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世界最強ヒーラー、サービス終了したゲーム知識で現実ダンジョンを攻略する ~伝説のギルド《Aegis》復活~  作者: PeterP4n
第八章 新たな攻略

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第110話 白銀の盾

#第110話 白銀の盾


 白く脈打つ板を前に、Dwalfは何も言わず槌を振り上げた。


 鍛冶場にいる全員が、その手元を見ている。


 赤い炉の熱が揺れ、白銀輝鉱の表面に細い光が走った。まだ盾ではない。形も荒く、縁も整っていない。ただの板のはずなのに、その場にいた誰も、それをただの金属とは思っていなかった。


 Lunaの端末には、白い波形がまだ残っている。


「消えない」


 小さな声だったが、その場にいた全員の耳へ届いた。


 Novaの肩で、シルフが白銀の板を見つめている。サラマンダーの火も、いつもより静かに揺れていた。


「まだ反応してる?」


 Rainが声を潜めて聞く。


 Lunaは画面から目を離さない。


「弱くなってる。でも、消えてない」


 Dwalfはそれを聞いても手を止めなかった。


 白銀の板をもう一度炉へ戻し、赤く熱を帯びたところで金床へ引き出す。熱の色は赤い。だが、その奥には細い白い筋が残っている。Dwalfはその筋の流れを見ながら、板の端、中央、縁の順に打つ場所を変えていった。


 カン。


 白い火花が跳ねた。


 強く叩く場所と、軽く触れるだけの場所がある。平らにするためではない。盾の曲面へ馴染ませるために、板の反りを少しずつ作っているのだ。


 Garmの盾は作業台の横に置かれていた。


 前脚を受けた跡が、盾の中央近くまで深く残っている。縁も歪んだままだ。


 Dwalfは白銀の板を盾へ当てる。


 首を振る。


 また外す。


 削る。


 熱を入れる。


 もう一度当てる。


 何度も同じことを繰り返しているように見える。だが、そのたびに白銀の板は盾の曲面へ近付いていた。


 Cainが腕を組もうとして、巻かれた布に気付き、途中でやめる。


「見てるだけで肩凝ってくるな」


 Mistがすぐに視線を向けた。


「腕、動かさない」


「分かってるって」


 Cainはそう言いながらも、鍛冶場から目を離さない。


 Rainも隣で設計図を覗き込み、首を傾げていた。


「盾って、ただ硬くすればいいわけじゃないんだね」


 Crowが壁に背を預けたまま答える。


「硬いだけなら、受けた奴の腕が折れる」


 Garmは何も言わなかった。


 ただ、自分の盾を見ている。


 長く使ってきた装備だ。傷の一つ一つに、これまで受けてきた攻撃の重さが残っている。その盾へ、白銀の板が少しずつ馴染んでいく。


 やがてDwalfが手を止めた。


「Garm」


 名前を呼ばれたGarmが前へ出る。


 Dwalfはまだ完成していない盾を差し出した。


「持て」


 Garmは両手で盾を受け取った。


 わずかに重い。けれど、ただ重くなったわけではない。腕へかかる重さの位置が変わっている。以前よりも盾の中心が低く、構えた時に肘と肩へ力が逃げた。


 Garmは一度だけ盾を持ち上げ、ゆっくり構える。


「重い」


 短く言ってから、少しだけ目を細めた。


「だが、振れる」


 Dwalfは盾の縁を指で叩き、重心の位置を確かめるように音を聞く。


「重心を落とした」


 それだけだった。


 Garmが盾を構え直した瞬間、白銀の補強部分へ薄い光が走った。ほんの一瞬だが、Lunaの端末にははっきり波形が出る。


「Garmに反応した」


 Lunaは画面を拡大した。


「精霊だけじゃない。装備者の魔力にも反応してる」


 Novaの肩で、シルフが小さく羽を動かす。


「嫌がってない」


 Novaは前と同じ言葉を繰り返した。ただ、その声はさっきよりも少し確信に近い。


 Dwalfは盾をGarmから受け取り、金床へ戻した。


「試す」


 Cainがすぐに顔を上げる。


「俺が叩くか?」


 その瞬間、Mistの視線が鋭くなった。


「駄目」


「まだ何もしてねぇ」


「しようとした」


 Cainは口を閉じた。


 Crowが面倒そうに壁から背を離す。


「俺でいいだろ」


 Dwalfは短く頷く。


「軽くでいい」


 Garmが盾を構えた。


 Crowは黒い剣を抜かず、鍛冶場の壁に掛けられていた強度確認用の鉄棒を手に取る。


 軽く振ると、カン、と小さな音がした。


 盾の表面を、白い線が走る。


 衝撃は一点で止まらなかった。白銀の補強部分を伝って薄く広がり、盾の縁へ逃げていく。Garmの腕は揺れたが、肩までは跳ねない。


 Garmが盾の裏を見つめる。


「受けやすい」


 それだけで、十分だった。


 Dwalfは盾の表面を指でなぞり、白銀の線が消えていくのを見届ける。


「もう一度」


 Crowが今度は少しだけ強く打った。


 カンッ。


 白い光が、さっきよりも長く盾の表面を流れる。


 Garmの足は動かない。盾の裏で、彼の指だけがわずかに締まった。


「いける。これなら、前に立てる」


 Garmの声は静かだった。


 Cainが笑う。


「頼むぜ、壁役」


 Garmは盾を下ろさずに答えた。


「任せろ」


 Dwalfはそこで、ようやく小さく息を吐いた。


「これでいい」


 派手な言葉ではない。


 けれど、鍛冶場にいた全員が、その一言の重さを理解していた。


 白銀の盾はまだ完全な仕上げを終えていない。縁の調整も、持ち手の補強も残っている。それでも、盾としての芯はもう出来ていた。


 Lunaの端末には、まだ白い波形が残っている。


「反応、消えない」


 Novaはシルフを見る。


 シルフは白銀の盾を見つめたまま、静かに羽を揺らしていた。サラマンダーの火も、その横で小さく灯っている。


 Dwalfは盾を作業台へ置き、次にCainの斧槌へ視線を移した。


「次はお前だ」


 Cainの口元が大きく上がる。


「待ってた」


 Dwalfは斧槌を持ち上げた。


 白銀輝鉱を、その横へ置く。


 斧槌の刃と槌頭を順に見て、柄の付け根で視線を止めた。


「これは削る」


 Cainの笑みが少しだけ固まる。


 Dwalfは続けた。


「作り直しだ」


 白銀の盾が、鍛冶場の灯りを受けて静かに光る。


 その表面を、細い波紋のような白い線が一度だけ走った。


 Lunaの端末に、まだ波形は残っている。


 Cainは斧槌を見下ろし、それからDwalfを見た。


「……面白くなってきたな」

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