探索者たちが息を呑む。
「……倒した?」
「レイドを……?」
だが。
悠真だけは動かなかった。
「……違う」
次の瞬間。
侵食竜兵の死体が、赤黒く脈打ち始めた。
ドクン。
ドクン。
そして。
空の巨大ウィンドウへ、赤い警告が浮かび上がる。
《WARNING》
《DEPTH SYNCHRONIZATION》
周囲の空気が凍った。
「……は?」
Novaが呟く。
その瞬間。
侵食竜兵の身体が再び動いた。
黒い魔力が爆発的に溢れ出す。
悠真が目を細める。
「……第二形態か」
読んでいただきありがとうございます。
【用語解説】
《レイドボス》
通常パーティではなく、大人数攻略を前提とした特殊ボス個体。
高耐久・広範囲攻撃・特殊ギミックを持つことが多い。
《ヘイト》
モンスターが攻撃対象を決定する際の敵対値。
前衛職はヘイト維持、後衛職はヘイト管理が重要となる。
《第二形態》
一部高難度ボスが持つ特殊変化。
戦闘パターンや能力が大きく変化する危険状態。
次回、侵食竜兵第二形態戦。




