第108話 白銀輝鉱
# 第108話 白銀輝鉱
Arcがバッグを開けると、布の上へ白い鉱石の破片がいくつも並べられていった。
外殻の欠片、爪の一部、そして奥で淡く光る白銀の鉱石。洞窟の中ではただ重く冷たい戦利品に見えたそれが、ギルドホームの灯りを受けた途端、まるで内側にまだ熱を残しているかのように薄く輝いた。
Dwalfはすぐには手を伸ばさなかった。
工具を机の端へ置き、手袋を外し、指先の煤を布で拭う。そうしてからようやく破片の一つを拾い上げると、部屋の空気が少し変わった。
CainもRainも、自然と口を閉じていた。
Dwalfは鉱石を光へかざす。白い輝きは表面だけではなく、石の奥で層になって揺れていた。爪で表面を軽く撫でると、ざらついた音が小さく返り、続けて細い金属棒で端を弾く。
チン……。
澄んだ音が、鍛冶場の方まで伸びていく。
Dwalfはその音が消えるまで黙っていた。
Lunaが端末を持ったまま、少し身を乗り出す。
「通常の鉱石より、魔力の反射が強い」
Dwalfは頷かず、まだ判断しない。今度は割れた断面を見た。層の奥には細い白い筋が何本も走り、光の角度を変えるたびに、その筋だけが遅れて揺れる。
Cainが我慢できず、口を開いた。
「で、どうなんだ?」
Dwalfは答えなかった。
断面を見つめたまま、親指で表面の層をなぞる。硬さだけなら使える。だが、武器にするなら粘りが要る。盾にするなら、衝撃を逃がす層も必要になる。
その条件を一つずつ確かめてから、Dwalfはようやく低く息を吐いた。
「白銀輝鉱だ」
その一言で、部屋の空気が動いた。
Rainが両手を握り、Cainも歯を見せて笑う。ただ、笑いながらもその腕を少しだけ押さえていた。
「なら、武器いけるな」
Dwalfは鉱石を置き、今度はメタルリザードの外殻を手に取った。
「武器だけじゃない」
表面を親指でなぞる。戦闘で砕けた断面は荒いが、内側の密度は異常に高く、割れた部分にも層の流れが残っていた。
「盾もいける」
Garmの目がわずかに動いた。
Dwalfは外殻を光に傾け、薄い部位を探すように端を見てから続ける。
「薄く伸ばせれば、軽装にも使える」
Rainが自分を指差す。
「私?」
「候補だ」
「やった」
Rainは小さく笑ったが、Dwalfはまだ笑わない。
机の上へ破片を並べ、使えそうなものと、溶かして補強材に回すものを分けていく。その手つきは早く、迷いがなかった。
大きな外殻は盾用。厚みのある鉱石は斧槌用。細く割れた欠片は、補強材か接合部。
同じ白銀でも、Dwalfの目にはすべて違うものとして映るのだろう。
Mistが治療を終えたCainの腕へ布を巻きながら、そっと覗き込んだ。
「全部使えるの?」
Dwalfは一つだけ小さな欠片を摘まみ上げる。
「全部は無理だ。熱を入れた時に割れるものもある」
「そっか」
「だが、主材には足りる」
その言葉に、Cainの目がはっきり輝いた。
「主材ってことは、ちゃんと作れるってことだな」
Dwalfはようやく、少しだけ口元を上げる。
「作れる」
短いが、それだけで十分だった。鍛冶師がそう言うなら、もう答えは出た。
Arcは机の上へ視線を落とす。
机の上の白銀輝鉱には、まだ戦闘の熱が残っているように見えた。Garmの盾を沈め、Cainの腕を痺れさせた硬さ。それを、Aegisは砕いて持ち帰った。
Lunaが端末へ記録を残しながら呟く。
「魔力伝導も高い」
その声に、Novaが反応した。
「杖にも使える?」
Dwalfは少し考える。
「芯材には向かん。だが、補強ならありだ」
Novaの肩で、シルフが小さく羽を揺らした。サラマンダーも、その横で火を灯す。
二体の精霊が白銀輝鉱を見つめる様子まで、Lunaは端末へ記録していた。
「精霊反応あり」
「また研究増やしてる」
Rainが呆れたように言うと、Lunaは端末から目を離さず答えた。
「増えたんじゃない」
少しだけ間を置く。
「増え続けてる」
Crowが低く笑う。
「最悪だな」
「楽しいよ?」
Mistが柔らかく返すと、Crowは肩をすくめた。
「お前ら生産組はだいたいそう言う」
その空気に、ようやく部屋の緊張がほどけていく。
ArcはDwalfへ視線を向けた。
「優先順位は?」
Dwalfは迷わなかった。
「盾だ。次に斧槌」
Garmが静かに顔を上げ、Cainが満足げに笑う。
Rainも少しだけ身を乗り出した。
「私は?」
「薄い部位が残れば軽装を作る」
「残して」
「素材に言え」
Cainが笑い、Mistも小さく笑った。
Garmは傷の入った盾へ手を置く。
「助かる」
その声は静かだったが、重かった。あの洞窟で盾が一歩でも退いていれば、Cainは潰されていた。
Dwalfの視線は、盾の深い傷で止まっている。
だから、最初に盾と言ったのだろう。
Arcは頷き、「任せる」とだけ告げた。
Dwalfは短く応じる代わりに、鉱石をもう一度手に取った。その目はすでに、完成した装備を見据えている。
机の上で設計図が広げられ、鉛筆が走った。
Mistは空いた薬瓶を片付け、Lunaは魔力反応の記録を重ねる。Novaは精霊たちを落ち着かせ、Rainは横から設計図を覗き込もうとしてCainに止められていた。
やがて、Dwalfが白銀輝鉱を持って鍛冶場へ向かう。
扉の向こうから、炉に火が入る音がした。
低く、熱を含んだ音。
赤い炉の奥へ、白銀輝鉱が入る。
その瞬間、白い火花が横へ跳ねた。
カン。
最初の槌音が、ギルドホームに響く。
誰もすぐには喋らなかった。
白銀の光が、鍛冶場の隙間からわずかに漏れている。
その光を、Novaの肩のシルフがじっと見つめていた。
サラマンダーの火も、一度だけ小さく揺れた。
Lunaの端末表示に、白い波形がかすかに跳ねる。
彼女の指が、そこで止まった。




