表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界最強ヒーラー、サービス終了したゲーム知識で現実ダンジョンを攻略する ~伝説のギルド《Aegis》復活~  作者: PeterP4n
第八章 新たな攻略

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

110/111

第109話 鍛冶場の白い火花

#第109話 鍛冶場の白い火花


 Lunaの指が止まった。


 端末表示の端に、白い波形が一瞬だけ跳ねたまま薄く残っている。通常の魔力反応とは違う。火属性でも風属性でもないのに、完全に別物とも言い切れない。精霊が反応した時の揺らぎに、ほんの少しだけ似ていた。


 Lunaは端末を持つ手に力を込める。


「……今の、普通の魔力反応じゃない」


 その声に、Novaが顔を上げた。


 肩のシルフは、鍛冶場の隙間から漏れる白銀の光をじっと見つめている。サラマンダーも同じ方向へ顔を向け、いつもより小さな火を揺らしていた。


「精霊反応?」


 Novaの問いに、Lunaはすぐには頷かなかった。


 端末の画面を拡大し、波形の残りを追う。白い線はすでに薄れ始めていて、確信できるほどの記録は残っていない。それでも、反応の立ち上がり方だけは明らかに通常の鉱石とは違っていた。


「近い。でも、同じじゃない」


 その間にも、鍛冶場からは低い熱の音が続いていた。


 炉の中で白銀輝鉱が熱を帯び、赤い炎の奥で白い光が揺れる。Dwalfは槌を握ったまま、炉から目を離さない。


「少し待って」


 Lunaが言いかけた瞬間、Dwalfの声が飛んだ。


「止められん」


 短いが、鋭かった。


 鍛冶場の空気が一瞬で締まる。


 Dwalfは白銀輝鉱を火の中から引き出し、金床の上へ置いた。赤熱しているはずの表面に、白い筋が細く走っている。熱の入り方が均一ではない。ここで放置すれば、内側と外側の冷え方がずれて割れる。


「今止めたら割れる」


 それだけで十分だった。


 調べたい。Lunaの目はそう言っていた。だが、今この瞬間に素材を殺せば、調べるものも失われる。


 Arcは鍛冶場の入口へ一歩近づいた。


「Luna、記録だけ続けろ」


 Lunaの指が端末へ戻る。


「分かった」


 Arcは次にDwalfを見る。


「Dwalfはそのまま」


 Dwalfは返事をしなかった。


 代わりに、槌が落ちる。


 カン。


 白い火花が跳ねた。


 普通の火花とは違う。赤でも橙でもなく、冷たい光を含んだ白い粒が、空中で一瞬だけ形を保ってから消えていく。


 Lunaの端末に、再び波形が走った。


「出た」


 Lunaが呟く。


 Novaの肩でシルフが羽を震わせ、サラマンダーの火も槌音に合わせるように小さく揺れる。白銀輝鉱が発しているものに、二体の精霊が同時に反応していた。


 Cainは鍛冶場へ近づこうとして、Mistに腕を掴まれた。


「近づかない」


「見るだけだって」


「腕、まだ治療中」


 Cainは不満そうに口を曲げたが、布を巻かれた腕を見て、それ以上は前に出なかった。


 Rainは横から設計図を覗き込もうとして、Crowに目だけで止められる。


「私の防具、軽くなる?」


「見てても早くならねぇぞ」


「分かってるけど、気になるじゃん」


「なら邪魔にならん位置で気にしろ」


 いつもの軽口が戻り始めていた。


 それでも、鍛冶場の中心だけは別だった。


 Dwalfの目は、白銀輝鉱から一度も離れない。槌が落ちるたび、白銀輝鉱の中を走る筋が少しずつ向きを揃えていく。熱で柔らかくするだけではない。叩く角度、力の抜き方、冷え始める瞬間、そのすべてで素材の流れを整えている。


 それは戦闘とは違う。


 だが、見ているだけで分かる。一手でも間違えれば、素材は割れる。


 Arcは自然と全員の位置を確認していた。


 Cainは下がっている。Rainも金床の横へ入り込んではいない。Mistは治療道具を片付けながら、消耗したメンバーを見ている。Lunaは記録を続け、Novaは精霊の反応を見ている。


 そしてDwalfは、ただ打つ。


 Arcは短く息を吐いた。


 カン、カン、と槌音が一定の間隔で続いていく。


 その音だけが、戦闘の号令のように鍛冶場へ響いていた。


 やがてDwalfは、Garmの盾を作業台へ置いた。


 洞窟で受けた傷は深い。


 縁の金具は歪み、前脚を受けた跡が盾の中央近くまで食い込んでいる。


 Dwalfはすぐに補強材を当てなかった。


 まず傷の周囲へ鑿を入れる。


 削る。


 指でなぞる。


 白銀の板を当てる。


 首を振る。


 また削る。


 Cainが少しだけ眉を上げた。


「俺の斧槌は?」


 Dwalfは盾から目を離さない。


「盾が先だ」


「そんなに急ぐか?」


 DwalfはようやくCainを見た。


「盾が折れたら、お前が先に死ぬ」


 Cainは口を閉じた。反論できない。


 Garmも何も言わなかった。ただ、傷の入った盾へ手を伸ばし、指先で縁をなぞる。


「頼む」


 静かな声だった。


 Dwalfは短く頷く。


「前に立つ奴からだ」


 その言葉に、鍛冶場の空気が少しだけ変わった。


 誰も笑わない。誰も茶化さない。


 あの洞窟で、Garmが一歩も退かなかったからCainは《重閃》を叩き込めた。盾が砕けていれば、次はなかった。


 Dwalfは白銀輝鉱を薄く延ばし、Garmの盾の傷に合わせて形を整えていく。


 削る。


 合わせる。


 外す。


 また削る。


 白銀の板が少しずつ盾の曲面へ近付いていく。


 最後に板を置いた時、今度は隙間がなかった。


 吸い付くように、古い盾の傷へ収まる。


 そこで初めて、Dwalfは小さく頷いた。


 白銀輝鉱は、ただの補強材ではなかった。


 槌で打たれるたび、盾の傷へ細い光が染み込むように走る。


 Lunaの端末にも、波形が浮かんだ。


「また出た」


 Lunaの声は少しだけ低い。


「今度は、さっきより長い」


 Novaはシルフを見た。


 シルフは怯えてはいない。ただ、白銀の光を見つめている。


「嫌がってない」


 Novaが呟く。


「むしろ、近いものを見てる感じ」


 サラマンダーも小さく火を揺らした。


 火が白銀の光へ吸われるわけではない。風が散らされるわけでもない。ただ、そこにある魔力の通り道を確かめるように、二体の精霊が静かに反応していた。


 Lunaは端末へ記録を残しながら、画面から目を離さない。


「武器というより、器に近いかもしれない」


 Arcが視線を向ける。


「器?」


 Lunaは少しだけ考えてから答えた。


「溜めるんじゃない。流すための器」


 Dwalfの槌が、もう一度落ちる。


 カン。


 白銀の板が、薄く震えた。


 Garmの古い盾の横へ置かれたそれは、まだ盾ではない。形も荒く、縁も整っていない。それでも、ただの金属板ではなかった。


 白い光が、静かに脈打っている。


 Lunaの端末に、再び波形が走った。


 今度は、一瞬では終わらなかった。


 Dwalfは何も言わない。


 ただ、白く脈打つ板を見つめ、もう一度だけ槌を振り上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ