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世界最強ヒーラー、サービス終了したゲーム知識で現実ダンジョンを攻略する ~伝説のギルド《Aegis》復活~  作者: PeterP4n
第八章 新たな攻略

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第111話 白銀の斧槌

#第111話 白銀の斧槌


 Cainの斧槌が、作業台の上へ置かれた。


 片側は斧、反対側は四角い槌。二十五階層の洞窟でメタルリザードの外殻を砕いた武器は、役目を果たした代わりに、接合部へ細かな歪みを残していた。


 Dwalfは斧槌を持ち上げると、刃、槌頭、柄の付け根を順に確かめ、最後に金具の隙間へ指先を当てたまま少しだけ黙る。


「作り直しだ」


 Cainの笑みが、ほんの少し引きつった。


「そこまでか?」


 Dwalfは答えず、工具を接合部へ差し込んだ。


 金具を緩め、刃を外し、槌頭をずらしていく。斧槌だったものが作業台の上で少しずつ部品へ分かれていくたび、Cainの視線もその動きに合わせて落ち着きなく動いた。


 普段ならすぐ軽口を挟む男が黙り込んでいるせいで、Rainが横から覗き込み、少しだけ笑う。


「Cain、顔がすごい」


「いや、自分の武器がバラされるのは落ち着かねぇだろ」


 壁際で腕を組んでいたCrowが、部品になっていく斧槌を眺めながら呟く。


「本人より武器の方が繊細だな」


「うるせぇ」


 言い返しても、Cainの視線は作業台から離れなかった。


 Mistはその横で、まだ布を巻いたCainの腕へ目を向けている。白銀輝鉱を砕いた時の反動は思ったよりも深く残っていたらしく、Cainは何でもない顔をしているが、指を握るたびにわずかに動きが遅れる。


「触らないでね」


「分かってる」


「今、絶対触ろうとした」


「してねぇ」


 Rainが小さく笑う間にも、Dwalfは外した刃と槌頭を並べ、白銀輝鉱の細い欠片をその横へ置いた。


 盾に使ったものと比べれば、残っている白銀輝鉱は明らかに少ない。細い板に伸ばせば武器の一部には使えるが、防具を丸ごと一つ更新するには量が足りなかった。


 Arcは机の上へ視線を落とす。


「RainとCrowの分は?」


 Dwalfは小さな欠片を摘まみ、炉の光へかざした。


「足りん」


 即答だった。


 Rainが分かりやすく肩を落とす。


「えー」


「軽装に回すなら薄く広げる必要がある。だが、この量では胸当てにも届かん」


 Dwalfは次にCrowの鎖と防具へ目を向け、しばらく考えるように欠片を指先で転がした。


「Crowの分も同じだ。使うなら、もう一体分は欲しい」


 予想していたのか、Crowは大きな反応を見せずに肩をすくめる。


「つまり、また硬い奴を殴りに行けってことか」


 Cainの口元が上がった。


「分かりやすくていいじゃねぇか」


「じゃあ、次のメタルリザードは私の防具分もお願い」


 Rainがすぐに顔を上げると、Dwalfは欠片を作業台へ戻しながら短く返す。


「素材に言え」


 笑いが鍛冶場へ広がる。


 その軽さを聞きながら、Arcは二十五階層の洞窟を思い出していた。


 Siaが見つけた奥の通路。


 ゲームの記憶にはなかった場所。


 素材を集める理由はできた。確かめるべき場所も残っている。だが、今は目の前の武器を仕上げる方が先だった。


 DwalfはCainの斧槌の柄を持ち上げると、Cainへ一度だけ差し出す。


「持て」


 Cainはすぐ手を伸ばしかけたが、Mistの視線に気付き、妙に慎重な動きで柄だけを握った。


「……持つだけだろ」


「振らないでね」


「分かってるって」


 Cainが柄を握ると、まだ槌頭を外した状態なのに、手首がわずかに下へ引かれた。本人もそれに気付いたのか、眉を寄せて握り直す。


 Dwalfはその手元を見て、柄の付け根へ爪で小さく印を付けた。


「こいつは返る」


「返る?」


「腕へな」


 それだけ言うと、Dwalfは柄を取り上げ、槌頭の内側へ白銀輝鉱の細い欠片を当てた。


 すぐには固定しない。


 角度を変え、光へかざし、槌頭の中央と柄の付け根を何度も見比べてから、ほんの少しだけ金属を削る。


 削る。


 合わせる。


 まだ浮く。


 もう一度削る。


 その繰り返しの中で、白銀の欠片はただ埋め込まれるのではなく、槌頭から柄へ向かう細い道のように形を変えていった。


 Cainはじっと見ていたが、途中で我慢できなくなったように口を開く。


「つまり、もっと壊せるってことか」


 Dwalfは手元から目を離さない。


「腕を壊さずにな」


 その一言で、Mistが満足そうに頷いた。


 Novaの肩では、サラマンダーが小さく火を揺らしていた。


 それまで大人しくしていた火精霊が、白銀輝鉱を置いた斧槌へゆっくり顔を向ける。Novaが先に気付き、名前を呼ぶより早く、サラマンダーは肩から飛び降りて作業台の端まで跳ねた。


「おい、こっち来たぞ」


 Cainが目を丸くするが、サラマンダーはCainではなく、斧槌へ近づいた。


 小さな火精霊は、槌頭の中心に置かれた白銀の筋を見つめるように周囲を回り、ふいに小さく火を吐く。


 火は散らなかった。


 白銀の筋に沿って、細く走った。


 Lunaの端末に、短い波形が跳ねる。


 盾を試した時とは違う、細く鋭い反応だった。


「熱が逃げてない」


 Novaもサラマンダーの火を見つめる。


「火が、形を保ってる」


 Cainの顔が一気に明るくなった。


「つまり、燃える武器か?」


 Dwalfは即座に首を振る。


「燃やすな。通すんだ」


 Cainは少しだけ考えたあと、結局笑った。


「だいたい分かった」


「分かってない顔だな」


 Crowがぼそりと言い、Rainも頷く。


「たぶん、振ったら分かるって思ってる顔」


「実際そうだろ」


 悪びれずに返すCainへ、Mistの視線がまた鋭くなる。


「今日は振らない」


「まだ何も言ってねぇ」


「言う前の顔だった」


 鍛冶場に小さな笑いが広がる。


 その空気の中で、Dwalfだけは手を止めなかった。


 槌頭の芯へ溝を作り、斧刃の背を薄く削り、そこへ白銀輝鉱を細い線のように沿わせていく。柄の付け根には、余った小さな欠片を噛ませ、組み直すたびにCainへ持たせては、手首の角度と肩の沈み方を確かめた。


 一度目は、まだ重さが手首へ落ちる。


 二度目は、肘で止まる。


 三度目で、Cainの肩から余計な力が抜けた。


 Dwalfはそこで初めて小さく頷き、斧槌をもう一度分解して、白銀の筋を奥まで噛ませた。


 やがて、仮組みが終わる。


 斧槌は元の形へ戻っていた。


 だが、同じ武器ではない。


 槌頭の中心には細い白銀の筋が走り、斧刃の背にも淡い線が入っている。派手な装飾ではなく、力の通り道だけを浮かび上がらせたような白い線だった。


 Dwalfは斧槌をCainへ差し出す。


「持て」


 Cainは待ってましたと言わんばかりに手を伸ばしかけ、またMistの視線を受けて止まった。


「……持つだけだ」


「振らない」


「分かってる」


 両手で斧槌を受け取ったCainは、まず重さに眉を上げた。


 前より少し重い。


 けれど、槌頭に引っ張られる感覚が消えている。


 重さは手首で止まらず、柄の奥へ沈み、肘から肩へ抜けていった。


 Cainは小さく息を吐く。


「……腕に来ねぇ」


 Dwalfは短く頷いた。


「返る分を逃がした」


 Cainは斧槌を軽く持ち上げる。


 振らない。


 ただ、構える。


 その瞬間、サラマンダーが小さく火を吐いた。


 火は白銀の筋に沿って走り、槌頭と斧刃の背へ細く集まる。爆発もせず、燃え広がりもせず、ただ白い線の上を滑るように通っていく。


 Lunaの端末表示に、盾とは違う波形が浮かんだ。


「火に反応してる」


 Novaもサラマンダーを見る。


「相性がいい」


 Cainは白銀の筋を見つめたまま、口元を上げる。


「これ、いけるな」


 Arcが即座に釘を刺す。


「ここで振るな」


 RainがCainを指差した。


「今、絶対振ろうとした」


「してねぇ」


 Mistも静かに続ける。


「してた」


 Cainは少しだけ目を逸らした。


 Dwalfは斧槌を見ながら、まだ満足した顔をしていなかった。


「まだ仮組みだ」


「これで?」


「仕上げれば、もっと通る」


 Cainの笑みが深くなる。


「早く試させろ」


「完成してからだ」


 Dwalfは斧槌を引き取り、赤い炉へ向き直った。


 白銀の筋に残っていた細い火が、炉の光へ溶けていく。


 Cainは黙ってそれを見ていた。


 次にこの武器を握る時を、もう待ちきれない顔で。

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