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世界最強ヒーラー、サービス終了したゲーム知識で現実ダンジョンを攻略する ~伝説のギルド《Aegis》復活~  作者: PeterP4n
第八章 新たな攻略

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第114話 白銀竜人

#第114話 白銀竜人


 黄色い瞳が、門の隙間からこちらを見ていた。


 瞬きはない。獣が獲物を見つけた時の濁った視線ではなく、侵入者の数と配置を測るような、冷たい知性を帯びた光だった。


 Arcは息を止めたまま、杖を握る指へ力を込める。


 門の中心で淡い光が広がり、重い金属が擦れる音が洞窟の奥へ低く響いた。白銀輝鉱に似た線が門全体を走り、ゆっくりと左右へ開いていく。隙間から流れ出した空気は洞窟の冷気とは違い、乾いた古い鉄の匂いと、かすかな熱を含んでいた。


 Garmが盾を前へ出すと、Rainの手が双剣へ伸び、Siaは弓を上げる。Novaの肩では、サラマンダーが火を絞り、シルフが羽を動かさずに門の奥を見つめていた。


 ガン。


 まず見えたのは、足だった。


 石床を踏むたび、白銀の粉がわずかに跳ねる。膝、分厚い外殻、長い尾、背中に並ぶ鉱石の棘。メタルリザードの名残を残しながらも、その姿は明らかに違っていた。


 次に見えたのは、腕。


 右手には白銀の大剣。


 左腕には盾のように張り出した外殻。


 そして最後に、黄色い瞳がAegis全員を一度だけなぞり、Arcで止まった。


 二本の脚で立つ、白銀の竜人。


 斧槌を握り直したCainが「でけぇな」と低く漏らす。軽口に聞こえるはずの声には、いつもの勢いより先に警戒が滲んでいた。


 Crowはすぐ退路へ視線を走らせ、門と通路の幅を確認してから「笑えねぇ置き土産だな」と呟く。


 Arcは答えなかった。


 喉の奥で、記憶が少しずつ形を取っていく。通常マップではない。二十五階層のボスでもない。けれど、白銀の外殻、大剣、門の奥から現れる演出、その全てに見覚えがあった。


「……白銀竜人」


 Arcの声が低く落ちると、Rainが思わず振り向きかける。


「知ってるの?」


 Arcは答えなかった。


 まだ、言葉にするには早い。


 目の前の存在が、本当に記憶と同じものなのかを確かめる必要があった。


 白銀竜人が動く。


 速い。


 巨体がわずかに沈んだと思った時には、すでに距離が詰まっていた。大剣が振り上がり、Garmの正面へ落ちる軌道を描く。


 Arcが「Garm、受けるな。流せ」と指示した時には、Garmは盾を正面からわずかに傾けていた。


 ガァンッ!!


 空洞の空気が震えた。


 受け止めたわけではない。流しただけだ。それなのに、Garmの足元で石床が円を描くように割れ、盾の表面を白い火花が走った。衝撃は一拍遅れて周囲へ広がり、Rainが反射的に息を呑む。


 新しい白銀の盾は低く唸りながら衝撃を横へ逃がしたが、Garmの膝はわずかに沈んだ。


 重い、とGarmが吐き出すように言う。


 Arcはその一撃を見て、ようやく確信した。


 正面から受けていれば、盾ごと押し潰されていた。


 これは通常の敵ではない。


「十周年記念イベントの隠しボスだ」


 Arcが低く告げると、Cainの顔から笑みが少し消えた。


「イベントボスが、なんでこんなとこにいる」


「分からない」


 本当に分からない。ゲームでは期間限定の悪ふざけみたいな存在だった。攻略組ですら、討伐前提ではなく、どこまで耐えられるかを試す相手として扱っていた。


 当時のプレイヤーたちは、あれをこう呼んだ。


 倒される気のない門番。


 Arcは杖を上げる。


「《プロテクション》」


 白い光がGarmの鎧へ走る。


 白銀竜人は、ただ攻撃を続けなかった。光の流れを目で追い、防御が強化された場所を確かめるように、Garmの肩から盾の縁へ視線を移していく。


 Siaは息を呑み、「見てる」と小さく呟きながら矢を放った。


「《Break Shot》」


 狙いは膝の継ぎ目。メタルリザードなら外殻の隙間に当たる場所だ。だが、白銀竜人は足を引かず、左腕の外殻盾をほんの少し動かしただけだった。


 矢は盾の中心ではなく斜めの面へ当たり、甲高い音を立てて逸らされる。


 弾いたのではない。


 軌道を読んで、流した。


 次の矢へ伸びかけたSiaの指が止まる。彼女の表情から、いつもの冷静な余裕が少しだけ消えた。


「読まれた」


 白銀竜人の瞳が、今度はSiaへ向いた。


 ArcがRainの名を呼ぶより早く、彼女はもう動いていた。


 足元へ淡い光が走る。


「《ヘイスト》」


 Arcの支援がRainの足を軽くする。湿った石床を蹴ったRainは、白銀竜人の視界から外れるように横へ滑り込んだ。速度は出ている。踏み込みも悪くない。


 だが、相手も遅くなかった。


 白銀竜人は首だけを動かし、Rainの位置を追う。


 うそ、とRainの声が漏れた瞬間、大剣が横へ薙がれた。


 空気が裂ける。


 Rainの身体が消え、残った影だけが大剣に斬り裂かれた。


「《残影》……っ!」


 本体は一歩後ろにいた。だが、完全には避けきれていない。風圧が頬を掠め、髪の端が切れて宙へ舞う。Rainは双剣を構え直したまま、喉を鳴らした。


「見えてる……!」


 いつもの軽い調子は消えていた。


 Cainも、そこで初めて黙る。


 白銀竜人は追撃しない。Rainを見て、残影が消える場所を見て、次にArcへ視線を戻す。


 覚えている。


 Arcの背筋に、冷たいものが走った。


 踏み込みかけていたCainを、Arcは「まだだ」と止める。斧槌を握る指には力が入り、白銀の筋にはサラマンダーの火が細く走っていた。


「まだかよ」


「まだだ」


 Arcは白銀竜人の左腕を見る。


 盾。


 大剣。


 膝。


 視線。


 どこを狙えば通るのか。答えを探す間にも、白銀竜人は大剣を構え直し、今度はGarmではなくRainのいる側へ体を向けた。


 狙いを変えた。


 Crowが「面倒だな」とぼそりと呟いた瞬間、黒い鎖が床を走る。


「《ブラックチェイン》」


 鎖は白銀竜人の足首へ絡みついた。


 一秒。


 止まる。


 その一秒で、Arcは判断した。


「Cain、止めろ」


 待ってた、とCainが笑う。


 地面を蹴る音が、空洞に響いた。


「《疾駆》」


 Cainの身体が前へ飛ぶ。


 斧槌の白銀の筋へ、サラマンダーの火が流れ込む。火は爆ぜない。白い線に沿って細く走り、槌頭へ集まっていく。


 Cainは叫ばない。


 歯を食いしばり、肩を沈め、白銀竜人の左腕へ斧槌を叩き込んだ。


 ガギィッ!!


 金属同士が噛み合うような音が、空洞を突き抜ける。


 白銀竜人の外殻盾が、初めて揺れた。


 Cainの腕へ衝撃が返る。けれど、前とは違う。重さは手首で止まらず、柄の奥へ流れ、肩から足元へ抜けていく。Cainは押し負けず、さらに一歩踏み込んだ。


「《破断》」


 斧槌の槌頭が、外殻盾へ深く食い込む。


 ピシ。


 細い亀裂が走った。


 ほんの一本。


 それでも、確かに入った。


 Cainの口元が上がる。


「入った」


 次の瞬間、白銀竜人の黄色い瞳がCainを捉えた。


 外殻盾の亀裂を見る。


 Cainの斧槌を見る。


 サラマンダーの火を見る。


 そして、白銀竜人は左腕を半歩後ろへ引いた。


 亀裂をCainの斧槌の軌道から外し、次の《破断》が届くはずだった通り道を消す。


 Arcの喉が小さく鳴る。


「……覚えたな」


 白銀竜人が剣を構え直した。


 それは魔物の姿勢ではなかった。


 戦士の構えだった。


 Garmが盾を上げ、Rainが距離を取り、Siaが次の矢を番える。Crowの鎖はまだ足首に絡んでいるが、金属が軋む音は強くなっていた。


 長くは持たない。


 Arcが次の指示を出そうとした、その時だった。


 背後で、低い音が響く。


 ゴゴゴ……。


 全員の視線が一瞬だけ後ろへ流れた。


 さっきまで開いていた門が、ゆっくりと閉じ始めている。


 Crowが低く舌打ちし、「笑えねぇな」と吐き捨てる。


 Arcは白銀竜人から目を離さないまま答えた。


「撤退は難しい」


 門の隙間が、少しずつ狭くなる。


 その音の中で、白銀竜人だけは動かなかった。


 退路が消えるのを、待っていたかのように。


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